太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
ローレンツさんの案内で、ザイゼル卿邸宅に入るあたし達。
応接間に着くまでの間、彼とエメルの口からザイゼル卿の人となりを聞かされていた。
「このグランツァイトが商都と呼ばれ親しまれるようになったのも、全てはご主人様の……ひいてはその御父上の尽力があってこそでして」
「私はその先代と会ったことはありませんが、成した事業のことは聞いています。元々この地は小さな漁村だったらしいんですけど、『魔兵器大戦』が始まったぐらいの頃に先代ザイゼル卿がその漁村を買い取って、当時津波などの被害が多かった港を再開発したのだそうです」
「ええ。王国より海路での資源輸送経路を確保せよ、との仰せだったようですから」
懐かしむような声色で、ローレンツさんがエメルの解説を引き継ぐ。
「パライソは島国ながら、活火山のある土地でしてな。故にマギニウムも潤沢であったため、先代様はパライソと王国を繋げる海路の玄関口として、決して長くはない時間を掛けて、漁村を商都へと生まれ変わらせたのです」
なるほど、パライソ行きの定期船があるのは、大戦時のそういう経緯があったからなのか。
活火山の影響でマギニウムが潤沢って辺りはよくわからなかったけど。
リテラの頭の中に鉱物の知識とかあったりしないかな。
「そしてご主人様はそんな御父上の後を継ぎ、グランツァイトの統括をなさっているのですが……」
何やらローレンツさんが含みのある言い方をする。
明らかに意味深なんだけど、まさか親の七光りに未だ甘えてたり……とか?
「いえ、これ以上は無粋ですかな。ひとたび会えば、ご主人様の人となりも理解されるでしょう」
あたしとしてはもう少しザイゼル卿のことを知りたかったのだが、いつの間にか大きな扉の前まで来ていたので、ローレンツさんの話は途中で終わった。
どうやらここが応接間らしい。
ローレンツさんが扉を二回ノックする。
「ご主人様、陛下を連れて参りました」
「おお、そうか! よく来てくれた! 遠慮なく入ってくれ!」
やたらと声が通る男性のようだ。
扉が閉まっている状態でもよく聞こえる。
ジークみたいな人じゃなきゃいいけど。
ローレンツさんが重厚な扉のドアノブを回して、あたし達を応接間の中へ誘う。
そこには、室内なのに何故かサングラスを掛けた、シャギーカットのガタイが良い男が座っていた。
どうも彼がフェリクス・ザイゼル卿らしいけど、侯爵というよりは快男児という印象を受ける。
胸毛とか凄そう。
「いやあ、久しいなエメル! 随分と大きくなったものだ!」
「ザイゼル卿こそ、相変わらずで何よりです。紹介しますね。今回の旅で私を護衛してくれる、友人のヤーナとレヴィンさんです」
「ど、どうも」
ザイゼル卿の快活ぶりに気圧されて、挨拶が控えめになってしまうあたし。
女王のエメルを呼び捨てにするくらいだし、相当な大物感がする。
「レヴィン、か。噂は聞いているよ! 魔獣から王城を守ってくれたそうじゃないか!」
「結果的にはそうなったってだけですけど。そんなこともあって、分不相応な称号まで頂きましたけどね」
「いいじゃないか! もっと自分を誇りなさい! まだ若いんだからな! ハッハァ!」
ザイゼル卿のこのノリにはついて行けそうもない。
なんだか終始押せ押せな陽キャの人と話してる気分だ。
「そしてヤーナ、か。この名前も久しぶりに聞いたな」
確かにそういう気分だったのだが、彼のこの一言が場の空気を一変させる。
ヤーナをちゃんと見ての、これだ。
ちょっと待って、マジで聞いてないんだけど。
王都出身のヤーナが、商都の貴族といつ知り合ったの?
「はて、アタクシに覚えはありませんが……どこかでお会いしたことがありまして?」
「覚えがない……無理もない、か。前に会った時は、こんなに小さかったものな」
ザイゼル卿は己の膝より少し高い程度の位置に手をかざす。
「それが今は色々大きくなって、エメルの友ときたか! 予想とは違う出世っぷりだな!」
そして再び豪快に笑い声を発した。
いやいやいや、笑い事じゃないですって。
「どういうことか説明しなさいよ、ヤーナ」
「聞いてませんよ、ザイゼル卿と知り合いだったなんて」
「アタクシは記憶にないのですけど、父の知り合いだというのなら、小さい頃に会っていても不思議ではありませんわね」
ヤーナが首を傾げるということは、本当に覚えがないということなのだろうが、そんなヤーナにザイゼル卿が笑いかける。
「ハッハァ! そりゃそうだろう! 積もる話は尽きないが、まずはコレだな」
ザイゼル卿が指を鳴らすと、彼が座るソファの後ろに控えていたローレンツさんが恭しく進み出て、厚手の封筒をエメルに手渡した。
「パライソ行き定期船の乗船券七人分、伝書に書いてた通り確保しておいたぜ」
「お忙しい中、ありがとうございます」
「いいってことよ。俺も最近のパライソの動きは気になってたし、エメルが探りを入れてくれるなら、俺の出番はなさそうだしな!」
「例の『マキナ・ランブル』とかいう催しのことですな」
なんと、ローレンツさんもご存じだったとは。
そりゃあ情報の発信元がこの街の傭兵ギルド支部だし、知ってなきゃおかしいか。
「多国籍親善試合とのことだが、怪しいことこの上ない。そもそも今の王が何を考えているのかもわからん。確かに帝国と接触できる数少ないチャンスかもしれないが、用心はしておけよ」
「わかっています」
「なら良し! 本当に立派になったものだな、エメルは!」
ザイゼル卿が厳格そうな貴族っぽい態度と快男児らしいムーブを反復横跳びしていて、気が狂いそう。
なんだろう、一応貴族にしては頼れる大人ではあるけど、その方向性が斜め上というか。
息抜きするのが上手い人ってこんな感じなのかもしれない。
「立派になったといえば、ヤーナもだな。シェーファー夫人の若い頃に近くなった」
「母様のことまで……本当に父とは懇意にしていただいたようですわね」
「それはそうだろう。ひと昔前まではこの街でもウチと肩を並べるほどの商家だったからな」
いや、ちょっと待って。
この街でもってことは。
「ヤーナ、あんたが生まれたのってもしかして——」
「お察しの通りですわ。アタクシ実は、商都グランツァイト生まれの侯爵家令嬢でしたの」
「まるで知りませんでした」
「聞かれたら答えますのに、そちらが知ろうとしないからですわよ」
盲点だった。
いかにも孤児院育ちのシスターって感じに慣れてたから、これ以上踏み込むのはいけないって空気だったとはいえ、聞いてみればまさかの侯爵令嬢。
それがどうしてこうなった。
謎が謎を呼ぶばかりだ。
「——で、実際のところどうなんですの?」
「どうって、何のことだ?」
「父……グスタフ・シェーファーが今頃どうしているのか、知っているのではなくて?」
眼鏡の奥でヤーナの目つきが鋭くなる。
そういえばこちらから何もクエスチョンしていないから、ヤーナの家族についてはまるで知らなかったが、その口ぶりから察するに、まだヤーナの父親は生きていると認識していいのだろうか。
「……残念ながら、事業のためパライソへ出向した……それ以上の情報は入ってきていない」
「……そうですか」
「何通も手紙は送ってるんだがな、全く返事がない。パライソ側の検閲で弾かれたのか、あるいは——」
「手紙の返事を書けないほどの激務に追われているか、ですわね」
「ああ。いずれにせよ、グスタフが良いように使われているのは間違いない」
どうしよう、事情を知らないから完全に蚊帳の外だあたし。
かといって深刻そうな話に割り込むのも気が引けるし、どうしたもんか。
そんなことをウジウジ考えているうちに、エメルが会話に割り込む。
「失礼。ヤーナのお父様……シェーファー卿に何があったのですか?」
その問いかけで、ザイゼル卿の口元から笑みが消えた。
サングラスの影響で目元は見えないが、おそらくは寂しそうな眼をしているのだろう。
「グスタフはな、先代が率先してやっていた商都の再開発を商会を挙げて支援してくれていたんだ。あいつは商才に恵まれていたが、金の良し悪しにこだわる変人でな」
あ、やっぱりそういうところヤーナに似てるのね。
「商会の方向性も世のため人のためって感じで、魔獣が現れてもそのスタンスは変わらなかった。商都のランドマークになってる『旅人の灯台』ってあるだろ? あれに結界の機能を追加しようと提案したのは、グスタフなんだ」
しかも結構商都に貢献してるっぽい。
そんな父親から何で大穴狂いの娘が生まれるんだろう。
「その功績もあって、シェーファー商会の評価は天を衝く勢いでな。あいつは街のため、色んな事業に手を出したよ」
「良く言えば商都の柱、悪く言えば底抜けの御人好し貴族。だからこそ父は、悪いお金に騙されましたの」
ザイゼル卿に引っ張られるように、ヤーナが語る。
悪い金に騙された……それがグスタフさんが小さかったヤーナを孤児院に預けた理由か。
「悪い金、とは?」
身を乗り出すようにして、エメルが話の続きを催促する。
正義女王《ジャスティスクイーン》だもの、そりゃあ悪事には敏感よね。
「
ザイゼル卿が放ったその単語に、あたしの心はざわついた。
前世で体験したことはないが、地球では当たり前のように横行していた詐欺の一種。
存在していない未払金、ダミー会社への投資など、様々な理由をでっち上げて無知な人を騙す、許されざる犯罪。
「横取りされたんだよ、魔獣被害の復興投資と偽られてな」
「そんな……!」
エメルが驚愕している横で、あたしは息を吞むことしか出来なかった。
「商いの世界において、口が上手い奴は強い。被害に遭ったあいつ自身は詳細を伏せてはいたが、あのグスタフ・シェーファー侯爵を騙した詐欺師の手腕は、相当なものだったんだろう。その影響で商会の運営にも支障が出て、本来予定していた大型養護施設の建設計画も打ち切り。たった一度の過ちで、没落寸前にまで追い込まれたそうだ」
「では……パライソに出向した、というのは?」
「どんな小さな商機にも縋りたかった故、だろうな。十数年も前からパライソの戦災復興計画は始まっていたそうだから、少しでも過ちを清算せねばとでも思っていたのかもしれん」
かの『魔兵器大戦』において、パライソはマギニウム資源が豊富だったところに付け込まれて、王国と帝国の両国から狙われていたという。
その復興支援ともなれば、人の好いシェーファー卿が動くのは当然ではあったのだろう。
「それでも、あいつは一度騙された身だ。一度失った信頼を取り戻すのは容易じゃない」
「だからこそ父は
「……だといいがな」
ヤーナの推察に、ザイゼル卿は天井を仰いでそう返した。
やっぱりヤーナのそういう所も、父親に似たのだろうか。
「お前を王都の孤児院に預けたのだって、命を賭すほどの泥沼道に巻き込みたくなかったからかもしれないぜ」
「没落寸前まで追い詰められて、そこまでの良心が残っていたとは思えませんけど」
この場に自分の父親がいないからって、その言い分は辛辣すぎない?
でも、ヤーナなりの父親愛とも取れるような。
「まあ、そんな父に愛想が尽きて家を出た母様ほど酷くはないようで何よりですわ」
いや、ちょっと待って。
ヤーナのお母さんって蒸発して出て行ったの?
育児放棄もいいところでビックリよ。
「で、どうする気だ? お人好し侯爵の娘としては」
「そう言われるのは不愉快極まりないですけども、難しいところですわね。パライソへ向かうエメルの護衛ということで雇われてはいますけども、あの愚鈍な父の顔をひっ叩きたいという気持ちはありますし……見つけたらそうする、くらいの腹案に留めておきますわ」
「ま、お前にはそうするだけの権利がある。好きにやれよ。ついでに、グスタフへ俺からの伝言を伝えてくれたらありがてえんだけどな」
「別料金、かかりますわよ」
ヤーナさんや、そこは金取るトコじゃないでしょ。
「キツい冗句だが、払う価値はあるな。俺からの伝言はこうだ。『お前の価値は、お前が決めろ』」
「伝言、確かに承りましたわ」
どうしよう、あれよあれよという間に別の仕事が生えてしまった。
反論しなかったあたしもあたしだが。