太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
結局あたしだけ蚊帳の外のまま、人数分の乗船券を受け取って、ザイゼル卿との会談がお開きになり、あたし達はザイゼル邸を後にした。
思った以上に情報量を無理矢理頭に叩き込まれた気分だ。
ザイゼル卿は前女王様の知り合いなのに、ヤーナのお父さんの知り合いでもあったせいだろうか。
いつの間にか話題がヤーナのお父さん、グスタフ・シェーファー氏の話の比重が大きくなってしまっていた。
おかげでヤーナがミルフィーユ孤児院に預けられた経緯を知ることが出来たのは良い事なのだろうが。
ローレンツさんから貰った、傭兵ギルド支部までの道のりが書かれた紙を逐一確認しながら先頭を歩くヤーナに、どう声を掛けていいものかわからない。
小高い丘を降りて、街へ向かう街道に戻ってもそんな状態が続く中で、どうしたものかと悩んでいると、不意にヤーナの方から声を掛けられた。
「レヴィンさん」
「な、何よ?」
「別に同情なんて必要ありませんわよ。アタクシの父は大人になっても夢見がちな商人だった……それだけのことですから」
リテラほどじゃないが、ヤーナにも見透かされている。
それだけわかりやすい顔をしていたのだろうか、あたしは。
「そんな言い方だと、シェーファー卿がもう亡くなっているみたいじゃないですか」
エメルはどうやら、グスタフ氏の生存を信じているらしい。会ったこともないというのに。
でも冷静に考えれば、十数年もこの街に帰ってきていない、手紙の返事も来ないということは、どこかで亡くなっている可能性もある。
便りがないのは良い便り、なんてことわざもあるが、それが十数年も続くとなると流石に気になるよね、という話だ。
「別にそんなつもりで言ったわけではありませんわ」
「そうですか。安心しました」
エメルはヤーナを慰めもせず、ただ相槌を打つ。
まるで微妙な心境を理解しているかのように。
「エメル、変な気を回すものではありませんわよ。父親の生死がわからないからと不安になるほど、
「まあ、そうよね。あんたはエメルと一緒で、心がタフなタイプだし」
心がタフじゃなきゃ、大穴狙いの快感に取り憑かれてないしね。
「ですね。つかぬ事を聞きますけど、ヤーナから見てシェーファー卿はどんな父親でしたか?」
おっと、エメルが急にぶっ込んできた。
「良くも悪くも、アタクシの生き方を決めた親、とでも申しましょうか。アタクシの信条はほぼ父の影響を受けておりますし、これからもその影響は残り続けるでしょう」
ヤーナの信条って確か、『お金は誠意の形』だとかそういうのだっけ。
大穴狙いのギャンブラーらしからぬものと前々から思っていたけど、親のグスタフ氏から影響されたのなら納得だ。
「ですが、父は夢を見すぎていた。こんな時代だからこそ、我々はノブレス・オブリージュを貫こう……なんて言ってたこともありましたわね」
なんだか聞いたことあるわね、そのノブレス・オブリージュっていうの。
民の上に立つ貴族にはそれ相応の責務がある、みたいな考え方だったような。
「だから所構わず様々な事業に手を出して、足下をすくわれた……いい反面教師になりましたわ」
不思議とヤーナの声色には、父親への恨みとか呆れを感じさせるものはなかったように思う。
ある意味信頼の裏返しのような、そんな重みを感じてならない。
「信じすぎた分失ってしまうよりは、初手で疑え。過去に父で学びを得た分、
ヤーナが歩みを止めて、あたし達に振り向いた。
「『ざまあみなさい、貴方のおかげで世知辛い世の中を謳歌出来ていますわ、ありがとう』……そんなところでしょうね」
眼鏡の奥で、ヤーナの目が微笑んでいる。
これまで見てきた彼女の笑顔は、何かと欲にまみれていて少し気味が悪かったが、この笑顔だけは特別に見えた。
まるで子供が親に見せるような、屈託のない笑顔。
少なくともあたしは、そう感じた。
※※※
振り返ってもザイゼル邸がもう見えないほどに、あたし達は商都繁華街の奥へと足を踏み入れていた。
ローレンツさんがくれた地図によれば、傭兵ギルドグランツァイト支部は割と場末の酒場にあるという。
まあ王都のギルド本部からして酒場を装ってたし、支部もまた酒場を装っているのは予想出来ていたこと。
やっぱり魔兵器大戦の影響って根深いのね。
「あ、ここですね」
地図を照らし合わせて、エメルが建物を見上げた。
エメルに釣られて、あたしとヤーナも建物を仰ぐ。
描かれた波と魚と馬を背景に、『BAR ヒッポカンプ』の文字が刻まれた看板が印象的な、結構年季の入った酒場のようだ。
「看板が個性的すぎて逆に目立ってない?」
「わかりやすく脳裏に焼き付くデザインで、アタクシは良いと思いますわ」
「でも、あまり傭兵のたまり場って感じはしないというか……どちらかというと常連客は漁師さんでしょうね」
まあエメルから見ればそうか。
本当に傭兵ギルドじゃなくて漁師さん達のたまり場だったら笑うしかないけど。
「とにかく入るわよ。ここで合流する予定なんだから」
あたし達が王都の酒場と同様の扉を開けて入店すると。
「おいおい、どんだけ食べるんだこの嬢ちゃん!?」
「あの細身のどこにこんな食欲あんのよ!?」
これは客の声だろうか。
何か騒がしいような。
でも大体察しはついてしまう。
「どうにも嫌な予感がしますわね……主に身内絡みで」
「私もです」
「同じく」
それはヤーナとエメルも同様だったようだ。
シンパシーってこういうのを言うんだっけ?
かくしてその嫌な予感は確信に変わる。
テーブルを埋める山積みの器と聞き慣れた咀嚼音。
ギラソール傭兵団きっての大食らい、ジークリンデ・シグルドが話題の中心にいた。
「うむ、この海老のプリップリの歯ごたえ! 全て平らげてしまいたい!」
まるで少年漫画の主人公のような勢いで、文字通り皿を平らげてしまうこの女。
皆と一緒の時の食事では比較的自重していたのだが、放置してしまうとこうも歯止めが利かなくなるとは。
開いた口が塞がらない、ってなったのも久しぶりね。
「あっ、レヴィンさんっ」
来店したあたし達に気付いたのか、人混みの中からリーネが姿を現す。
ニューとミュウくん、それにリテラも一緒だ。
グラウはミュウくんの服から顔を出して、困ったような顔をしている。
「リーネ、大体察しはつくけど、どういう状況?」
「それがっ、商都案内の休憩に立ち寄ったんですけどっ」
「ジークさん、酒場のランチメニューを片っ端から頼んでしまって……」
焦りでたどたどしくなったリーネの事情説明をミュウくんが引き継いでくれたのはいいんだけど。
マジですか、メニュー片っ端からって。
やっちゃったわねコレ。
「姉貴……なんかごめん。ここの料理が美味いから誰も止められなくて」
「ニュー、それは美味いのを作る店が悪いわね。払えない分は潔く皿洗いして返すわよ」
「住み込み返済前提で話が進んでますっ!」
「そこで諦めないでくださいまし!」
むぅ、あたしがリーネとヤーナにツッコミを入れられるとは不覚だった。
しょうがないでしょ、ジークをほぼフリーにしたあたし達にも非はあるし。
「ひい、ふう、みい……もう数えたくないですね。やっぱり予算オーバーです」
エメルはといえば、少し瘦せこけた料理長っぽい人が提示した注文票を見て、目を回しそうになっている。
あたしとしては、メニューの片っ端から頼んでてまだ入るジークの腹の中の方が気になるんだけど、いずれにしてもやりすぎだ。
「おお、レヴィンにヤーナにエメル! もう少しで食べきるからしばし待ってくれ!」
積まれた器たちの間からあたし達を見つけたジークが声を掛けてきた。
もう他人のフリ出来ないわねコレ。
「じゃあ食べながら聞きなさいよジーク。やりすぎ。とっくに予算超えちゃったじゃない」
「はっはっはっ、返す言葉もない! しかしここの海鮮料理が美味いからいけないのだ!」
はいはい、いつもの……って、余計な一言で返してるじゃないジーク。
返すならせめて金返しなさいよ!
「まあしかし、ジークを叱るのは筋違いじゃぞ」
いつの間にか食事中のジークの周りを飛んでいたリテラが、あたしの頭にちょこんと座る。
「ニューが言っておるように、ここの料理が美味すぎるのが悪いんじゃ。特にエビフライに合う自家製のソースがのう!」
「アンタもアンタでジークを止めないで呑気に食ってるんじゃないわよ」
コイツに引率を頼んだあたしが馬鹿みたいじゃない。
とはいえ、どうしよう。
定期船が出る前にこの損失を取り戻す手段は限られている。
ここが傭兵ギルド支部なら掲示板に傭兵向けの依頼が貼られているのだろうが、時間が掛かっては元も子もない。
「皆さん、落ち着いてくださいませ」
そんなあたしの悩みをぶち壊すように、ヤーナの声が響いた。
「いや、この状況で落ち着けると思う?」
「確かに、ジークのやらかしを考えれば落ち着けるわけがありませんわね。それでも——」
「それでも?」
「アタクシに名案がございますの」
ヤーナからの名案。
いや、案を出してくれるだけありがたいんだけど、アンタの案はどうも嫌な予感がしてならない。
「その名案を実現するためにも——」
ヤーナがあたしの肩にポンと手を置いた。
「アタクシに賭けてくださいませ、『勇者』サマ」
嫌な予感が当たりそうで、あたしの背筋は凍るのだった。