太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百十話 「大事なのは中身」

「えっ、ビスマルク傭兵団戻ってきたってマジか!?」

「マジだよ! しかも『小さき虎(リトルティガー)』が噂の『勇者』と力比べするんだとさ!」

「ナハトが? オイオイ、とんだドリームマッチだな!」

「どけよお前ら! 俺にも見せろ!」

 

 ただでさえ先程まで騒がしかった酒場が、更に騒がしくなる。

 

 野次馬……もとい観衆の目的は、あたしと『小さき虎(リトルティガー)』とかいうシンプルにカッコイイ二つ名が知られているらしいナハトという対戦カードで始まろうとしている、腕相撲(アームレスリング)

 

 互いに樽の上に肘を乗せて手を握り、相対する。

 その間を取り持つように手を置くのは、審判のヤーナだ。

 

「ナハトさん、ルールは至って単純(シンプル)。力で自分の方向へねじ伏せれば勝ちですわ」

「言われなくても知ってる。何度かやってるし」

 

 あたしに挑むくらいだから、そりゃ経験はあるかもしれないけど。

 あたしの手を握っているナハトの手の感覚は、まだ体感としては握手する手の握力と同じくらい。

 果たしてこれが拳法を修めているという人の手なのだろうか。

 

「そういう風には見えないけどね」

 

 微かな違和感から、そんな言葉が漏れてしまう。

 

「決めつけるのはよくない。大事なのは中身」

 

 ナハトから返って来たのは、ラグナ族というだけでお偉いさんに忌諱の眼を向けられてきたあたしからすれば、共感性の高い台詞だった。

 

「良いこと言うじゃない。じゃ、やりましょ」

 

 ナハトはあたしの賛辞に「ん」とだけ返して、少しだけ握っている手を強める。

 

「なあ、リーネ」

「は、はいっ」

「あのナハトっての、姉貴と力で張り合えるくらいの傭兵なのかな?」

 

 ふと、リーネに質問するニューの声が聞こえる。

 

「えっと、おそらくはっ。彼女の対魔獣戦闘はあまり見たことがないんですけどっ、喧嘩は強い方らしくてっ。それでなくともツヴェルグ族ですからっ、筋力自体は据え置きかとっ」

「ツヴェルグ族ってなんだ、ミュウ?」

「確か、小人の種族だって聞いたことがある。ヒトより少し背が低くても力持ちな種族だとか。ですよね、ジークさん?」

「うむ! 王都の魔武器鍛冶師(マキナスミス)であるシュミッツがいるだろう? 彼もツヴェルグ族だ」

「あー、あのおっちゃんもそうだったのか!」

 

 なんか初めて聞く種族の名前が出たと思ったら、シュミッツさんの名前を聞いて合点がいった。

 

 ツヴェルグ族とは、この世界(フロイデヴェルト)における『ドワーフ』だ。

 鉱山辺りに住んでいたり、職人気質だったりする、ずんぐりむっくりで背の低い髭のおじさん、というイメージでお馴染みの、ドワーフ。

 確かにシュミッツさんはドワーフのパブリックイメージが服を着て歩いているような人だったが、本当にドワーフっぽい種族の人だとは。

 

 それに比べて、目の前のナハトときたらどうだろう。

 小柄なのは小人っぽいけど、女なのだから当たり前だが、髭を生やしていない。

 おまけにずんぐりむっくりではないし、ツヴェルグ族の男女では体格に大きな差が出るのだろうか。

 

「では双方、宜しいですわね?」

 

 ヤーナから確認を促されて、我に返る。

 いかんいかん、考え過ぎるな。

 目の前の相手に集中しなさい、あたし。

 

「用意……始め!」

 

 ヤーナが手を離し、開始の号令(ゴング)が鳴った。

 すかさずあたしは全身の筋肉をフル活用して、握られた手と腕を倒さんと動く。

 しかし――。

 

「っ……!?」

 

 つい先程まで必勝だったあたしの右腕が、まるで動かなかった。

 

 手応えが、鈍い。

 それはまるで、大木を相手にしているようで。

 

 まさか、あたしと拮抗できるほどの筋力があるというのか。

 ツヴェルグ族特有の筋力というだけでは片付けられない、何かがあるのか。

 

 わからない、何も。

 だけど、何故だろう。

 御前試合でゲジーネさんと闘っていた時と同等……いや、それ以上に。

 

 嬉しい。

 こんな強い人に出会えたこの瞬間が何よりも、嬉しくなってくる。

 

「同じ匂いを感じたのは、間違ってなかった」

 

 ほぼ互角といえる接戦の中で、ナハトがそう呟いた瞬間、あたしの腕が少し右に傾いた。

 やはりこの人は、思った以上に鍛えているようだ。

 

 あたしも本気で応えねば。

 丹田に力を込め、腕を中心に戻していく。

 

「ナハトは確かに相当の怪力だが、『勇者』の嬢ちゃんも負けてねえ!」

「じれったいな、さっさと決着つけろよ!」

「無茶言うなって!」

 

 野次馬に急かされる形で、あたしの腕にも俄然力が入る。

 

 体感としては、非常に長く感じる拮抗。

 端から見れば石造のような不動の光景。

 力と力がせめぎ合い、リングとなっている樽の軋む音すら気にはならず。

 

 あたしは浸った。

 この身体でしか味わえない、力比べという世界に。

 

「……嬉しそうだね」

「そう……見えるッ……?」

「このナハトも嬉しい。力比べできる人間に出会えて」

「ぐっ……!」

 

 ナハトが更にギアを一段階上げてきた。

 あたしもそれに応えるように腕の力を強める。

 その繰り返しが何回か続いた頃。

 

「ここッ!」

「今……!」

 

 互いの瞬発力を活かした力みが。

 

「あ」

 

 とうとう樽というリングを破壊した。

 

「樽が!」

「凄い接戦ですっ!」

 

 ミュウくんとリーネの実況を尻目に、あたしは考える。

 この状態で勝負が終われば引き分け。

 あたしはそれでいいのか?

 

 いいわけが、ないだろう。

 あたしはどんな勝負であれ、負けたくはないのだから。

 

「まだ、まだぁ!」

 

 樽が散ったのを確認して握っていた手を放し、少し後退。

 ナハトも同じことを考えていたのか、同様にバックステップしていた。

 すかさず構えて拳を握る。

 

「いいよ、()()でも」

 

 挑発するようにナハトが呟いて、同じく拳を握った。

 合意とみてよろしいか。ならば。

 

「しゃあッ!」

 

 あたしは踏み込んで、右ストレートでぶっ飛ばすために前進。

 まるで鏡合わせのように、ナハトも突っ込んできた。

 

 ここから先は第二ラウンド。

 納得するまで白黒つけようか!

 

「お前ら!」

 

 その時、屈強な身体があたし達の間に入る。

 ビスマルク傭兵団の筋肉モリモリマッチョマン、ルーカスだ。

 

 咄嗟にあたしは拳を止めて、背の高い彼を見上げる。

 どうやらナハトも拳を止めたようだ。

 

「もういい。そこまでだ」

「いいの? 引き分けで終わるよ」

「今はそれでいい……そっちも、それでいいな?」

「そ、そうね……ちょっと熱くなりすぎた。従うわ」

 

 ルーカスの図体から来る威圧感に押されたのかもしれない。

 あっという間にあたしの頭は冷静さを取り戻していた。

 

「ここでの私闘は厳禁って教わってるしね」

「なら、いい」

 

 ふぅ、危なかった。

 このまま殴り合いを始めていたら出禁になっていたところね。

 ルーカス……気が優しくて力持ち、ってタイプなのかしら。

 

「で、この場合はどうなるんだい?」

 

 落ち着いたところで、オリバが確認を取ってくる。

 

「引き分けということになりますので、間を取って参加費をそのままお返し致しますわ」

 

 一応引き分けした場合も想定していたのか、ヤーナはそう返して、宝石の原石が入った巾着袋をナハト側に返還。

 まあ土台の樽が耐えられなかったわけだし、当然そうなるか。

 

「ん、ありがと。差し引きゼロだったけど、胸躍る勝負だった」

「そりゃどうも。でもいずれ、白黒はつけたいところね」

「同意。然るべき場で、次は己の武をぶつけ合いたい」

 

 でも、なんか良いな。ナハトとのこういうやり取り。

 さっき会ったばかりなのに、同じスタイルの好敵手として通じ合ったようなこの感覚。

 もしかしたらあたしは前世から、ライバルというものに憧れていたのかもしれない。

 

「なんとも気が早いですわね」

「それだけうちのナハトが、そちらさんの『勇者』サマを気に入ったんだろうさ」

 

 ヤーナが呆れ半分感心半分といった態度で、爆速で打ち解けたあたし達を見つめ、オリバがナハトの心情を見透かしたようにフォローを入れてくる。

 すると、カウンターからヘルブラウ支部長が、右に大きな麻袋、左に一枚の羊皮紙を持って戻ってきた。

 

「おっと、メインイベントを見逃しちまったか」

「魔石しまうだけなのに時間掛かってる大将がノロマなんじゃないの?」

「うるせえ、オリバ。デカくて置き場所に困ってただけだよ。それよりも討伐賞金五千万Gだ、受け取りな」

 

 ヘルブラウ支部長が麻袋をテーブルに置くと、詰め込まれた金貨特有の音が聞こえた。

 その音を聞いたヤーナが猫みたいな過敏反応をしていたのは、見なかったことにしよう。

 

「ああ、悪いな」

「それと、ここの傭兵全員に配ってくれと言われてたモンだ」

 

 半ば面倒そうな声色でヘルブラウ支部長はそう話すと、左で持っていた羊皮紙をテーブルに置く。

 その羊皮紙の内容は、あたしからしても見覚えのある、あの告知だった。

 

「なになに……『マキナ・ランブル』?」

「早い話が、マキナユーザーだらけの武闘大会らしい」

「ふーん、パライソでやるんだ。定期船乗ればすぐだね」

 

 やはりナハトは乗り気になったか。

 でもあたしは、エメルの護衛で忙しいのよね。

 再戦はまたの機会、ってことで。

 

「ナハト、今は休もう」

「ルーカスは気にならない? 武闘大会だよ」

「興味ない」

 

 あら意外。

 ビスマルク傭兵団ってこの辺りじゃ最強最大規模の傭兵団らしいけど、そのリーダーっぽい風格のルーカスが血沸き肉躍りそうなイベントに興味を示さないとは。

 力を誇示したいだけの傭兵とは違うのかも。

 

「ま、お前はそういう奴だよな」

「行くぞ。金は受け取ったんだ」

「皆に山分け、だね。じゃ、またどこかで」

 

 あたしに向けて誇らしげに手を振ったナハトを最後尾に、ビスマルク傭兵団の三人は颯爽と酒場の扉を開けて出て行った。

 どうやら拠点に戻るみたいね。

 

 三人が去ったのを見送って、リテラが呟く。

 

「ビスマルク傭兵団の三人……噂通りの底知れなさじゃったな」

「リテラさん、ご存知だったんですかっ?」

「これでもあちこち飛び回っとったんじゃ。最強の傭兵の噂くらいは、商都のどこにでも流れておるしな」

 

 最強の傭兵、か。

 どのくらいの規模での最強かは知らないけど、確信はあった。

 手に残った感触が、あたしの心を滾らせる。

 

「ビスマルク傭兵団……」

 

 次は、いつ会えるのだろう。

 出来れば敵として再会することが無いよう、願うばかりだ。

 

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