太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
ジークが食べた分を無事に支払ったあたし達は、傭兵ギルド支部の酒場を出て、再び商都繁華街の中心部へと躍り出る。
パライソ行きの定期船が出るという港に向かうためだ。
酒場へ行く道を通った時よりも幾分か賑やかになってきたように感じる繁華街。
太陽が高く南の空に位置している辺り、いつの間にか昼頃の時間帯になっていたようで、おそらくは早朝の漁から戻ってきた漁師たちでごった返しているのだろう。
まあそんな港町の日常風景はどうでもいい。
道中の話題は、先程遭遇したあの三人のことで持ちきりなのだから。
「それにしても凄かったよなぁ、ナハトっての。姉貴よりちょっと背が低いだけだってのに、姉貴と張り合う怪力してんだから」
興奮冷めやらぬ様子で、ニューが拳を握る。
「ツヴェルグ族だからっていうのもあるかもだけど、怪力と言うには洗練されすぎているって感じたけどね」
「ふむ、何故そう感じたのだ?」
あたしの感想にジークが疑問を投げかけたので、感じたままに返答してみる。
「腕相撲って腕力一辺倒の種目に見えるけど、実際は全身の筋肉を使わなきゃ、勝ちは狙えないものなのよ。だから今まで勝ってきた腕力だけの人とは違うなって」
「あのナハトさんは、レヴィンさんを『同じ匂いがする』とか言ってたような気がしますけど……」
「間違いなく、アイツは何らかの武術の使い手ね」
うん、これだけは断言できる。
ミュウくんも何か気付きを得たような顔つきになった。
「しかし、魔獣の台頭で徒手空拳の武術はとっくに廃れたと聞いています。まさか現存していて、そんな人が商都支部の筆頭傭兵団にいるなんて……」
「それほど不思議な話でもありませんわ、エメル。武術に限れば大陸全体としては廃れていても、完全になくなったわけではない。レヴィンさんが太陽の鎧で闘えているのと同じように、魔法やマキナという技術を受け入れてひっそりと生きている武術の流派が存在する、というだけですわ」
「やはり世界は広いですね」
あたしもエメルと同じ感想を抱いた。
魔獣を倒すのに魔法やマキナが必須になる世界で、傭兵ギルドのトップグループに君臨しているほどだ。
さぞ優秀なマキナと契約しているか、卓越した技術を持っているのだろう、あの『
「まあ世界広しといえど、かなりレアな部類の傭兵じゃろうがな」
「そうですねっ、私もナハトさんと初めて会った時はビックリしましたからっ。何でこんなに素手で強い人が傭兵やっているんだろうってっ」
リーネ、多分あたしと初対面の時も似たようなこと思ってたんだろうな。
「それでなくともビスマルク傭兵団の層は厚いんですけどっ、ナハトさんはひと際目立ってる印象でしたねっ」
「他のふたりはどうなの? あの筋肉ゴリラとエルヴィン族の兄貴分っぽい人」
「ルーカスさんとオリバさんですねっ。彼らも突出した実力をお持ちの方々で、特にオリバさんは容姿のカッコ良さから、女性人気が高くてっ……」
誰に人気とかそういうのは聞いてないんだけど。
「あっ、そういえばレヴィンさん達は前にエルヴィン族の人と会ったことがあったんでしたっけっ」
「まあ、ちょっとね。割と整った顔立ちの人が多かったみたいだけど、オリバもそういう系なの?」
「確かにエルヴィン族は美形に成長することが多い種族じゃが、あのオリバという男、噂によればヒト族とエルヴィン族の間に生まれ落ちていたらしいぞ」
えっ、つまりリテラの話を鵜呑みにするなら、あの人ハーフってことじゃない。
しかも散々忌み嫌っていたヒト族との間に子を成している。
森の集落に引き籠ってるエルヴィン族の中には、ヒトに惹かれて結婚まで行った人もいるってことなのね。
「でも美形顔であることに変わりはありませんからっ、彼の出生について気にしている人は少ないですねっ」
イケメン無罪、みたいなものかな?
わかる。あたしも相手の顔が整っていれば、どんな哀しい過去があっても受け入れてしまいそうだから。
「オリバさんが主に扱っているのは、風属性の
しかも狙撃系アーチャー。
影の功労者って感じの活躍してそう。
「で、そんな絶対強いって感じのふたりを束ねておるのがルーカスじゃな」
「はいっ。ルーカスさんは普段は無愛想な人ではありますけど、カリスマ的な人気があるんですっ。逸話の数々がそれを物語っていまして、『光ったと思ったら全てが終わっていた』、なんて話もあったりっ」
「えっ、なんか一瞬で片付いたとか、そんな感じの話?」
「まあ、間違ってはおらんな。光の刹那に天下無双の活躍をしたという目撃談が、あやつの『
漠然としすぎててよくわからないけど、その逸話と、あのナハトが信頼を置いている様子からして、商都支部の傭兵としてはかなりの上澄みなのだろうか。
「契約マキナは『アガトラム』という名前で登録されているんですけど、輝きが凄いらしくてっ。誰もその全貌を見たことが無いみたいなんですっ」
「どんだけ眩しいのよ……ちなみに、そのマキナのランクはどれくらいなの?」
「最高位のAAA級、と聞いていますっ」
「とっ……!?」
今まで聞いてきた中でも一番たまげた情報かもしれない。
そりゃ人も集まるわ、誰もが慕うはずだわ。
ヤーナのハンドメイドマキナですらA級が関の山って聞いてるのに、その遥か上を行っていたとは。
商都最強最大の傭兵団リーダーに相応しい高級感である。
「王家が保管している物でも、AAA級のマキナが現存していないことを考えると……相当なレア物なのでは?」
「エメルが言うのならそうなのだろうな。私は特にマキナのランクなど気にしてはいないが」
「ジークはそうでしょうけども、アタクシは気にしますわよ。一体どんな職人がAAA判定されるほどの逸品を作り上げたのか、興味がありますわね」
エメル達の話をそこまで聞いて、件の『アガトラム』があたしの『ソルマドラ』のような
なのでその事には言及しないまま、目抜き通りを抜けたところに、不穏そうな会話が聞こえてきた。
「だから言っただろ、結界の外には出ない方がいいって」
声のした方には、ワイルドな髭のおじさんと、まだ青臭さが抜けない青年がいた。
どうも荷運びの途中で説教されているようだ。
「すんません、沖より大物獲れるんじゃないかって……」
「欲張るもんじゃねえよ。勝手やられて魔獣の世話になっちまたら、たまったもんじゃねえ」
「そりゃそうなんすけどねぇ。うちの船に結界魔導具でもあれば——」
「定期船にあるようなモン、うちの経費で落とせるわけねえだろ!」
漁師の皆さん、大変そうね。
魔獣避けの結界範囲でしか漁業できないグループの苦労は推して知るべし、か。
大掛かりな魔導具ほど相場が高いのは知ってるけど、やるせない気持ちになる。
何をするにも金、金、金。
ヤーナの気持ちが少しだけ理解できた気がする。
それと同時に、不安感が襲ってきた。
結界の外には海の魔獣がうじゃうじゃ居るという情報を得たからだ。
定期船には結界魔導具があるらしいが、安心だとは言い切れない。
相手の領域に引きずり込まれてしまっては、一巻の終わりだろう。
それにあたしは……。
漁師さん達の会話を聞き流していたところに、先頭を歩いていたリーネが声を掛けてきた。
「皆さん、こちらが港になりますっ」
視界を上げると、繁華街とは違う景色が広がっていた。
石造りの埠頭が緩やかな弧を描いているところに、大小様々な帆船が並ぶ。
人々の行き来も頻繁であり、台車を運んでいる漁師さんや、魚を買いに来たお客さんなんかが多い。
再開発された元漁村ということは知っていても、正直ここまで賑やかだとは思ってなかった、というのがあたしの感想だ。
おまけに潮の香りが濃い。
「思ったより船が多いみたいですけど……この中に定期船があるんですか?」
「そのはず、ですねっ。船首に目立つ銅像がついているので、すぐ見つかるとは思うんですけどっ」
ミュウくんの疑問に答えたリーネによれば、定期船には派手な銅像が船首に付いているらしい。
船のことには疎いあたしだが、どんな銅像なのかは少し気になる。
「……リーネ」
「はっ、はいっ。なんでしょう、ヤーナさんっ」
「認めたくはないのですけど……あの趣味が悪そうなのがそうなんですの?」
どうやらヤーナが件の定期船を見つけたみたいだけど、やたらと渋い顔をしている。
そんな顔するほどに目に入ると悪いものが見えたのだろうか。
ヤーナが指差した方向に視線を向けてみると。
「うわっ、何コレ……?」
思わず困惑の声が漏れてしまった。
いやね、定期船ってぐらいなんだから、目立つ船首像はあってもいいと思うわけよ。
でも何だろう、この船首像は。
パンクファッションでツンツン頭の男が、両腕を交差して親指と小指を立てている。
ロックとかパンクとか、そういう弾けた感じの単語が、脳裏を過ってしまった。
良く言えば前衛的、悪く言えばイカれすぎ。
この船の製作者が近くにいたら、どうしてこうなったのかを問いただしたい。
「本当に、何なんでしょうね……」
「定期船ってツラ構えじゃないよな、どう見ても」
ミュウくんとニューも、初めて見るあんな船首像にドン引きである。
「うむ、だがセンスは光っている……ように……見えなくも……?」
「ジークが感想に困るほどなんて……確かに前衛的ではありますけど」
「前衛的ってだけでは片付かんぞ。しかし帆にドクロマークがないところを見ると、海賊船ではなさそうじゃし」
ジークはらしくなく困惑し、エメルも微妙な顔でロックな船首像を見つめている。
あとリテラ、あれが本当に海賊船だったら、この波止場は既に蹂躙されてるわよ。
「なんだか絶妙に乗りたくないと思わせる像ですし、きっとこれは定期船じゃない何かですわね。そうに違いないですわ」
「ヤーナさんっ、こちらが定期船で合ってますよっ」
「……へっ?」
一拍置いて、ヤーナから出たとは思えない困惑の声が上がる。
「ちなみにこの船首像のモデルは、現パライソ国王・ロータス陛下らしいですっ」
「自己顕示欲ぅぅぅッ!」
声を張り上げたヤーナのツッコミは、虚しく空を切った。
うん、言いたいことはわかる。
まだ会ったことのない公国王のヤバい片鱗が見えてきたから不安だ、という気持ちも。