太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
第百十二話 「ここまでダルくなるのは前世ぶりかも」
ロックな王がモデルとなった船首像が特徴的な定期船……その名を『ロータスラウンド号』。
結局あたし達は、唯一パライソ公国と商都グランツァイトの港を行き来しているこの船に乗ることになった。
波止場と船を結ぶタラップの傍に立っているバンダナを巻いた船員に乗船券を見せたら、あっさり通されたのだが、元地球人のあたしからすれば、ボディチェックとかやらないのだろうかと心配になる。
まあ、こういう世界のセキュリティってガバいのが普通なんだろうし、地球の観念が当てはまるとも限らない。そこはもう気にしないでおこう。
そんなどうでもいい考えを抱きつつ、あたし達はタラップを渡って甲板の上に立ったのである。
前世を含めても、初めての客船。
甲板は思ったより広く、いつだったか前世の旅番組か何かで見た豪華客船には及ばないものの、結構な人を乗せられるタイプの帆船であるようだった。
あの船首像を除けば、客船としては中々豪華なのではなかろうか。
他の客船のことは知らないけど。
「案外、船としては堅実な造りのようですね」
うん、エメルの言う通り。
船首像がノイズなだけだと心の中で言い聞かせよう。
「私も本格的に乗ったのは初めてですけどっ、元々資源輸送船を改装したものと聞いているので、乗り心地は抜群だと思いますっ」
「そうなのね。パライソの港までは、どのくらいかかるの?」
「今の便だと、明日の朝に到着予定と聞きましたっ」
リーネの言う通りなら、船の中で一夜を明かすことになるのか。
定期船ってぐらいだし、乗客用の寝床はあるだろうけど、雑魚寝環境にはなるのかもしれない。
「ふむ、それまでは暇ということか」
「一応、遊べるものは持ち込んでいますわよ」
ジークの退屈を埋めるかの如く、さっきまで機嫌が悪かったはずのヤーナが、懐からトランプの山札を入れたケースを取り出す。
「確かにトランプは多彩なルールで遊べて飽きませんけど……」
「それよりあっしは船の中を探検してみたいな!」
「ニューもこう言ってますし、しばらく船を見て回りませんか?」
トランプで暇つぶしするのもいいけど、双子が言うように船旅の醍醐味を味わうのも良いかもしれない。
「それは良いんだけど……」
ただ、少し周りの乗客が気になる。
貴族の人とか一般客に混じって、ガラの悪い連中がそこかしこに点在しているような。
おそらくは『マキナ・ランブル』の参戦を目論むマキナユーザーなんだろうけど、あたし達が見られている気がして、少し落ち着かない。
でも気にしてもしょうがないわよね、もう乗りかかった船なんだし。
「出航ーっ!」
野太い男性の声が辺りに響くと、波止場と船をつなぐタラップが外されて、錨を引き上げる音が聞こえた。
マストに備え付けられた大きな帆が広げられ、風を受けて膨らむ。
途端に船が少し揺れて、波止場の景色が徐々に遠ざかっていく。
これからこの定期船が、パライソ公国の港へ向かうのだ。
「むっ、この感覚は?」
ジークが何かを感じ取ったが、それはあたしもだ。
ふと上の方を見ると、どうやら船全体がドーム状の結界で覆われているらしい。
「魔獣避けの結界魔導具のようですわね。乗客の安全には気を遣っているようで安心しましたわ」
ヤーナに同感だ。
定期船にはこれがあるから、平穏無事に運行できているのだろう。
「でも気は抜けないわよ。海の魔獣から身は守れても、巨万の富目的で乗り合わせてる悪いヤツはいるだろうし」
「確かにそうじゃが、神経質になりすぎるのものう。公衆の面前ではあることじゃし、そうそう犯行に及ぶ者もおるまい」
「あたしは、『マキナ・ランブル』の参加者に間違われたら危ないって言ってるの」
「よくよく考えると、この面子で勘違いはされんと思うんじゃが」
そういえば……リテラの言う通りかもしれない。
客観的に見れば目に入れても痛くない女だらけだし、ニューとミュウくんだって誰かの妹とか弟に見えていても不思議じゃない。
ラグナ族のあたしを除けば、誰もあたし達を傭兵団と護衛対象だと思ってないんじゃなかろうか。
そう考えると色々と馬鹿らしくなって、肩の力が抜ける。
「……それもそうよね。あたしの考えすぎだった」
「うむ、気にすることは無い。我らの立ち振る舞いに何を恥じることがあろうか!」
「ジークの場合、考えなしの行動をやらかして、黄色い声援が飛び交うくらい目立ちそうなものですけどね」
「はっはっはっ、返す言葉もない!」
エメルという身内から辛辣な言葉を投げ掛けられても、あっけらかんといつもの台詞で返せるジーク、やっぱり無敵すぎる。
あたしもこれくらい馬鹿になれたらいいんだけどね。
「じゃあ早速行こうぜ、定期船の探検!」
「勢い余って船から落ちないようにね」
「わかってるって!」
ニューに手を引っ張られて、あたしは皆としばらく定期船を巡ることになった。
※※※
定期船が商都の港を出て、体感三十分程度。
もうすっかり商都の面影が見えなくなってきた頃、あたしの身体を未曾有の試練が襲う。
「オロロロ……」
腹の底から来る不快感を、柵に寄りかかって、盛大に海へリバースしてしまった。
そう、船酔いである。
これまで前世を含めて一度も船に乗ったことが無いのが影響しているのかもしれないが、馬車と比べても揺れ方が不規則なので三半規管が混乱しやすいのもあるだろう。
こんなことになるなら、三半規管強化のトレーニングでも増やしておけばよかった。
もしかしたら三半規管の鍛錬を怠ったから、魔力酔いしやすくなってるんじゃなかろうか。
いや、関係ないな……多分。
「だ、大丈夫ですかっ?」
「平気……とは言い難いかも」
リーネが背中を撫でてくれているので、多少は平気ともいえる。
ただ、リーネの声が遠くに感じるほど消耗しているのは確かだ。
「この事態を想定して、酔い止めの薬を調合するべきでしたね……」
「まあ、今更言ってもしょうがなかろう。誰もが、あのレヴィンが船酔いなどするはずがない、などと思い込んでたじゃろうしな」
もうそれはアイドルがトイレ行かないとかそういう決めつけレベルの共通認識になってない?
無敵のスーパーガールってわけじゃないんですよあたしは。
人並みな部分も所々あるんだから。
「その脱力具合では、しばらく動けそうもありませんわね」
「ごめん……身体が慣れるまで休むわ」
「ごめん、はこっちだよ姉貴。何か欲しいものないか?」
「とりあえず、水かな……海水じゃないやつ」
「なぜだ? 別に海水でも良いではないか」
「ジークさん、海水はろ過しないとしょっぱくて飲めないらしいですよ」
ミュウくん、あたしの代わりにツッコミありがとう。
ボケに言い返す気力がなかったので助かった。
「手持ちの水は……私が飲んだのが最後でしたね」
「なら食堂で水を貰うしかないのう。人命救助とか理由をつければ無料でくれるやもしれん」
そういえば探検の時に通ったっけ、乗客用の食堂。
夜中は大人の紳士淑女が集う酒場になるとか……って、今はそんなことどうでもいいか。
「だったらあっしが行くよ」
「じゃあボクも」
双子が慌ただしく食堂へ向かうと、すかさずヤーナが仕切り出していく。
「さて、横になって楽になるには毛布も必要ですわね。リーネ、毛布を貸していただける部署をご存じ?」
「は、はいっ。定期船には医務室がありますので、そこならっ」
「ナイスですわ。エメル、ジーク。アタクシ達で参りますわよ。リーネは医務室まで案内してくださいな」
「レヴィンさんの危機ですからね。何でもやります!」
「心得たが……毛布を貸すだけなのに、なぜ私も?」
「アタクシと一緒にエメルのガードをしてもらう為ですわよ!」
「なるほど!」
ジークが納得してくれたのはいいけど、これ多分方向音痴対策だよね。流石に抜かり無い。
「リテラ様はそのままレヴィンさんを診ていてくださいまし!」
「すぐ戻ってきますから!」
「おう! 怪しい奴には気をつけるんじゃぞ!」
リーネを先頭に、エメル、ヤーナ、ジークが船の中に飛び込むように走り去っていく。
あたしの傍には、リテラだけが残った。
「どうじゃ、レヴィン? 吐くもの吐いて、少しはマシになったかのう?」
「少しは、ね。それにしても、ここまでダルくなるのは前世ぶりかも」
久しぶりにあたしの前世を知るリテラとふたりきりになれたからなのか、余計なことまで吐いてしまったかもしれない。
でも、薄々思ってたことを相談する貴重な機会でもあったのは事実だ。
「前世……お主は病人じゃったな、そういえば」
「それなのに『ライジングナックルV』拾うのに車道出ちゃってさ。我ながら今でも馬鹿みたいなことしてたと思う」
「確かに阿呆な行動ではあったが、その姿にわしは救われたんじゃ。レヴィンは何も変わっておらん。転生しても尚、な」
「転生……」
この目の前の妖精……というか本体の創造神に見初められて、あたしはこの世界に生まれ落ちた。前世の記憶を持ち込んだまま。
だからこそ、微かな違和感には敏感になれた……と思う。
その上で、あたしはリテラに疑問を問いかける。
「リテラはさ……」
「何じゃ?」
「パライソの王様のこと……転生者だと思う?」
リテラの顔色は、驚きで青ざめていた。