太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
パライソ中立公国の王は、転生者じゃないだろうか。
そう思えた理由は、一応ある。
彼をモデルにしたとされるこの『ロータスラウンド号』の船首像だ。
あのパンクな装いは、前世で見た歌番組に出て来るヘビメタバンドのようであり、魔法が満ちているファンタジーな
もしかしたら彼は地球からの転生者で、何らかの手段を用いて王の地位にまで上り詰めたのではないか。
そんな想像が容易になるほど、彼は己の力を誇示するレベルでアピールしている。
そう思えてならない。
「いや、どうじゃろうな? 確かに服装からしてロッカーっぽい気はせんでもないが……」
それに、明らかにリテラの様子がおかしい。
まるであたしに何かを隠しているような……?
「あたしね、アンタが尊敬してるっていう神様と話したことがあって――」
「なぬっ、お主がガイア様と!? いつの間に!?」
「ダリアにやられて気絶してた時に、ちょっとね」
三か月以上前、あたしがダリアの雷に打たれて意識を失っていた時、あたしの夢に介入してきたのが、胡散臭い第一印象の地球創造神・ガイア様だ。
あたしは彼に促される形で立ち上がるきっかけを与えられ、『ソルマドラ』の力を解放できるほどに殻を破ることができた。
そういう意味では彼に感謝してるんだけど、彼はあたしが目覚める前に、とんでもない爆弾を置いていってしまったのだ。
——キミの他にも地球からフロイデヴェルトに送った者がいるんだが……。
そう、あたしとは別の異世界転生者の存在を匂わせたのである。
もしや今のパライソの王こそが、ガイア様の言っていた人物なのではないか。
そんな仮説を、リテラにぶっちゃけてみたのだが。
「……なるほどのう。パライソ王転生者説、か」
「もしかしたらあたしの思い過ごしかもしれないから、アンタの意見も聞こうかと思って」
「良い心がけじゃが、わしから言わせてもらえば……転生者の線は、無いじゃろうな」
えらくキッパリ断言するじゃない。
「理由はふたつじゃ。ひとつ、わしは自己顕示欲満々そうな奴のような魂をこの世界に転生させた覚えがない」
「へえ、覚えてたりするんだ」
「わしはそこまで放任主義の創造神というわけではないぞ。転生させる魂は選ぶし、本人の希望によっては召されることも止む無しと考えておるからな。じゃが、現パライソ王・ロータスには悪い方向性の噂が絶えんし、いくらわしに覚えがあっても、悪い噂が立つような魂を送ることはないと断言できる」
ある意味、選民思想に近い。
でもコイツの場合、天秤が傾いたら相反する要素でバランスを保つ、なんて崇高な神らしいことを考えてはいないのだろう。
リテラの目指すビジョンに、最悪という文字はない。
何が世界にとって最良か。
救世主としてあたしを選んだのも、そんな考えを巡らせた結果なのかも……なんてね。
「つまり……直接会ってみなきゃ、どうとも言えないわけね」
「あの像のような衣装を公で着ているとも限らんしのう。もしかしたら斬新な発想から生まれたファッションが、たまたまロッカーに似ていただけという可能性も——」
「どんだけ低い可能性の話してんのよ」
何はともあれ、気になっていたモヤモヤは少しだけ晴れたと思う。
それだけに、ロータスという王の人物像に不安が過る。
彼はどうして中立国をリゾートに塗り替えたのか。
なぜ『マキナ・ランブル』を開くに至ったのか。
エメルを招待した意図は、何か。
何事も会ってみなければわからないが、もしもしょうもない男だったら、殴る準備くらいはしておこう。
「ふぅ……少しは落ち着いてきたかも」
寄りかかっていた柵から背中を離し、
船緑から見える波が穏やかに見えた。
おそらくは、身体が少し船の揺れに慣れてきたのだろう。
「じゃからといって、無理をしてはいかんぞ。おとなしく皆を待つんじゃ」
「わかってるって」
とはいえ、座って待っているだけだと退屈なので、周りを見渡してみよう。
甲板の隅々まで目を凝らすと、案外多種多様な人がこの定期船を利用しているんだな、というのが実感できる。
小太りな中年商人や、厳つい傭兵たち、大きめの帽子を被って潮風を浴びる貴族の令嬢っぽい人。
この面子のうちどのぐらいの人間が、ロックやってそうな王の道楽をわざわざ見に行こうとやって来ているのだろう。
件の『マキナ・ランブル』に参戦しそうな傭兵たちはともかく、金持ち連中の考えは想像するしかないが、ろくでもないことに金をドバドバ使わないで欲しいのが正直なところ。
そんなどうでもいいことを考えていると、視界の隅に妙なものが引っかかる。
「ん……?」
賑わいから外れた甲板の隅に、日中では目立つ黒ずくめのローブに身を包んだ人影が、足早に横切っていったのだ。
「なんか……不審者いない?」
「不審者じゃと? どこじゃ?」
「さっき船の中に入ってったのが見えたのよ」
あたしは先ほどの人影が入っていった扉を指差した。
「わしは見てないからなんとも言えんが、余計なことは気にせず待った方が——」
「多分、待ってたら手遅れになりそう。もしかしたら、エメルを始末しに来た暗殺者かもしれない」
あたし達がエメルを守りつつパライソへ赴いていることは、一部を除けば公には知られていない。
だが、どこからかこの船に乗るという情報が誰か……例えばエメルが帝国の要人と接触することを好ましく思わない人間に漏らされている可能性もある。
なのであの人影は、その勢力が差し向けた暗殺者に思えてならない。
一応エメルは昔馴染みのジークとヤーナがガードしてくれてはいるが、ふたりが不意を突かれることもあるだろう。
不確定要素は早めに摘み取らなければ。
「……まだ本調子ではないんじゃ。無理はせず、危ないと思ったら隠れるんじゃぞ」
あたしはリテラの忠告に頷いて、ゆっくりと立ち上がった。
※※※
黒い人影が消えていったのは、丸い窓が特徴的な扉。
ニューに付き添って探検している時に、ここを通った覚えがある。
その時は船員に見つかって、ここは貨物室に通じてるから勝手に入っちゃいけないと念押しされたのだが。
「すみません、非常事態なんです」
周りに船員はいないのに、一言謝って扉を開けるあたし。
薄暗い一本道の通路の先に、下へ続く階段が見える。
「本当にこの奥へ向かったんじゃろうな?」
リテラがあたしのマントの襟元から、ひょっこりと顔を出す。
「間違いないと思うけど、あたし以外誰も見てないみたいだから、確証はないわね」
「そもそもエメル狙いならば、毛布を借りに行ってる医務室に向かうハズじゃが……方向は真反対じゃな」
「……つまり?」
「狙いはお主で、わざとお主に姿を見せた上で誘い込んだのかもしれんということじゃ」
えっ、標的はあたしの方?
いやいや、まさかそんな。
誰かに狙われるようなことをした覚えは……悪党相手なら何度かあるか。
「それは飛躍しすぎじゃない?」
「ありえん話ではないじゃろ。警戒は怠るでないぞ」
まあそう言われたら警戒しないわけにはいかないけど。
ゆっくりと階段を降りていくと、扉が見える。
おそらくあの奥が貨物室だ。
そっと扉を開けて、中を確認する。
多めの木箱だったり樽だったり麻袋だったり、貨物室らしい物が陳列されている以外、人の気配がない。
「誰もおらんようじゃな」
「そんなハズはないんだけど——」
そう、そんなハズはない。
甲板の扉から貨物室までは一本道。
物陰に隠れでもしなければ、誰にも見つからずにいられはしない。
きっと、どこかに潜んでいる。
恐れるな、落ち着いて気配を読むんだ。
これまで染みついてきた己の感覚を、研ぎ澄ませ。
「っ——!」
その刹那、背後にソワソワと漂っていた、只ならぬ想念のようなものが爆発的に膨れ上がったのを感じた。
暗殺者は今、あたしの背後を取っている。
考えるよりも前に、身体が迎撃を選択していた。
「後ろ!」
右肘を背後に引く。
手応えはなかったが、あたしの首元に迫る凶刃は寸前のところで止まった。
この凶刃には覚えがある。
あたしのこの世界での父・レオンの身体を貫いた、あの大鎌。
「やっぱりね」
「うフッ……」
気持ち悪い吐息を漏らした人影は鎌を引いて後ずさる。
同時にあたしも振り返りつつ距離を取った。
薄暗くても、
「そのまま首を差し出してくれればよかったのニ……敏感になっちゃって残念ネ」
父の仇、魔人ダリア。
実に、三ヶ月と少しぶりの邂逅。
あたしは反射的に拳を握りしめていた。