太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百十四話 「おそらく奴が狙っておるのは……粉塵爆発!」

 ほんのりと、予感はあった。

 魔獣教団が王国から完全に撤退したのなら、いずれは王国の外で相見えるだろうと。

 

 まさかそれが今だとは思っていなかった。

 定期船の中に潜み、白昼堂々あたしを誘ってくるとは。

 

「久しぶりね、ダリア。そっちは見ない間に殺気の隠し方が下手になってきたんじゃない?」

「そうかしラ。ごめんなさいネ、抑えが利かなくテ」

 

 相変わらずダリアの喋り方は気味悪いが、前に会った時とは少し声色が違うような気がする。

 癪(しゃく)に障る口調に、少し重みが加わった……ような?

 

「陛下がネ、アナタのコト気に入っちゃったのヨ」

 

 陛下、というのは、あの時あたしを圧倒した魔人王のことだ。

 そいつがあたしを……気に入った?

 ありえない。アイツにはまるで敵わなかったのに。

 

「それが悔しくて悔しくて悔しくテ……だかラ——」

 

 ダリアが前に一歩足を踏み出したその瞬間。

 床が焦げる音と同時に、ダリアの姿が消えた。

 刹那、彼女の顔が眼前に迫る。

 

「消えて欲しいノ」

 

 一瞬で距離を詰められた。

 高速移動……いや、違う。

 コイツが持つマキナの固有能力(アビリティ)かもしれない。

 

 いずれにせよ、コンマ数秒の間に懐に入られてしまったのだ。

 こちらの『ソルマドラ』を解放(リリース)する暇(いとま)がない。

 ならば、こうだ!

 

「ふんっ!」

 

 渾身のカウンター頭突き。

 反応できずに当たるかと思われていたそれは、虚しく空を切った。

 またしても一瞬のうちにダリアが消えて、距離を離しつつ貨物室の扉を閉めている姿が見える。

 

「いつの間にこの距離を……?」

「おそらくはあ奴のマキナの固有能力(アビリティ)じゃろう。テレポート系のな」

 

 テレポート……俗に言う瞬間移動とかワープと呼ばれるもの。

 格ゲーなんかでは特殊な操作感のキャラが、そういう移動技を持っているケースが多々あり、対戦相手を惑わせる手段として用いられている。

 

 基本魔法っていうのは超能力みたいなものだし、そういう能力の使い手が居てもおかしくはなかったが、まさかダリアがそのタイプだったとは。

 真っ向から対峙して初めて理解する、親の仇の戦闘スタイル。

 あたしが思っている通りなら、対処法は存在する。

 

「そうと決まれば……解放(リリース)――」

「待つんじゃ、レヴィン!」

「えっ、どうしたのよいきなり?」

「この場で『ソルマドラ』を解放(リリース)してはいかん!」

「何でよ? 太陽が届かない場所でも、短期決戦なら――」

「そういうことではない。落ち着いて周りを見渡すんじゃ」

 

 突然リテラに止められてビックリしたが、周りを見渡せと言われても……ここはただの貨物室でしょうが。

 いや、でも待てよ。貨物室ってことは——。

 

「もしかして、燃え移りそうなのがあったりする?」

「半分正解じゃな。確かに燃えやすい酒なんかを、ここに保管してはあるじゃろう。しかしじゃ、ここで戦闘するにあたって、最も留意しなければいかんのは……粉じゃ!」

「粉って、袋に入った小麦粉とかそういうの?」

「そうじゃ。おそらく奴が狙っておるのは……粉塵爆発!」

 

 ふん……じん……?

 急にそんな理系専門用語を言われても。

 

「条件にもよるが、燃えやすい粉が舞っておる状態で火を付けたら、爆発的に引火する現象をそう呼ぶんじゃ。必修科目じゃから覚えておけよ」

 

 いや、何の必修科目なのよソレ。

 

「要するに、今の状況で『属性付与・太陽(エンチャント・サン)』するのは危ないってことね」

 

 つまりは己のマキナを封じた状態でダリアと戦わなければいけない、ということだ。

 とんだ縛りプレイを強要されたものである。

 だがそれでも出現位置さえわかれば、あたしのフィジカルで抑えられるかもしれない。

 

「当たらずとも遠からず、ってところかしラ」

 

 扉の傍にいたダリアが、再びその姿を消した。

 

 転移するならあたしの周辺であろうことは確実。

 あたしのどの部位を狙っているか読めていれば、鎌は避けられるはずだ。

 

 ダリアがまた眼前に姿を現す。

 既に鎌を振りかぶった状態。

 

 かつては前世の格ゲーで反射神経と動体視力を鍛え、転生してからは肉体面を鍛え上げたあたしにとっては。

 見(・)て(・)か(・)ら(・)余(・)裕(・)の大振りだった。

 

「うおっと!」

 

 アイツの姿が見えた瞬間に、あたしの脚は後退を自然と選択。

 おそらくはあたしの首めがけた斬撃が、盛大に空振った。

 

「うフ、そうでなくっちゃ殺(や)り甲斐がないワ」

 

 目の前の獲物を前に舌なめずりしたダリアは、またしても姿を消す。

 

 左から、右から、正面から、背後から。

 繰り返される瞬間移動からの斬撃を、あたしは避け続けた。

 無論、貨物を傷つけない塩梅で。

 

 それでもいずれ限界は来るし、どうにか隙を見て切り返したいところだが、相手はまるで隙を見せてくれないから困ったものである。

 

「私の『クレセンティア』の固有能力(アビリティ)は『瞬雷(ブリッツ・シュトラール)』……稲光と化した私に、どこまで耐えられるかしらァ?」

 

 ダリアがおもむろに手の内を明かすとは。

 それだけあたしに勝てると思っているのだろうか。

 

 確かに、自ら稲光となって瞬間移動するその能力は脅威だろう。

 でも、勝機はある。

 

 その勝機を掴むためにあたしは、回避しつつ移動し、壁を背にした。

 

「あラ、自分から追い詰められるなんテ。ヤケにでもなったノ?」

「これがヤケに見えるっての? 後ろを取られる心配がなくなっただけよ」

 

 あたしが壁を背負った理由のひとつが、それだ。

 

 敢えて過酷な状況に身を置くことで、相手の選択肢を狭める。

 瞬間移動なんかで背後を簡単に取れる能力持ちには有効な手だ。

 こちらの死角から狙うという択を排除してもらうには、この手しかないといえるだろう。

 

「見ない間に、そこそこ経験値は積んできたみたいネ。でモ——」

 

 ダリアの持つ大鎌『クレセンティア』に、電流が走る。

 雷の魔力に包まれた刃を、目の前の相手は大仰に振りかざした。

 

「後ろの壁ごと斬ればいい話じゃなイ?」

 

 そしてとんでもない発言をしてしまった。

 やはりこの女は、どういうわけかあたしの首を刈ることしか考えていないらしい。

 この壁の向こうが海だなんて、微塵も考えていないのだろう。

 

 流石に浸水で定期船を沈めてしまうのはマズイでしょ。

 こうなったら、多少のダメージは覚悟して防ぐしか——。

 

「そこまでや」

 

 聞き覚えのある田舎訛りが、あたしの耳に届く。

 

 気が付けばダリアの動きは止まり、彼女の背後にはいつの間にか、テンガロンハットを被った西部劇ファッションの女性が現れており、ダリアの後頭部に銃を突き付けていた。

 

 それだけ目立つ格好な上にリュートを担いでいるのである。

 誰であるかは一目瞭然であった。

 

「アカンやん、船に穴開けようとしたら。乗客はぎょうさんおるんやで」

「やるじゃなイ、私の背後を取るなんテ。どなタ?」

「さすらいの吟遊詩人ってトコや」

 

 商都グランツァイトで別れたばかりの吟遊詩人、カノーネ・メルケル。

 何で貨物室にいるかは知らないけど、とにかく助かった。

 

「カノーネ……いつからここにおったんじゃ?」

「まあその話は後でな。で、この見るからに怪しいのは誰なん? レヴィンちゃん狙っとったみたいやけど」

「親の仇よ」

「簡潔な要約おおきに。てなわけやから、その物騒なマキナはしまっとき。さもないと脳髄ぶち抜くで」

 

 脳髄ぶち抜く、っていうのは吟遊詩人らしからぬ殺し文句だけど、そもそも銃二丁持ちの吟遊詩人なんていないから比較にならない。

 でも、ダリア相手にそんな脅しが効くのだろうか。

 

 それにあたしは理解している。

 そもそもカノーネさんの脅し自体がハッタリであることを。

 まだパライソに着いてないから、魔弾補充できてないハズだし。

 

「物騒な詩人もいたものネ。封印(シール)」

 

 えっ、まさかハッタリが通じたの?

 ダリアがあっさりマキナを収めたんだけど。

 

「素直な娘やね。そのまま両手を頭の後ろに――」

 

 カノーネさんは味を占めたのか、強盗がその場の人を人質にするようにダリアへ指示を出していく。

 

 とても怪しい。

 コイツのことだから、魔弾銃の弾が入っていないことくらいとっくに気付いてるだろうに、素直に脅しに屈するものだろうか。

 

 ダリアがゆっくりと両手を上げていく。

 本当にそのまま従ってしまうのか、それとも——。

 答えは、否だ。

 

「うフッ……」

 

 ダリアの呟くような吐息が聞こえた瞬間、彼女が頭の後ろに伸ばそうとしていた右手に変化があった。

 親指と中指が、重なっている。

 

「やばっ——」

 

 反射的に、身体が前に動いた。

 あたしにとって、見覚えのある技(・)の(・)出(・)掛(・)か(・)り(・)。

 

 だが、時既に遅く。

 貨物室に、刺激的な指鳴りがパチンと響いた。

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