太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
気象現象として解明されるまで、雷は神の怒りだと恐れられていたという話を、前世のどこかで聞いたことがある。
それだけ雷が発するエネルギーが強力なのは間違いないので、有名なタイムトラベル映画なんかではオーバーテクノロジーの代替エネルギーとしても使用されていたのだという。
だからこそ、出力が絞られていても脅威になり得る。
ダリアが指パッチンで弾き出した細い雷はそれを証明するかのように、貨物のうちのひとつに到達。
その貨物とは、木箱の隙間から覗く、鉄製のスタンドに収められた大きな球体。
雷の魔力を注がれた球体は、音を立ててひび割れた。
「……なにも指鳴らして物壊せ、とは言うてへんで」
「最初から言うこと聞くとは言ってないかラ、当たり前じゃなイ。私怨から仕事に切り替えただけヨ」
やはりダリアはカノーネさんの脅しに屈してはいなかった。
いや、感心してる場合じゃない。
さっきダリアに壊されたのは、おそらく。
「まさか、結界魔導具を壊したの……?」
「なんやて? それは確かなんか?」
「似たようなものを見たことがあるのよ。遠征であちこちの村とか行ってる時に何度かね」
それだけじゃない。
故郷の集落にあった『太陽竜の竜玉』。
あれの役割も、結界魔導具と同じで魔獣除けだった。
リテラにかつて聞いていた話だと、太陽竜のような古代の聖獣の臓器が時間をかけて固まった琥珀は、発掘されるとすぐに結界魔導具制作の素体として流通していったそうなので、結界魔導具がほぼ球体なのは、その影響もあるのだろう。
それが目の前で壊されるなんて。
まるで竜玉が雷で砕かれた、あの時の再現だ。
「で、結界魔導具を壊すのが仕事っていうのはどういうこと?」
「そこまで話せるほど深い仲でもないでショ、私達。誰に頼まれたのか知りたければ、パライソまで辿り着きなさイ」
「はぐらかすなや、まだ話は——」
カノーネさんの追及を避けるように、銃口を後頭部に突きつけられていたダリアの姿が忽然と消える。
もう気配が遠くなった。あたしの近くに姿を現すこともなく、貨物室から出て行ったのだろう。
《もっとも、辿り着けたらの話だけどネ。フフフッ——》
不気味な言葉を残していったのは余計かもしれないけど。
「また逃げられた……」
「状況が状況じゃ、仕方あるまい」
「それより結界魔導具が駄目になったっちゅうことは――」
「定期船が、海の魔獣に狙われる……!」
とはいえ、事態は一刻を争う。
悪趣味な定期船だけど、乗客は多い。
故郷の二の舞にはさせるものか。
※※※
あたし達は急いで甲板まで駆け上る。
嵐の予兆こそないが、窓を覗けば変化は一目瞭然だった。
「やっぱり結界が消えてる!」
「こりゃアカン! 船長に知らせんと!」
「大きな結界が突然消えたんじゃ、少なくともクルーの誰かは気付いて報せておるじゃろ。それよりわしらは皆と合流して、海の魔獣に備えるんじゃ!」
「言われなくても!」
扉を勢いよく開けて甲板に出る。
その刹那、あたしの耳に届いたのは、焦燥混じりの怒号だった。
「おい、結界が消えたぞ! どういうことだ!」
「この定期船は安全と聞いていたんだぞ!」
貴族の乗客たちが、わかりやすく動揺している。
船員さん達が慌てて宥めてはいるものの、そういつまでも抑えていられるものではない。
ごめんなさい、あまり気にかけてる余裕はないのよ。
パニックになっている彼らを尻目に、あたし達は迂回した。
「ここら辺りの魔獣言うたら、『ソードシャーク』が押し寄せて来るやろうな」
甲板を駆けている最中、カノーネさんがそんなことを口走る。
「何よそれ?」
「ソードシャークは頭が剣みたいに鋭い、サメの魔獣や。うっかり結界の外に出た漁船がそいつに沈められた、っちゅう話を何度か聞いたことがある!」
頭が剣って、そんなサメがいるのか。
カジキマグロのサメ版ってところかもしれない。
「当然、結界が消えたこの船も狙われるじゃろうな」
「そりゃそうなんだろうけど、船の上でどうやって迎え撃てばいいのよ?」
「海から飛び出る個体が来ることを祈るしかないんとちゃうか?」
「飛んでくるの!? トビウオみたいに!?」
途端にマニア向けパニック映画じみてきた。
噂によるとサメ映画って結構多様化してるらしいんだけど、まさか
「っていうか、運に任せてたら船の方が危ないでしょ! 特徴だけ聞いた限りじゃ『眷属』クラスっぽいし、せめて『王』クラスでも来てくれたら——」
「贅沢は言ってられんやろ! ウチかてまだ魔弾はスッカラカンやし、水を得たサメの機動力は目で追えへんしな!」
「この船の大砲も少ないじゃろうし、乗り合わせとる傭兵の助けも必要になるやもしれん!」
リテラの意見には賛成だが、果たして迎撃に動ける傭兵がどれだけいるやら。
金がないと動けないのが大半だろうし。
いかんいかん、また余計なこと考えてるわねあたしったら。
甲板の中央付近まで差し掛かると、乗客の密度が増してきていた。
中には言い争っている傭兵と貴族の姿もある。
「ったくよお。お貴族様ならもっと良い値で雇えってんだ!」
「傭兵崩れが、贅沢を言うな! これでも護衛騎士に与えてる給金の倍はあるんだぞ!」
鋭い切れ味のサメが来そうって時に、金銭トラブルで口喧嘩とは。
どちらも我が身可愛さで主張し合ってるから、あまり関わりたくはないわね。
とりあえず皆を探したいけど、こうもごった返してると何処にいるのか見つけづらい。
「まったく、この非常事態に足引っ張ってる連中って、マジで何なの?」
「
「やばっ、もう来おったでサメども!」
柵越しに海の方を見ていたらしいカノーネさんが、ソードシャークの接近を知らせてくれたみたいだけど……ここからじゃよく見えない。
「えっ、本当に来てるの?」
「ホンマやって! ウチ、これでも視力は良い方やから!」
その細目で視力は良いって、本気で言ってる?
でもカノーネさんの言う事を信じるなら、ソードシャークの到達まであまり時間がないということ。
「あっ、群れから一匹離れてこっちに向かっとる! 速い個体や!」
「なんじゃと!?」
せめてどれぐらい速いのか教えて欲しいんだけど。
そう言い返す間もなく、答えは向こうからやって来た。
目の前の海面が盛り上がり、鋭利な頭を覗かせてすぐに海面から跳び上がる影。
大きさこそ大樽程度だが、その鋭い頭と牙は、まさしくサメであった。
「出たぁーっ!」
「
カノーネさんの叫びを無視して、あたしは反射的に太陽の籠手を顕現する。
右手に太陽の魔力を纏わせて、甲板から跳躍。
「『我流・ライジングアーツ、ライジング・ナックル』!」
対空右アッパーを、船に向けて落下しそうなソードシャークの顎に食らわせた。
吹っ飛んだソードシャークが太陽の魔力を受けて、その身を焼かれながら、魔石を残して消滅する。
「流石の反応や、手慣れとるな!」
甲板に着地すると、カノーネさんが褒めてきた。
「船の上で戦うのは初めてだけどね」
「それ以上に、レヴィンにとっては不利な状況でもあるからのう。必死にもなるわい」
「えっ、そうなんか?」
あ、この空気ヤバそう。
リテラが何かあたしの秘密を暴露してしまいそうな。
「そうなんじゃよ。なにせレヴィンは……泳げないんじゃ!」
あ……あ……。
あいつめ……やりやがった……!
短い付き合いの他人に致命的な弱点をバラしおった……!