太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
昔、徒手空拳で狩りを始めた頃、川魚も素手で獲れるようになりたいと思ったことがあった。
クマでもやれるんだからあたしにも出来るハズだ、なんて見通しの甘い思い付き。
その過信が、結果的にトラウマへと塗り替わった。
川で滑って、溺れたのだ。
いくら手足を振っても流れに逆らえず、父が助けてくれるまで、あたしは結局何もできなかった。
自然とは強敵だと改めて実感し、結果的に鍛錬に熱は入ったが、川で溺れて以降、あたしは魚獲りを辞めた。
リテラに強く止められたから、父に心配をかけたくなかったから、というのもある。
実際は、同じ失敗をするのが怖かったから。
水は綺麗なら飲めるし、身体の汚れを落とせる。
だから水そのものを嫌いにはなれないが、せめて足がつく深さまでは、上手く付き合おう。
あたしなりにそう向き合って結構経つが、環境が環境だったせいか、泳ぐ鍛錬はまるでやれていない。
だからあたしは泳げない、ということであるからして。
「なるほどなー。そうかそうか、泳げへんのかぁ。また可愛ええトコ聞いてもうたなぁ」
リテラからあたしが泳げないことを聞いたカノーネさんの表情は、憐れむでもなく、むしろ双子を見ていた時と似た、悦に浸るようなものだった。
つまり、カノーネさんの母性がムンムン漏れ出ている顔である。
この女は歳下なら誰にでもムラつくのだろうか……厄介すぎる。
「むしろアンタには一番聞かれたくなかったんだけど」
「そうなん? 別にええんよ、しょうもない弱みくらい晒しても。頭撫でたるし」
「ほらね、母性感じたらそういうことしたがる! どんだけ節操ないのよ!?」
「はいはい、そこまでじゃ。ともかくわしらが圧倒的に不利ってことは、わかったじゃろ?」
リテラめ、人の秘密晒しといて……。
いや、コイツのことだから悪気はなかったんだろう。
ただ情報共有させたかっただけなのかもしれないし。
「せやね。鉄砲玉が潰された以上は、あっちも黙っとらんやろうし」
うわぁ、いきなり落ち着くな!
カノーネさんの温度差が激しすぎて風邪ひきそう。
とはいえ、彼女の言う通りだ。
柵から海面を覗いてみると、カノーネさんの言う鉄砲玉のソードシャークが撃破されたことが呼び水になったのか、水面に波しぶきが立ち始め、サメ種特有の背びれがいくつも見え始めてくる。
十……いや、軽く見積もっても二十以上はいるんじゃない?
ふと、何かが撃ち出された音がした。
どうやら定期船の大砲らしく、ソードシャークの大群を狙って発射されるも、当然奴らの機動力には追いつけず、虚しく海の底へ落ちるのみ。
「もう脱出用の船探した方がよくない?」
「その選択肢は最後の最後まで取っておくんじゃ。今は——」
「姉貴ーっ!」
「レヴィンさん!」
背後から馴染みの声が聞こえる。
振り返ると、ニューとミュウくんがそれぞれ銀の杯を持って駆け寄っていた。
「ここにいたんですね」
「ごめん、ふたりとも。ちょっと怪しい奴を見かけてね」
「それより、何があったんだ? みんな結界が消えたとかで騒いでたぞ!」
「ご覧の通りじゃ。ソードシャークっちゅう魔獣の群れに、船が狙われとる」
「今の状況やと戦いにくいって難儀しとったんや」
「詩人の姉ちゃん!」
あたしの隣にいるカノーネさんに今更気付いたらしきニューが、少し驚いた。
「カノーネさんもこの便だったんですね」
「双子ちゃん達と一緒なのは嬉しいんやけど、かっこええトコは見せられそうにないな」
「別に期待してないわよ、そういうのは。それよりふたりとも、ジーク達見なかった?」
「エメルさんとリーネさんならさっき会ったんですけど……」
「ジークとヤーナは船を飛び出したって言ってた」
飛び出した、とは果たしてどういう意味なのか。
「そのうちこっちに……あ、来たぞ!」
その意味はすぐにわかった。
ニューが空高く指差した先に、自らのマキナで飛行するヤーナの杖にぶら下がるジークが見えたからだ。
「マジで飛び出してた!」
「何をする気なんや?」
「まあ見ておれ、カノーネ。こういう状況でこそ、ジークは心強いぞ」
リテラがそう評するほどジークを信頼しているのには、理由がある。
海上というフィールドでこそ、ジークのマキナの真価が発揮されるからだ。
件のジークは既に自分のマキナを顕現させている。
傭兵になってからの新たな力、
そこから彼女は、こちらにも聞こえるほどの声量で、高らかに声を上げる。
「やあやあやあ、我が名はジーク! 肉を求め彷徨いしサメの魔獣よ! これ以上その刃を、その牙を、船に向けさせるわけにはいかん! 我が一閃を以てその凶行、止めさせてもらうぞ!」
ジークが決まってこんな口上を大声量で述べる理由は、ただひとつ。
自らがヘイト役となって、定期船からソードシャークの群れを離すためだ。
ついでにジークも、ヤーナの『シュツルムウォーダン』から右手を離して、自由落下を始めた。
「えっ、群れん中に飛び込むんか!?」
驚くカノーネさんをよそに、落下中のジークが右手で柄を握る。
ジークの周囲に、魔力の高まりを感じた。
「『シグルド流抜剣術、
そう唱えたジークが、『セツカ』の刃を抜き放つ。
冷気一閃。
そう呼べるほどの冷気の刃が、海面に到達した瞬間。
ソードシャークの目の前が、
一部の海面を凍結させて、ソードシャークの動きを止めたのだ。
「よし!」
おまけにひと仕事終えた風のジークが、海面に立っている。
凍らせた海水の一部を足場にして。
「おおっ、氷属性のマキナやったんか! そら心強いわな!」
「あやつの持つ『セツカ』の
実況カノーネさんと解説リテラがちょっとうるさくて気が散る。
確かに相性は良いのかもしれないが、気になるのはジークの魔力燃費だ。
ジークってばほぼ感覚派の天才だから、気付けば空腹で魔力切れなんてパターンはよくあった。
今この辺りにいるソードシャークは『眷属』なので、数を減らせば『王』クラスが釣れる可能性がある。
それまでジークの魔力が残っていれば、どうにか定期船を死守できるだろう。
そこまで彼女が魔力を残せたらの話にはなるが。
とりあえず魔力が続く限り、あたし達がいる右サイドはジークの対処で事足りる。
そう思って空を見上げると、ヤーナは既に左サイドまで飛んでいた。
どうやら、ふたりで左舷右舷それぞれを担当するという話が既についていたのだろう。
素晴らしい役割分担。でもこれふたりだけで大丈夫だろうか?
あたしが余計な考えを巡らせている間に、ヤーナは既に攻撃を始めている。
「『ハリケーン・
波が立ち、海水が渦巻く。
相手の有利なフィールドごと巻き込むのは、ヤーナの得意技。
渦巻く海水が浮き上がり、ソードシャークを十数体巻き込んだ小規模な
無論ソードシャークは荒ぶる台風に耐え切れず霧散。
一匹も飛び出さず片付けるとは、中々の手際だ。
右舷のジークも、左舷のヤーナも、ソードシャークの数を着実に減らしている。
それなのに、あたしときたら。
単に足場が揺れているだけで、泳げないだけで。
こんなにも、足手纏いになってしまうのか。
「もうジークはんとヤーナはんだけでええんとちゃう?」
「いや、まだ本命の『王』クラスが来ておらん。そう結論付けるのは早計じゃ」
リテラの言葉であたしはハッとなった。
そうよ、まだ『王』が来てないじゃない。
泳げなくても、『王』に一発ぶち込めるチャンスがあればいいのよ。
安定した海上戦なんて今は考えるな。
今は力を蓄えて——。
「うわっ、なにこの揺れ!?」
その時、船体の揺れがぐわんと大きくなったのを感じて、あたしは咄嗟にしゃがむ。
まるで嵐のような波に翻弄されているような、そんな感覚があった。
「姉貴、気を付けて! デカいのが来る!」
あたしと同じくミュウと一緒にしゃがみ込んでいたニューからの、おそらくは予知の声。
まもなくここに、巨大な何かがやって来る。
「えっ? デカいのが来るってどういうことなん!?」
「ニューの勘って大体当たるのよ!」
「見てください! 海面が大きく盛り上がってます!」
ミュウくんでも目視できるほどに、海面が広く盛り上がっているのが見えた。
そして姿を現したのは。
定期船の全長を軽々と凌駕する、灰色の巨躯。
それに魔獣特有の瘴気が纏わりついていた。
「何よアレ……デカ過ぎでしょ」
「ウチも初めて見たわ……アレがソードシャークの『王』なんか……!」
「そうじゃ、コイツが超巨大ソードシャーク……『メガロソードン』!」
メガロドンじゃないのか、とツッコむ気力すら起きない。
それだけの絶望感が、アイツにはあった。