太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
メガロドンとは、古代の地球に生息していたという巨大なサメである。
海洋生物史上最大級の捕食者とされ、海洋系パニック映画にもよく出るほどに存在感があるヤツだ。
全長は種類によってハッキリしないが、十五メートルを超えるクジラ並みの個体もいるらしい。
俗説によると、海水温度の低下に伴って絶滅したとか。
いつだったかそういう知識を、前世のテレビ番組か何かで刷り込まれた覚えがある。
でも画面越しに見るのと、実際目の当たりにするのは違う。
これが海の捕食者、その究極体。
コイツに定期船を喰われたら、一巻の終わりだ。
そう思えてしまうほどの、巨体故の威圧感。
メガロソードンのその威容は、魔獣というより怪獣に近かった。
「す、すげぇ……」
圧巻といった表情でメガロソードンを見るニュー。
それ以外の言葉が見つからないとでも言いたげだ。
「もしかしたら、この船よりも大きいんじゃ……」
ミュウくんがそんな憶測を述べたところで、メガロソードンの巨体が再び海へ沈み、荒波を生み出した。
質量の暴力とでも呼ぶべき波が、定期船全体を揺らしていく。
「うわあっ!」
「ふたりとも、柵にしっかり掴まっとき! 振り落とされんなや!」
「はっ……はいっ!」
船の揺らぎであたしを含めた誰も彼もが掴めるものにすがりつく中で、カノーネさんがいの一番に双子を心配して声を掛けた。
「それにしても悔しいわ。魔弾が一発でも手元にあったら、弱点ブチ抜いて終わらせたるんやけどな」
「出来ればあたしもやってるわよ!」
「サメの弱点といえば目やエラ、神経が集中する鼻先と色々あるが……狙って突ける箇所でもないしのう。やはりジークの手を借りて動きを止めるのが定石じゃろうな」
果たしてそうできるほどジークの魔力が残されているのかは微妙だが、リテラの言うような定石を実行した方が現実的だろう。
こういう時マジで頼りになるわね氷属性って。
「現れたな、海の王!」
「優先して片付けますわよ!」
「心得た!」
噂をすれば、『眷属』のソードシャークを粗方片付けたらしいジークとヤーナが、メガロソードンに狙いを定めるため動いていた。
ヤーナが方向転換して飛ぶ一方で、ジークは海を凍らせつつ、まるでスケートで滑るように移動している。
このまま奴はふたりに任せるべきだろうか。
あたしがそう考えていた時だった。
「パパァーッ! たすけてぇーッ!」
「グレタ! 今そっちに行くからな!」
助けを求める少女の悲鳴と、助けようともがく男性の声が耳に届く。
声のする方を見ると、巻き髪の少女が柵に掴まってぶら下がっている。
おそらく船が揺れた時にバランスを崩して、放り出されそうになったところを、柵を掴んで耐えているのだろう。
しかしそれも時間の問題だろう。子供の腕力はそこまで強くない。
「まずい……!」
そう口に出した瞬間、あたしの身体は反射的に動く。
船の上だからとか、海の上だからとか、そんな不安要素を忘れてしまうほどに、脚は既に甲板を蹴っていた。
「アカン! ウチも行きたいけど危険や!」
カノーネさんにも少女の悲鳴は聞こえていたようで、あたしを呼び止めようとするが、気にするな。
揺れる船を駆けようと思うな、動く足場と思え。
柵の上端を踏みにじるように蹴って、跳躍による最短距離で、グレタと呼ばれた少女の危機には間に合った。
揺れる甲板の上で屈んで、必死に柵を掴んでいるグレタちゃんに手を伸ばす。
「掴んで! 早く!」
大丈夫だ。足場は揺れていても、あたしなら手を掴めば一気に引き上げられる。
小さな掌の感触が、伸ばした右手に伝わった。
「よしっ!」
腕相撲の時のように全身の筋力で、グレタちゃんを引っ張り上げる。
鍛えていたおかげで、子供が海に投げ出される悲劇は回避できた。
「ふぅ……無事でよかった」
「ありがとう、おねえちゃん! すっごいちからもちなのね!」
助け出せたグレタちゃんは、さっきまで海に落ちそうで怖がっていたのが嘘のように眼をキラキラさせている。
うーん、どこか既視感のあるこの眼差し。
「グレタ! あぁ良かった、無事で……」
「パパ!」
グレタちゃんのパパらしきおじさんが、船の揺れにふらつきながらこちらに来る。
「どこの貴族様か存じ上げませんけど、この辺りは危険です。娘さんと一緒に船の中へ避難してください」
あたしはグレタちゃんの背中を軽く押してあげて、父親の方向に誘導させた。
彼女が無事に父親の傍に戻れて何よりだ。
「こちらこそ、どなたか存じませんが、ありがとう。さあグレタ、そこのお姉さんの言う通り、避難しようね」
「わかった、パパ! おねえちゃんまたねー!」
控えめに手を振って、グレタちゃんとその父親を見送る。
なんだか父親の方は少し怖がってたように見えたけど、娘の前だから見栄を張ってたのかな。
あたしもまだまだ、蛮族イメージが抜けてないのかもしれない。
そんな感じで気を抜いたのがいけなかったのだろうか。
「姉貴、後ろーッ!」
ニューの声に気付くのが、少し遅れた。
振り返った瞬間、鋭い歯を並べた口が視界に入る。
ええい、忌々しい。
あたしは前世から人助けすると事故る呪いにでも掛かっているのか?
それでも、今は違う。
格闘ゲームで鍛えたあたしの反射神経に、器たる筋肉が追いついていれば。
多少反応が遅れても、対処は可能だ。
牙の列が距離を徐々に縮めていく。
揺れていても、しっかり足場は踏めている。
ならば出せるハズだ、この技が。
「『我流・ライジングアーツ』——」
落ち着いて、右の拳に魔力を集めるイメージ。
この魔力を、突きで飛ばす!
「『ソル・ブラスト』ッ!」
拳を正拳突きの要領で、ソードシャークの口めがけて突き出す。
陽光色の魔力が拳から放たれ、奴の喉奥まですぐ届いた。
まるで
「ア゛ッ——!」
ソードシャークのそんなうめき声が聞こえてすぐに、その凶器のような体が瞬く間に爆ぜる。
陽光色に燃えて、塵となるように。
甲板に落ちた小粒の魔石が、ソードシャークを一匹倒したことを物語っていた。
「まさか、当たるなんてね……」
予想外のクリーンヒットに、思わず言葉が漏れる。
そもそもさっきの『ソル・ブラスト』は、あたし自身の技量の問題で封印していた、愛しの格ゲー『ライジングナックル』シリーズにおける、主人公レントの必殺技のひとつだ。
設定上は強敵を倒すために編み出した、気弾を飛ばす技となっており、シリーズ三作目から『サンライト・ウェイブ』に変わる飛び道具技として世に出た形になる。
その技が出てきた影響で、これまでは中の下くらいだったキャラランクが最強クラスにまで上がり、プレイヤー達を震撼させたのだが……今の状況とは関係ない話なので置いておこう。
とにかくあたしは父から『ソルマドラ』を受け継いでしばらく、鍛錬で『ソル・ブラスト』の再現を試みていたのだが、拳に魔力を溜めて正拳突きで撃ち出すという基本は出来ていても、まるでターゲットに当たらないという事態が多発したため、他の技を再現する方向性にシフトする形となり、お蔵入りとなった。
咄嗟にこっちを繰り出したのにも、『サンライト・ウェイブ』だと甲板を壊す危険性があったというちゃんとした理由があるので、そういうことにしておこう。
「至近距離で超反応じゃ。当たったのは時の運と思った方がええじゃろ」
辺りを見回しながら、リテラがこちらに飛んでくる。
「じゃが、よくやった! 流石はわしの見込んだ救世主じゃ!」
「……はいはい」
もうコイツに褒められるのも何度目だろうと呆れていると、ニューが喜び勇んで駆け寄ってきた。
遅れてミュウくんと、その後ろからカノーネさんもやって来ている。
「姉貴すっげぇ! やたら速いパンチだった!」
「これで船上の戦いも、なんとかなるんじゃないですか?」
「魔力飛ばす技自体はそこまで珍しくもないけど、速度がほぼ弾丸やったんちゃうか!?」
「弾丸は言い過ぎ」
そんなあたしを褒めちぎるいつものやり取りがあって……いや、カノーネさんが加わってる時点でいつものじゃないか。
ふわりとした風と共に、ヤーナが甲板に降りてきた。
なぜか手ぶらのジークも一緒である。
「何か良いことがあったとお見受けしますが、まだ安心するのは早いですわよ」
「誰か……私に食べるものを恵んではくれないか」
「えっ、ジークまさか……もう魔力切れ!?」
まあジークだし、魔力効率を一切考えないで戦っていればこうなるのはわかってたけども。
想定以上に魔力をぶっ放していたらしい。
そりゃ空腹になるのも早いわけだ。
「いかにジークのマキナが氷属性の『セツカ』といえども、あの巨体の動きを封じるには至らず……アタクシとしたことが、読みが甘かったという他ありませんわ」
だから甲板に降りてきた、と。
なるほど、『メガロソードン』にはそれだけの巨体に見合うパワーがあるってことなのね。
頼みの綱が駄目となると、どうすれば確実に致命傷を与えられるのだろう。
「そういうことで、別のプランを組み立てたのですけど……レヴィンさん」
「うっ……また貧乏クジの予感」
「心配せずとも囮にはしませんわよ」
ヤーナの嘘つき。
どうせ囮じゃなくてもあたしの負担がデカい作戦なんでしょ。
「ただあの『メガロソードン』に、丸呑みされていただくだけですので」
「チクショーッ!!」
こうしてあたしは、サメ映画における被害者のような立ち位置を得たのであった。