太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百十八話 「ガトリング・ブラスト」

 どうやら定期船の近辺をぐるぐる周っているらしい『メガロソードン』は、鋭い頭部と鋭い牙を併せ持つ、ソードシャークの上位互換といえる魔獣の『王』だ。

 体躯は優に三十メートルくらいはあるんじゃないかってぐらい。

 

 その巨躯による哨戒行動は波のうねりを生み、今も定期船の船体を揺らしている。

 凍結でも抑えられない質量を相手にしようと企てる、ヤーナの案はこうだ。

 

「口の中からの内部破壊……ですか」

 

 一見不可能とも思える案を、ミュウくんは納得したように復唱する。

 

「ええ。質量が影響して外的要因で止めることが出来ないのなら、内から爆発させてしまえ、というわけですわ」

「な、なんかやり方がエグいんじゃないか?」

「けど、こうでもせんと倒せへんなら、ウチはやるべきやと思うで」

 

 ニューがちょっと狼狽えたけど、珍しくカノーネさんと意見が合ったんじゃないかとあたしは思う。

 要するにこれは、一寸法師作戦だからだ。

 

 前世で一寸法師の話は聞いたことがある。

 一寸法師は三センチほどの超小柄な武士で、鬼に丸呑みされた際、胃壁に針を刺して鬼を倒したという、おそらくは日本限定で一番有名な巨体崩し(ジャイアント・キリング)の御伽噺。

 

 あの巨体で『眷属』のソードシャークとほぼ変わらないすばしっこさだ。

 文字通り肉を切らせて骨を断つくらいでなければ倒せないのかもしれない。

 

「これしか方法がないならやってやるけど、魔獣の口の中に入っちゃって、あたしの身体が唾液で溶けちゃわないか不安になるわね」

「そこは心配せんでも、『ソルマドラ』が蒸発してくれるハズじゃから安心せい」

 

 リテラのやつ、他人事だと思って……。

 後で定期船のバスタブ借りられないか誰かに聞いてみよう。

 

「うむ、どれだけヨダレが汚くとも、どうせ魔獣を倒せば身体は魔石を残して爆ぜるのだ。丸呑みされても脱出は容易と思ってくれていい」

 

 いつの間にかビスケットっぽいお菓子をかじりながら、ジークが経験則っぽいことを語っていた。

 多分カノーネさんかヤーナから貰った非常食なのかもしれない。

 

「さて、いつこの船が喰われるかもわかりませんし……頼みますわよ、レヴィンさん」

 

 ヤーナが急にマジな低めのトーンで頼ってきた。

 そりゃあマジにもなるわよね、エメルやリーネがまだ船の中にいるんだし。

 

「……そんなマジな感じで頼られると、断れないじゃない」

「これも交渉術の一環、ですわよ。まずは奴を船から離しますわ。それまでキッチリ掴まっていてくださいな」

「上等っ」

 

 差し出されたヤーナの手を、握手するレベルの握力で掴む。

 ちょっとだけ無茶な『メガロソードン』撃破作戦が始まった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ヤーナが『シュツルムウォーダン』の飛行能力で浮き上がり、ヤーナの手を握っているあたしの脚は甲板を離れる。

 数秒のうちに高度は定期船のマストを軽く超え、周辺がある程度見渡せるほどには高くなっていた。

 

 よく定期船の近くを見てみると、乗っていた傭兵たちが少なからずソードシャークに応戦している様子が見える。

 どこで金が動いたかは知らないが、定期船の方はあいつらに任せておいてもいいかもしれない。

 しかし、それよりも重要なことがある。

 

「アイツ……また潜ったわね」

 

 さっきまで舌なめずりしていたかのように辺りを巡回していた『メガロソードン』の姿がない。

 卑怯よね、この手の海洋生物って。

 

「ですが奴の生態がアタクシの予想通りなら、また海面から顔を出すハズですわ」

「そういうもんなの?」

「サメもアタクシ達人間と同じく、視覚に頼って獲物を狩る。海面から顔を出すのは、獲物をクリアな視界で見つけ出すための、いわば習性のようなもの。そんな奴を誘き出すには、見つけてもらうことが大切ですわ」

 

 ガクン、という感覚と共に、ヤーナがゆっくりと高度を下げていく。

 

「だからって海面スレスレを飛ぶのはちょっと危険じゃない?」

「あれだけの大きさならば、奴のテリトリーは自ずと海面付近に限定されますわ。ソードシャークのように跳ねられるだけの体幹は持ち合わせていないと見るべきでしょう」

 

 確かに『王』と『眷属』でサイズが違いすぎるから、その分析は間違っていないのだろう。

 

 高度は更に下がっていき、あたしの靴底を波がかすめた。

 先に靴を脱ぐべきだったかな、なんて考えていたら、来(・)た(・)。

 

 海面に巨大な影が現れて、こちらに向けて反転していく。

 まるで餌を追いかける魚の如く。

 何らかの感覚であたしを捉えたに違いない。

 

「視覚でなくとも、こちらに気づけるようですわね。少しだけ飛ばしますわよ!」

 

 作戦第一段階、『メガロソードン』を引きつけて、定期船から距離を取る。

 ヤーナが少し速度を上げて、奴と一定の距離を保ちつつ逃げているのが現状だが、海面から出た背びれが少し怖い。

 あたしはサメ映画のキャストになったつもりはないってのに。

 

「ねえ、まだなの!?」

「もう少し……鋭い頭が海面に少し出るくらいのタイミングで……」

 

 辛抱しなさいってことね。

 この一瞬を逃せば、標的を切り替えてしまうかもしれないから。

 

「まだですわよ……まだ……今ッ!」

 

 ヤーナが高度を急激に上げる。

 奴の頭が海面にちらりと映った瞬間だった。

 

 大波をかき分けるように、剣のような鋭い頭が振り上げられ、あたしの足元ギリギリをかすめていく。

 それは、『メガロソードン』が大口を開いた動作に他ならない。

 哺乳類共通の弱点を晒す形で、巨大な頭が海面より現れた。

 

「後は頼みましたわ!」

 

 今以上のチャンスはないとばかりに、あたしの手を握る力が抜けるのを感じた。

 ヤーナが手を離したのだ。

 

 当然あたしの身体は自由落下し、『メガロソードン』の口内めがけて一直線。

 託し方が雑じゃないかと思わなくもないが、このチャンスは活かさなければ。

 

「解放(リリース)、『ソルマドラ・オリジン』!」

 

 奴が口を閉じた時に牙が迫った時の保険として、太陽鎧を全開放。

 一本の大きさが大木ほどの牙並みをすり抜けて、顎が閉じられる。

 

 あたしは『メガロソードン』に食べられた。

 とはいえ、胃袋まで到達するわけにはいかない。

 太陽の光が遮られた空間で、牙の根っこの方につかまる。

 

 やがて『メガロソードン』はまた潜ったのか、外の音がくぐもった水のうねりに変わり、あたしの身体は重力に従って歯茎の傍に倒れた。

 

 さて、あまり時間はない。起き上がり、落ち着いて辺りを見回す。

 あまり来たくなかったが、間違いなく『メガロソードン』の口の中、という感じのグロテスクな空間。

 薄暗いこの場で、何かに憑かれたような寒気が、辺りを支配していた。

 

「コイツ……今まで何を食ってきたの?」

 

 魔獣の生態には謎が多いと知ってはいたのだが、実際に懐に入ってみると、古びた井戸の底を覗き込んでいる気分になる。

 生臭さと潮の香りが不気味に交わる中で、あたしは息を整えた。

 

 落ち着け。こんなところ、ア(・)イ(・)ツ(・)やあ(・)の(・)時(・)に比べれば——。

 そうやって気持ちを切り替えようとした時だった。

 

《……シネ……》

「えっ……?」

 

 何か声が聞こえたような、そんな錯覚があった。

 まるで幽霊屋敷の時のような、この世のものとは思えないトーンだったような。

 

 待って待って待って。

 魔獣のクセにこれはちょっと姑息すぎる。

 

《コロシテヤル……!》

《アナタガワルイノヨ……!》

《ウラギッタノカ……!》

 

 薄暗い喉の奥から段々鮮明に聞こえてくるのは、殺意のような、ドス黒いマイナス感情の波。

 まるで恨み言のように、あたしの脳内に響いてくる。

 誰に向けたものかは知らないが、あたしにぶつけてもしょうがないでしょ。

 

「……惑わされるな」

 

 己にそう言い聞かせて、両手で頬を叩く。

 流石に思い切りやったら少し痛い。

 

 でも、呪言の類は気にならなくなった。

 これで大技の詠唱に集中できる。

 先程ソードシャークに繰り出した、あの技の上位互換となる大技を。

 

「『燃え上がれ、燃え上がれ、燃え上がれ。撃ち出すは陽の連弾。暗闇めがけて光で穿つ、無数の拳!』」

 

 両の拳を、気を高めるように後ろ手に引いて構え、詠唱、拳に魔力付与、イメージ。

 これが『ソル・ブラスト』に『サウザンド・ショット』の技術を組み合わせた、機関銃のように太陽の魔力を撃ち続ける、『ライジングアーツ』奥義のひとつ。

 

「『我流・ライジングアーツ奥義! ガトリング・ブラスト』!」

 

 喉奥の闇に向けて、正拳突きの連打。

 その動作に合わせて、拳の形をした陽光色の炎が複数飛んでいく。

 

「ダララララララララララァッ!」

 

 十、二十、四十、八十。

 撃ち込む数を徐々に増やし続け、それを本体が消滅するまでやり込んでいく。

 

「ァ——!」

 

 呪言に覆いかぶさるかのような、言葉にならない慟哭を聞いたのは、拳の弾丸を喉奥に撃ち込んだ数が千を超えた頃だった。

 漆黒の闇が広がっていた喉の奥が炎上して明るくなり、足場が地震でも起きたかのように震えている。

 

 おそらくこれは内部攻撃のダメージによる痙攣(けいれん)だ。

 遅かれ早かれ、『メガロソードン』の肉体は消滅するだろう。

 

「ハァ……ハァ……一寸法師に中から焼かれて、無事でいられるわけないわよね」

 

 実際一寸法師が使用した武器は針だが、そこまで気にすることもない。

 それよりも、何か大切なことを忘れている気がする。

 

 ——どうせ魔獣を倒せば身体は魔石を残して爆ぜるのだ。

 

 作戦前にジークが何気なく言っていたことが脳裏を過った。

 確かに魔獣は倒せば消滅するが、今あたしが居るのは巨大サメ魔獣の口の中。

 その本体が海中に潜っていれば当然、あたしを襲ってくるのは。

 

「やばっ、海水!」

 

 無事でいられないのはこちらも同じ。

 『メガロソードン』の肉体消滅に合わせて、浸水する船のような勢いで海水が襲ってきた。

 

 咄嗟に両手で鼻と口を塞いで、息を止める。

 あたしの身体は海流に押し出された。

 

 既に全開状態の『ソルマドラ』は魔力を使い切って封印(シール)済み、筋肉疲労、おまけに泳げるほどの体力が残っていない。

 あたしは元々泳げないから関係ないわけだが、かなりマズイ状況ではある。

 意識も途切れそうだ。

 

 このままだと無事に定期船まで戻れないかもしれない。

 ああ、でも……。

 エメルが……リーネが……皆が……無事なら……それで……。

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