太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
突然の地の文切り替えにご注意ください。
『森の王』がレヴィン達に倒された光景を、遠くから眺める者がひとり。
「かの伝説のメイルドラゴンを参考に創り上げた実験作であったが、散ったか。吾輩はもう少し使えると思っていたのだがな」
そう呟く男は全身に黒いフード付きのローブを纏っており、顔は見えない。
「いいところまでイッたのに、残念だったわネ。ドクトル」
そこへ彼と同じローブを纏った女が背後から現れる。
「ダリアか。何をしに来た?」
ドクトルと呼ばれた男が不機嫌そうな声で問う。
「別ニ。ただ通りすがったから、アナタの実験体……名前なんだったかしラ?」
「『メイルコング』だ」
「そう、そのメイルコングの様子を見に来たんだけド、まさかあの子が倒しちゃうなんてネ」
「顔見知りか?」
「ええ、この間成人したばっかりの『救世主』ヨ。私を殴るくらい、根性のある子」
「そうか、あの娘が……吾輩たちの驚異になるのか。実に惜しいな」
ドクトルは少し考え込むような仕草をする。
「彼女が『救世主』でなければ、あの健康的で肉付きのいい肢体を、吾輩の実験材料として使えたであろうに」
それを聞いたダリアは思わず吹き出す。
「ふフッ! さすが変態ねェ、アナタ。『陛下』にも引かれるだけあるワ」
「『陛下』はわかっておらんのだ。芸術品の奥深さが」
「ハイハイ。わかったから行くわヨ。次は何を作るノ?」
「メイルコングの失敗を糧にして、もっと完成度の高いモノを作りたい。今度はより人間に近くなるような……まぁ期待して待て」
「期待しないで待っててあげるワ」
ダリアがクスリと笑うと、ふたりの姿は一瞬にしてその場から消え去った。
※※※
ルイン村の拠点に戻った頃には日が暮れていた。皆疲れ切っており、特にジークさんは今にも食べ物を見ると飛びつきそうなほど飢えていた。
ひとまずジークさんをベッドに寝かせて、あたしも休もう。
「レヴィンちゃん、何か食べたいものあるッスか? 『王』を一体討伐できたことでスし、今夜はパーッと祝杯しようかと思うんス」
「お気遣いありがとう。そうねぇ……」
「肉がいい、肉!」
「おっ、ニューちゃんは元気あり余ってるッスねえ」
「じゃあ、あたしも肉で」
運動後にタンパク質を摂取すれば筋肉も喜ぶ、というのもあるが、単純に肉が食べたかったのだ。
「ウチも肉が食べたかったし、多数決で肉ッスね。了解ッス! じゃあサンズ、マグ、バング。手分けして買い出しに行くッスよ!」
ノルンさんが隊員と共に買い出しへ出て行く。ちなみに呼ばれたのは部下の小隊員三名の名前である。
部屋にはあたしとリテラに双子、ベッドに寝かせてあるジークさんだけが残った。
「そういえばこの卵、どうすんだ?」
ニューがテーブルに置いてある、討伐作戦の間置いてけぼりだったメイルドラゴンらしき卵を軽くつつく。
「遺跡から持ってきたままでしたね……明日、返しに戻りましょうか?」
「いや、戻ったところで遺跡はボロボロじゃぞ。祭壇も壊れたに決まっておるし、おそらくはこれを産んだ親もそれを望まんじゃろう」
リテラはまるでメイルドラゴンを見てきたかのように語る。
「あの遺跡でひと通り壁画を見て、真相を知った。これを産んだメイルドラゴンの親は、自分の子と自分を信じてくれた集落の人々のために、戦ったのじゃ」
「誰と?」
「メイルドラゴンの噂を聞きつけ、利用しようと企んだ、集落の外の悪い人間じゃ」
遺跡の壁画によれば、メイルドラゴンは自らの鱗を人間に与え、友好の証としたという。
もしその鱗が集落を防衛する武器の材料としてではなく、戦争で敵を蹂躙する武器の材料として使われたのだとしたら――。
「メイルドラゴンは、昔の戦争の被害者だったんですね……ならこの子の親は、もう……」
「おそらくは、な……どうやって倒されたのかは一部の壁画が欠けていて把握できなかったんじゃが、きっと勇敢に戦って逝ったのじゃろう」
リテラの表情には影が落ちていた。おそらくは創造神として自分が生み出した命のひとつであったのだろう。
「何やら湿っぽい話をしているように聞こえたが、飯はまだか?」
と、そこへ身体を起こしていたジークさんの声。
「こういう時、能天気なあんたが羨ましいわね」
「何を言って……おっ、良い感じのゆで卵ではないか!」
えっ、ちょっと待って。メイルドラゴンの卵を見て言ってる?
これはまずい。多分ジークさんは空腹の人特有の幻覚を見ているんだ。卵なのは合ってるけど、食べちゃいけない卵だよ!?
「待って待って待って! ノルンさんたちが買い出しに行ってるから、帰るまで待って! お願い!」
「さっきから腹が減って仕方ないのだ。ちょっとぐらい良いではないか!」
「そんな『先っちょだけ』みたいに懇願しないでってば! ミュウ君、卵を守って!」
「は、はい!」
ジークさんを抑えつつミュウ君に指示を出す。
ミュウ君が卵を抱えた、その時だった。
ヒビが入るような音を、この耳で確かに聞いた。
「えっ、まさか……」
「生まれる!?」
双子が目を輝かせる。
次の瞬間、卵の殻がどんどん割れていき、そして――。
「ぐらぁぅ」
白銀色の小さな命、メイルドラゴンの子が、卵から孵った。
「新たな生命の誕生じゃあ!」
「やったー!!」
ニューが飛び上がって喜ぶ。あたしとミュウ君は唖然とし、ジークさんはというと、
「た、卵から……黄身が! 生まれた!!」
まだ幻を見ていたらしい。いや、黄身が生まれたって何よ。
「あて身」
「おうっ」
気を取り直してジークさんを気絶させて再びベッドに寝かせる。間違えて赤ちゃんを食べるという悲劇は回避できた。
さて、さっき生まれた子はというと、ミュウ君に随分懐いているようだ。
「えっと……どうしましょう?」
「子は生まれて初めて見るものを親と認識してしまう習性があるからのう。ミュウ、そやつに見られ、懐かれてしまったからには、お主が面倒を見るんじゃ」
「やっぱり、そうなりますか……」
「そう難しい顔をするでない。お主が愛を以て接すれば、この子もそれに答えてくれる」
「愛、ですか……わかりました」
ミュウ君がメイルドラゴンの子を抱き上げると、その子は嬉しそうに尻尾を振っていた。
「さっそく名前つけよう! あっしはわかりやすいのがいいなー。シロとかギンとか」
「それはいくらなんでも安直でしょ。あたしならもうちょっと捻るわよ。ヴァイスとズィルバーのどっちがいいかな?」
「いや、それは流石にカッコ良すぎじゃな。ここはわしに任せよ! 何を隠そう、レヴィンの名付け親はこのわしじゃからな!」
「さらっと嘘つくんじゃないわよ!」
命名会議が白熱する中で、ミュウ君は少し考えるような仕草を見せながらも、ゆっくりと口を開いた。
「グラウ」
「へ?」
「この子の名前、『グラウ』にします。ほら、そんな感じで鳴いてますし」
「ぐらぁぅ」
ミュウ君にしては直感的だが、なるほど確かにグラウって感じだ。鳴き声以外に根拠はないけど。
「お、気に入ったみたいだ。あっしも呼びやすいし、それでいいか! よろしくなグラウ~」
「グラウ……古代の叙情詩にもある『希望』を意味する言葉じゃな。偶然じゃろうが、良き名じゃ。グラウ、新しいパパと仲良くやるんじゃぞ」
リテラがグラウの頭を撫でようと手を差し伸べると、
「ぐらっ」
「あっ」
食べ物かと思ったのか、グラウがリテラの手に噛み付いた。
「いだだだだだだっ! 可愛いやつじゃがわしは肉ではないぞー!」
「こら、駄目だってグラウ! 口開けて!」
「あぁもう! 繊細なことさせるんじゃないわよ!」
「アハハハ! リテラの手がちょうど入っちゃったな!」
「ただいま戻ったッスー……って、なんなんスかこの騒ぎ?」
ノルンさんたちが帰った後も、賑やかな夜は続いた。
※※※
祝勝の宴を経ての翌日。
元々王都を目指していたあたしたちは、『森の王』討伐を村中に感謝されたジークリンデ小隊の馬車に同乗させてもらえることになった。
徒歩で王都へ向かうのも若干キツくなってきたところだし、何よりミュウ君が途中でバテずに済む。
「渡りに船とはこのことじゃな。何から何まで助かる」
「こちらとてキミたちのおかげで助かったのだ。騎士として礼儀を尽くすのは当然! はっはっはっ!」
「調子いいッスね隊長……」
相変わらず豪快な笑い声を上げるジークさんの後ろでは、ノルン副隊長が苦笑している。
この人、昨夜あれだけ大食いしておいて胃もたれひとつしていないのだから恐れ入った。
「ま、助けられたのは事実ッスから、王都に戻ったら感謝の印を期待してて欲しいッス」
「感謝の印って肉か? 肉がいっぱいか!?」
「ニュー、肉は昨夜存分に食べたよね?」
「ぐらぁぅ」
昨日生まれたメイルドラゴンの赤ちゃん・グラウを頭に乗せたミュウ君は、早くもお母さんのような貫禄を漂わせている。男の子なのに。
「感謝の印、ねぇ。できればお金がいいんだけど」
「なんじゃい、夢がないのうレヴィン」
「そういうのじゃなくて、一文無しなのよ、あたしは。集落に居た頃は物々交換で取引してたから」
「そうじゃったな。すっかり忘れておった」
「まとまった金がないと、傭兵としてやっていけないしね」
「そうじゃな……いや待て。今、傭兵としてやっていくと申したか?」
リテラが嬉しそうな顔をこちらに向けてくる。いや、距離が近いな?
「あたし、考えたのよ。ニューとミュウ君を王都に送った後のことを。ダリアを殴るって目的のためには、『森の王』みたいな『王』クラスの魔獣と戦っていくのが一応の近道。でも、『森の王』の時は皆に助けられて勝ちを拾っただけだから、あたし個人の実力はまだまだ」
「ふむ」
「だからこそ、パパと同じように傭兵になって、実戦経験を積まなきゃって思ったの。いずれはひとりで『王』クラスを倒せるようになりたい。そのための拠点、そのためのお金ってわけ」
「……果たしてそう都合よくいくものかのう?」
「もし金じゃなくても、何とかするわよ。パパもそうしてただろうし」
「立派じゃのう……前世が病人とは思えぬその心構え。お主を救世主として選んで正解じゃった」
リテラがしみじみと呟く。
「いや、ホントそういうのいいから。あたしはアイツ殴りたいだけで、別に世界を救うとかそういうのに興味は――」
「みなまで言うな。最強の傭兵になって世界を救おうぞ。出来る限りアドバイスはする」
「おい、話を聞きなさいってば。勝手にアンタの都合押し付けるんじゃないわよ! アドバイスはありがたいけど!」
まったく、本当に何なのだろうこの神(分体)は。
地球のサブカル被れだったり、かと思えばあたしに随分入れ込んでいたり。
ただ、行動や言動の節々に悪気が全くないので、憎めないというか。
「おーい、そろそろ出発するッスよー!」
ノルンさんが手綱を握って呼んでいる。
あたしたちは馬車に乗り込んだ。
「王都って何があるんだろうな?」
「まず食べ物が美味い!」
「ジークさん、それはもう散々聞きました……」
「行ってからのお楽しみッスよ。しゅっぱーつ!」
ルイン村から馬車が出る。王国騎士団のいち小隊、四人と一匹の功労者を乗せて。
あたしの過酷な異世界人生の第二幕が、もうすぐ開演しようとしていた。