太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
第十六話 「王都、城塞魔法都市『グナーデン』だ」
夢を見た。
今は遠き、前世で病室にお見舞いに来た母親の夢を。
父も母も、あたしの名前すら忘れた病を治そうと、必死で働いてお金を稼いでいた。
なのでお見舞いに来られるのは週に一回が限度。その貴重な機会のひとつひとつが、あたしの大切な思い出。
ある時、ふと気になって母に疑問をぶつけたことがあった。
「ねえ、ママ。どうしてあたしの名前は『
この身体はいつ枯れてもおかしくないのに、と言葉を続けるのをぐっと堪える。すると母は、
「太陽を浴びてすくすくと育って欲しかったからよ」
そう答えた。そして少しだけ遠い目をして、懐かしむように語り出す。
「あなたを産んだ時、あなたのお兄ちゃんがね。『お日さまみたいに輝いて見えた』ってあなたを例えたことがあったの。それで思いついたのよ」
「お日さま……」
「知ってる? ヒマワリは英語でサンフラワー……『太陽の花』っていうのよ。だから忘れないで。あなたは私にとっての太陽だってこと」
母の目には、涙が浮かんでいた。
情けない。
あたしが太陽ならば、なぜ病院のベッドで安静にしていなければならないのか。
なぜ今、母を笑顔にしてやれないのか。
悔しくて悔しくて仕方なかった。
そんなあたしでも今は。
誰かの『太陽』に、なれているのだろうか――?
※※※
揺れている馬車の中で、目が覚めた。
懐かしい夢を見ていた気がする。よく覚えていないが、陽光のように暖かい夢だったような。
「随分夢心地だったようじゃな」
そんなあたしを、リテラはずっと見ていたようだった。ニヤニヤしながら声をかけてくる。
「あんたのムカつく顔のせいで余韻が台無しになったけどね」
「む、そんな顔しとったか?」
「してました。悪人みたいでしたよ」
向かいに座っていたミュウ君が会話に割り込む。彼の膝の上にはメイルドラゴンのグラウがちょこんと乗っていた。
「流石にそりゃ嘘じゃろ。わし妖精ぞ? 子供に大人気の妖精じゃぞ? ゲス笑いという概念すら無いぞ?」
その自信はどこから出てくるのか。呆れるばかりである。
「王都ってどんなところなんだ? ジークは王都に住んでるんだろ?」
「確かに王都には住んでいるが、全てを把握しているわけではないぞ。だが良いところだ。それは保証しよう」
ニューはジークさんとすっかり仲が良くなったようで、王都のことを聞いているものの、ジークさん自体の語彙力の無さからいまいち話が伝わってこない。
ニューもわかってるんだか、わかってないんだか……
「お、城壁が見えてきたッスよ」
手綱を引いていたノルンさんから声がかかる。
馬車の外を見ると、視界いっぱいに広がる大きな壁があった。
「でっけぇ壁だなぁ……」
「もしかして、あれが?」
「そうッス。あれぞ我ら王国騎士団の拠点にして、魔法大国ウォルタート王国のお膝元」
「王都、城塞魔法都市『グナーデン』だ」
予定より遅れること三日。
あたしたちはようやく本来の目的地に辿り着いた。
※※※
「おかえりなさいませ、ジークリンデ小隊の皆様」
城壁門の門番があたしたちの馬車を出迎える。どうやらジークさんの小隊は何かと有名らしい。それとも、何らかの連絡方法で門番に帰還の話が伝わっていただけだろうか。
「うむ。私たちの留守中、大事はなかったか?」
「そりゃあもう、壁の内側は平和そのものです。無論、壁も強固な結界術式をかけているおかげで、魔獣の侵入を一匹たりとも許しておりませんよ」
「うんうん、ここが平和で何よりッス。『森の王』を折角討伐したのにここの壁が壊された、とかだったらどうしようかと」
「そんな事態そうそう起きないですよ。ところで、随分隊員が増えたみたいですね」
門番が馬車の中を覗いて何か勘違いしている。
別に騎士団に入ったわけじゃないので、あたしはやんわりと否定した。
「ああ、違うんです。目的地が一緒だったので相乗りさせてもらってただけで」
「民間人か傭兵の方でしたか。これは失礼」
もしかしてあたし、この筋肉のせいで傭兵に見えているのでは……?
確かに傭兵になるつもりでここまで来たわけだが、随分気が早い。
まああたし、今生ではラグナ族だし。筋肉つきやすいし、世間一般からすれば野蛮人だし。
王都で新しい服買う時は、腹筋とか目立たないものを探してみよう。
「門を開けます!」
壁側のもうひとりの門番が装置のレバーを倒して門を開ける。重苦しい音をたてて跳ね橋が下がり、馬車の道を作った。
なんというか西洋、という感じだ。その辺りには詳しくないけど、なんとなくそう思う。
馬車は門をくぐり、ついに王都への入場を果たした。
目の前に広がる街並みを見て、あたしたち外様は言葉を失う。
石畳が敷かれた広い道路に、綺麗な建物が並び立つ街の姿。高い建物は少なく全体的に平べったい印象を受けるが、それが逆に落ち着きを感じる景観を生み出している。
道端には屋台が開かれ、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「どうッスか? 初めての王都のご感想は」
「すっげぇー!」
「予想していたより、ずっと華やかというか……平和って感じがします」
「言葉にならないわね……人通りも多いし」
「そうだろう、そうだろう! その言葉が聞きたかった!」
ジークさんがドヤ顔で胸を張る。
それにしても賑やかな場所だ。行き交う人々の笑顔を見る限り、きっと治安も良いのだろう。
これが、魔法大国ウォルタート王国の王都グナーデン……その片鱗を見た気がする。
街の雰囲気に浸っていたところで、ジークさんが話を切り出した。
「そういえば、双子の方はここで仕事を探すと言っていたな?」
「はい。そのつもりですけど」
「もしかして紹介してくれるのか!?」
「いや、仕事は紹介できないが、拠点は必要だろう。ノルン、あそこに向かってくれ」
「あいあいさーッス」
はて、『あそこ』とは一体?
昨夜ジークさんとノルンさんがヒソヒソ話していたのと関係があるのだろうか。
※※※
馬車は教会のような場所で止まった。隣にも何か建物があったり、共同墓地のようなところもある。
「ここって……?」
「『ミルフィーユ孤児院』ッス」
「私が主に育った場所だ」
ジークさんが育った場所、ということは。
「えっ、ジークさんって孤児だったの!?」
「別に隠していたつもりではないがな。産んでくれた母の顔も知らぬし、物心がついた頃にはここに居たのだ」
「母親の顔を知りたいとは……思ってなさそうじゃな」
「難しいことを考えても仕方がないからな。わからないことは後回しにするのが人生を楽しく生きるコツだと、騎士をやっていた父から教わっている」
それでいいのか王国騎士よ。あれだけ知能指数低いのがそのお父さんの影響なら、もう本当にどうしようもない。
「おや、あそこにいるのは……おーい!」
皆で馬車を降りるとジークさんが誰か知り合いを見つけたようで、手を振って声をかける。
「ん? ジークリンデ! ジークリンデかい!?」
振り返ったのは、眼鏡をかけた三十代くらいの茶髪痩せ型男性。神父めいた服装で、ジョウロを持って庭の花に水をやる途中だったようだ。
「お久しぶりです、ヨハネス神父。大した連絡もなしにやってきた無礼をお許しください」
「いいや、構わないよ。子供の世話はシスターのみんなに任せていて殆ど暇してたから」
ヨハネス神父と呼ばれた男性はあたしたちに気付くと、丁寧に頭を下げた。
「はじめまして、皆さん。私はこのミルフィーユ孤児院で院長を務めております、ヨハネス・ローゼンハインと申します。うちのジークリンデが苦労をかけまして、本当に申し訳ない」
「いや、別にそんなことはないッス! むしろ慣れたので扱いやすくなったっていうか……」
ノルンさんがフォローを入れる。いや、フォローになってるの、これ?
ジークさんの隊内での扱いが気性の荒いペットみたいな感じだったので、思わず笑みがこぼれる。
「単刀直入に申しまスと、ふたりほどここに住まわせて欲しいんス」
なるほど、そういうことか。それならあたしにも話してくれればよかったのに。
「ふむ。察するに、そこの赤毛のおふたりですか」
「ミュウ、といいます」
「あっしはニュー!」
双子が自己紹介すると、ヨハネスさんは顎に手を当てて考え込む仕草をした。
「辛い思い出を掘り起こすようで申し訳ないが、キミ達のお父さんやお母さんは……?」
「……殺されました」
予め聞いてはいたものの、改めて聞くとその現実は重くのしかかってくる。何より帝国から亡命してきたのだから。
「……そうか。改めて申し訳ない」
「いえ、大丈夫です」
「そう言ってもらえると、私もありがたいよ」
ヨハネス神父は笑顔を作り直すと、あたしたちの方へ向き直った。
「結論から言わせてもらうと、ここは身寄りのない子供を預かる場所なので、ひとりやふたり増えたところで大した問題にはならない。むしろ歓迎するよ」
「ありがとうございます」
「ただ、ひとつ約束してほしい」
「なんだ?」
「ここに住む以上、私たち大人が『やっては駄目』と言ったことは、絶対にやらないで欲しい。それが守れるなら、ここでの生活を許可しよう」
ヨハネスさんの言葉には重みがあった。
ここで暮らす子供たちを守る責任がある。その決意がひしひしと伝わる。
「わかりました」
「あいさー!」
ミュウ君とニューは揃って返事をする。
ヨハネス神父か。この人なら信頼して双子を預けられる、という安心感。
細身で情けなく見えるが、彼の想いは本物だ。
「よし、では早速――」
「神父様ー!」
と、そこへ孤児院の方からシスターのひとりが、慌てた足取りでやって来た。
「ヤーナがまたサボって、どこかに行っちゃいました!」
「また、か。懲りないな、ヤーナも。ああ、ヤーナというのは、うちのシスターのひとりで、よく業務をサボっては街に繰り出す困った子です」
不良シスター、とな。
まあ、ジークさんのような全身ポジティブマシーンがこの孤児院で育ったくらいだ。与えられた仕事をサボる人がいるくらい、驚くようなことではない。
「仕方ない。ヤーナが放り出した仕事は私がやっておきましょう」
「いえ、神父様のお手を煩わせるほどでは――」
「どうせいつものように、日が落ちる前にはこっそり帰ってくるだろう。遊び疲れているところに仕事を強いたところで、彼女の鬱憤は溜まるだけだ。ヤーナのことは、しばらく好きにさせておきなさい」
「……やはり神父様はヤーナに甘すぎます」
「そうかもしれないね。でも、子供の自由を奪うよりはいい」
ヨハネス神父は苦笑いを浮かべると、
「シスター・アメリア。孤児院に戻るついでと言ってはなんだけど、家族がふたり増えることになった。案内してあげなさい」
アメリアと呼んだシスターさんに仕事を促した。
「わかりました、この子たちですね。ジークも久しぶり。せっかく来たんだし、副隊長さん共々ゆっくりしていく?」
「いや、騎士団の本部に戻るついでに寄っただけだ。お茶会はまたの機会にしておこう」
「そっか、残念」
アメリアさんがジークさんに対してやけにフランクなのを見ると、彼女もシスターとはいえ割とサバサバした性格なのかもしれない。
ひとまず、ミュウ君とニューの住処は確保できた。おそらくは仕事もこの孤児院で色々やることになるのだろうし、これで双子の目的は大体果たせたのかもしれない。
「ミュウ君、ニュー。ひとまずお別れね」
あたしは王国騎士団の本部にジークさんたちと共に向かって、『森の王』討伐を手伝ってくれた感謝の印とやらを受け取りに行く予定だ。
それから傭兵登録しに傭兵ギルドへ顔を出すなど、やることが山積みなので、しばらくはここに顔を出せない。
「姉貴はまだ、しばらくこの街にいるんだよな……?」
「まあ、そうだけど。でも傭兵になったら依頼で外に出るかもしれないし、わかんないわね」
「レヴィンさん……ここまでありがとうございました。こんなボクたちのために……」
「永遠の別れみたいなこと言わないでよ。この街にいれば、いつでもまた会える。ここの子供たちと仲良くね」
中腰になって、双子の頭を撫でてやる。
「わかったよ、姉貴……あっし頑張るから、姉貴も頑張れ!」
「ボクも頑張ります。いつかレヴィンさんを助けられるように」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。期待してるわよ」
双子との別れを済ませて馬車に戻る。中に残っていたリテラが腕を組んで待っていた。
「名残惜しいのう。ミュウの作った飯は美味かったんじゃが」
「だからって、一緒に傭兵になってサポーターをやらせるわけにはいかないでしょ」
「ニューは身のこなしが軽く、眼帯の奥に切り札を残しておる。ミュウとて治療術式が使えたんじゃ。サポーターの素質は充分じゃろう」
「でも、まだ成人前の子供だしね。危険なことはさせられないし、あたしのエゴに巻き込むような真似はしたくない」
元々あたしの目的はダリアを殴ること。当然彼女のバックには『魔獣教団』がいるし、下手をすれば人間同士の抗争になる可能性がある。
そんな血みどろの争いに双子を巻き込んではいけないと、あたしの良識は常に訴えてきた。
「それに、ふたりを守りながら戦えるほど、今のあたしには余裕ないし。肩の荷が下りた気分」
「お主が本当にそう思っておるのなら、わしとて反対はせんが……あの双子以上のサポーターが見つかる保証もないぞ?」
「その辺りなら心配ないわよ。あたし、負けないって決めたから」
「はぁ、とんだ意地っ張りじゃ」
リテラと話していたところで、ヨハネス神父との別れを済ませたジークさんとノルンさんが馬車に戻ってきた。
「んじゃ、騎士団の本部に行くッスよ」
御者台に乗り込んだノルンさんが、馬に鞭を入れる。
若干名残惜しさを抱えつつも、あたしたちは孤児院を後にした。