太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第一章 立志編
第一話 「救世主とか無理だから!」


 目覚めて最初に目に入ったのは、白い霧のような靄だった。

 

「ここ……どこ……?」

 

 視界は徐々に回復していき、周囲がはっきりと見えてくる。

 

 今あたしがいるのは、アパートの六畳一間のような場所。

 ハッキリしないのは、現実味が薄いから、と無意識に感じてるからだろう。

 

 起き上がると、小柄な女の子のように見える人影が、テレビの前で悪戦苦闘しているのが見えた。この部屋の主だろうか?

 

「くっ、くぬっ、このっ! いい加減地上で戦わんかい! バッタか此奴は!」

 

 耳を澄ませばガチャガチャとコントローラーを操作するような音。

 兄と遊んだ『ライジングナックルⅣ』を思い出す音だ。

 

「そっちがその気なら、こうじゃ! 対空で迎撃してかーらーの、金剛天龍牙(こんごうてんりゅうが)ァーッ!!」

 

 テレビの画面にはKとOの演出が鮮やかに現れている。どうやら決着はついたようだ。

 

 何か技名を叫んでいたが、聞き覚えがあるような。

 金剛はわからないが、天龍牙といえば、『ライジングナックル』シリーズにおける主人公・レントのライバルキャラである絶龍(デュエロン)を代表する対空必殺技だ。

 

 というか、今目の前で女の子がやっているゲームって――

 

「ふう、手こずらせおって……なんじゃ、もう起きておったのか」

 

 少女の影が振り返り、あたしを見る。その顔はどこか、覚えがあった、ような。

 つい最近見たことがあるような。

 

「ここ、君の部屋?」

「まあ部屋というか領域というか。色々説明したいことはあるが、お主には結論を先に伝えた方が手っ取り早いじゃろ」

「どういうことよ?」

 

「結論だけ言えば、お主は死んだ。そしてここは神の住む地、神界じゃ」

 

 あたしが、死んだ。

 その言葉を聞き、ここで寝ていた以前の記憶が、走馬灯のようにフラッシュバックする。

 

 あたしの名前は、大原(おおはら) 向日葵(ひまわり)

 日本トッププロゲーマーの兄がいた、普通の人より身体が弱かった女。

 

 確か少女が落とした『ライジングナックルⅤ』のパッケージを拾おうとして、そして――

 

「そうだ、あたし……っていうか、それ!」

 

 少女がさっきまでやっていたゲームを指差す。テレビの画面には、キャラクター選択画面が映し出されていた。

 カーソル初期位置の主人公・レントをはじめとした、見覚えのあるキャラの数々。

 中央には見たことのないキャラが居るが、おそらくは新キャラだろう。つまりこれは。

 

「なんじゃ、自分のことよりライナクⅤが気になるのか。流石わしにいきなり対戦を申し込んできただけはあるのう!」

「えっ? ってことは君……あの時の!?」

 

 死ぬ前に出逢った、ライナクⅤをパケ買いしてた少女、なのだろうか。

 それにここが神界……神の世界ということは。

 

「わしの分体が世話になった。創造神をやっておる、テラという」

「テラ……」

 

 参った。情報量が多すぎる。

 でも、あたしが死んだというのは本当だろう。でなければこんなところにいるわけがない。

 身体の感覚も妙に軽い。肉体から解放された魂のようなものなのだろう。

 

「わしら創造神は、一柱一柱がこの神界で世界を生み出しておってな。わしが尊敬する神の生み出した地球という世界には、度々分体を飛ばして遊びに行っておったのじゃ。実に娯楽が豊富でのう! 今ではすっかり地球被れじゃ」

「なるほど……ここに大量にあるグッズとかはそういうことね」

「そこでお主と出会って、不始末を犯してしもうた。わしのミスでお主が死んだようなものじゃ」

 

 申し訳なさそうな顔をする神様。そんな風にされると逆に困ってしまうのだが。

 

「じゃから地球の創造神様に頼み込んで、わしの下で預かることにしたのじゃ」

「で、あなたはあたしをどうしたいんですか、神様? まさか生き返らせてくれる、とか?」

 

「おう、考えてやるぞ」

「なーんて、冗談ですよ……マジです?」

 

「ただし!」

 

 テラ様があたしに向けて何かを投げつけてきた。反応して受け取ってしまったが、この感触は……無線コントローラー。

 

「わしにライナクⅤで勝てたら、のう」

 

 思わぬ展開になってきた。ライナクⅤに触れる機会を得られたのは重畳(ちょうじょう)だが、あたしはこの新バージョンで持ちキャラに施されている調整内容を知らない。

 故に『Ⅴ』における対戦経験はテラ様に一日の長があると言ってもいいだろう。

 でもそんな理由で逃げるのは、あたしの負けず嫌いな心と、好奇心が許さなかった。

 

「大した自信ね……やってやろうじゃない。あたしはレントで勝つわよ」

「わしの絶龍(デュエロン)に恐れ慄け!」

 

 あたしの転生を賭けて、闘いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「うにゃあああああ負けたあああああああ!」

 

 結果、十本先取であたしのストレート勝ちとなった。

 

 えっ、嘘……?

 いくらなんでも手応えがなさすぎる。

 

「えっと……あたし、何かやっちゃいました?」

「イカサマは無い! お主の実力は本物じゃ! わしが弱すぎなんじゃけど、マジで!」

 

 ちょっとは手加減しろ、と言いたいのだろうか。

 いや、でも勝負は全力でやらないと失礼だし……

 

「なんというか……ごめんなさい」

「ええんじゃ……キャラ研究が足りなかった、わしの落ち度じゃ……」

 

 しばらく気まずい沈黙が続いてしまったが、テラ様は突然何事もなかったかのように話を戻しにかかった。

 

「わしに勝ったら生き返らせるとか、そういう話じゃったな」

「すいません、久々のライナクがあまりにも楽しくて忘れてました」

「禁欲の鬱憤(うっぷん)を吐き出せたのは何よりじゃが、今はライナクの方を忘れてくれ」

 

 そういえばまだその件について何も説明を受けていない。

 つまり、あれだ。さっき言っていた、あたしをどうしたいのか、という話。

 

「お主にとっていいニュースと悪いニュース、どちらから聞きたい?」

「えっと……じゃあ、悪いニュースから」

「結論から言えば、大原向日葵……お主は地球で生き返ることはできぬ」

 

 そんなことを言われると、なんとなく、予感はしていた。

 

「……そっか」

「えらくあっさり受け入れるんじゃな。地球に未練はないのか?」

「あたし、兄を事故で亡くしてるんです。どうしてもライナクで勝ちたかった相手なのに、勝手に勝ち逃げされてから、毎日が辛くて……」

「よほど強かったんじゃな、お主の兄とやらは」

 

 あたしは静かに、頷いた。本当に、大好きだったのだ。

 兄が居たからこそ、今のあたしがあるといっても過言ではない。

 

「地球で生き返れぬのは、わしと地球の創造神・ガイアとの契約が影響しておる。まあ、元々お主が死んだのはわしの責任じゃ。当然の帰結じゃろうて」

 

 テラ様は顎に手を当てながら、続ける。

 

「そこでお主にとってのいいニュースじゃ。地球で生き返れぬ代わりに、わしの創った世界に転生させてやれるぞ」

 

 それはつまり異世界転生、というやつだろうか。そういうジャンルの本を読んだことがないのでよくわからないが、地球とは別の世界とはいえ、第二の生を謳歌できるということ。それなら悪くないかもしれない。

 

「テラ様の創った世界って、どんな世界なの?」

「平たく言えば、剣と魔法のファンタジー世界、といったところじゃの。地球で一般的に広まっておるファンタジー物の世界と若干の差異はあるが、そういう認識で問題はない」

「魔法、かぁ……」

 

 そういえば初代『ライジングナックル』のラスボスを務めていたキャラが、魔法みたいな力を使ってたっけ。実際は超能力だったけど。

 

「何か希望があれば聞くぞ。転生特典というやつじゃ、何でも言ってみるといい」

「……と、言われても」

 

 降って湧いてきた話すぎて、すぐには思いつかない。

 でも、もし生まれ変わったら。そういう想像をしたことがあったのも事実。

 答えは、もう出ていた。

 

「あたしは普通に健康な身体があれば、それだけで……」

「細やかな願いじゃのう。まあ良い」

 

 少し呆れた顔のテラ様が手をかざすと、足元に巨大な魔法陣のようなものが現れた。

 あたしの身体……というより生前の姿を模した身体っぽい魂は、魔法陣の輝きに包まれていく。

 

「すまんな。お主を死なせて、わしの都合に巻き込んだことを改めて謝る」

「えっ、ちょっと待って? テラ様の都合って?」

 

 聞き捨てならないことを言っていたような気がする。

 

 あたしの勘が、厄ネタを告げていた。

 

「今、わしの世界、フロイデヴェルトは破滅の危機を迎えておる。お主は世界の救世主となるのじゃ!」

 

「聞いてないんだけど!?」

 

「まだ言ってなかったからのう! わしを負かしたお主なら大丈夫じゃ! タフな身体の部族に転生させてやるからタダでは死なん、安心せい!」

「そういうことじゃないでしょ!? 元病人には荷が重いんだって! 救世主とか無理だから! というかあたしの特典希望どこいった!?」

「後からわしの分体もそちらに行くからな!」

「勝手に話を進めるんじゃないわよ、説明しなさいよこの詐欺神ィーッ!!」

 

 あたしの文句が最後まで届くことはなく、意識は再び、暗転した。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ハンナ、頑張れ! 頭は出てるぞ! もう少しだ!」

 

 声が、聞こえる。

 

 男の人の声と、踏ん張って何かをする女の人の、声。

 

「うぅ〜っ、ぐぬぬ……ぬ、ぬああああっ!!」

 

 女の人がぐっと気合を入れたその刹那、光を感じてゆっくりと目を開ける。

 

「おお……おお……!」

 

 目に涙を浮かべる筋骨隆々の男の人が、見えた。

 肌は随分焼けて褐色だし、瞳は赤くて髪の色だって暗めの金髪……。

 

 明らかに日本人では、ない。

 

「ようやった、ハンナ。元気な女の子が産まれたぞ」

 

 年老いた女性の声もする。この人もまた、褐色肌だ。

 

「ありがとうございます、あなた……」

 

 誰かに持ち上げられた感覚。おそらく先程踏ん張っていた女性だろう。この人の肌も褐色だ。

 

「俺はお前の傍にいただけさ。おめでとう、ハンナ」

 

 男の人が祝福の言葉をかける。

 

 ああ、そうか。あたしはようやく理解した。

 あたしは今、この女の人の腹から産まれたのか。

 

「名前はもう、決めてあるのか?」

「ええ」

 

 赤ん坊を撫でる母親の手が、やけに暖かく感じる。

 

「レヴィン。私たちの未来を照らす、太陽の子」

 

 こうして救世主の役目を嫌々背負ったあたしは、今ここに、新たに、生を受けた。

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