太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
オシャレがしたくて服飾店に赴くのは当然。
あたしは今、服を選びに寄り道していた。
「フリフリのドレスが……着たいッ!」
「いや無理じゃろ」
「即答!?」
少しは夢くらい見させろ創造神(分体)!
「今のお主に合うのはノースリーブにパンツルックくらいじゃぞ」
「腕の筋肉と脚の筋肉を常にアピールしろと!? 絶対イヤよ!」
「じゃあお主は魔獣と戦闘する度にスカートを破りたいのか?」
「そんな無駄になることはしたくない!」
「ならファッションリーダーの言うことはおとなしく聞くんじゃ!」
「いつからファッションリーダーになったのよ!?」
「今からじゃ!」
「今すぐ辞任しなさい!」
くっ、埒が明かない。可愛い服を着たいだけなのに。
わかってはいる。わかってはいるのだ。
袖のある可愛い衣装を身に纏ったところで、力んでしまえば袖が筋肉に破壊される。
スカートを履いたところで、太い脚の邪魔になるだけ。
それでも、『普通』を夢見たあたしの憧れなのだ。着たいに決まっている!
「もういい! 店員さんに選んでもらうわ! せいぜい可愛くなったあたしを見て腰を抜かしなさい!」
「勝手にせい! どうせ結果は同じじゃ!」
あたしは怒りに任せて、勢いよく試着室のカーテンを閉めた。
※※※
結果は、あたしの惨敗だった。
うん、わかってた。人の夢って儚いものなのよね。
向き合わなきゃ、現実と。
「すごくお似合いですけど……どうかなされました?」
「イエ、キニシナイデクダサイ」
思わず片言になるほど、現実に負けたのがあまりにもショック。
店員に似合うとされた服は、リテラが言ったようなノースリーブとパンツルック。奇しくもあたしに合わせた色合い。
悔しい。本当に悔しい。
「うぅっ……」
「えっと……大丈夫ですか?」
涙が出てくる。鍛えすぎてしまった自分の身体とリテラのセンスに。
「まあ、何じゃ……わしはそれで可愛いと思うぞ」
「くっ……殺せ!」
「殺さんて」
結局、リテラのアドバイス通りに動きやすい服装を買うことにした。
代わりに、女としての尊厳を失った気がした。
※※※
「まあ元気を出すんじゃ。いざとなったら職人を見つけてオーダーメイドという手もある」
傭兵ギルドへの道中、リテラが慰めの言葉をかけてくる。
「今から探してたら日が暮れるわよ……オーダーメイドは買った服が全部駄目になったら考えとく」
そうして会話を交わしているうちに、市場に出た。
魔獣から民を守る壁の中にあって、特に活気のある場所。
あらゆる食材や生活用品が売られていて、その種類の多さには圧倒される。
まるでお祭りの日にしか軒を連ねない屋台が常設されているような感覚に陥った。
市場は一種の迷宮。空きっ腹を刺激する食材や見た目麗しいアクセサリーに至るまで、全てが探索者を刺激する罠のように見えないこともない。
「何かお腹に入れて落ち着かなきゃっていう気にさせるこの匂い……市場は魔境ね」
「そう思っとるのはこの世界でお主だけじゃと思うぞ。とはいえ、メンタルリセットは必要じゃな」
さて、今のあたしは何腹なのだろう。などと屋台を物色していると、嗅いだ覚えのある焼いた肉の匂いが鼻をついた。
「おっ、お目が高いね嬢ちゃん。うちの肉饅頭に目をつけるとは」
匂いの先には中年の太っちょ店主。雰囲気がどことなく故郷によく来ていた旅商人のロブロイさんに似ている。
いや、それよりも肉饅頭、というか肉まん!?
コンビニによくあるやつじゃない……まさかフロイデヴェルトで相見えようとは。
「おじさん! 一個ちょうだい!」
「あいよ! 熱いから気ぃつけな!」
渡されたのは丸い形の皮に包まれた餡入りの蒸しパンのようなもの。あたしの掌から少しはみ出すぐらいの丁度いいサイズだ。
一口齧れば、溢れる肉汁と甘辛いタレが絶妙にマッチし、噛めばもっちりとした食感。
コンビニの肉まんとは少し違うのだろうが、これはこれで美味しい。空きっ腹に染みわたる。
「イケるわね、これ」
「わしにもくれ、わしにも」
「あげないわよ」
「ケチじゃのう」
なんとでも言うといい。あたしが受け取ったあたしの金で買った肉饅頭だ。
悔しかったら自分で稼いで買ってみろ。
あ、でもその身体じゃ全部は食べ切れないかもね。
そんなことを考えながら再び傭兵ギルドがある場所へ足を運ぼうとする。
だがしかし、そうは問屋が卸さないらしい。何やら騒ぎが向こうからやって来たようだ。
「待てぇい!」
「売りモンをどこへやった!?」
黒のローブを着た三人組が、茶色のローブを着た人物を追っている。追われているのは、あたしと同世代くらいの女性のようだった。
「おっと」
あたしは彼女にぶつかりそうになったところを一瞬の判断で避ける。危なかった。
もしあの子がぶつかっていたら、そのままあたしの筋肉に弾かれていたかもしれない。
「どけぇーっ!」
続けて黒ローブの三人も迫ってくる。流石に今、三人分を避けるのは面倒極まりない。
なので、跳び越えることにした。
「ふっ!」
あたしの今の筋肉ならば、助走もなしに三人を跳び越えることなど容易い。
そういえば『ライジングナックル』の前ジャンプも大体こんな感じで助走なしに跳んでたっけ。
跳び越えた後、体操選手の如き着地を決める。
「な、なんなんだコイツ!?」
「見とれてんじゃねえ、こっちが優先だ!」
「お、おう!」
三人は多少動揺しながらも、女性の追跡を再開するのだった。
「穏やかではないのう……」
「どう見ても、あの三人が悪者って感じがするわね」
正義の味方を気取るつもりはないが、目の前の出来事を見過ごすほど薄情でもない。
あたしは女性を追う三人を追って駆け出した。
※※※
市場から少し離れた人通りの少ない路地裏に辿り着く。
黒ローブの三人が追い詰めているのは、ひとりの女性。
「もう逃げられねえぜ、観念しな」
「勝手に売り物を逃がしやがって……こっちは商売あがったりなんだよ」
「てめえが商品になれば許してやるって言ってんだ!」
口々に物騒なことを喚く三人組。あたしは建物の影に隠れて、その様子を窺う。
すると、追い詰められていた女性が振り返り、フードを取った。
桃のように鮮やかな色の長髪と、金色の瞳。まるでお姫様のような、そんな印象を受ける人だ。
「いかなる理由があろうとも、許せません。罪のない小動物を、怪しい組織に売り捌こうなど!」
「こっちは仕事なんだよ! 自称正義の味方のお遊びに付き合ってられっか!」
なるほど、あの三人が悪者なのは確定で、女性の方は悪者のやり方に居ても立っても居られず何かしらやっちゃって追われていた、と。
行動力の塊ではあるが、路地に追い詰められている状況からすると、対人戦が得意というわけではないのだろう。
「正義の味方がお遊びだなどと、言ってくれますね」
なのにこの女性は強気な台詞を続けている。時間稼ぎのつもりだろうか。
「あなた達はご存知ですか? この一年、魔獣による被害以外で、散ってしまった命の数を」
「はぁ? 知るわけねえだろ」
「
よく見れば女性の両手は固く握られており、震える肩から彼女が感情的に訴えていることがよく分かる。
だが三人はその言葉を聞いて嘲笑した。
「馬鹿じゃねぇの、お前。んなこと俺らに言われたってしょうがねえだろうが」
「どこで誰が死のうと、俺たちには関係ねえ」
「正義を振りかざすのは勝手だがな、それを他人に押し付けるなって話だよ」
なんともまあ、呆れた連中だ。他人の痛みを理解しようともしないで好き放題言っている。
確かに、自分が死ねばよかった、なんてことを言う人はいるけれど、そういう人達は大抵自分の身を犠牲にしている。
だが彼らは違う。ただ自分の都合だけで生きているのだ。
そんな人間達の言葉など、彼女に通じるはずもない。
「残念です。もう、手の施しようがないのですね」
「そういうこった。んじゃ、さっさと代わりの商品にでもなってくれや」
よし、そろそろ懲らしめようか、あの三人。
あたしは建物の影から姿を現し、三悪人に呼びかけた。
「大事な商品に傷をつける気? 三人がかりでさ」
「あん?」
「なんだテメエ?」
「あっ、さっき見たぜコイツ! すげえ曲芸だったな、嬢ちゃん!」
「そいつはどうも。あたしはただの通りすがりだけど、あの子と同じで善い人に味方したいってだけの人間よ」
「オイオイオイ、馬鹿がもうひとり増えたぜ? どうするよ?」
「決まってる。コイツも商品にしてやろうぜ」
そう来ると思っていた。意識をこちらに向けてくれたのなら好都合だ。
「誰に売ろうとしてるのよ、この変態」
あたしは『ライジングアーツ』の構えをとり、戦闘態勢へ移行。ステップをリズム良く踏みつつ、狙いを定める。
こんな小悪党相手ならば、必殺技を使うまでもない。
「そぉら!」
向かって左の男が先に飛び出す。あたしの距離までギリギリに近づけて――、
「シッ――!」
顔面に高速の左ジャブをお見舞いしてやる。
「がっ!?」
男はそのまま地面に倒れ込み、鼻血を撒き散らしながら悶絶した。
「てめぇ!!」
右の男は仲間を倒された怒りからか、懐に忍ばせていたナイフを取り出して突進してくる。
やはり、動きが遅く見えた。
「フッ!」
カウンターで、男の顎に掌底を叩き込む。
「がふっ……」
そのまま仰向けに倒れた。白目を剥いて気絶してしまったようだ。
残る黒ローブはあと一人だけ。
「なんだコイツ……武器も何も持ってねえクセに! 『喧嘩』に『型』がありやがる!?」
「格闘技っていうのよ。まだやる?」
「ぐっ……勝てる気がしねえ!」
黒ローブは仲間を連れて逃げ出した。
ひとまず、人間相手に手加減はできた。まずはそれを喜ぼう。
「おうおう、絵に描いたような三下ムーブじゃ。次の相手は極道の幹部かのう?」
建物の影に隠れていたリテラが出てきて、愉快そうな笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「んなわけないでしょ。Vシネの見過ぎ」
「あ、あの……」
おっと、忘れるところだった。
「怪我はない?」
「はい、ありがとうございます。しかし、あの方たちを逃がしてしまってよかったのでしょうか……?」
「どうせ抜いても抜いても生えてくる雑草みたいな連中でしょ。放っておけばいいのよ」
「……私のお友達と同じことを言うのですね。不思議な縁を感じます」
「冷静だったのね、そのお友達ってのは」
「はい、しばらく会っていませんが……自慢の友です」
彼女の表情から察するに、とても大切な友人なのだろう。
「あたしはレヴィン。こっちはリテラ。まあ金魚のフンみたいな奴だから、こっちは気にしないでね」
「いや、金魚のフンて……今に始まったことではないが、わしに対する扱いが酷いのう……」
「私のことはどうか、エメルとお呼びください」
そう呼んでくれ、ということは、名乗ったのは偽名だろうか。
何か事情があるようだし、追求はしないでおこう。
「先程申し上げたお友達とは、自警団を組織しておりまして。もっとも、こちらが勝手に名乗っていただけですし、今は私ひとりになってしまいましたが」
「たったひとりの自警団、か」
市場に戻る途中エメルは、あたしが聞いてもいないのに素性を話してくれた。とはいえこれも『エメル』としての表の素性に過ぎないのかもしれないが。
「王都の騎士様は外の魔獣の対処に戦力を集中させるあまり、街で起こる犯罪のほぼ全てに対処できていないのが現状です。そんな状況を少しでも改善したいと思ってお友達と作ったのが、自警団でした」
「なるほどのう。じゃが、そのお友達が訳あって団から離れても、ひとりで続ける理由はないじゃろ?」
「確かにそうなのですが、やはり私は目の前で起こる悪事を見過ごせないのです。たとえ相手がどんな悪人でも」
エメル……この子はなんというか、危なっかしい。正義感が強すぎる。
『ライジングナックル』シリーズにも彼女と似たようなキャラがいた。
正義のカポエイラ使い、カルム。
彼は『力なき正義は無力』を信条とする格闘家で、正義を信じ抜くあまり黒幕の口車に乗せられて主人公・レントの敵になるなど、愚直すぎる性格が仇となってよく騙されるキャラだった。
エメルもそうだとは限らないが、行き過ぎた正義感で暴走しないか心配だ。
「見て見ぬ振りができないのは立派だけど、あの三人はどう対処する気だったの?」
「実はこれをローブの中に隠し持っていたのですけど、あなたが助けてくれたので使う機会はありませんでしたね」
エメルはローブの中から取り出したものを見せた。ナイフの柄のようなものに見える。
ただひとつ、刀身がないという点を除けば。
「汎用型マキナ、『マギメッサー』。魔力で刃を形成できるナイフで、この街では護身用の武器として広く出回っています」
「必要最低限の護身……という感じじゃな」
「扱いを習ってはいますが、正義を成すにはまだまだ未熟で……」
エメルはナイフの柄を強く握りしめ、悔しげな表情を浮かべた。
「レヴィンさんは何か、護身術を修めているとお見受けします」
「まあ正確には格闘技だけど」
さっきの奴も喧嘩に『型』があると驚いていたが、武器を使わぬ武術や格闘技に関してはジークさんが言ったように、マキナの台頭で徐々に護身術レベルにまで廃れていって、使い手はこの世界にほぼ存在していないらしい。
そうなると、ここから考えられる展開は――、
「不躾なお願いではありますが、私にあなたの技を教えては頂けませんか?」
ほら来たよ。どうせそんなことだろうと思った。
「いやいやいや、無理! 絶対無理! あたし自身もまだまだ未熟だし!」
「何を仰いますか! レヴィンさんの持っている技術こそ、正義に絶対必要なもの! 未熟であろうはずがありません!」
「そもそも誰かに教えた事とか全然ないし!」
「ならば私が第一号ということでいかがでしょう!?」
「そういう問題じゃないっての!」
ぐぬぬ、このままでは埒が明かない。
リテラもこの状況を全く止めようともしないし、どうすりゃいいのよ?
その時、どこからか声が聞こえた。
「エメルーッ! どこにいるんだ、エメルーッ!」
エメルの名前を呼ぶ男の人の声。た、助かった……。
「この声はお兄様……待ち合わせしていたのをすっかり忘れていました」
当のエメルの顔は割と不機嫌だが、早々に弟子を取らずに済んだだけ良しとしよう。そもそも師匠になる気もないしね。
「では、いずれまた! 次に会った時はご指導ご鞭撻、お願いしますね!」
ちゃっかり再会の約束を勝手に交わして、エメルは走って行った。
なんというか、割と強情だったな、あの子……。
「中々面白そうな娘じゃったのう」
「ただしつこかっただけに思えたんだけど?」
「あれくらい我が強い方が伸びしろはあるモンじゃ」
「そういうもん?」
「お主も見習うといいぞ」
何か含みのある言い方だが、アレのどこを見習えというのか。
それにしてもお兄様、か。
あたしはもういない前世の兄を思い出して、エメルが少し羨ましくなった。