太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
多少の面倒はあったが、ようやく傭兵ギルドに着いた、のだが。
「本当にここで合ってるんでしょうね?」
「おう、合っておるぞ」
「どう見ても酒場なんだけど」
看板に『BAR フェストザール』と書いてある建物の前にあたしたちは居る。
転生した時、神の方のリテラにフロイデヴェルトの言語や文字、数字の知識を叩き込まれたので最低限の識字はできるが、間違いなくここが酒場だと看板が示していた。
あたしはもしかしてニコラウス騎士団長に馬鹿にされたのだろうか。
いやいやいや、まさかそんな。あのジークさんを問題児扱いできるほど良識のある騎士団長に限ってそんなことはないだろう。
「表向き、酒場を装っておるだけじゃ。安心せい」
「そうする意味ってあるの?」
「傭兵ギルドの存在を危険視しておる者は多い。そういう連中に気付かれずに情報収集するにはこういう場所が一番なんじゃろう」
「確かに敵は多そうよね、傭兵って。金を払ってくれる側につくってイメージがあるし」
「とは言うものの、今の傭兵に舞い込む依頼はほぼ魔獣退治の依頼じゃし、帝国との戦争時代の名残程度に今は思ってくれてよいぞ」
なるほど、戦争経験者なら尚更、そういう意識が強いわけだ。
とはいえ、前世も含めて酒場に入るのは初めての経験。ガラの悪い他の客に餓鬼呼ばわりされないだろうか。
いいや、
あたしは頬を叩いて、自分に喝を入れる。
「……っし!」
意を決して、酒場の扉を開けた。
店内は思ったより落ち着いた雰囲気で、カウンター席が五つにテーブルが四つあり、うち三つが埋まっていた。
入ってすぐ右にある棚には酒瓶がズラリと並んでいて、奥の厨房からは食欲を刺激する良い匂いが漂ってくる。
客層は主にガラの悪い男たち。麦酒を飲んでいたり、つまみを食べながらカードゲームに興じているようだ。
とりあえずカウンターまで歩いて行くと、店のバーテンらしき人が声を掛けてきた。
「あら、いらっしゃい。見かけない顔ね」
バリトンボイスのオネエなガチムチバーテンである。
あまりにも属性が渋滞しているような気がするが、あたしは臆せずカウンター席に座った。
「とりあえず、ミルクで」
「可愛いご注文ありがと。ちょっと待っててね」
なんとなく注文してみたが、本当にあったのね、ミルク……。
バーテンがミルクを用意している間、周りの客たちがあたしを見て笑っていた。
「クックックッ、ミルクだとよ。可愛いねえ」
「なんだぁ? 嬢ちゃん、新入りかあ?」
うーん、これは明らかに舐められているな。というかこの人たちの目は節穴か何かだろうか。
あたしの腕とか脚の筋肉を見て何も思わなかったハズはないんですが。
「生憎と人探ししてるだけですよっと。ロッソって名前の人、知ってます?」
「あら、それアチシじゃない。はい、ミルクよ」
「どうも……って、えっ!?」
ロッソって名前からもっと厳ついのを想像していたのに、まさか目の前のオネエバーテンさんがロッソさんだったとは。
人は見かけによらないということをこの世界で散々思い知ってきたが、さすがにこれには驚いた。
「そう驚くこともないでしょ。アチシの名前を知ってるってことは、アチシに何か用があるってコトなんだし」
「ってことは、やっぱりここが傭兵ギルドの事務所なんですね。これをとある人から預かってきたんですけど」
「あら、律儀ねぇ」
あたしはロッソさんにニコラウス騎士団長からの紹介状を渡す。中身を見るまでもなく何かに気付いたのか、ロッソさんは眉をピクッと動かした。
そして紹介状の封を切り、中に入っている手紙を読むこと数分。
「確かにこれはニッキーの筆跡ね」
ニッキーって誰……? あたしが会ったのはニコラウス騎士団長だったハズだけど。
「ああ、ニッキーっていうのは今の騎士団長のことね。これでも昔は騎士学校の同期だったから、昔のクセが出ちゃったってだけ」
「はあ、なるほど……」
ニコラウス騎士団長……父のことを戦友と呼んだり、ガチムチオネエバーテンと学生時代の同期だったり……顔が広いというより、交友関係があまりにも濃いのですが。
「レヴィン・ゾンネちゃん……やっぱりレオンの娘だったのね。ひと目見てわかったわ。王都じゃラグナ族は珍しいし、何よりその眼がレオンにそっくり」
「恐縮です、ロッソさん……」
「そんなに畏まらないで。レオンの娘ならアチシの娘のようなものだし、呼び捨てでいいから。それでも呼びにくかったら、『ロッソママ』でいいわ」
なんというか、コミュ強のオネエって感じだ。
父にも何かと詳しそうだし、もしや狙っていたのだろうか……?
何を、とは敢えて言うまい。当人同士のアレコレだし。
「それにしても、レオンが殺されたなんて未だに信じられないわね。ちょっとやそっとで死ぬようなタマじゃないのはわかってたのに……」
「相手はこの『ソルマドラ』の弱点を知っていたみたい。太陽を雲で覆い隠して、魔力の供給源を断ってたから」
「フム、レヴィンちゃんが追ってる相手は相当の難敵みたいね」
「だからあたしは傭兵になりに来た。金のためじゃなくて、自分のために。次にアイツに会った時、負けないために」
「確かに、戦いの経験を積むには傭兵がうってつけでしょうけど……武器のひと振りも無いんじゃあね」
「心配ないよ、ロッソママ。あたし、殴ることと蹴ることには自信あるから」
流石にこの発言は自信過剰だったのだろうか。ロッソママはプッと笑ったのを皮切りに、腹を押さえてしばらく笑っていた。
「えっと……ママさん? 流石に言い過ぎだったかなぁとは思ったんだけど――」
「ごめんなさいね。充分合格よ、アナタ」
えっ、合格?
もしや今までずっと試験をしていたのだろうか。気付かなかった……。
「傭兵をやっていく上で必要なのは、依頼人からの信用と、ちょっと行き過ぎなくらいの自信。他にも色々あるけど、主に大事なのはこのふたつよ」
むしろちょっと行き過ぎぐらいでいいのか自信。
「レヴィンちゃん、アナタはあのレオンの血を継いでいるとは思えないほど良い子ちゃんって感じがするわ。アナタの行動次第で、いずれ信用はついてくるかもしれないわね。それに加えて、自分よりも強い相手にも怯まず立ち向かえるような根性もあるようだし」
褒められているんだろうけど、なんか釈然としない気分になる。
「はい、これ。この紙に右手をかざしてみて」
ロッソママはカウンターの下から何やら紙を取り出した。
「これは?」
「うちのギルド特製の魔導具よ。アナタが今契約しているマキナのランクを測って、紙に出力してくれるの」
「マキナにランクがあるなんて知らなかったんだけど」
「依頼人の信用を得る上でも大事なことよ。そもそもマキナ自体が強いという証明がないと、依頼人も依頼を出し辛いしね」
確かにそうかもしれない。あたしだって、自分が強くないと知っている相手にしか依頼を受けたくない。
それにしても、こんな便利な魔導具があったとは。実際父から受け継いだあたしの『ソルマドラ』はどのくらい強いのか、若干気になっていたところではある。
「さあ、魔法陣のある手をかざして」
「わかったわ」
言われた通り、手をかざす。すると右手の魔法陣が赤く光り、魔導具の紙に文字が現れた。
まるで虫眼鏡を使って日光を収束させて焦がすように、ゆっくりと浮かび上がってきたソレを見て、あたしは息を飲む。
「えっ、これって――」
あたしのマキナ、太陽鎧『ソルマドラ』のランクは、『G級』と表示されていたのだ。
あれ? これ結局強いのか弱いのかわからないじゃないの。
「G級、か。やっぱりこうなっちゃったのね」
「どういうことよ?」
「実はレオンの時と合わせて、『ソルマドラ』のランクを測るのは二度目なのよ。持っているものに太陽属性の魔力を付与できる能力だから、強いっちゃあ強いんだけど、マキナが使われ始めた帝国との戦争よりずっと昔からあったマキナだからかしらね……魔導具の反応が鈍くて」
「昔に作られたマキナほど計測の精度が鈍るってこと? 欠陥品なんじゃないの?」
「有り体に言えばそうなんだけど、欠陥品ではないわね。こうしてアチシがかざせば、ちゃんと結果は出るから」
ロッソママが新しく紙を出して右手をかざすと、あたしの時と同じように文字が現れる。
ロッソママの契約型マキナのランクは、『B級』だった。当たり前だがG級よりも高い。
というかロッソママも契約型持ってるんだ……ますます謎な人である。
「とはいえ、ランクは単なる目安に過ぎないからね。ユーザー本人の技量次第で強さが変わることもある。『ソルマドラ』もおそらくその系統だろうし、これからも頑張りなさい」
「ありがとう、頑張ってみる」
「あと、これ。傭兵ギルドの証、傭兵徽章よ。依頼人と直接対面する時にこれを見せると、身分証代わりになるの。失くさないようにね」
そう言って渡されたのは、傭兵ギルドの紋章が入ったバッジだ。赤いリボンの中に、剣と盾が描かれている。
「改めてようこそ、傭兵ギルドへ。アナタの活躍を期待しているわ」
「こちらこそよろしく、ママ」
こうしてあたしは、晴れて傭兵として認められた、のだが。
「大丈夫かい、ママよぉ? そんな親父のお下がり持っただけのガキなんかを傭兵にしちまって」
早速新人歓迎会とばかりに、ガラの悪い男のひとりが声をかけてきた。
赤いマントを羽織った血の気が多そうな悪人面の男だ。
「アチシが認めた娘よ、リバーちゃん。文句があるなら言ってみなさいよ」
「ああ、言わせてもらうぜ。いくらコイツがあのレオンさんの娘っ子だとしてもだ。レオンさん以上に『ソルマドラ』を扱えんのか? どうなんだ、おい?」
リバーと呼ばれた男の啖呵に、周りの客が湧き立つ。
「お、早速『狂犬』が噛みつきやがった」
「リバー・イーグルに噛みつかれた新人は、大抵再起不能になるって話だ」
「あの娘もかわいそうに……悪く思うなよ、これがギルドの洗礼だ」
あたしは内心ため息をつく。
傭兵という職業は、実力社会。腕っ節が強い者ほど力を誇る。
そしてこの男は、あたしより強いのかもしれない。つまりあたしは今、喧嘩を売られているのだ。
リバーという男が父とどんな関係だったかは知らないが、売られた喧嘩ならば、買わねばなるまい。
「関係ないでしょ。あたしはパパじゃないんだから、パパ以上って比較する方がおかしいし」
「ほーう、言うじゃねえか。だったら証明してみな、親父とは違うってよォ!」
リバーが右腕を広げてマキナを
「待ちなさい、リバーちゃん」
ロッソママが止めに入った。
「傭兵ギルド規約第三条、事務所内でマキナを使った私闘は厳禁。忘れたの?」
「ケッ、わかったよ。外ならいいんだな? 表に出な」
リバー・イーグル……意外と聞き分けの良い男だ。さすがはロッソママである。