太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その二 「後悔しない生き方を、キミには選んで欲しい」

 ミュウとニューの双子が『ミルフィーユ孤児院』で孤児たちと共同生活するようになって数日。

 徐々にではあるが、双子は子供たちに受け入れられつつあった。

 

 その要因の一つとして、双子が積極的に子供たちと交流し、遊んだり話したりしていることが挙げられるだろう。

 結果としてミュウとニューは孤児院内での立場を確立させることとなる。

 

 ニューはたった数日で年少組を束ねるガキ大将の地位に居座っていた。

 

「よーし、みんな! この木を登る訓練だ! あっしについてこい!」

「えぇ~……」

「無理だよぉ……」

「怖いよぅ……」

 

 ニューによって統率された年少組の子供たちは渋々といった様子ではあったが、次々と木登りの訓練を始める。

 その様子を窓から眺めながらミュウは、孤児院のシスター・アメリアと昼食の準備を手伝っていた。

 

「うーん、もう少し甘くした方がいいですかね?」

「このままでもいいんじゃない? 甘くしすぎても飽きちゃうと思うけど」

 

 アメリアは家族になった子供たちに対しては割とフランクであり、ミュウにも同じように振る舞っている。元々面倒見の良い性格なため、すぐにミュウとも打ち解けたようだ。

 

「よし、完成ね。ミュウくん、子供たちを呼んできて」

「はい!」

 

 ミュウは元気よく返事をして食堂を出て行く。

 

 すると、入れ替わるようにヨハネス神父が食堂へやってきた。

 

「アメリア、今日も美味しそうな匂いですね」

「あら、神父様。もうすぐ準備できますから、少し待っててくださいね」

「ありがとうございます。ミュウくんは随分芸達者のようですね」

「ええ。料理もこの通り手伝ってくれていますし、授業の時だって積極的に答えてくれます。教鞭を執れるぐらい頭がいいから、全然アタシの立場ないですよ」

「ハハッ、それはすごい。私としても助かります。あの子たちは仕事を探しに王都まで越してきたのです、好きなようにやらせてあげましょう」

「そうは言っても、心配ですよ。何かしてないと落ち着かないっていうのは、わからなくもないですけど」

 

 ミュウを気にかけるアメリアに、ヨハネス神父は顎に手をあてて少し考える。

 

 彼らはここに入る前、帝国から国境を越えて旅をしていたという。

 であれば、共に旅をしてきた仲間と離れた寂しさが行動に表れているのかもしれない。

 

「アメリア。もし、もしもですよ。仮にミュウくんがここを離れると言ったら……どうしますか?」

「えっ……!?︎ そ、そんなこと考えたこともありませんでした……。でも、きっと大丈夫です。ミュウくんは優しい子だから」

「だと、良いのですがね」

 

 ヨハネス神父は、いずれミュウとふたりきりで話す機会を設けようと決めて、アメリアと共に何事もなかったかのように食堂へ足を運んだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 その日の夜更け。

 

 子供たちはぐっすりと熟睡していたが、ミュウは横でいびきを掻いているニューを尻目にひとり目を覚ました。ニューの横にはグラウも寝息を立てて眠っている。

 

(トイレどこだっけ……)

 

 ニューを起こさぬように静かに部屋を出ると、薄暗い廊下が視界に広がる。

 

 日中は騒々しい院内だが夜になるとシンっと静まり返り、物音ひとつしない。

 月明かりを頼りにミュウは用を足すと、再び自室に戻ろうとする。

 

(あれ? 神父さまの部屋、まだ灯りがついてる)

 

 ミュウは不思議に思い、ヨハネス神父の部屋に近づいていく。

 

「何度も申し上げたはずです。お帰り願いたい」

 

 そんな声が扉の奥から聞こえてきた。誰かと話でもしているのだろうかとミュウは首を傾げる。

 

 ミュウはその扉をゆっくりと開けると、部屋の中を覗き込んだ。

 そこには窓の外にいる影と何やら話をしているヨハネス神父の姿が。

 

「私はもう見たくない……あんな地獄を二度と……!」

「だ・か・ら、必要な犠牲だったんだってバ」

「それはあなたから見ればそうなのでしょう。しかし私は――」

「ハァ、相変わらず逃げているのネ。もういいワ。アナタがどう足掻こうと、『教団』に居たという事実は変えられなイ。それを肝に銘じておくことネ」

 

 影はそう言い残すとヨハネス神父の視界から消えた。

 

「くっ……私は……!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるヨハネス神父は、机の上に置いてあった本を手に取り、椅子に深く腰掛けると天を仰いだ。

 

(あの喋り方、どこかで聞いたような……いいや、そんなことより神父さまだ)

 

 ミュウは、先ほどまで会話をしていた相手が『教団』という言葉を口にしていたことを思い出す。

 

 『教団』といえば、ラグナ族の集落を襲った『魔獣教団』以外心当たりがない。

 もしヨハネス神父が『魔獣教団』に関わっていたのなら、レヴィンの父・レオンの仇であるダリアのことを知っているのではないか。

 

 そんな考えを巡らせながら、ミュウは改めて部屋の扉をノックする。

 

「誰かな? こんな夜更けに」

「ボクです」

 

「ミュウくんか。怖い夢でも見たのかい?」

「……まあ、そんなところです」

 

 敢えて先程盗み聞きの形で聞いてしまった会話に関しては伏せることにしよう、とミュウは察しながら部屋の中に入る。

 

「そこに座って待っていてくれ。何か温かいものでも淹れてくるよ」

 

 ヨハネス神父はまるで何事もなかったかのように振る舞い、部屋を出て食堂に向かった。

 

 しばらくして二人分の飲み物を持ってきたヨハネス神父。

 お互い向かい合わせに座り、ヨハネス神父がふぅ、と息をついた。

 

「ちょうど、キミとふたりきりで話をしたいと思っていたところでね」

「そう、ですか……ボク、何か粗相でも? そんな覚えはないんですけど」

「まさか。むしろ良いこと尽くめさ。アメリアも感謝していたよ、『アタシの立場がない』って」

「あはは……」

 

 苦笑いを浮かべるミュウに、ヨハネス神父はコホンと咳払いをする。

 そして、真剣な眼差しを向けた。

 

 その視線を受けてミュウは背筋を伸ばす。

 ヨハネス神父は一呼吸置いて、ミュウを見据えて口を開いた。

 

「ミュウくん、正直に答えて欲しい」

「……はい」

 

「キミは、孤児院(ココ)の居心地が悪いと思ったことは……ないかい?」

 

「そんなことは、ないです……でも――」

「でも?」

「これでいいのかな、と少しでも感じている自分が心の中に居る気が……するんです」

 

 ミュウは俯き加減に言葉を紡ぐ。

 それを聞いたヨハネス神父は顎に手を当てて、考え込む仕草を見せた。

 

「ボクとニューは元々、とある理由で帝国から逃げてきた人間です。そんな中で運良く頼れる人に助けてもらって、王都まで旅をして……」

「その頼れる人というのは、もしやキミが初めてここに来た時、ジークリンデの隣にいた褐色の?」

「はい。レヴィンさんといいます。野蛮と噂されているラグナ族ですが……本当に良い人で。今は傭兵ギルドに入ってるんですけど」

「彼女があのラグナ族、ですか……ミュウくんが取って食われていないことを鑑みても、本当に良い人ということなんでしょうが……」

 

 事実、ミュウが出会ったラグナ族は風評とはまるで違う人たちばかりであった。

 潜在魔力がなくとも自然と共に生き、その中で糧を得て密かに集落を育んできた。

 そんな時代の波に取り残されながらも生き長らえてきたラグナ族が、野蛮であるはずがない。

 

 レヴィンも、その中のひとりだ。そんな彼女が目的を果たすために強くなろうとしている。

 

「旅を初めた頃はとにかく、王国まで逃げ延びて何か仕事をしながら生きようって、曖昧な目的の中で動いていたんです。でも、レヴィンさんと一緒に旅を続けてからは、なんというか……この人の役に立ちたいって想いが強くなってきて……いつの間にかそれが当たり前になっていました」

 

 それは、ミュウにとっては初めての感情だった。

 

 今までは生きることに必死で、そんなことを思う余裕なんてなかったのだ。

 しかし、今では少しだけ落ち着いて物事を考えることができるようになったためだろうか――

 

 ミュウは中々言語化できずにいたこの気持ちを、徐々に理解し始めていた。

 

「だから、今の居心地の良さに甘えている自分に気づいて……それでいいのかなって思ったりして」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 ヨハネス神父は、ミュウの言葉を聞き終えるとゆっくりと立ち上がり、窓際へと移動する。

 

「少し、私の『友人』の話をしましょう」

 

 そして窓から外を眺めながら語り始めた。

 

「彼は己の度重なる不運に絶望し、怪しい宗教にのめり込んでいきました。やがて彼は言われるがまま多くの無辜の人々を儀式(サバト)という形で殺してしまい、後悔だけが彼の心を蝕んでいったのです」

「そんなことが……」

「大丈夫ですよ。そんな彼も今は怪しい宗教から足を洗って、贖罪のために日々頑張っていますから」

 

 そう言って笑うヨハネス神父の顔にはどこか寂しさが滲み出ていた。

 

「ミュウくん……本音を言えば、私はキミにここに居て欲しい。まだ子供だからとか、親がもう居ないからだとか、言い訳すればキリがないですが、キミは紛れもなく私の息子のようなもの。だからこそ、キミの自由意志は尊重しなくてはならない」

「神父さま……」

 

「私はね、人はどれだけ誤った道を進もうとも、後悔だけはしてはいけないと考えているんです。たとえどんなに辛く苦しい道であろうとも、前を向いて進むことこそが正しき道なのだと」

 

 ヨハネス神父は窓の外に広がる王都の風景を見つめる。

 

「私がキミに伝えられる言葉はひとつ」

 

 ヨハネス神父は振り返ってミュウを見据えた。

 その瞳はどこまでも真っ直ぐで澄んでいるように、ミュウには見えた。

 

「後悔しない生き方を、キミには選んで欲しい」

 

「後悔しない、生き方……」

「そうです。そして、これは私個人の考えですが――」

 

 ヨハネス神父は言葉を区切り、ミュウの肩に手を置く。

 

「もし仮に、今後キミが自分の選択によって悔いるようなことがあったら、その時はこう考えてみてください。自分の人生は自分で切り拓いたものだと。誰かに敷かれたレールの上を歩いてきたわけではないのだと。キミは自分の意思で選び、進み、ここにいる。そして今も、選択の自由は己にある」

「ここにいるのも、レヴィンさんを追って出て行くのも……ボクが選んでいいんですか?」

「キミが後悔したくないのなら」

 

 ミュウはしばらく俯いて黙考していたが、顔を上げるとその目に迷いはなかった。

 それを見届けたヨハネス神父は微笑むと、 ミュウの頭を撫でる。

 その表情はとても穏やかで、目元には涙が浮かんでいた。

 

「ふわぁ……」

 

 ミュウの欠伸が、対談の終わりを告げる。

 

「つい、話し込んでしまいましたね。そろそろお開きにしましょうか」

「そうですね……ありがとうございました。おかげで何か見えた気がします」

「それは何より。ゆっくりお休みなさい」

「おやすみなさい、神父さま」

 

 部屋を出るミュウの背中を見送って、ヨハネス神父はひとり呟く。

 

「そうだ、ミュウくん。後悔しないでくれ……過ちを、繰り返さぬように……」

 

 幸いにも、呟きはミュウに聞こえていなかった。

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