太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
あたしが傭兵ギルドに加入して数日が経った。
ロッソママに酒場の二階にある空き部屋を住処として使わせてもらい、掲示板に貼り出された多種多様な依頼をこなす日々。
明らかに傭兵のやることではない鉱山採掘の補充人員から、方々を荒らす『眷属』クラスの魔獣を掃討する仕事まで、多岐にわたる依頼内容。
だが、それらは全て最低のG級マキナを持つ者を対象にした依頼である。
なので当然強くなった実感が湧かないのが現状。
『王』クラスの魔獣とすら闘えないのなら傭兵になった意味は果たして何だったのか。
マキナのランク制限とは実に厄介極まりない。古いマキナを勝手に譲渡した父にも責任はあるが。
ともあれ、今は無いものねだりをしていてもしょうがない。
今日も今日とて早朝に起床して日課のトレーニングを済ませてから、傭兵ギルドへの依頼を貼り付けてある掲示板に足繁く通う一日が始まる。
まずはBARのカウンターに座りミルクを注文してから、ロッソママにここ数日で感じた疑問をぶちまけるのだった。
「ロッソママ、マキナのランクって何をすれば上がるの?」
「あら、随分当たり前のこと聞くのね。マキナを
困っちゃったわね、とか呑気に構えてる場合じゃないんだけど、ロッソママ。
ちなみに
武器を作れる鍛冶の技術と、魔導具を作れる錬金術師の技術の両方を学んでいないとマキナが作れないので、この世界には数えるほどしかいないらしい。
「何かないの? 裏技、とか」
「裏技ってほどではないけど、現行ランク以上の依頼を受けられる方法ならあるわよ」
いや、普通にあったのかそういう方法が。聞かれなかったから答えなかっただけで。
「え、もしかしてアナタ、ずっとひとりで傭兵やっていく予定だったの? マキナのランクがどれだけ高くても『王』クラスの魔獣は強いんだから、人数で囲んでボコった方が勝率は上がるのが当然よ」
まあ、確かに。それは身に沁みている。
王都に着く前に闘った『森の王』は筋肉を鋼鉄に変える強敵だった。
それでも勝てたのは、小さな策士とジークリンデ小隊の加勢があってこそ。
このフロイデヴェルトは一対一が当たり前の格闘ゲームの世界ではなく、多対多を前提としたファンタジーRPGに近い世界ではあるので、元々格闘ゲームでずっとタイマンの喧嘩をやっていたあたしにとっては、まだ馴染めない部分が多い。
「つまり、マキナのランクが高い人とチームを組めってこと? 来たばっかりの頃は断ってたけど」
「そう。マキナランクが上のメンバーがいる傭兵団に入るか、自分で傭兵団を組織して自分のランクより上の傭兵を取り入れるか。マキナ強化以外ではこの方法が確実よ」
「傭兵団……かぁ」
「大丈夫よ。アチシがマッチングに協力してあげる」
ロッソママがお見合いをセッティングする仲介人に見えてきた。
とはいえ、そう簡単にあたしと噛み合うような傭兵団はいないだろうし、何よりほぼ素手で狂犬と呼ばれたリバー氏を負かせた来所初日の事件もあったので、近寄り難いと思っている人も少なからずいるだろう。
大して期待はしないことにして、ロッソママにお礼を言いカウンター席を立った、その時だった。
「ハァ!? 何言ってんだお前!」
酒焼けした野太い声が酒場内に響き渡る。
振り返ると、筋骨隆々なスキンヘッドの大男が、シスターっぽい格好のメガネ女性に文句を垂れていた。
はて、あのシスターっぽいの、前にこの辺りで見た覚えがあったような。
「ですからアタクシは、あなたたちを助けた分の金額を払ってくれれば、それでいいんですのよ」
「ふざけんじゃねえ! 何でお前に助けられただけで金を払わなくちゃいけねえんだ!? そもそもお前、助けたっつっても大火力魔法に俺たちを巻き込んだだけじゃねえか!!」
「あら、あなたたちのタフさを買っておりましたのよ、アタクシ。死ななかっただけマシと思いなさいな」
傭兵同士がお金でトラブっている光景など、ここでは日常茶飯事なはずなのだが、どうも様子がおかしいようだ。
大男の方が一方的に怒り散らしているように見える。
「俺もボリスに賛成だぜ。アンタの巻き添え食らって怪我をした。むしろ金を払うのはアンタの方だろ、ヤーナさんよ」
「ママに紹介された助っ人だか何だか知らないが、治療師に渡す金くらいは都合しやがれ!」
他二名も怒り心頭。おそらくはボリスと呼ばれているスキンヘッドと同じ傭兵団のメンバーだろう。
「まったく……よいですか、御三方。お金とは、誠意なのです」
ヤーナと呼ばれたシスター、とんでもないことを言い出したぞ……。ほら見ろ、三人も困惑している。
そういえば、ヤーナという名前も最近聞いたような……?
「お金があるおかげで、あなたたちは今こうして生きている。ならばあなたたちを助けて生かしたアタクシにお助け料を払うのは、当然の帰結でありましょう? 素直に『ありがとう』と感謝して、お金を渡してくれるだけで良いのですわ」
「通るか、そんな屁理屈!」
「思ったより金に汚えな!?」
つまりこの人は、三人の治療費よりも見返りのあるお助け料とやらを優先して徴収したいらしい。
これって多分アレでしょ、貰うもの貰ってそのままトンズラするパターンでしょ。早く治療費払ってあげなって、ヤーナさんとやら。
「なーにが金は誠意だ! テメーとは二度と組んでやらねえ! 行くぞお前ら!」
「そんなに金欲しかったら、他を当たれよな!」
「散財で破滅しちまえ、バーカ!」
言いたい放題愚痴って、スキンヘッドのボリスを含めた三人の傭兵団は不満そうな顔で酒場を出て行った。
一方、テーブル席にひとり取り残されたヤーナ女史はというと。
「まったく、薄情な方々だこと。全てはお金で解決できるというのに」
あろうことか、グラスに残った飲み物をグイッと飲み干していた。
あれだけの罵声を浴びせられた直後だというのに、メンタル強過ぎない……?
「何なのよ、あの人……」
「あら、あの娘が気になるの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「お目が高いわね。傭兵ギルドの中じゃ中々の問題児よ、ヤーナちゃんは」
ロッソママは、別に聞いてもいないのに彼女のことを語りだした。
ヤーナ・シェーファー、17歳。孤児院のシスター兼傭兵というとんでもない肩書きをぶら下げている。
金を稼ぐためというありきたりな理由で傭兵になったというが、言うだけあって金への執着は凄まじいもので、稼いだ金を自分の懐に入れてしまう。しかもその使い道がギャンブルに費やされるのだから、まともではない。
しかし彼女は、名うての
「ヤーナちゃんも、別に悪い娘ってわけじゃないのよ? ただ、お金を信じるあまりに中身が尖っちゃっただけ」
「そりゃ、さっきの傭兵団とも反りが合わなかったわけね」
「アチシとしては、レヴィンちゃんが手綱を握ってくれれば助かるんだけど」
ロッソママ、無茶振りが過ぎる。あたしのことを気性が荒い馬の面倒見が良い馬主だとでも思っているのだろうか。
「冗談言わないでよ。ロッソママもさっきの話聞いてたでしょ? あんなのと組んだら金がいくつあっても足りないわよ」
「ま、それもそうよね。でも彼女のマキナはA級だから、組んでおけばF級以上の依頼を受けられるわよ」
「えっ、A級!? 手作りなのに……」
なんてことだ。とんだハイスペック狂人じゃないか。
あたしの驚愕を聞いてか、ヤーナ本人がこちらに近づいてきた。
「たかが手作り、されど手作りですわよ。幾度もの試行錯誤を重ね、お金をかけて最高級の素材を加工し、最高の技術を駆使して仕上げる。アタクシのマキナは、そうした積み重ねの上でA級となったのですわ!」
うわっ、初対面でマキナの自慢を始めたぞこの人。
「こんにちわ、レヴィンさん。この間は良いものを見せていただいてありがとうございます」
「え、この間?」
「あの『狂犬リバー』を拳二発で倒した時、あなたにベットして正解でしたわ」
あ、思い出した。あの時のシスターさんだったのか。
「あたしに賭けてくれたのは、まあ、ありがと?」
「礼などよろしくってよ。アタクシ、大穴狙いが趣味なものですから」
「は……? 大穴?」
大穴狙い、という単語自体はテレビやら病院の待合室でスポーツ新聞を読んでいたお爺さんたちの雑談なんかで聞いたことはあった。
確か競馬とかそういう何かで、人気が低い分、当たればリターンがデカくなる、とかだっけ。
まあ、あたしが大穴なのも当然か。ついこの間傭兵登録したペーペーの新人、しかも魔導具が鈍った影響で、G級と認定されてしまった骨董品同然のマキナ持ち。おまけに武器は己の手足のみとくれば、外面だけで下に見られるのも頷ける。
「あたしに将来性を見た……ってことでいいのね?」
「そう捉えてもらって構いませんわ。アタクシ、投資は致しますが回収できぬほど注ぎ込むような馬鹿な真似は致しませんから」
ギャンブラーなのに意外と冷静に考えてるんだな……。
「それに大穴は当たればデカいんですのよ。一見注目されていないものでも状況次第では化けることもある……興奮致しませんこと?」
「いや、あたしだって少ない可能性に賭けるのは嫌いじゃないけど、興奮ってほどじゃ――」
「もしや賭場に行ったことがない、と? 人生損しますわよ」
そもそもギャンブル自体が損をする行為なのでは? と、あたしは思ってしまったが、口には出さないでおく。
「こらこら、あまり人を賭場に誘うんじゃないの、ヤーナちゃん。もしレヴィンちゃんが破産したらどう責任取るのよ」
ロッソママがグラスを拭きつつヤーナをやんわりと止めに入る。
「あら失敬。でも心配は無用ですわよ。彼女はいかなる誘惑にも屈しない……そういう眼をしておりますもの」
「いや、どんな眼よそれ? 過酷な環境で育った身だけど、そこまでガンギマリじゃないつもりよ」
「意外と自己評価は低いんですのね」
「こういう傭兵がひとりぐらい居たっていいんじゃないかと、アチシは思うけどね」
ロッソママは相変わらずマイペースである。
「そうそう、ママ。また新しい金づるを見つけていただきたいのですが」
金づるって言った! とうとう助っ人する予定の傭兵団のこと金づるって言ったよ、この人!
「あら、それならうってつけの人材がここにいるじゃない」
そしてロッソママもロッソママで、あたしを売ろうとする。いや、確かにA級マキナ持ちはありがたいんだけども! ヤーナとは仲良くやれそうもない!
「レヴィンさん、あなたまだフリーでしたのね」
「最近まで傭兵団に入るって発想がなかったからね」
「『狂犬リバー』を下したあの実力なら引く手数多でしょうに。もったいない話ですわ」
「あれは成り行きというか、なんというか……」
本当にその通りだから、言い訳しようもないんだけどね。
「レヴィンちゃん、あの実力でもマキナはちょっとした事情でG級ってことになってるのよ。あの私闘を見てなかった傭兵からすれば、路傍の石みたいに見えてるんでしょうね」
「ランク制度が恨めしいですわ……光り輝く原石が路傍の石にされてしまうなんて」
「まあ仕方がないわよねえ。大体の人間は外面でしか他人を見られないから。そういうわけで、はいコレ」
ロッソママは掲示板に貼り付けていたであろう三枚の依頼書をカウンターに広げてみせた。
「お試し期間ってことで、お互いの実力を測れそうな依頼を選んであげたわよ。仲良くふたりでこなしてきなさい」
お試し期間、か。強引に組まされるよりは、この方が気楽かもしれない。
いざとなればヤーナを置いて逃げればいいわけだしね。無論、そこまで薄情ではないけど。
それに、測定魔導具がA級と判断したほどのマキナを制作したユーザーだ。少しお手並みを拝見したいという気もする。
「では、これにいたしましょう」
ヤーナが選んだ依頼は――、
「わ……
空を自在に飛ぶ『眷属』クラスの魔獣、