太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第二話 「多分厄ネタだよね、これ」

 この異世界……フロイデヴェルトに来てから、一際目立つ高い岩山を己の手と脚だけで山頂まで登りきるトレーニングが、いつの間にか早朝の日課になっていた。

 

「はぁ……ふぅ」

 

 あたしは額の汗を拭いながら、眼下に広がる景色に目を向ける。

 見渡す限りの森や草原といった自然が広がる中、遠くには巨大な湖も見えていた。

 さらに視線を上げれば雲一つない青空があり、そこから太陽が顔を覗かせている。

 

 この世界にもちゃんとした四季があるのか、今は春くらいだろうか? 気温も暖かくて過ごしやすいし、この世界に生まれて十五年近く、随分と慣れてきたなと思う。

 

 そう、すっかり慣れた。()()()()()()()というべきか。

 

「すっかり山頂まで登るペースも早くなってきたのう」

 

 背を山頂に預けたあたしの目前に、ひらりと舞う蝶の羽根。

 

 あたしがこの世界に転生する羽目になった全ての元凶、その分体は、絵本で見たような少女の形を真似た妖精の姿をとっていた。

 

「アドバイスぐらいしかしてないのに師匠ヅラしちゃって……」

「当然じゃろ、この分体は機動力以外貧弱じゃからな」

 

 妖精はエッヘンと己の紙耐久を自慢げに語る。いや、そこ自慢するトコ?

 

「それに比べて向日葵……おっと、この世界での名はレヴィンじゃったか。随分筋力がついたモンじゃのう」

「流石は大自然と共に生きる狩猟民族ラグナ、前世のあたしより数万倍はタフなだけあるわ」

 

 雨上がりの水溜りを、鏡代わりに覗き込む。長い金髪をツインテールで結んだ、あたしの変わり果てた姿が映っていた。

 

 あたしがこの世界で生を受けたラグナ族は、フロイデヴェルトの中で一番大きいシュツルム大陸の東半分を支配圏とするウォルタート王国において、自然と共に生きる狩猟民族。

 太陽の光を全身で受け止めたような褐色肌と血のように赤い瞳、暗めの金髪が特徴だ。

 

 過酷な自然と共に生きた結果、筋肉がつきやすくなったのが玉に瑕。今ではあたしの腹筋は六つに割れている。

 腕や脚も筋肉質になってきたし、ちゃんとした平民の服が着られるのかすら心配になってくる今日この頃。

 

「ほっほーう、褒めても何も出んぞ?」

「別にそんなつもりはないけどさ……まあでも、こうして毎日のように鍛えてるおかげで体力ついたのは確かだしね」

「それは何よりじゃよ。ところでそろそろ気づいておるかの?」

 

 妖精がホレ、と指差した方角は北東。遠方ではあるが、黒いモヤが浮かんでいた。

 

「山火事、じゃないわよね? もしかしてアレが――」

「『魔獣』じゃよ」

 

 魔獣。

 

 目の前の妖精の本体であるこのフロイデヴェルトという世界の創造神『テラ』が、世界に突如侵食してきたウイルスと呼ぶ謎の存在。

 そのカウンターとしてこのレヴィン・ゾンネは生まれ落ちた。

 

 魔獣はあたしやこのテラ――妖精の分体は『リテラ』と呼んで欲しいと言っていたが――にとっての明確な、敵だ。

 

「なに、お主のおる集落からはまだ遠い位置におる。土地に根付いた太陽竜の加護も効いておるし心配は――って、待てい!」

 

 気付けば身体が動き、岩山を駆け下りていた。

 麓まで降りてきたところにリテラが追いつき、声をかけてくる。

 

「待てと言うておるじゃろ! いくら鍛えていたとて、今のお主じゃ魔獣は倒せんぞ!」

「だからって放置しちゃおけないでしょ! それにこれから対峙する敵なら、ひと目見ておきたい!」

 

 あたしはリテラと口論を交わしながらも駆ける脚を止めなかった。

 

「しょうがないのう……危ないと思ったら撤退も選択肢に入れるんじゃぞ!」

「わかってるっての! あたしだって二度も理不尽に死にたくないしね!」

 

 黒の瘴気が見える方角へ木々を跳び交いながら森を駆けていく。

 木製の武器ひとつ扱えないこの身でも、やれることはあるはずだ。

 

「……見えたッ!」

 

 走ること数分で見えてきたのは、遠目に見てもわかる巨大な熊型の魔獣だった。

 体長三メートルはあるだろうか? あれに突進されただけでも普通に死ぬかもしれない。

 

「それにあれは、馬車か? おそらく奴に襲われて横転したんじゃろうが……」

「リテラは生存者の確認を! あたしはどうにか足止めしてみる!」

「お、おう。さっきも言ったが無理はするでないぞ!」

 

 横転した馬車を背に、熊型魔獣と対峙する。

 向こうもこちらに気付いたのか、威嚇するように牙を剥き出しにして吠えている。

 

「グオオォォ!!」

 

「くっ……」

 

 ビリビリと大気を震わせる迫力に思わず怯みそうになる。

 けれど、ここで退くわけにはいかない。

 

「落ち着けあたし。心頭滅却だ。『ライナク』のレントもそうしてきたでしょ」

 

 息を吸って、吐く。呼吸を整えて、『ライジングナックル』シリーズの主人公・レントが構えていたファイティングポーズを、見様見真似で取る。

 軍用格闘技をベースに空手と中国拳法の要素を取り入れた総合格闘技『ライジングアーツ』、基本の構えを。

 

「来いッ!!」

 

 あたしの声を合図に、熊型魔獣は突っ込んできた。

 

「ガアァッ!」

「ふっ」

 

 それを紙一重のところで横に避けて回避する。そしてすれ違いざまに、脇腹へと拳を叩き込む。

 

「ゴアアッ!?」

 

 バックステップで距離を取ると、そこには目を丸くする魔獣の姿があった。

 手応えは、ある。だが今ひとつ足りない。

 

「グアアァァッ!」

 

「っとぉ!」

 

 魔獣は再びあたしに向かってきたかと思うと、爪を立てながら腕を振り下ろしてきた。

 あたしはそれをしゃがみこんで避ける。

 

「はあっ!」

 

「ゴフッ!?」

 

 振り下ろされる勢いのまま、今度は膝蹴りをお見舞いした。

 

 一応ダメージが通っているようだ。

 

「とはいっても――」

 

 手応えはある、足止めはできている。

 身体は大自然に鍛えられ、恥ずかしながら腹筋もバキバキに割れている。腕っぷしも充分だと自負している。

 

 なのにこれだけの成果をもってしても、完全に倒すことはできない。

 

「くっ、やはりマキナ無しではいずれ力負けしてしまう! せめて汎用型ぐらいどこかに落ちておれば――ぬっ!?」

 

 ここで退いては生存者を守れない、素手では倒せないのどん詰まり。

 そんな中で起死回生を告げるリテラの声が響いた。

 

「レヴィン、一旦そいつを吹き飛ばすなり足払いで転がすなりして、馬車の方に下がるんじゃ!」

「いきなり無茶言うんじゃないっての!」

 

 とりあえず何かで熊型魔獣の動きを封じればいいのは理解した。

 

 蹴りで砂を巻き上げて簡易目潰し、これで奴の視界を一時的に奪えたはずだ。

 

「よくやった、こっちじゃ!」

 

 リテラの案内で馬車に向かうと、馬車を操っていた兵士の死体と、彼が持っていたであろう槍を見つけた。

 思わず吐き出しそうになるのをぐっと堪える。

 

「もしかして、これ?」

 

「威力の弱い汎用型マキナじゃが、倒すには充分じゃろう」

 

 マキナとは、このフロイデヴェルトにおいて、魔獣に対抗できる唯一の魔導兵器群のことだ。

 大きく『汎用型』と『契約型』の二種類に分かれており、この槍は誰でも扱える汎用型、ということらしい。

 

「ごめんなさい、緊急時なのでお借りします」

 

 あたしは槍を手に取った。木製と比べると中々の重み。これが汎用型マキナか。

 目を潰した熊型魔獣に向き直って、あたしが今取る手は、これだ!

 

「セリャァァァッ!!」

 

 助走をつけて脳天をめがけての、槍投げ。

 鍛え上げられた筋肉から放たれた槍は風に乗り、音速を越えて――

 

「ゥガッ!!」

 

 見事、魔獣の頭を貫いた。

 

「やった……の?」

 

 致命的なダメージを受けた熊型魔獣は肉体を霧散させ、一欠片の禍々しい宝石を残して消滅した。

 

「ふぅ、冷や冷やしたわい」

「なんか石だけ残ったんだけど」

「あれは魔獣の力の源である魔石じゃ。商人に売れば高く買い取ってくれるから、へそくり代わりに取っておけ」

「なるほど、ね。そういえば、生存者は居たの?」

「居たには居たが……おーい、もう出てきて良いぞ」

 

 リテラに言われて馬車から出てきたのは、ボロ布を纏った少年と少女だった。

 どちらも赤みがかった髪で、少年の方は左目が前髪で隠れており、少女の方は右目を眼帯で覆っている。

 似通った顔立ちからすると、二卵性の双子といったところだろうか。

 

「まさかラグナ族の人が助けてくれるなんて」

「太陽の光を吸収したようなこんがり肌に、獲物を逃さない真紅の眼……ウワサは本当だったんだなぁ」

 

 双子が珍獣でも見るような眼であたしを見ている。

 

「しかも素手で魔獣と渡り合ってた!」

「すごいですよ、本当に。おかげで助かりました」

 

 双子の眼帯娘は『その強さに惚れた!』みたいな感じで目を輝かせており、もう一方の少年は素直に感謝を伝えてくれる。

 先程まで魔獣に怯えていただろうに、意外に元気だな?

 おまけに眼帯娘はあたしの太ももを触り始めて『すっげぇー!』と感嘆の声をあげている。

 

「とはいっても、兵士さんの槍がなかったら危なかったけどね。無事でよかったわよ」

「じゃがしかし、この者たち以外の惨状は酷いもんじゃ……」

 

「後で墓を作ってあげられませんか?」

「なに言ってんだよミュウ。まだ他にも魔獣がいるかもしれないぞ」

 

「その子の言う通りじゃぞ少年よ。わしは妖精のリテラじゃ。そっちはミュウと――」

「あっしはニューってんだ」

「あたしはレヴィンよ」

「うむ、では早速じゃが、お主らは一旦うちの集落に来い」

 

 それはあたしも言おうと思っていた。

 太陽竜の加護が根付くうちの集落なら、魔獣は入れない。一応避難所としては最適だ。

 

「いや、でもいいの? ばっちゃ……(オサ)は外様にはうるさいって印象なんだけど」

「忘れたか? わしも一応は外様の妖精じゃぞ。ついでに宴も開いてくれるじゃろうて」

「あっしは行ってみたいぞ! ラグナ族には怖いイメージがあったけど、レヴィンの姉貴はいい人だからな!」

「あ、姉貴って……」

 

 前世では妹だったから呼ばれ慣れないが、それはそれで悪い気分ではない。

 

「もちろんミュウも行くよな!」

「まあ、こんなことになってしまったので、落ち着きたいとは思ってましたし」

「じゃあ決まり!」

 

 割と頭が良さそうなミュウ君と、ライブ感だけで生きてそうで楽しげなニューちゃん。

 性格は正反対っぽいけど、双子仲は良好のようだ。しかし――

 

「多分厄ネタだよね、これ……」

「何か言うたか?」

「別に。ふたりとも、ちゃんとあたしについて来てね」

 

 双子から『はーい!』と元気のいい返事。

 少し緊張感の欠ける足取りで、あたしは帰路についた。

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