太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第二十六話 「思い当たる節は、全くない!」

 あたしたち五人とあたしの肩に座っている妖精を乗せた小舟が、王城地下に通じる水路を征く。

 

 小舟を漕ぐエメルを見て、あたしは罪悪感のようなものに苛まれていた。

 こんなルート、いち傭兵であるあたしが知ってもいいものか、と。

 

 いや、エメルがヤーナの知り合いってことはわかる。普通に名前呼んでたし。

 でもこういう秘密のルートを知っているってことは、つまり王族の関係者ということであって。

 

 ぐぬぬ、これはまたしても厄ネタなのか?

 あたし、そういう厄ネタを引き寄せる体質とかなのか?

 

 嘆いていてもしょうがない。ここはひとつストレートに聞いてみるか。

 

「エメル、あんたやっぱり只者じゃなかったわね。こういう抜け道を知ってる人間は限られてるだろうし」

「やはり、レヴィンさんは私のことを見抜いていらしたのですね」

 

 いや、見抜いたというか、単なる女の勘というか。

 

「私の本当の名はエメラリア・フォン・ウォルタート。王位継承権第二位の王女……つまりは現女王の娘でお姫様なのです」

「ウソでしょ……世間知らずっぽい印象はあったけどさ」

 

「姉貴はスゲェや、やっぱり! おーぞくの人と知り合いとか、一生自慢できるぞ!」

「まあ、最初はお姫様だなんて知らなかったからね。そもそも、なに城抜け出して正義執行って感じで街に繰り出してんのよ……お姫様なら城でじっとしてなさいっての」

 

「それができないのがエメラリアというお姫様なのですわ。八年ほど前になりますわね。アタクシとジーク、それに貴女で自称グナーデン自警団を結成してヤンチャしたのは」

 

 エメルから話に聞いていた自警団のメンバーがこんなところで判明するなんて……。

 世間は思った以上に狭いというか、なんというか。

 

「ええ。ですが昔話はまた今度にしましょう。そろそろ城の地下に通じる非常口です」

 

 エメルの言った通り、松明の灯りに照らされた入り口が視界に入る。

 非常口の扉の傍に人影が見えたので、警戒して咄嗟に構えをとった。

 

「ご心配なく、レヴィンさん。彼は私の協力者です」

 

 エメルは小舟を器用に操ると、扉の前の船着き場まで寄せていく。

 

「姫様、ご無事で!」

 

 人影が扉から離れ、エメルを迎え入れる。

 灯りに照らされて顕になった人影の正体は、背の高い細身の黒髪青年だった。

 

 あたしがこの世界に生まれてから初めて遭遇する、顔の整った美形の男性。

 左の目元にホクロがあって、それが妙に色気を感じさせる。

 

 あたしは前世から恋というものに縁はないが、美形の看護師を目で追うくらいには異性に興味がある。

 なので彼の顔を見て綺麗だなとは思いつつも、彼から聞いた初めての台詞が『姫様』だったので、一周回って落ち着いた。

 

 言っておくが、一目惚れと失恋をこの一瞬で経験したとか、そういうことでは断じてない。おそらく、きっと、メイビー。

 

「出迎え感謝します、フィン。城内のお母様たちの様子は?」

 

 エメルがフィンと呼んだ男性の手を取り、小舟を降りる。あたしたちもそれに続いた。

 

「生誕祭を前に影武者が殺されたのです。いずれは私自身もと、女王陛下は意気消沈しておられます」

「お労しや、お母様……お母様は言っておられました。今年の生誕祭を最後に王の座を次代に譲ると」

「ええ。その影響か、空気は不穏です。王位継承権を持つ兄弟姉妹の皆様も、誰の刺客かなどと言い争って疑心暗鬼になっておられます」

「やはりこうなってしまいましたか。巻き込まれた無実のジークも、たまったものではありませんね。お母様が生きているのが幸いではありますが、このままでは……」

「まずいでしょうね。真実を突き止めなければ、ウォルタート王家は……ところで姫様、ご友人のシスターや騎士ノルンはともかく、そちらの方々は?」

 

 ようやくフィンさんがこっちに目を向けてくれた。姫様ばっかり見て忘れられたのかと思ったわよ。

 

「レヴィン・ゾンネっていいます。今牢屋にいるジークさんにはちょっとお世話になりまして」

「私の命の恩人で、体術の先生になって頂く予定の御方です。ラグナ族ではありますが野蛮ではないので、苦手意識を解いても大丈夫ですよ、フィン」

「困ります姫様、そんなに濃い新情報をいきなり出されても、頭が追いつきませんよ!」

「そもそも姫様が勝手に言ってるだけなので、そんなに気にしないでください……こちらはミュウくんとニュー。同じくジークさんの世話になった子です」

「よろしくお願いします」

「します!」

「わしは妖精のリテラじゃ」

「あ、ああ。よろしく……変なのも混じってますが、いずれも騎士ジークリンデのために、ということですか、姫様」

「ええ、心強い味方です。まずは城の中へ。詳しい話はそれからにしましょう。フィン、案内を頼みます」

 

 エメルの言葉を受けて、フィンは先頭に立って歩き出す。

 

 あたしたちはその背中についていく形で、城の中へと足を踏み入れた。

 

 城内は外から見たよりも広いように錯覚させられる。廊下は長い上に、天井が高いせいだろう。

 しかし、装飾が少ない。質実剛健といった感じだ。

 

「牢屋はこちらです」

 

 先ほどまでいた入口からそれほど離れていない扉でフィンは立ち止まる。

 扉の傍にはふたりの兵士が立っていた。いずれも全身に鎧を身に着けていて、腰に剣を下げている。

 

「姫様。書記官様まで……どうなされたのです?」

「牢屋には女王陛下を殺そうとした大罪人がいるのですよ。こんなところにいては――」

 

「多少尋問をするだけです。『魔封じの枷』でマキナの解放(リリース)を防いでいるのなら、彼女は私に危害を加えないはず」

「後ろの彼女らも通して欲しい。ジークリンデの知人だ。見知った者が相手なら、何か重要な情報を吐くかもしれない」

「いえ、しかし……わかりました。お入りください」

 

 ふたりの兵士は牢屋に続く扉を開けて、中に入るよう促す。

 

 まさかこうも簡単に牢屋まで行けるとは。姫パワー恐るべし。

 フィンさんも何かと口が回る辺り、やっぱり文官なんだなぁと思う。

 

 蝋燭の灯りに照らされた牢屋へと続く階段を進む。するとすぐに、鉄格子で仕切られた空間が視界に入った。

 

「ジークさんはどこに?」

「こちらです」

 

 フィンさんの案内で通路の奥へ進むと、鉄格子の向こうに両手を枷で封じられている、空のように蒼い髪をしたポニーテールの騎士が、壁にもたれ、鼻ちょうちんを浮かべて爆睡していた。

 

 ジークさん、冤罪で牢屋に入れられたというのに案外呑気していらっしゃる。

 

「まったく、相変わらず緊張感の欠片もありませんわね。いらぬ心配でしたわ」

「まあまあヤーナ、起こせばいいだけですから」

 

 ヤーナ、エメルの自警団組は日常茶飯事であるかのようにジークさんの自由っぷりに呆れていた。

 

「そっちも苦労してたんスね……まあ、隊長らしいッスけど」

 

 ノルンさんにも少し笑顔が戻る辺り、ジークさんは本当に大物だと痛感する。

 

「でも起こさないと話を聞くのは無理そうですね」

「わしなら鉄格子の隙間くらい軽い軽い。鼻から出てる風船でも割っておくかのう」

 

 リテラは鉄格子の中に入り、膨張と収縮を繰り返すジークさんの鼻ちょうちんをしばらく眺めると、思い切り息を吹き込んだ。

 少しの破裂音と共に、鼻ちょうちんが割れる。

 音に気付いたのか、ジークさんはようやく目を覚ました。

 

「うむ……もう昼食の時間か……?」

「んなわけないじゃろうが」

「リテラ殿。それに――」

「あなたほどの騎士が、無様ですこと。お久しぶりですわね、ジーク」

「ノルン……レヴィンたちにエメル、書記官殿……それにヤーナまで。まさか私を――」

「助けに来たんじゃないか、って? お姫様の前でアンタの罪を重くするようなことはしないわよ。ただ無実で捕まったって聞いて、話を聞きに来ただけ」

 

 つまり刑務所の面会みたいな感覚である。経験はないけど多分そんな感じ。

 

「土産がないのは寂しいが、まあ有り難い。食って寝るだけの生活に飽きが来ていたところだ」

「捕まったのはものすごく最近なのに、飽きるのが早い!」

「まあ、牢屋生活も住めば都というわけにはいかんからのう」

 

 ジークさんは意外と快適な牢屋生活を送っていたようで、顔や脚などに拷問の痕跡は見当たらない。

 おそらくはさほど抵抗せずに牢屋入りを受け入れたのだと思われるが、その点については触れずにおこう。

 

「ジーク、あなたが冤罪なのはここにいる知り合い全員の評価から見ても明らか。その上で問いますわ」

 

 ヤーナが鉄格子を掴み、ジークさんを睨みつける。

 

「あなたに罪をなすりつけて騙したのは、どこの誰ですの?」

 

 ジークさんにヤーナが投げかけた問いで、あたしはようやく気付いた。

 この一連の事件には、悪意ある『人』の思惑が絡んでいる。

 

 今まで割と自由に騎士をやっていたであろうジークさん。彼女自体に悪意はなくても、無意識に誰かの心を傷つけていた、なんてこともあるかもしれない。

 

「思い当たる節は、全くない!」

 

 なので当然ジークさんの回答はこれである。

 

「情報によれば、とある人物が陛下の影武者を暗殺したあなたを目撃したというのです。時は昨晩……あなたにはアリバイがあるはずですわ」

「昨晩か。当然王城には行っていない。騎士団の宿舎でパンを食べながら寝ていた」

 

 アリバイ以前にその食べ方、行儀が悪すぎる!

 

「本人の言質は取りました。犯人は偽者で間違いはないでしょうね」

「あとは暗殺の目撃者、ですか」

「リテラ。告発した目撃者の顔、見たことあるんでしょ?」

「あるにはあるが、王族ってことぐらいしかわからんぞ。書記官殿なら知っておろう?」

「ええ、そのくらいなら――」

 

 フィンさんが目撃者の名前を告げようとした、その時。

 難しい話が始まって、退屈で欠伸をしていたニューが、何かに気付いた。

 

「みんな待って、足音だ! 三人くらい……誰かがこっちに来る!」

「噂をすれば、というわけですか……!」

 

 あたしはエメルをかばうように前に出て、構えを取る。と当時に牢屋の入口からひとりの男と護衛の兵士ふたりが姿を現した。

 

「モンドお兄様!?」

「お兄様って……エメル、この人が?」

「はい。暗殺現場の目撃者は私の兄……王位継承権第一位、モンド・フォン・ウォルタートです」

 

 よりによって王子が目撃者とは……面倒なことになりそうだ。

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