太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第二十七話 「野蛮人のラグナ族が口答えするのか?」

 モンド・フォン・ウォルタート。

 王子らしくその身なりは整っており、明るめの金髪は短めだが清潔感はある。

 顔立ちはフィンさんレベルか少し上くらいの美形で、十八歳くらいの歳に見えた。

 

 そんな見た目麗しい彼がわざわざ牢屋にやって来たということは、あたしたちがこっそり侵入していたことがバレたというわけで。

 

「エメラリア、妙な連中を引き連れて何をやっている?」

 

 あたしたちを見るモンド王子の眼は厳しい。

 

「お兄様、私はただ彼女に尋問を――」

「ならば数を揃える必要もないだろう。優しいお前のことだ、母さんの許可もなしに騎士ジークリンデを解放しようとでも考えていたに違いない」

「誤解です、殿下! 彼女らは騎士ジークリンデの部下と友人。暗殺を疑われたとの報せを聞き、面会に来たまでのこと!」

 

 フィンさんのフォローが光るが、それでもモンド王子は警戒心を解かない。

 

「フィン、お前がエメラリアを庇うのは勝手だが、騎士ジークリンデの友人を勝手に王城に入れたのはエメラリアだろう。王家にとっては部外者だぞ。どう言い訳するつもりだ?」

「それは……」

「エメラリアもエメラリアだ。ここ最近もひと度目を離せば城を出て街に繰り出し、自警団ごっこに興じている。お前も母さんの後を継ぎたいのなら、自分の立場を自覚しろ!」

 

 身内を相手に言いたい放題……ではあるのだが、正論しか口にしていないので返す言葉もない。

 

「しかしお兄様、騎士ジークリンデは頭の出来はともかく、民に慕われている騎士のひとり。いくらお兄様が彼女を目撃したからといって、この扱いはあまりにも――」

「エメラリア、お前の身勝手な正義で僕をあまり苛立たせるなよ……僕が見たのは間違いなく騎士ジークリンデだった! あいつが……あいつがメルセデスを!」

 

「メルセデス……って、誰?」

「殺された影武者の名前です。モンド殿下の婚約者でもありました」

 

 フィンさん、教えてくれてありがとう。

 なるほど、だからあそこまで憤っているのか。あたしも黙ってはいられない。

 

「殿下、お気持ちは痛いほどわかります。ですがどうか冷静になってください」

「何だと? 野蛮人のラグナ族が口答えするのか?」

「あたしたちは真実を知りたいだけなんです。殿下が現場を目撃した時、彼女は宿舎で爆睡していたとウラは取れました。確たる証拠はまだありませんが、騎士ジークリンデが無実である……そのことだけは断言させてください」

 

 思わず無礼にも訴えてしまったが、これでいい。

 モンド王子がこの事実を信じてくれるかは賭けだが、やらないよりはマシだ。

 

「フム……真実、か。僕が見たものは真実ではないと、そう言いたいわけか、君は」

「国家反逆の罪は決して軽くないことは重々承知しております。それを踏まえて、あたしたちに時間をください。彼女の被られた罪を晴らす時間を」

「ボクからも、お願いします!」

「あっしもおんなじ気持ちだ!」

「こんな隊長ッスが、どうか御慈悲を……殿下!」

 

 あたしがモンド王子に頭を下げ、それに続いてミュウくん、ニュー、ノルンさんも深々と頭を下げる。

 これでも駄目なら土下座を、とも考えたが。

 

「お兄様、これも王家のため……どうか!」

 

 エメルが両手を組んで頼み込むと、厳しかったモンド王子の表情がわずかに揺らいだのが見えた。

 これはもしかして……もしかするのでは?

 

「……三日だ」

「えっ?」

「『三日』と言った。それまでに暗殺者が騎士ジークリンデではないという証拠を持ってこない場合、彼女を刑に処す。これで満足か?」

「いえ……猶予を頂けただけ、ありがたく存じます」

 

 どうにかモンド王子が妹のエメルに甘いおかげで、交渉は成立したとみていいだろう。

 あとは、あたしたちが三日の間に冤罪の証拠を掴むだけ。

 

「フン、勘違いしてもらっては困る。妹の顔を立てて一旦は見逃してやる、というだけだ。城の外でエメラリアを誑かしたお前たちを許したわけではない」

 

 元自警団のジークさんとヤーナはともかく、あたしはエメルを悪漢から助けただけの縁なので、別に誑かしてはいないのだが。

 むしろ体術の先生にされそうで怖いというか。

 

「せっかく猶予を与えてやったのだ、せいぜい頑張ることだな。エメラリア、『お客様』を正門まで送ってやりなさい」

「わかりました、お兄様」

 

 モンド王子は護衛を連れて牢屋から出て行った。

 

「……ふぅ」

 

 肝が冷える思いだった。

 なにしろこの国を背負うかもしれない王子だ。失礼のないように言葉を選ぶだけで精一杯。

 格闘ゲームで対戦して分かり合う方が、まだ気が楽だ。

 

「すまない、皆……私のために」

 

 モンド王子が来てから静かだったジークさんが沈黙を破る。

 

「いえいえ、むしろ助かりましたわ。さっきまで余計な口を挟まずにいてくれて感謝します」

「確かに、やけに静かだったわね。寝てたわけでもないんでしょ?」

「どうやら私は、モンド殿下に嫌われているらしくてな。何か言ったところで無視を決め込むだろうと思い、黙っていたのだが」

「あの状況では仕方がありません。下手に言い訳をすればお兄様の機嫌は悪くなる一方だったと思います」

 

「ともあれ、わしらは王子殿下から三日の猶予を得た。時間は限られておるぞ」

「じゃあ、早速行動だな!」

「ニュー、落ち着いて。まずは改めて情報を集めないと。ジークさんが何も知らなかったから振り出しに戻っちゃったわけだし」

 

 ミュウくんの言う通りだ。

 今のあたしたちにはジークさんのアリバイ証言以外に使える手札がない。

 かといって暗殺現場を調べようにも、城の兵士たちが封鎖しているだろうし、簡単に許可は降りないだろう。

 

「皆さん、城内の調査は私とフィンに任せてはいただけませんか?」

「何か新しい発見があれば伝書で報せます。あなたたちは城の外から情報を集めていただければ」

「ありがとう、ふたりとも」

 

 エメルとフィンさんなら元々城住まいと城勤務だ。王城内を自由に動ける身分なので適任だろう。

 エメル自身もフィンさんがついてくれるなら安心だ。

 

「城の外から探るといっても……どうしたらいいんでしょうか?」

「ノルン、あの情報屋はどうだ? 魔獣教団のアジトを知っていただろう」

「隊長、忘れたんスか? 実際行ったらもぬけの殻だったじゃないッスか……でも、背に腹は代えられないッスね」

 

 ふむ、ジークリンデ小隊は魔獣教団を探っていたこともあったのか。

 もし今回の事件に関わっているのなら、ダリアと再会する日は近いかもしれない。

 

「じゃあ、とっととその情報屋とやらの所に行きましょ」

「場所はウチが知ってるんで、案内するッスよ」

「お願いします」

 

 さて、方針は決まった。エメルの案内で牢屋を出ようとすると、ジークさんが呼び止めてきた。

 

「皆、ありがとう。私はまだここに居る。必ず生きて再会しよう!」

「そちらこそ、勝手に餓死したら許しませんわよ!」

 

 ジークさんは満面の笑顔であたしたちを送り出し、ヤーナはそんなジークさんに減らず口で返した。

 ノルンさんも苦笑いしていたけれど、その表情にはどこか安堵の色があったようにも見える。

 

 まったく、人が良すぎるのよ、ジークリンデ・シグルドっていう人は。

 そんな人の信頼を、裏切りたくない。

 

 こうして、あたしたちの真実を探る三日間が始まるのだった。

 

 

 ※※※

 

 

 エメルの案内で城を出て、あたしたちはノルンさんを先頭にして件の情報屋がいるという路地裏へと向かおうというところ。

 

 ノルンさんによればその情報屋は物乞いに変装しているらしい。

 情報屋というのだから、せめて目立つ店ぐらいは構えていて欲しいというのが本音だが、蛇の道は蛇とも言うし、そういうものなんだろうか。

 

「情報屋との接触には合言葉も重要ッス。基本、あの人は信頼できる筋にしか情報を売ってくれないんスよ」

「気難しい人なんですね」

「偏屈、とも言いますわ。まあ、騎士団のいち小隊が頼るほどの情報屋なので、腕は確かでしょうけど」

「真犯人の情報が売ってるといいな!」

「そう都合よく行かないかもしれないけど、どんな藁にも縋らなきゃね。なにせ三日しか猶予がないんだから」

「焦るでない、レヴィン。三日『も』猶予があると考えるんじゃ。その間にやれることをやればよい」

 

 そうね、悔しいけどリテラの言う通り。焦ってジタバタしたところでしょうがない。

 今はとにかく情報が足りない。情報屋だけが頼りなのだ。

 

 華やかな大通りを逸れてしばらく進むと、鼻につく臭いがあたしの嗅覚を刺激するようになる。

 この路地裏は、あの明るい王都とは別の世界のように思えた。

 

「ここも同じ王都よね……? こうも雰囲気が違うなんて」

「よくある話ッスよ。繁栄の裏側にあるのは、いつだってこういう光景なんス」

 

 今歩いている道は、活気溢れる城下町のメインストリートとは似ても似つかないほど寂れている。

 壁や地面に染み付いた血痕が痛々しい。

 

 太陽の光もまるで差し込んでおらず、薄暗い影に覆われたそこは、陰鬱とした空気に支配されていた。

 

「貧民街、といったところですわね。活気を失った人間の成れの果て……嫌になる話ですわ」

 

 ヤーナもこの光景には何か思うところがあるようだが、今は触れない方がいいだろう。

 

 薄暗い路地裏を進んでいくと、テントらしきものが見えた。

 まさかこんなところに店を構えている人がいるとは思っていなかったので呆気にとられる。

 

「おかしいッスね……前に来た時はこんなテントなかったし、情報屋もここまで目立つことはしていないハズッスけど」

 

 ノルンさんの記憶にない光景となると、ますます怪しい。

 

「おや、お客様ですかな?」

 

 テントの中からしゃがれた声が聞こえた。

 

 いや、それよりもだ。テントを覗いてもいないのに、あたしたちがテントの近くに立っていると認識しているのか?

 テントの中にいる推定老人、只者ではないとみた。

 

「えっと……違うんス。その、この辺りで聞き込みしているだけというか」

「ほほう、だったら占っていきなさい。お探しのものが見つかるかもしれぬぞよ」

 

 占い師のテントだったのか。でも怪しいことには変わりない。

 

「どうしますの、これ……?」

「うーん、怪しさ満点ッスけど……」

 

 ヤーナとノルンさんの警戒心が強まる。

 そりゃそうだろう。いきなり占いしろと言われてハイ分かりました、となるわけがない。

 

 とはいえ、ノルンさんの記憶だけに頼って『見つかりませんでした』なんてオチは避けたい。

 タイムアタックのつもりはないが、時間は有限。怪しかろうと早く済むのならそれに越したことはないだろう。

 

「ここは占ってもらった方がいいんじゃない? もし情報屋が物乞い以外に変装してたら、探すだけで時間の無駄になるわ」

「わかったッス」

 

 あたしたちはテントをめくり、中へ。

 

 火の精霊が灯すランプを吊るしている以外に灯りはなく、しかしそれでいて路地裏よりは明るいテントの中。

 

 丸いテーブルに水晶玉。そして椅子に腰掛けたローブ姿の占い師がいた。

 顔はフードに隠れていて何も見えないが、声はしゃがれていたのでお爺さんであることは間違いない。

 

 この怪しげな姿を見てダリアのことを思い浮かべてしまい、少しムカついてしまうも、気を取り直してあたしたちは占ってもらうことにした。

 

「来てくれたみたいだね。足音からして五人ほどかい」

「音って……占い師さん、もしかして目が――」

「心配してくれてありがとう、坊や。でもね、別に悪いことばかりじゃないんだ。見えないおかげで随分とよく聞こえるようになったしね」

 

 なるほど、だからテントの外にいたあたしたちを察知できたのか。

 

「さて、入ってもらったからにはお客様だ。自分の未来、人探し、仕事運。なんでもいいよ。それなりにお金は頂くけどね」

「人を探してます。詳しくは言えませんけど、この辺りに物乞いのふりをして物を売ってる人なんです」

「あいわかった。探し人の名前を言ってくれれば、もっと詳しく占えるよ」

「シモンって名乗ってたッスね。男性ッス」

「じゃあ、ちょっと探してみるかいね」

 

 占い師が水晶玉に手をかけてブツブツ言っているが、おそらくこれは詠唱だろう。

 その証拠に水晶玉の中で煙のようなものが渦を巻いて、何かを形作っているのが見える。

 

 この水晶玉はおそらく魔導具なのだろう。遠見の魔法で見た映像を映しているとかそんな感じの。

 目が見えなくてもイメージがある、という感覚なのだろうか。

 

 やがて水晶玉がくっきりとした映像を映し出すようになる。

 場所は路地裏、ひとりの男性を中心に景色が動いている。

 おそらくシモンという名の情報屋だろう。

 

「まだこの辺りにはいるが、誰かに追われているようだの」

「追われてる? 誰に?」

「視点をなんかこう、ぐるりと回せないんスか?」

「無理。旧式じゃこれが限界じゃぜ。しかしこれが本当なら急いだ方がええかもしれん」

「って言われても、路地裏のどこに向かえばいいんですの?」

「行き止まりに的を絞れば吉兆アリ、と出たわい」

「ありがとうございます!」

 

 テーブルにお代を置いて、あたしたちは早々にテントを出る。

 

「またおいで」

 

 などと占い師の声が聞こえたが、気にしてはいられない。情報屋に、命の危機が迫っている。

 

「まったく、何でこういう大事な時に狙われてるのよ、情報屋ァ!」

「情報屋は恨まれるのが仕事、みたいなところは少なからずあるからのう」

「何度か来てるので、行き止まりは知ってるッス! こっちへ!」

 

 ノルンさんを先頭に路地裏の道をひた走る。

 急がなくては、情報屋が死んでしまう。

 

 またしても起こる面倒事に、あたしは一抹の不安を覚えるのだった。

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