太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
王都の路地裏はまるで迷宮のように入り組んでいて、道を知っているノルンさんが先頭にいなければ迷子になってしまいそうだった。
あたしたちはノルンさんを追いかける形で路地裏を駆けていく。
幸いにも同じ道をグルグル回るなんてことはなく、件の情報屋・シモンは意外と早く見つかった。
行き止まりで怪しい黒フードを被った不審者に追い詰められ、今にも何かされそうである。
「ああっ、シモンさんが!」
「あたしが行く!」
今いる位置なら不審者に跳び蹴りが届く距離だ。あくまであたし基準での話だが。
助走をつけて跳び上がる。高度は周辺の二階建て建造物の全高を余裕で越え、そのまま不審者めがけて流星のように、特撮ヒーロー顔負けの跳び蹴りを放つ!
「セリャァァァァッ!!」
遮蔽物を使わずそのまま放った空中専用必殺技『メテオ・シュート』。
フードの不審者に当たるかと思われていたそれは、突如現れた大鎌の刀身によって防がれた。
「この鎌……まさか!?」
すかさず大鎌で身体を弾かれるも、受け身を取って事なきを得る。
「あラ、誰かと思えバ……」
不審者がまるで何事もなかったかのように振り返り、フードを取る。
その黒い出で立ち、大鎌のマキナ、どこか癪に障る声色。
忘れるはずもない。
かつてあたしたちの集落を焼き、父を殺した、あの女だ。
「私の顔を思いっきり殴ってくれた、レヴィンちゃんじゃなイ」
「ダリア……何でアンタがこんなところに?」
「さア、何ででしょうネ? 当ててご覧なさイ」
あたしがダリアを睨んでいる間に、後ろからノルンさんたちが追いついてきた。
「あの人、知り合いなんスか? どうにも険悪ムードみたいッスけど」
「姉貴のパパを殺した、悪いヤツだ!」
「レヴィンさんの親の仇ですの!?」
「こんな時に出くわさなくていいのに!」
ミュウくんの意見はごもっともだ。よりによって情報屋を襲おうとしてたのが彼女だったなんて。
「あたしはアンタのつまんない問答に付き合ってる暇はないのよ。そこの情報屋はあたしたちが探してたヤツ……勝手に狙わないで欲しいんだけど?」
「勝手に狙うなっテ、随分な言い草ねェ。そんなに彼が必要ってことなのかしラ」
「いいからそこを退きなさい。どうしてもそいつの情報が必要なのよ」
ダリアが何故情報屋のシモンを狙っているのかは知らないが、あたしたちも狙っている以上は争奪戦となり戦闘は避けられないだろう。
あたしは少なからずそう考えていたのだが、ここでダリアは意外な行動に出る。
「仕方ないわネ。情報は逃げないし、のっぴきならない事情があるのなら、順番を譲ってあげル」
「はぁ……!?」
なんとこの一触即発な空気で、あっさり引き下がる素振りを見せたのだ。
おかしい。少なくとも占い師が映したビジョンでは、彼を狙っていたはずだ。
それが何故こうも簡単に……?
だが、今のところ情報屋は無事だ。たとえ罠だとしても、なんとか保護したい。
いざとなれば、あたしの身体を盾にしてもいい。刃物を通さない……とまではいかないが、こちらには鍛えられた筋肉がある。あまり自慢したくないけど。
「レヴィンさん、これって絶対に罠なんじゃ……」
「わかってる。でも、見捨てるわけにもいかないでしょ。ヤーナ、いざとなったら三人を連れて遠くに逃げて。飛べるマキナ持ってるの、アンタしかいないから」
「無茶振りも大概になさいませ。いくらなんでも『シュツルムウォーダン』でアタクシと一緒に飛ばせる人数はひとりが限度ですわ」
「だったら、三人ともウチの後ろに。このウチの盾は汎用マキナの『リーゼシルト』ッスけど、大抵の衝撃は耐えられるッス!」
「ノルンさん、お願いします」
あたしは情報屋を保護するために前へ進む。
道を譲ったダリアの傍を通り過ぎ――彼女の口元がにやけていたのをあたしは見逃さなかった――、行き止まりで座り込んでいる情報屋の前に立った。
「情報屋のシモンさん、ですよね。あたしたち、ちょっと急ぎで買いたい情報があるから一緒に――」
早くここから連れ出そうと手を差し伸べた、その時だった。
「避けて、姉貴! そいつ、『本物』じゃない!」
ニューの声が聞こえた次の瞬間、情報屋が懐からナイフを取り出し、あたしの首筋を目がけて突き刺してきた。
とっさに腕でガード。ナイフは深く右腕に刺さってしまう。
本来筋肉は鍛えれば鍛えるほど頑丈になる。
しかしそれでも注射針が刺さるように、鋭利なものを完全に弾くことはできない。
あの『森の王』があらゆる攻撃を通さなかったのは、エーテルメタルの原石であるマギニウムをありとあらゆる筋肉に循環させた結果、鋼鉄の身体になったというだけ。
人間は限界を超えて身体を鍛えても筋肉は鋼鉄になれない。
鉄分は含まれていても、人の肉であるのだから。
「ぐっ……!」
助けようとした人間に刺されたのは初めての経験だった。
それだけに、ニューの言っていた『偽者』という言葉が気にかかる。
「いったい……どういうつもりよ!?」
「どういうつもりも何も、こういうことよ!」
ナイフを刺してきた情報屋から女性の声が出たかと思えば、情報屋の姿が複数のコウモリとなって分散し、再び集まって人の形を取り始めた。
その姿は先程の情報屋のものではなく、黒く露出度の高い服を纏った、銀の髪の妖艶な女性。
頭にある角と背中に生えている大きなコウモリの羽根が、彼女の異常性を物語っていた。
「ウソでしょ……変身魔法だったの!?」
「そウ、大っぴらには禁術とされている変身魔法の術式……この娘、カミュラはそれを編み込んで造られた魔獣の実験体なのヨ」
「こんばんわ、皆さん」
深々とお辞儀をするカミュラと呼ばれる人間ではないモノ。
変身魔法という言葉自体は完全に当てずっぽうだったが、どうやら禁術として実在するらしい。
いや、ちょっと待って欲しい。
なぜ魔獣なのに人に近い姿で喋るのかはともかく、彼女が情報屋に変身した偽者だということは――!
「なに言ってるのよ……本物の情報屋はどこに行ったの!?」
「もちろん、自分が念入りに殺して差し上げました。あの方は信者に扮してネタを集めていたようなので、ダリア様が教団に対する裏切りと判断なさりまして」
「わかりやすく言えバ、裏切り者には死をってヤツ」
あたしは髪を結んでいた左のリボンを解いて、右腕に刺さったナイフを抜き、左手と歯で止血する。
ひとまず応急処置はこれで大丈夫だろう。事が終わればミュウくんの治癒術式に頼ればいい。
「それにしてモ、いい眼を持ってるのネ、そのコ。生まれつきか後付けか知らないけド、『遠見の魔眼』なんて王都の裏オークションでも高値がつくほどのレア物ヨ」
ダリアは誰のことを言っているのかと振り返ると、ノルンさんの後ろにいるニューが普段は眼帯で隠していた右目を顕にしているのが見える。
いつも目にしている左目の水のように青い瞳とは対照的に、ニューの右目は赤く輝いていた。
「うっ……よかったぁ……姉貴が腕だけで済んで」
「ニュー、あまりそっちの眼で見ないでってあれほど言ったのに!」
ダリアが言うところの『遠見の魔眼』とやらを使って疲れたのか膝をつくニューと、それを支えるミュウくん。
ジークさんも気になっていたニューの秘密がこんなところで判明するとは思っていなかったが、少なくともニューのおかげで致命傷は避けられた。
後で大好物でも奢ってあげよう。
「変身魔法を使えて、その上言語を理解する魔獣なんて……それこそアタクシ達が知っている『王』クラス以上じゃありませんの!?」
「王都には巨大な城壁と魔獣の侵入を防ぐ結界があったのに、まさかこんな強力な個体の侵入をいつの間にか許していたなんて……騎士団としては不甲斐ない限りッス」
「アラアラ、絶賛の嵐じゃなイ、カミュラ」
「感謝の極み」
深々とお辞儀するカミュラ。魔獣とはいえそこまで淑女的なのはどういうことだろう。
ともかく情報量は多いが、ダリアがこのカミュラを使って何かを企んでいるのは理解した。
「さてト、やることも終わったし帰りまショ」
「はい、ダリア様」
「待ちなさいよ!」
情報屋を殺して成り代わっておいて、そのまま去ろうとするんじゃない。
あたしは頭に来ている。父を殺されたあの時から、ずっと。
このダリアという女は、殴りたくなるほど、気に食わないのだから。
「あラ、何? これでも忙しいんだけド――」
「
あたしは左腕に籠手を顕現させ、
しかし、あたしの一撃は割って入ってきたカミュラの両手によって防がれた。
利き腕のパンチではないとはいえ、太陽の魔力を
ヤーナの魔獣の『王』クラス以上という評価も強ち間違いではないかもしれない。
「危ない危ない。ダリア様を殴ろうとするなど、自分が許しませんよ」
「いくらアンタが主に忠実だろうと、知ったこっちゃないわ!」
防がれた左腕を振りほどき、あたしはハイキックを繰り出す。
次の瞬間、カミュラの身体はコウモリの群れに変化し、キックは空を切った。
「自分相手に接近戦とは、無謀極まりない!」
「後ろ!?」
カミュラはあたしの背後で人の形に戻り、あたしを羽交い締めにする。
そしてあたしが振りほどく間もなく、上へ飛んだ。
そう、飛んだのだ。あたしの脚は地面からみるみるうちに離れていく。
「レヴィンさん!」
ミュウくんの声が遠ざかる。
バサバサと羽ばたくような音がしたので、おそらくはカミュラが翼を使って飛んでいるのだろう。
高度は周りの建物をあっという間に越えて、王都を一望できるほどの高さにまで達していた。
城壁の向こうには夕陽が見える。そうか、もう夕方だったのか。
「フフッ、よき眺めですねぇ。せいぜい最期の光景として目に焼き付けておきなさい」
カミュラはどうやら、あたしをこの高さから落とすつもりらしい。プロレスのスープレックスのように。
つまり五体満足で立てる保証はない、ということだ。
「カミュラ、だっけ。じゃあ、最後に教えてよ」
「いいですよ。どうせこれから散る命、何を答えたところで減るものはありません」
「あの、あそこに見える立派な城。入ったことあったりする?」
あたしは頭を王城に向けて、質問する。
もしかしたら、というあたしの勘が外れていないことを祈りたい。
「白昼堂々と入ったことはないですね。自分、夜行性なので。でも自分の便利な術があれば、潜入も容易い。王家もしくは関係者の血を吸うだけで、その人に簡単になりきれる。最高じゃないですか」
「そう……じゃあ、あの城に出入りしたことがある空色の髪をした頭残念な騎士の血も吸ってたってわけね」
「ああ、元アジトを何人か率いて漁ってたあの騎士のことですか。ええ、吸いましたよ。ダリア様の目的のために、利用させていただきました」
「……そっか」
あたしを掴んだまま着々と高度を上げていたカミュラは、ここで上昇を止め宙返り、急降下に入る。
死への落下が、始まった。
「でも、もう死ぬあなたには関係のない話ですけどねぇ!!」
「……アンタが話せる魔獣でよかった」
「へっ……?」
「おかげで遠慮なく、状況を覆せる!!」
この時を待っていた。あたしはあたしを掴んでいるカミュラごと身体をひねり、位置を入れ替える。
あたしは上で、アンタは下だ!
「えっ、ちょっ、待っ――」
いきなりの行動にビックリしたのか、カミュラはあたしを掴んでいた腕を放す。
自由の身になったあたしはカミュラの首を掴んだ。
あとは落下エネルギーと二人分の重みに身を任せるだけ。
「負けてらんないのよ、アンタなんかにィィィ!!」
あたしたちはそのまま、元々立っていた石畳の地面に、衝突した。