太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
カミュラを逆に地に叩きつけ、有言実行の形勢逆転。
盾を構えていたノルンさんの後ろにいる双子からは安堵の表情が見えた。
「すごい! 相手が飛べる不利な状況がレヴィンさんの有利に裏返った!」
「どんなもんだい! 魔獣のジッケンタイだかジュウマンダイだか知らないけど、姉貴には敵わないぜ!」
本当に嬉しそうなミュウくんと、舎弟根性丸出しのニュー。
そんな喜びムードを遮るように、リテラの声が響いた。
「油断するでない、まだ終わっておらん!」
声が聞こえた刹那、カミュラの首を掴んでいた手の感触がなくなっていた。
辺りにはコウモリの群れ。カミュラが変身して拘束を逃れたのだ。
カミュラはそのままダリアの傍に逃れ、また人の形を形成していく。
「フフッ、手痛い反撃を食らっちゃったわネ」
「笑い事じゃないですよダリア様……人間だったら普通死んでますって」
「人間だったら、か……」
見た目がほぼ人間なので魔獣であることを、あたしは一瞬忘れていたらしい。
当たり前だが、魔力を込めた攻撃でないと魔獣は倒せない。首を掴んだ時に
「ノルンさん、聞いて。ジークさんに成り済まして暗殺未遂の罪を被せたのは、コイツよ!」
「マジッスか! 確かに変身魔法ほどの禁術なら可能かもしれないッスね」
「諦めたフリをして言質を取ったから間違いないわ」
「だったら遠慮はいりませんわね。
ノルンの後ろにいたヤーナがマキナを顕現させて、前に出る。
風杖の先端に風を纏わせて、ハンマーのように振りかぶり、カミュラに向けて放つのは――。
「『ハンマー・
風の塊で出来た戦鎚を、ふたりの敵に叩きつける。
しかしそれを読んでいたふたりはバックステップで躱し、カミュラは翼を広げ上昇、ダリアは左右の壁を蹴って建物の屋根まで登った。
「チッ、逃がしませんわよ!」
ヤーナは風杖を地面に向けて風を爆発させる。ヤーナの身体は一瞬で浮き上がり、ロケットの如くふたりにめがけて飛んでいく。
いや、普段そうやって飛んでるの!?
「ヤーナ、いかん! ヤツの攻撃は――」
リテラの警告を聞く間もなく、事態は動く。
あたしには見えた。ダリアの気に食わないニヤケ顔が。
ダリアがひと度指を鳴らせば、落ちるのだ。
風よりも疾い、雷が。
「あ……がっ……!」
空の雲から零れ落ちた雷が、ヤーナに直撃。
矢を射られた鳥のように、彼女の身体は万有引力に従い落ちる。
「ヤーナ!」
あたしは落ちてきたヤーナを身体で受け止めた。
「ヤーナさん、大丈夫ッスか!?」
「風の結界を展開するのがあと数刻遅れていれば、おそらく即死でしたわね……」
「ふぅ……ヒヤヒヤさせおって」
どうやら判断が早かったおかげで無事のようだ。風の結界とやらで雷の威力を分散させたのだろうか。
「カミュラから聞いたってことハ、わかってるんでショ? 私達の目的」
ダリアが上からあたしたちを見下ろし、妖しい笑顔で告げた。
「『陛下』はこの国がお嫌いなノ。女王様を殺そうとしたということハ、そういうことヨ」
「目的を知られたところで、我が魔獣教団がやることは変わりません。せいぜい指を咥えて見ていなさい……この王都を中心にウォルタート王国が死んでいく様を」
「じゃあネ、無力な皆様」
カミュラはコウモリの群れに姿を変えて飛び立ち、ダリアはテレポートのように姿を消した。
「行っちゃいましたね……」
「ですが真犯人は特定できた。後はとっ捕まえて、あのシスコン王子に一泡吹かせてやるだけですわ」
「そうね。アイツにまだ負けたわけじゃない」
少なくとも勝機は見えた、と思いたい。手探りの状態から希望が見えてきた。
「何をしようと止めてやるわよ。アイツの好きにはさせない」
そうだ、ここからは――。
「ここから背水の逆転劇、決めてやるわよ!」
あたしが覚悟を決めた傍らで、リテラは『わしが育てた』とでも言いたげな後方師匠面を決めていた。
※※※
『BAR フェストザール』の二階にあるあたしの部屋。
戻った頃にはすっかり日も落ち、双子月が弧を描いて顔を出していた。
今のあたしはナイフで刺された右腕を、ミュウくんの治癒術式で治してもらっている。痛みも引いてきたので、ひと眠りすれば傷口は塞がるだろう。
部屋にはあたしとミュウくん、リテラの他に、ノルンさんとヤーナもいる。今後の動向について話し合うため、あたしの部屋に招いたというわけだ。
ただひとり、ニューだけはとある人物を迎えに行かせている。ジークさんの無実を伝えた上で連れてくるように頼んでおいた。
「ミュウ。その話は
「はい。話し声をたまたま聞いて……あの声は間違いなくダリアさんでした」
リテラの問いに対し、ミュウは真剣な表情で答える。
ミュウくんはそのとある人物とダリアの話を一部始終聞いており、魔獣教団と何らかの関係があると睨んでいたらしい。
「それにしても、まさかあの人がかつて教団と関わっていたなんて……ヤーナさんは知らなかったんスか?」
「薄々勘付いてはいましたわ。あの方は聖人ではありますが、時々辛い表情をなさる時があって……言えぬはずですわね」
「かつて魔獣教団に居たのなら、何かを知っているかもしれない。苦行を強いることにはなっちゃうけど、この夜を越えれば猶予は残り二日……なんとか聞き出さなくちゃ」
ジークさんは魔獣教団の目的のために姿を利用されたに過ぎない。
なんとしてもアジトに乗り込み、カミュラを目撃者のモンド王子に突き出さなくては。
「おっと、噂をすれば……来おったな」
部屋の扉からノックの音が三回鳴る。こちら側からもノックを二回返した。
これはあたしからニューに伝えていた合図だ。本人確認、と。
暗殺者でないことを確認し、扉をこちらから開くと、ニューと彼女に連れられた男の姿があった。
『ミルフィーユ孤児院』のヨハネス神父さまだ。
「待ってました、神父さま」
「これは、いったい……ノルンさんに、ヤーナまで」
「神父様、ジークが冤罪で捕まったことは知っていますわよね?」
「はい。私もその報せを聞いてすぐ王城まで抗議に伺ったのですが、相手にしてもらえず――」
ヨハネス神父の言葉に嘘はないのだろう。悔しそうな顔つきをしている。
「実は、そのジークさんのことで来てもらったんです。彼女をハメた黒幕が、わかりました」
「本当ですか!?」
「魔獣教団ッス。人間に変身できる魔獣を使って、奴らは隊長に罪を着せたんス」
「教団……!」
魔獣教団の単語を聞いたヨハネス神父の顔色が一瞬で青ざめる。
教団にただならぬ恐怖を抱いていることの証明だろう。
「そんな……もうやめてくれ……私からこれ以上何も……奪わないでくれ……!」
「神父さま、どうしたんだ!?」
「その反応、よほどトラウマを植え付けられたようですわね、神父さま……」
ヨハネス神父が頭を抱えて、怯えから竦む。
神父さまの身体から恐怖が蘇っているのが、目に見えてわかる。
「ハァ……ハァ……申し訳ない、お見苦しいところを……」
「いえ、そんな……まさかあそこまで酷く怯えるものだとは思わなくて」
「神父さま……やっぱり神父さまは魔獣教団に――」
「ミュウくんは賢いね。お察しの通り、私はかつて魔獣教団の信者だった」
ヨハネス神父の口からその言葉を聞いて、あたしは少し安堵した。
神父さまが『かつて』と言った以上、今は魔獣教団と縁を切っていると見ていい。
もし彼があたしたちの動向を探りに接触してきた教団のスパイだったら、教団の名前を聞いても怖がらずに、あたしたち全員をすぐに始末していただろう。
それが出来ないのなら、信用できる。
少なくとも、あたしはそう思う。
「私は元々、飛び抜けて運の悪い人間でして。理不尽な理由で親から捨てられたことを皮切りに、私の人生はどんどん悪い方へと転がり落ちていった。この残酷な世界を、憎んだことすらありました」
「……だから求めたんですね。魔獣教団に、救いを」
「最初はほんの気休めに過ぎませんでした。しかし、教団の教えに触れるにつれ、少しずつ心が満たされていくのを感じたのです」
「教え……って?」
「『
「なんじゃと……!?」
リテラが突然憤りを露わにする。
「魔獣は世界のバランスを崩すような存在じゃぞ……それを神の御使いじゃと!? 魔獣教団というだけあって、奴らのイカれ具合は度を越しておる!」
「得てして悪徳宗教とはそういうものですわ。人の弱い心に付け入る謳い文句としては、もう少し捻りが欲しいところですけど」
「我ら人類にとって、魔獣は共通の驚異。それは私も理解しています。しかし教団は魔獣を『人類同士の争いを終わらせた救世主』と捉えているようで……」
「人類同士の争いを終わらせたって、そんなわけ――」
「いや、捉え方によってはそう見えるのも、ありえなくはないかもしれません」
ミュウくんが何かに気付いたようだ。本当にこの子はあたしが気付かないことによく気付く。
「考えてもみてください。魔獣が最初に現れた時、何をしていったのか」
「確か二十年ほど前にあった王国と帝国の戦争中、割り込むように現れて両国の軍を蹂躙していったって聞いてるッス」
「その後両国は停戦条約を結び……待ってくださいまし! 見方を変えれば、まるで
「少なくとも魔獣教団の信者はそう信じ込んでいる、ということです」
なんてことだ。教団はそんな形で魔獣を信仰していたというのか。
そもそも王国と帝国は魔獣の出現から一時的に停戦しただけで、睨み合いは未だ続いているとリテラから聞いている。
だからなのだろう。魔獣教団の在り方に違和感を覚えてしまうのは。
「私も魔獣の力を借りれば、この不幸から抜け出せる……そう信じていた頃がありました。ですが、新たな魔獣を生むための生贄、魔獣のための殺戮……もはや幸福とは程遠い活動に私の心は擦り切れ、気がつけば私は……教団を抜け出していました」
「そして孤児院で神父に、というわけでしたのね」
「神父となったのは、いわば贖罪のためでもありました。私が手にかけた命、見捨てた命、救えなかった命……その犯した過ちの全てを濯ぐ途中。それが今の私という男です」
ヨハネス神父の眼に浮かぶは、後悔の涙。きっと彼は今でも悔やんでいるのだ。自分の弱さ故に見殺しにした人たちのことを。
「神父さま……ボクは……」
「いいんですよ、ミュウくん。秘密とは、遅かれ早かれ明かさねばならぬもの。それが今だっただけのことです」
ミュウくんの頭に、未だ震えているヨハネス神父の手が乗る。
「ジークリンデの冤罪に魔獣教団が関わっていたというのなら、私も過去に怯えてはいられませんね」
決意を新たにしたヨハネス神父の顔にはもう迷いの色はなく、代わりにその瞳に宿るのは――闘志。
「私に出来ることがあれば、協力させてください。魔獣教団のことなら、少しは力になれるはずです」
ここに、頼れる協力者がひとり増えた。