太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その四 「アタクシが賭け事で狙うのは、常に大穴!」

 王城地下にある牢屋。ジークリンデ・シグルドは両腕を『魔封じの枷』に封じられながらも器用に寝ていたが、ふと夢見を悪くしたのか、夜更けに目を覚ました。

 

 換気窓の向こうには、夜空に浮かぶ月がふたつ。

 

「ふむ……まだ夜だったか」

 

 無実の罪で収監されたとはいえ、牢屋には未だ彼女ひとり。

 筋力トレーニングも両手が封じられた状態では、腕立て伏せすら厳しい。

 要はひとりで退屈を持て余しているジークなのであった。

 

(この夜空の下にひとり……昔を思い出す)

 

 ジークは天井を見上げながら、かつての日々を思い出していた。

 

 十一年前……グナーデン自警団を結成する少し前まで、ジークリンデという名の少女は、ひとりの騎士の背中を見て育った。

 

 その騎士の名はエリック・シグルド。ジークの父親だ。シグルド家は太古に邪なる竜を退治した英雄の血筋であり、代々シグルドの血を継ぐ者は騎士として民を守る使命を帯びるという。

 

 そんな家に生まれたジークもまた例外ではなく、物心ついた頃には父と共に剣を振るっていた。

 父は強く逞しく、誰よりも尊敬できる自慢の父だったが、いつも帰りが遅いのが玉に瑕だった。

 母は早くに亡くなり、幼いジークを育てたのは父である。

 

 ある日、父の率いる騎士中隊は任務のため遠い地へ遠征し、そのまま帰ってこなかった。

 残されたジークは父の訃報を知り、ひとり涙を流すことしかできなかった。

 

(それから私は孤児院に預けられたんだったか。金にがめついお節介に連れられる形で)

 

 ジークを孤児院に連れてきたのが、ヤーナだった。彼女が孤児院を抜け出して夜の街に繰り出していた時に、たまたま宛てもなく彷徨っていたジークを助け、そのまま引き取った形になる。

 

 孤児院に預けられた後も、ジークは剣の鍛錬を欠かさなかった。

 

(父の志を継いで、立派な騎士となる。そんな生きる目標が見えてきた頃だったか、城を抜け出したエメルと出会ったのは)

 

 エメルとの初対面を思い出そうとしていた時、ジークは音を聞いた。誰かの足音が近づいている。

 正体は灯りを持ったエメルだった。

 

「あら、起こしてしまいましたか?」

「いや、寝付きが悪くてさっきから起きていた。エメル、またこっそり寝床を抜け出すのが上手くなったな」

「あまり褒められたものではありませんけどね。王族としては評価されない特技ですから」

 

 誇らしげに笑うエメルに、ジークも釣られて笑う。

 

「私やヤーナと初めて出会った頃も城を抜け出していたな、キミは」

「人の上に立つ者ならば、実際にこの眼で王都の様子を見たいと思うのは当然。でも周りが中々外出を許してくれないので、こっそり抜け出すのは苦労しました」

 

「やはり女王陛下や侍女は言うに及ばず、モンド殿下も未だエメルに厳しいと見える」

「厳しいというか過保護というか……いずれ女王になるのだからと、厳しく接してくださっているのだと……って、今更ですね」

 

 エメルはこの国において、王位継承権第二位に位置する姫である。

 しかし自分なりの正義感や民を想う気持ちが強すぎる影響で、彼女はよく城から抜け出す癖があった。

 

「エメルも、眠れないのか?」

「事の重圧と、目の前の親友が心配で。はい、調理場から拝借した果物。あの少ない食事じゃ物足りなかったでしょう?」

「ありがたいが……いいのか?」

「いいんです。おとなしく姫の施しを受けなさい。……なんちゃって」

 

 お茶目に微笑むエメル。ジークはその様子を見て、安心したように息を吐いた。

 

「キミは昔から変わらないな。自分が信じる道を往き、その道を決して曲げない」

《まったく、たまには曲げて欲しいものですわね》

「はっはっはっ、無茶を言うなヤーナ」

「人間、急に別人にはなれませんよ……って、どこからヤーナの声が……?」

 

 突如割り込んできた聞き覚えのある声にエメルは辺りを見回すが、人影すらまるで見当たらない。

 

《ここですわ、ここ。窓ですわ》

 

 エメルは声のした窓の方に目を向ける。

 視線の先には、月明かりに照らされた小動物の影が、赤い眼を光らせていた。

 

「ひゃっ、ネズミ!?」

《新鮮な反応ありがとう、エメル。理由あって使い魔で失礼しますわ》

「ネズミがヤーナの声で喋った!?」

《ジークの反応はオーバーすぎて逆に面白みがありませんわね……普段バカなのに慣れすぎたせいでしょうか》

 

 冷静に突っ込むヤーナの声。窓の縁に立っていたネズミの使い魔は、そこから跳び下りてジークの前を通り過ぎ、鉄格子の間を通り抜けた。

 エメルが恐る恐る手を伸ばすと、小さな白い手に飛び乗ってくる。

 

《エメル、あまりジークを甘やかさないでくださいまし。調子に乗らせるとすぐつけ上がるんですから、コイツ》

「その心配性なところはヤーナに間違いありませんね」

「久々に三人集まったな、グナーデン自警団が」

 

《お昼時に押しかけた時はフィン書記官やレヴィンさんたちも居ましたし、確かにこうやって三人だけで集まるのは久しぶりですわね。アタクシだけこういう形ですけど》

「細かいことは気にするな」

「そうですよ。みんながそれぞれの道に進んでから、こうして集まれたのならそれで良いじゃないですか」

 

 エメルの再会を喜ぶ言葉に、ヤーナは自分が気にし過ぎなのか、と言いたげなため息をつく。

 

「で、どうしたんですか? こうして使い魔を寄越したのですから、何かジークの冤罪のことで成果があったとお見受けしますが」

《城を出てから色々ありましてね。アタクシとしてもこんなに早く事態が進展するとは思ってもいなかったのですが――》

 

 ヤーナは使い魔であるネズミの口から、昼間に城を出てからの一部始終を語った。

 

「何? 変身魔法で私に化けていた魔獣だと!?」

「事件の黒幕は魔獣教団……確かに禁術そのものを使う魔獣を手懐けていても、不思議ではありませんね」

 

《モンド殿下の見間違いも、一応これで説明はつきますわ。あとはアジトに乗り込んで、そのカミュラと呼ばれていた変身魔獣を捕まえてから王宮審問官に突き出せば丸く収まる……そういう筋書きの予定になっております》

 

「希望が見えてきました!」

「ヤーナ、ちょっと待って欲しい。教団のアジトはこの間私の小隊が突き止めたが、もぬけの殻だったぞ」

《元教団信者の協力者が言うところによると、教団には拠点が複数あるという話。ジークが突き止めたアジトも、そのひとつに過ぎなかったということでしょう》

「なるほど。事態が急速に進展したのは、その協力者のおかげなのですね」

 

 顎に手をやり、エメルは考えを巡らす。

 

「しかし拠点が複数ある中で変身魔獣を見つけようとなると、二日では足りないかもしれません。最悪騎士団を総動員させてでも――」

《エメル、その必要はなくてよ。今多くの民衆に疑われているのはジークというひとりの小隊長。殆どの民衆にとっては騎士とは『個』ではなく『全』。この事案に姫の権限で騎士団全体を巻き込んでしまっては、民衆による騎士団の信頼低下に繋がる恐れがありますわ》

「でも私は! 友としてジークを助けたい! 友を見捨てるくらいなら、姫の位など要りません!」

 

 ネズミの口から、何度目かのヤーナのため息が漏れる。

 

《エメルは変わりませんわね……決断力と行動力だけは人一倍。自警団もあなたのようなリーダーがいたからこそ、道が分かたれるまでやって来れた。次代の女王に必要なものを、あなたは持っていますわ》

「ヤーナ……」

《だからこそ! あなたは今、周りに迷惑をかけるべきではない!》

 

 ヤーナの口調が厳しいものに変わる。

 

《下手に動けば、危ないのはあなたの方ですわ、エメル。汚れ仕事はアタクシたち傭兵に任せて、あなたは王家とそこのバカを守ることだけ考えなさい》

「……ズルいです。私がまともに戦えないからって、姫としての私の都合を押し付けて……」

 

《エメルは一国の姫、ジークは騎士、アタクシはシスター兼傭兵。それぞれ戦える戦場が違う、というだけ。別に姫としてのあなたを押し付ける気は毛頭ないのですが、ジークを助けたいのなら身の丈に合わない無茶はしないこと。お互い大人になったのです、ひとりで自制して頂かなくては困りますわ》

「そう……ですね。すみませんでした」

 

 エメルは肩を落とし、しょんぼりと反省した。

 

《まあ気持ちはよく分かりますわ。アタクシだって同じ立場なら、きっと似たようなことをしていたでしょうし。でも、あなたが本格的に動くべきなのは、ひと通り全てが終わった後。それまではどうか、三人の中で唯一動けるアタクシに任せてくださいませ》

「はい……お願いします」

 

「とはいえ、だ。大まかな話はわかったが、騎士団自体が頼れないとなると、どうやって変身魔獣を探すつもりなのだ?」

《お忘れかしら? 王都には騎士団の他にも頼れる戦力が、アタクシを含め多くいるということを》

「そうか、傭兵ギルド!」

「傭兵ならば依頼を出せば、お金のためにやってくれます! それに戦力としてもオンリーワンで強力な契約型のマキナユーザーが多い、とも聞きました。騎士団の代わりは充分に果たせますよ!」

 

《ふたりとも理解が早くて大変よろしい。それでは、()()()の話に移りますわよ》

 

 ヤーナが唐突に振ってきた報酬金の話に、エメルは首を傾げる。

 ネズミの口から、計算器特有のシャッシャッ、という音が聞こえたような気がした。

 

「あれ? ちょっと待って、ヤーナ。もしかして――」

《エメル、言わんとしていることはわかりますわ。ですがこれもジークの罪を晴らすため……背に腹は代えられませんわ》

「ヤーナ、キミが言うように私はバカだが、それでもキミがお金絡みで何かを企んでいることぐらいはわかる。キミは依頼の報酬金を、どこから出すつもりでいるのだ!?」

 

《無論! ()()()()()から!》

「えぇっ!?」

 

 ヤーナから飛び出した規格外の発言に、エメルはやっぱりと思いながらも驚愕する。

 

《元々そのことを話し合いたくて使い魔を寄越したのです。変身魔獣調査に優先すべきはとにかく数。多くの傭兵を駆り出すためには、ひとり当りだけでも相当な金額を提示する必要がありますわ。そのために何としても、エメルと王家の資金力が必要なのです》

 

「本気……なのですね?」

《当然。エメルも知っていますでしょう? アタクシが賭け事で狙うのは、常に大穴! わずかな可能性に全力を賭ける勝負師であることを!》

 

「わかっています。外れた時の反動がとんでもないことも、そのせいで危なくなったことがあることも。でも……!」

《アタクシは今こそ、それを実行できる時だと踏んでいますの。もし失敗しても、アタクシが全責任を負います。国外追放でも何でも、好きにすればいい。どうかアタクシを、この王都中の傭兵たちを……信じてくださいませ》

 

「ヤーナ……」

「ネズミ越しだが、覚悟は伝わる。そういう声だ。やはりヤーナは、昔から変わっていない」

 

 ジークは昔を思い返すように、天井を見上げた。

 彼女の脳内に、自警団時代の様々な思い出が駆け巡る。

 

「普段こそ暴走しがちな私たちの抑え役だが、お金の扱いに関しては特にうるさかったな」

「はい。『お金は誠意の形ですが、お金で買えないものもある』なんて、よく言ってましたね」

「私たちグナーデン自警団は、そういう『お金で買えないもの』で繋がった仲間、とも言っていたな。ヤーナがただ金に狂った女というわけではないという、確かな証明でもある」

 

 顔をエメルに向けたジークの眼は、優しい光を帯びていた。

 

「エメル、ヤーナの覚悟を汲んでやって欲しい。私たちは信じるべきだ。ヤーナが狙う『大穴』を」

「……そうですね。私という友が、ヤーナを信じないでどうしますか!」

 

 力強く拳を握りしめたエメルが、立ち上がる。

 決断力の早さはひとり自警団となった今でも、変わらない。

 

「ヤーナ、お金の話をしましょう。ひとまずの報酬額を見積もって、明日にでもギルドに依頼を提出します」

《毎度あり、ですわ。あ、言っておきますけど、書類を書く際に依頼主の名義を匿名にするのを忘れないでくださいませ》

「わかっています。姫が依頼したなんて知られたら、どんな騒ぎになるかわかりませんから」

 

 王城の地下牢にて、秘密の盟約はここに結ばれた。

 

(私は友に恵まれたな……自警団のエメルとヤーナ、小隊のみんな……それに、今頃は傭兵となっているであろう、善きラグナ族のレヴィンと彼女を慕う双子たち……)

 

 恵まれた。恵まれすぎた。

 自らを無よりやって来た罪から救うために、動いてくれる者がいる。

 

 ひとり檻に閉じ込められても、騎士としての剣を封じられても。

 ジークリンデ・シグルドは、決して孤独ではなかった。

 

「みんな、ありがとう……」

 

 そんなジークの安堵を示すかのように牢屋に響いたのは。

 

 彼女自身の、腹の虫が鳴る音だった。

 

「安心したら、腹が減ったな!」

「さっき食べましたよね!?」

《やっぱりコイツ、バカなのでは?》

 

 エメルとヤーナによるツッコミが響く地下牢で、彼女はまた誇らしげに笑い続けるのであった。

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