太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第三十話 「嫌なのよ……あたしの目が届かないところで死なれるのは」

 ヨハネス神父という元魔獣教団信者。

 闇に堕ちかけていたとはいえ、彼は根っからの聖人といえる人間だ。

 

 そんな彼の協力を取り付けたことで、ジークさんに罪を被せた冤罪事件は大きな進展を見せた。

 彼から得た古い情報ではあるが、魔獣教団はこの王都に複数の拠点を構えているという。

 

 その多数のアジトの中から、あのカミュラと呼ばれていた変身魔獣をどう探すか、という話になると、ヤーナから提案が持ち上がった。

 

「少々手荒な手段にはなるかと思いますが、期限が迫っている現状では、アタクシが考えている策が最善手ですわ。色々と準備もありますので、明日にでもギルドの掲示板に目を通してくださいませね」

 

 などと言っていたが、何をやらかすつもりなのだろう。

 ヤーナのことだから、ギャンブルの大穴狙いのようなトンチキな策に違いない。今から不安になってきた。

 

 そこからは夜も存分に更けているということで一旦解散の流れになる。

 

 ヤーナは孤児院に戻るヨハネス神父を護衛するためについて行き、ノルンさんは騎士団の宿舎に戻って小隊員やニコラウス騎士団長と情報交換へ。

 ミュウくんとニューは、あたしの部屋に泊めて欲しい、と自ら申し出があったので、ロッソママに許可を取り、久しぶりに一晩を共に過ごすことになった。

 

 いつものようにリテラも一緒ではあるが、まあ大した問題ではないだろう。

 ともあれあたしは、隠していた魔眼を使ったり、神父さまを迎えに行った功労者であるニューの背中を流そうと、ロッソママの許可を得て浴場を使わせてもらうのだった――。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 普段はロッソママが使っているというプライベートな浴場は、広すぎず狭すぎず、ひとりの大人とひとりの子供が使う分には申し分ない広さがある。

 

 王都のどこかにあるという大衆浴場とは天と地ほどの差、などとロッソママは零していたが、それでも前世で使っていた病院の風呂場くらいの面積はあるので、これくらいの方がありがたい。

 

 さて、こういう時に一番はしゃぎそうなニューではあるが、今日ばかりは様子が違う。

 眼帯を外した後も露骨に右眼の魔眼を手で隠して、モジモジしているのだ。

 ようやくニューが口を開いたのは、服を脱いで浴場に入ってからだった。

 

「あの、さ。姉貴……」

「何よ?」

「やっぱり眼帯外して身体洗うの、ナシにしないか?」

「今更恥ずかしがることでもないでしょうに。そっちの目だけ瞑ってればいいでしょ?」

「いや、恥ずかしいとかそういうんじゃなくて。姉貴があっしのこの右眼に何も言ってこないから、気になって……」

 

 そういうことか。一応気になっていなかったのかといえば嘘になるが、ニューのプライバシーに配慮して何も言わなかった、というのが本当のところだ。

 でも路地裏の時は、その『遠見の魔眼』の力をあたしを助けるために使ってくれたんだよね。

 

「そんなこと気にしてたの? 別にニューの右眼が普通と違っても、ニューはニューじゃない。気味悪がったりしないわよ」

「姉貴……あっさりすぎないか? あっしも割と悩んでたんだけど」

「悩んでた割には、その眼で助けてくれたわよね? どんな力があるか、まだよくわかってないんだけど」

「むぅ……ジークじゃないけど、返す言葉もないってヤツだな」

 

 ニューの身体にお湯をかけて、石鹸で洗い始める。

 

「ミュウが言うにはな。あっしの魔眼には、少しだけ先の光景を見る力っていうのがあるんだってさ」

「つまり数秒か数分か、それくらい先の未来が見える能力ってことね。だから『遠見の魔眼』か。カッコイイじゃない」

「そ、そうか……? 帝国じゃ魔眼持ちは珍しくて怪物みたいな目で見られてたけど、姉貴から見ればカッコ良かったんだな」

「帝国の連中に見る目がなさすぎるのよ。ロマンが欠片もわかってない連中だったのね、帝国民ってのは」

 

 アインハイト帝国は話に聞いた程度しか知らないが、出会った頃の双子が帝国のことを話していた様子からして、ロクでもない国であることはわかる。

 ロマンがわからないということは、つまりそういうことなのだろう。

 

「ロマン、か。そういう風に言ってくれたのは初めてだよ。きっとこの眼をくれたアイツも浮かばれるだろうな……」

「ん? 今なんて言ったの? 声が小さくて――」

「なんでもない! 姉貴、今度はあっしが背中流すよ!」

 

 何か大事なことを聞き流してしまったような……まあいいか。

 それからはミュウくんがうっかり浴場に入ってくるなんてこともなく、本当の姉妹のような洗いっこをして、時間が過ぎていった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ニューは身体を洗って着替えた後、あたしのベッドですぐ眠りについた。

 リラックスした今になって、魔眼を使った時の疲れがどっと押し寄せたのだろう。

 

 ミュウくんは先程浴場へ向かった。

 冗談混じりにあたしが『よかったら背中流すわよ』なんて言ったら、少し考える仕草を見せて、何かに気付いたと思ったら顔を赤くして『お気持ちだけで……』などと、恥ずかしげに返答したのが印象的だった。

 

 なんというか、男の子なのに反応が女の子みたいだったので、ゾワッと内なる母性が目覚めそうだったというか。

 別にあたしはそういう趣味とか無いハズなのにね。地球じゃ犯罪だが、このフロイデヴェルトでは合法なのかどうかも怪しい。今はどうでもいいけど。

 

 あたしもストレッチしてから床で寝ようか、と思っていたところにリテラが来た。

 なんだなんだ、睡眠妨害ですか?

 

「ニューの魔眼もビックリじゃったが、今は魔獣教団のことに集中せえよ」

「わかってる。それにしても、未だに信じられないわね。人間に化けられる魔獣がいるなんて」

「もしかしたら、わしらが見たカミュラとやらの普段の姿も、ヤツに殺された誰かが基になっているのかもしれんな」

「あんまり怖いこと言わないでよ……安眠妨害しに来たんなら、どこか行って」

「酷いのう、わしもこの部屋の住人じゃぞ」

 

 しょんぼりするリテラを尻目に、あたしは予定通りストレッチを始める。

 

「レヴィンよ、ほぼ成り行きから魔獣教団と戦うことになったが、王都全体の教団拠点を根絶しても、おそらく全てが解決するという虫のいい話は無いじゃろう」

「まあ、ダリアは幹部だって名乗ってたし。それだけ教団の規模はデカいってことなんでしょうね」

「そうじゃな。じゃが、わしは何故魔獣というウイルスがフロイデヴェルトを蝕んだのか。その答えを知る手掛かりが、この先にあると思っておる」

「我々にとっては大きな一歩になるかもしれない、ってやつ? あたしも気にならないといえば嘘になるけど、気にする余裕はないかもね」

「救世主として、少しは気にしてくれんものかのう」

「忘れかけた頃に救世主ってお題目掲げるの、やめてよ……あたしはただ人並みの幸せが欲しいだけの、ちっぽけな人間だから」

 

 人並みに幸福な普通の家に生まれることこそ叶わなかったが、普通の幸せの中で充分に生きてから死にたい、というあたしの夢は前世から変わっていない。

 

 でも、それはあくまであたし個人の思想。そこに『ダリアをきちんと殴りたい』とか『知り合いが冤罪で処刑されそうなのを見て見ぬ振りはできない』だとか、そういうエゴを混ぜることで、なんとか自分の中の感情を誤魔化しているに過ぎない。

 

 自分が正しいと信じてはいけない。前世でも周りに支えられたから、そう言える。

 だからあたしは救世主なんてなりたくないし、なりたいとも思えない。

 きっと独り善がりは、とっても寂しいから。

 

「だからちっぽけなりに言わせてもらうわ。あたしは負けたくない。面倒な知り合いとはいえ、縁を結んだ知り合いが困ってるのを見過ごしたら、それだけであたしが負けたことになる。嫌なのよ……あたしの目が届かないところで死なれるのは」

 

 思い出すのは、前世にてあたしの目が届かぬ遠き地で死んだ兄のこと。

 もう二度と、あの喪失感を味わうのは御免だ。

 

「……尊い」

「なぜ泣く?」

「心が眩しすぎじゃ、阿呆! そういうとこじゃぞ! 救世主ポイント一〇〇加算ッ!」

「ポイント制!?」

 

 もう本当に何なんだろう、この創造神(分体)は。

 まさに過大評価の化身という感じ。アイドルの推し活を怠らない熱烈ファンに近いのかもしれない。

 

「見てますかガイア様ぁ! あなだが生んだ魂はぁ……エッグ……こうじで立派に救世主とじでぇ! 努めを果たじでおりますぞぉぉぉぉ!!」

「汚っ、ツバかけるな汚いウザッ! 声もデカいから! ニューが起きちゃうでしょ!」

 

 結局リテラはミュウくんがグラウを抱いて浴場から戻ってくるまで、歓喜の声を喚き散らかした。

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