太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
夜が明けて朝。
あたしたちに与えられた猶予も残り二日。
双子と一階の酒場まで降りてくると、朝の時間帯にしてはやけに人が多いことに気付いた。
ギルドの受付のどれもが珍しく傭兵でごった返している。
「おはよう、レヴィンちゃん。ごめんなさいね、騒がしくて」
そんな中でも変わらずバーテンの立ち位置をキープしているロッソママ。安定感があって助かる。
「いったい何があったのよ?」
「ウチに匿名で依頼が来たのよ。緊急性があって、規模と報酬がデカいヤツ」
「どんな依頼なんです?」
「これよ」
ロッソママが差し出したのは、『緊急依頼』と書かれていた依頼書。
あたしの後ろからその依頼書を覗いていたリテラが、内容を読み上げた。
「なになに……『魔獣教団の拠点調査もしくは壊滅。依頼の達成失敗問わず、依頼を受けてくれた傭兵全員に百億
「ひゃ、ひゃくおく……って、どれくらいの大金なんだ!?」
「それにオプションとして『変身魔獣カミュラを捕獲もしくは討伐してくれた傭兵には追加報酬を与える』って……この依頼、まさか――」
実際に遭遇したのならまだしも、カミュラの名を知っている傭兵は限られている。
こんな依頼書を書いたのはあたしが知る中で、ひとりしかいない。
「あらあら、大繁盛ですわね。やはり持つべきものは……
ものすごくウザいドヤ顔で参上した天才守銭奴ギャンブルシスター、ヤーナ・シェーファーだ。
「やっぱりアンタの仕業だったのね。百億なんて金、どっから出てきたのよ?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃありませんの」
「金額が全然細かくないんですけど!?」
「そこは集客力重視ということで。ちなみに報酬金を提示したのはアタクシではなく、匿名の知り合いということでひとつ」
つまりオフレコというわけか。
ヤーナの知り合いで百億をポンと出せる人……なんとなく理解できてしまった。そりゃあ匿名で依頼出すしかないよね、王族だし。
「手段はともかく、これなら拠点をひとつずつ探すより効率的ですね」
「アチシたちギルド職員にのしかかる負担は、まるで計算に入ってないけどね。皆には後で特別休暇あげちゃおうかしら」
「太っ腹なロッソママはさて置き、レヴィンさん、こちらを。依頼は予めアナタの名義で枠を埋めておきましたわ」
ヤーナはあたしに黒い羽根のようなペンダントを三つ渡した。
「ニューとミュウくんの分もあるみたいだけど、これは何?」
「魔獣教団の信者である証のペンダント、そのレプリカですわ。協力者の話を基にして即興で再現したものですが、これさえ持っていれば本物の信者に怪しまれることは、まず無いと言ってよろしいでしょう」
えっ、昨日の今日でこんなものを用意してたの!?
ヤーナ、昨夜ちゃんと寝たのだろうか。心配になってくる。
「今のところはアタクシのも含めて四つしかできていませんが、依頼を受けた傭兵全員分のレプリカを作るのも時間がかかりますし、そもそも傭兵の皆さんは大抵が脳筋というイメージが頭から抜けないので、潜入という手段を取ることすら稀だと勝手ながら思っております。傭兵団を組んでいる者がいれば、代表の一人に渡すくらいで丁度いいかもしれませんわね」
いや、間違っちゃいないんだろうけど……ヤーナみたいに頭の回転が速い傭兵も居るかもしれないし。酷い風評被害な気もする。
「決行は今夜。モンド殿下が与えてくれた猶予も今日を入れて残り二日ですから、明日中には決着をつけねばなりません」
今夜、か。随分と急ではある。
あたしの『ソルマドラ』は太陽の光を浴びてこそ、無尽蔵の魔力で戦える。
しかし太陽が出ていなければ、鎧の中に蓄積された魔力とユーザー自らの魔力のみで戦うしかない。
過酷な節約縛りプレイを要求されるが、ここは仕方ないだろう。
ジークさんの冤罪を晴らすためにも、優先すべきはカミュラの早期発見、然る後に捕縛しモンド王子に突き出すことだ。
「厳しそうだけど、やるしかないわね。そうと決まれば――」
あたしは頬を両手で叩いて気合を入れ直し、覚悟を決めた。
「訓練よ!」
ヤーナが露骨に『やはりレヴィンさんも脳筋でいらっしゃった』みたいな顔をしているのは気にしないことにした。
※※※
鍛錬の場に選んだのは、騎士団本部にある訓練場。
騎士団のいち小隊長であるジークさんが収監されている都合上、騎士団員はもちろん、部外者の出入りすら禁じていたのだが、ノルンさんから騎士団長に頼んで頂き、特別に許可を得て使わせてもらうことになった。
まあほぼ駄目元だったのだが、ニコラウス騎士団長は父の知り合いということもあってあたしを高く買っているようなので、いらぬ心配だったようだ。
そして、あたしがこれから行う訓練というのが――、
「一対多数の対人訓練、ですか?」
「イメージの中では飽きるほどやってきたけど、実戦形式に勝る訓練はないって言うでしょ? 教団の信者や構成員が束になって襲ってきたら、いくらあたしでも捌ききれないもの」
「レヴィンちゃんって、あれだけ強くて対人戦の経験、思ったより無かったんスね……意外ッス」
「まあ多数とはいっても大抵獣相手だったし、人間同士のトラブルとかそういうのとは無縁の生涯送ってきたから」
「ラグナ族の集落は人里離れておるし、外から来るのも贔屓の行商人くらいじゃったからな」
リテラさんや、遠回しな田舎者アピールはちょっと恥ずかしいんですが。
「それで、具体的にはどういう訓練にするんですか?」
「集団戦の訓練にはとにかく人数が必要なんだけど――」
今この訓練場にはあたしとリテラ、ニューとミュウくん――と、ミュウくんの服の中が好きなグラウ――、それにヤーナ、監督役としてノルンさんと、彼女に随伴する形になった同じ小隊員のサンズ、マグ、バングの三人組。
ノルンさんは小隊の盾役だから攻撃要員としては心許ないので、あたしを攻撃する役は実質小隊の三人組になるわけだが。
「足りない、なんて欲張っちゃいられないわね。ここで訓練できるだけでも儲けものだし」
「集団戦訓練の最初は三人とかそんなもんで大丈夫ッスよ。もしアジトみたいな密室で戦うのなら、これくらいを想定した方がやりやすいと思うんス」
「なら、そうしてみようかな。それじゃあ御三方、本気であたしに打ち込んできてください」
あたしはやる気満々で構えるが、相手役の三人組は木剣を手にはすれど、どこか及び腰になっている。
「いや、たかが訓練でマキナを展開するわけにはいかないってのは承知してるんだが」
「仮にも素手相手だから、ちょっと抵抗があるっていうか」
「キミが素手でも充分強いのは知ってるんだが、それでもな……」
「皆さんの隊長は、あたしに本気で打ち込んできましたよ」
それなら敢えて、彼らの戦意を煽ってみるか。
「それとも、あたし相手には本気を出す価値もないと、そう仰いますか」
「……いいだろう。そこまで言われて引き下がれはしないさ!」
「その喧嘩、買ったぜ!」
「後で後悔しても遅いからな!」
わざと挑発的な物言いをしてみたが、案外乗ってくれるものだ。三人組のやる気が伝わってきた。
「そうと決まればマグ、バング! あの陣形を試してみるか!」
「アレをやるのか、サンズ!?」
「いいとも、やってやろうぜ!」
三人組がひとしきり相談してから、改めてあたしに向き直り――、
「よし、いくぞ!」
まずは一番体格の良いサンズが、あたしに向かって突進してくる。
彼はあたしの目の前まで迫ると、大上段に振りかぶった木剣を力任せに叩きつけてきた。
あたしはその真っ直ぐな攻撃を最小限の動作で右に避ける。すると、
「しゃあッ!」
サンズの後ろからマグがあたしの避けた方に跳び出して、突きを放ってきた。
脳天狙いは想定していたので、身体を後ろに少し反らして、この攻撃も避ける。
前世ではボクシングでの回避技術として知られている、『スウェーバック』と呼ばれる避け方だ。
「何っ!?」
驚きを隠せないマグを尻目に、次の攻撃を警戒する。
まずサンズが相手の回避を誘い、避けたところにマグの突き。
あたしの想定通りなら、バングによる三の矢が来る。
「だが、これで――!」
案の定バングはマグの後ろから、あたしに跳びかかる。
フィニッシュホールドのつもりだろうが、そうはいかない。
『ライジングアーツ』は通常の打撃、特殊技、必殺技、必殺奥義に至るまで、対空手段が豊富に用意されているのだ。
ここで取るべき最善手は、こう!
「セリャッ!!」
一旦しゃがむ予備動作を挟んで跳び、身体を宙で縦一回転。
回転した際に蹴り上げたあたしのつま先がバングの顎に命中。
バングはそのまま吹き飛ばされるように倒れ込んだ。
「ち、宙返りでバングの攻撃を!?」
「一体何をやったんだ!?」
「跳んでくる相手に効果的な『サマーソルトキック』って技なんだけど……いや、ちょっと待って。なんか思ってたのと違う」
「いてて……どういうことだよ、ちゃんと俺達の本気は見せたぜ?」
「別に御三方のフォーメーションが悪いってわけじゃないんですけど……そもそも教団の構成員が、こういう規則的な手を使うことは無いんじゃないかって思えてきて」
「今更!?」
「俺達の必殺陣形、出し損かよ!?」
こっちから煽っておいて本当に申し訳ない。もっと色々説明するべきだった。
「あたしからすれば三人真っ直ぐに突っ込んでくるんじゃなくて、周りを囲んで欲しかったというか」
「……まあ集団戦の訓練って大体そんなもんだったよな」
「これは勘違いしてトリプルアタック陣形を提案してきたサンズが悪い」
「お前らもノリノリだったから同罪じゃね!?」
トリプルアタック陣形とは何とも捻りのないネーミングだが、それは置いておこう。
改めて三人組は、あたしの周りを囲むような位置につく。
「よし、それじゃあ始めるぞ」
「いつでも!」
それから窮地を想定した集団戦訓練は、三人組が気絶するまで行われた。
拳と武器のリーチ差に翻弄されつつも、攻撃のひとつひとつに注意を向けることで、最終的には三人の攻撃を全て捌くまでになる。
訓練を見ていたヤーナは、
「訓練なんて必要なかったんじゃございませんの?」
などと漏らしていたが、やはり実戦形式に勝る訓練はない。イメージを形にできるのが訓練の良いところだ。
訓練で手応えを感じ、気付けば夕刻。
魔獣教団潜入作戦の時が、訪れようとしていた。