太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第三十三話 「我流・真剣白刃取り……なんてね」

 かつて兄は言っていた。

 ラスボスとか悪の親玉は何故銅像を造らせ、自分の住処に置きたがるのか。

 

 それは、自分の圧倒的な力を誇示するためであると。

 魔獣像もそんな悪いヤツが置いている銅像みたいで苛ついた。

 

 だからあたしは、己の拳でぶち壊した。

 今はそう思っておこう。わかりやすいシンプルな気持ちとして。

 

「よ、よくも……よくも教団の象徴たる魔獣像を……何者です!?」

 

 像を壊されうろたえるコウモリ仮面。

 名前を聞かれて名乗るのもおこがましいと思っていたところに、ローブの中に隠れていたリテラが飛び出し、あたしに代わって勝手に答えた。

 

「聞いて驚け、魔獣に心を奪われた信者ども! ここに御座すは魔獣で汚れたこの世界を救う救世主、ラグナ族の傭兵レヴィン・ゾンネじゃ!」

 

「ら、ラグナ族だって!?」

「野蛮な戦闘民族って噂の!?」

「何でこんなところに!?」

「とんでもないヤツが魔獣様を怒らせてしまった……俺達はもう終わりだぁ!」

 

 災害がやって来たかのような恐怖、目の前の破壊を呆気に取られた衝撃、魔獣像を壊された怒り。

 ここに集った信者たちの様々な感情が、全てあたしにぶつけられる。

 

 だが気にするな。自分がやりたくてやったことだ。

 ここまでやったからには、一歩も退くこと無く、前に進んでみせろ、レヴィン・ゾンネ。

 

「まあ、そういうことなんで。会わせてもらえないかしら……誰かに罪を被せるのにピッタリな、真似っ子魔獣に!」

 

 もはや素顔を隠す意味もないと、あたしはローブを大仰に脱いだ。壇上に照らされた灯りに、褐色の肌が映える。

 予め言っておくが、脱いだら全裸、というほど痴女ではない。当然ながらローブの下にはいつもの筋肉が邪魔にならない程度の服を着ている。

 

「クッ……ククククククッ」

 

 呆気に取られていたと思われていたコウモリ仮面が不気味に嘲笑う。

 

「野蛮なラグナ族が救世主? 魔獣で汚れた世界を救う? 不敬! 魔獣に対してあまりにも不敬な振る舞い! むしろ世界の汚れは!」

 

 彼女も堪忍袋の緒が切れたのか、本性を表したようだ。そして仮面越しでもわかるほどにあたしを睨みつけて、

 

「アナタのような人間なのです!!」

 

 などと口走り、一瞬で間合いを詰めてきた。

 やはり逆上して襲いかかってくるか。

 

 ならば右手に少しだけ魔力を込めて、カウンターのストレートなパンチを、趣味の悪い仮面めがけて、打つべし!

 

「セイッ!」

 

 手応えあり。少し固めのものが拳にぶつかり、割れた音がした。

 

 仮面は、止まらぬ拳を守ってくれるほど頑丈にできていない。右ストレートは仮面を貫通し、眼と眼の間を中心として顔にめり込む。

 

 まんまと迎撃された彼女の身体は、仰向けに倒れた。

 しかし気絶させるには至っていない。しかも立ち上がる。なぜならば。

 

「よくも……お気に入りだった顔を台無しにしてくれましたね。まあ、私ならすぐ戻せるので問題はありませんが」

 

 普通の人間なら目玉が飛び出るほどのダメージ。それを彼女は顔を『変化』させることで瞬時に治してしまった。

 こんな芸当、人間では到底不可能。図らずもヤーナの読みが当たった、ということか。

 

「変身魔獣らしいのう、カミュラ。自ら人間になりすまし、信者を集めておったとは」

「どうやらあたしたちは、当たりを引いたみたいね」

「なるほど、目的は私自身でしたか。大方、私が真似た騎士の謂れなき罪を晴らすため、といったところでしょう」

 

 仮面を砕かれた変身魔獣カミュラは、本気を出せばあたしが殴り倒せそうなこの状況で『ですが』と言葉を続ける。

 

「果たして彼女に、助ける価値はあるのでしょうか?」

 

「……どういう意味よ?」

「私は血を吸った者の記憶を観ることが可能です。アナタの救おうとするジークリンデ・シグルドの記憶も観させていただきましたが、彼女はあまりにも酷い騎士です。救いようがない」

 

 救いようがない、とは。酷い言われようだが、もう少し言い分を聞いてみよう。

 

「部下がいるのに一人で飛び出す、暇を持て余せば食べ歩き、おまけに教養がまるでない。こんなどうしようもない人間が実力だけで王家からマキナを授かり、思うがまま力を振るっているのです。騎士全般どころか国の恥ですよ」

 

「だから助ける価値はないって? あまり笑わせないでよ」

「笑う要素がどこにありましたか?」

 

「アンタはジークリンデ・シグルドって騎士を上辺だけしか見たことがないから、そんな風にしか語れないのね。一緒にいた時間こそ短かったけど、本当のアイツはもっと酷いわよ。人の寝床を襲ってきたかと思えば空腹で倒れるし、食べさせて満足したかと思えば魔力燃費の悪さでまた腹ペコになるし、おまけにヤンチャな子供と同じくらい手のかかる馬鹿で。でも――」

 

 短かったはずの時間は豚骨の出汁を使ったスープより濃厚で、その中で彼女と手合わせしたこともあった。

 だからこそ情が移って、こんなことを話してしまえるのかもしれない。

 

「そんなアイツのひたすら前向きなところだけは、ひとりの人間として尊敬できる」

「詭弁はもう結構! 信者の皆さん、この不届き者を取り押さえなさい!」

 

 自分ひとりでは相手にできないと踏んで、集まった信者を利用しようとするカミュラ。

 

 作戦前に集団戦の訓練はしていたが、流石に二桁以上の人数となると自力で振り払うしか手段がなくなるし、罪のない信者を死なせてしまう可能性がある。

 

 だが幸いなことに、今のあたしはひとりではない。

 

「ヤーナ!」

「承りましたわ!」

 

 信者たちの後ろで様子を伺っていたヤーナに声をかけただけなのに、何かを理解した彼女はすぐに『シュツルムウォーダン』を解放(リリース)。信者たちを囲む風の結界を即座に形成して閉じ込めた。

 

「なんだこりゃ! 結界!?」

「出せ! カミュラ様をお助けするんだ! 出せえええ!!」

「あれ? なんだか……眠いわね……」

「マジだ……一体……どうなって……」

 

 風の結界が収まった頃には、信者たちは完全に眠りについていた。

 この現象は『シュツルムウォーダン』による風属性魔法の効果だけではないのだろう。

 

「やはり効果てき面ですわね、生物を眠りに誘うモルフ蝶の鱗粉は」

 

 どうやら結界の範囲内だけにその粉を風に乗せてバラ撒いたようだ。一体いつそのモルフ蝶とやらを捕まえていたのかは気になるが、後にしよう。

 

「これでアナタの可愛い信者の皆様は無力化しましたわ。これ以上抵抗を続けるようでしたら、このアジトごと『ボン!』いたしますわよ」

 

 あれ? ヤーナ、ここが王都の地下ってこと忘れてない?

 ハッタリだとしてもぶっ壊すのはやめなさいって。

 

 ちなみにヤーナの傍にいる双子は魔法の範囲外にいたので無事である。

 

「どいつもこいつも馬鹿ばかり……いいでしょう。そちらがその気なら、全力で抵抗させていただきます」

 

 カミュラの顔が獣のような鋭い目つきに変わり、彼女の肉体に変化が訪れた。

 両腕の肉が十数匹のコウモリに変化、そこからまたコウモリを密集させて肉を再構成する。

 やがて出来上がったカミュラの両腕は、手術用のメスを大きくしたような刃の腕に変化した。

 

「変身は一部分だけってのも可能なのね……」

「美しくないので、本当はやりたくなかったのですが。アナタを斬り刻むには充分!」

 

 人の形を少し捨てたカミュラという名の魔獣が先に仕掛けてきた。

 相手は両腕を刃物にした人型の獣。本来素手では不利な相手だが、対処できないことはない。

 

 カミュラが跳躍してあたしに向かってくる。

 動きそのものは人間と変わらない。しかしその速さは人間を軽く越えていた。

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』!」

「遅い!」

 

 右腕の刃を振り下ろすカミュラ。マキナの顕現が間に合わない、が。

 

 あたしとて自分のマキナに頼りきりというわけではない。

 インファイトに必須なのは筋肉と、咄嗟の攻撃に対応できる瞬発力。

 

 あたしはカミュラの一振りを、ハエを叩く要領で両側から防いだ。

 

「何っ!?」

「我流・真剣白刃取り……なんてね」

 

 防いだからといって油断はしない。もう片方の刃もある。

 

 白刃取りしている間に『ソルマドラ』の籠手は顕現済み。

 飛竜(ワイバーン)を焼いた時のように属性付与(エンチャント)の要領で、肉の刃を熱することに決めた。

 

「熱ぅぁっ!!」

 

 刃が身体の一部だからこそ、火傷を恐れる。予想通りだ。

 カミュラの刃があたしの両手から離れる。怯んだ今こそ、追撃のチャンスだ。

 奴の身体が霧散しない程度の拳で、再起不能になってもらう!

 

「セリャッ!!」

 

 カミュラの顔に右フックの一撃が入る。ヒット確認したところで、今度は左のフックを逆の頬にお見舞いした。

 加減したので身体は霧散せず、彼女は舞台から転がり落ちる。

 

 これで気絶してくれればよかったのだが、まだカミュラは立ち上がる。

 一度倒して魔石を回収することも考慮に入れなくてはならないかもしれない、と思った。

 

「いくらでも直せるとはいえ、執拗に顔を狙うとは、恐ろしい人……これならどうです?」

 

 カミュラは背中の羽根を開いたかと思えば、既にあたしの視界から消えていた。

 接近戦では不利とみて、自らの機動力を活かす戦法に切り替えたのだろう。

 わかってはいたが、やらずにいて欲しかった戦い方だ。

 

 カミュラが壁や天井を蹴って、あたしの周辺を高速で飛び回る。

 チャンスがあるとすれば、奴があたしを狙って突っ込む瞬間だ。

 

「逝けっ!!」

 

 声が聞こえたのはおそらくあたしの背後、天井辺り。

 あたしの死角から刺しに来てくれたのか。

 

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 天井を蹴ったカミュラの刃が高速であたしに迫る。

 だがその刃が刺したのはあたしではなく、さっきまであたしが立っていた舞台だった。

 

「何っ、消えた!?」

 

 消えたんじゃない、跳んで避けたのだ。

 奴の両腕が使い物にならなくなる、この瞬間を待っていた。

 

 元々は全身を覆う鎧の『ソルマドラ』。

 今こそ、使う機会のなかった脚の封印を解こう。

 

「『我流・ライジングアーツ』――」

 

 両脚を魔法の光が包み、あたしの脚が鎧に包まれていく。

 跳んだ勢いであたしは、ルチャドーラのローリング・ソバット顔負けの回し蹴りを、またしても奴の顔にぶつけてやった。

 

「『リバーサル・スワロウ』!!」

 

 やや本気で蹴ったからだろうか。

 カミュラの首が、胴体から離れた。

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