太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第三十四話 「ブーステッド・キマイラ」

 古来よりキックの威力はパンチの三倍かそれ以上と言われている。

 ヒトが二本の脚で立てるように猿から進化したから、という説が有力らしい。それを踏まえても、今のあたしは凄まじい破壊力を出していたと思う。

 

 だが、カミュラはまだ霧散せず形を保っている。思った以上のタフさだ。

 

「持ち運びしやすいように耐えてくれてありがとう。これでアンタをあの王子に差し出せば、一件落着ね」

 

 我ながらサイコパスな台詞である。

 

「グッ……ラグナ族は潜在魔力が低いと聞いていたのに、ここまでやるとは予想外でしたよ」

 

 生首のままカミュラは憤慨。人型の魔獣とはいえ、あまり双子には見せられないスプラッターな光景である。

 

「救世主に勝てる魔獣など存在せん。諦めるんじゃな」

 

「諦めた方がいいのはそっちじゃないノ?」

 

 ふとこの場に割り込む、いけ好かない声。

 舞台の裏から、死神のような女が現れた。

 やはりアンタもこのアジトに居たのね、ダリア。

 

「ダ、ダリア様!」

「この子相手によく耐えたじゃなイ、カミュラ。光景としては見るも無惨、だけどネ」

 

「お出ましがやけに遅かったじゃない。流石に見殺しにできなくなったってところかしら」

「申し訳ありませんが、アタクシたちの目的のために、その魔獣は頂いていきますわよ」

 

 ダリアが現れてから徐々に舞台に近づいていくヤーナ。なんかその台詞、悪役みたいだ。

 

「そもそも魔獣を司法で裁こう、なんて方向性がナンセンスよネ。それにさっき言ったわヨ? 諦めた方がいいのはそっちだ、っテ」

「どういう意味よ?」

 

「カミュラ……このコはネ、まだ枷を外していないのヨ」

「何じゃと!?」

 

 枷を外していない……?

 つまりあの部分変身は、本気じゃなかったってこと!?

 

「ダリア様、まさか!? やめてください! 私はまだコイツと戦えます! こうなったのは油断したからです! ですから、あの美しくない姿だけは――!」

「カミュラ、既にその姿が醜いことに気付いてないのネ。それとも、認めたくないのかしら?」

 

 ダリアは既に自身の『クレセンティア』と呼んでいる大鎌のマキナを顕現させている。

 

 そのマキナを顕現させてから指を鳴らして雷を落とすのが彼女の常套戦術だが、今いるのは地下のアジト。空に暗雲が立ち込めない限り、雷を落とすのは不可能だと勝手に思い込んでいた。

 

 だから驚いてしまったのだろう。

 ダリアの指が鳴ったその刹那、カミュラの生首に雷が落ちたことに。

 

「ガッ、アアアアアアアッ!!」

 

「ダリア、何するのよ!? コイツはアンタの魔獣でしょ!?」

「そうネ、このコは魔獣。ヒトの真似事が大好きな魔獣。でも、それだけじゃないのヨ」

 

 ダリアの雷に反応するように、カミュラの生首が所々膨張し、徐々に形を変えていく。

 頬が別の人間の形になったと思えば、次は狼、ワニ、獅子……混沌とした変化に、まるで理解が追いつかない。

 

「このコの変身魔法の秘密は、吸ってきた種族の血……つまり生物の遺伝情報をストックできる、というこト。このコが今まで吸ってきた種族の情報は、全て体内に蓄えられていル。本来ならば、その遺伝情報の中からひとつを抽出して再現するのが、このコの変身魔法。そこで私とこのコを実験体にした人は考えたのヨ」

 

 カミュラの変化は未だ続いている。やがて、生首から胴体が生えてきた。

 だが生えてきたのは、明らかにヒトの胴体ではない。ヒトではない、哺乳類の胴体。

 

「蓄積された遺伝情報を全て解き放てば、何者をも寄せ付けない最高の魔獣が出来上がるんじゃないか……ってネ」

「……最低じゃな。この教団も、お主も」

 

 リテラの言う通り、最低の発想。魔獣を称えながらも、その一方で魔獣を野望のため最大限利用する。

 尊厳破壊をも厭わない魔獣教団が、あたしはますます嫌いになった。

 

「さあ、本来のアナタを解き放つのヨ、カミュラ。いいえ――」

 

 生首だったものが胴体を得て、その胴体すらも膨張し巨躯となる。

 既にカミュラの姿に人型の面影はなく、辛うじて巨大化したコウモリの翼が彼女であることを示していた。

 

「混沌魔獣、『ブーステッド・キマイラ』」

 

 ダリアの宣言と同時に、かつてカミュラだった魔獣はひとつの不安定な姿となり、咆哮とも嘆きとも取れる声をあげる。

 

 ブーステッド・キマイラ。

 こんな滅茶苦茶な生き物は、見たことがない。

 

 三つある顔はそれぞれ獅子、狼、ワニの形をしており、それぞれが独立して動き回る。

 ケンタウロスを思わせる半人半獣の胴体、そして背中にはコウモリの羽。

 

 毛深い胴体の奥には、奴が吸ってきたものと思われる人間や草食動物の顔が、人面瘡のように浮かんでいるのが見えたような。錯覚だと思いたい。

 

 何にせよ、その巨体はかつて戦った『森の王』以上。さしずめこのブーステッド・キマイラとやらは『混沌の王』といったところだろう。

 こんなものを王都に解き放ってはいけない。

 

「ヤーナ、ミュウくんとニューを外へ!」

「レヴィンさん、何をする気ですの!?」

「コイツが地上に出る前に、何としても止める!」

 

 ここは地下施設。地上はまだ日も昇らぬ深夜。

 ソーラーカーのようなあたしの『ソルマドラ』にとっては不利な状況だが、やるしかない。

 

「行きますわよ、ふたりとも! レヴィンさんなら大丈夫、賭けてもいいですわ!」

「やっちまえ、姉貴!」

「ボク、信じてますから!」

 

 ヤーナは双子を連れて出口へ。飛ばずに走って逃げているが、これはヤーナの『シュツルムウォーダダン』が三人以上を乗せて飛べないのと、今いるのが地下なので迂闊には飛べないことが原因だ。

 

 賭けてもいい、か。普段大穴狙いなヤーナだが、飛竜(ワイバーン)を討伐した時もあたしのタフな身体を妙に信頼していた。

 少し不本意だが、その期待には応えてみせよう。

 

 三首三様の咆哮をあげるブーステッド・キマイラ。

 威圧感に気圧されるな。もう捕縛することは考えるな。一撃で仕留めろ。

 己に言い聞かせ、目の前の脅威と対峙する。

 

「セイッ!!」

 

 脚を踏み込み、あたしは一気に距離を詰めた。ブーステッド・キマイラの三つ首のうちひとつがこちらを向く。

 三つの口が同時に吠えた。不協和音のように聞こえて、思わず耳を塞ぐ。

 

「うっさい!」

 

 しかし、ブーステッド・キマイラの攻撃は止まらない。牙の生えた大口を開いて、噛みつこうとしてきた。

 咄嗟にバックステップで避ける。その隙を突いて、狼の首が牙を剥き突進してきた。

 

「厄介ねッ!」

 

 三つ首それぞれがそれぞれの意志を持っているかのように、それぞれが別々の攻撃パターンを持って襲いかかってくる。

 

 あたしは変幻自在の攻撃をギリギリで躱しながら弱点を探っていくのだが、如何せん巨体とは思えぬスピードで攻撃してくるので、迂闊に反撃できない。

 

 こういう時に地を抉る『サンライト・ウェイブ』を使えればいいのだが、おそらく奴はあの翼で飛べるので魔力の無駄遣いになるだろう。

 

「だったら!」

 

 あたしは一度壁に向かって撤退する。あくまで戦略的に。

 

「アラ、何をする気かしラ?」

 

 あざとく首を傾げるダリア。でも気にしてはいけない。

 ブーステッド・キメラはあたしの撤退に食いついてきた。あたしを壁際に追い込んだつもりでいるのだろう。

 

 だが、それこそがあたしの狙い。

 

「三角跳びで、目を狙う!」

 

 壁に向かって跳躍、壁を蹴ってまた跳躍。

 軌道はムーンサルトを描き、ブーステッド・キマイラの三つ首の目元まで舞い上がった。

 

「『我流・ライジングアーツ』――」

 

 カミュラの首を抉った時のように、回し蹴りの態勢へ。目を潰せる大きな刃をイメージして、技を放つ。

 

「『リバーサル・スワ――」

 

 が、しかし。

 

 脚に纏わせていた太陽の力が、忽然と消えた。

 

「こんな時に魔力切れ……!?」

 

 陽の光が差していないこの状況で脚の属性付与(エンチャント)を解禁したのがいけなかったのか。

 何が悪かったのかを考える暇もなく。

 

「しまっ――」

 

 ブーステッド・キマイラの獅子の頭が、あたしの身体を壁に叩きつけた。

 

 痛い。意識が飛びそうなほどの痛み。

 鍛えていたはずの身体に容赦なく襲いくる衝撃。

 間違いなくそのパワーは、並みの人間が耐えられるものではない。

 

 あたしだから肉が爆ぜずに耐えられたともいえるが、脳に伝わる痛覚信号は鍛えようも慣れようもないので、これは流石にキツイ。

 

 だが、ブーステッド・キマイラの突進の勢いは止まらず、あたしごと壁をぶち抜いてアジトの廊下へ。

 あたしは勢いよく吹き飛ばされ、柱に激突した。

 

「かはっ……!」

 

 何本かアバラが折れたかもしれない。でも、それを気にしている余裕はない。

 

「このコの本気の体当たりを食らって、まだ人の形を保ってるなんてネ。大したタフさだワ」

 

 ブーステッド・キマイラの方からダリアの声がする。ソイツに騎乗しているのだろうか。

 

「でも残念。アナタの相手はもうオシマイ。このアジトもバレたから後片付けしなくチャ」

 

 ブーステッド・キマイラの口が大きく開く。口の中に赤い光が見えて、それが収束していく。

 

 そして放たれたのは、熱線だった。

 それは一直線にアジトの天井を貫き、空へと伸びていく。

 天高く伸びる光線は、雲を貫いてさらに遠くまで伸びた。

 

 地上まで続く穴が、開いてしまった。

 

「ダリ……アッ……!」

「じゃあネ」

 

 ブーステッド・キマイラがダリアを乗せたまま踵を返し、翼を広げて羽ばたく。

 

 駄目だ、奴をこのまま行かせてはいけない。

 

 気合で身体を動かせ。何としても止めろ。

 

 あたしは地を這いずり、何とかブーステッド・キマイラが宙に浮かぶ前に尻尾を掴んだ。

 その刹那、地上に向けてブーステッド・キマイラが勢いよく飛翔する。

 

「ぐぬぅぅぅぅッ……!」

 

 風圧が飛竜(ワイバーン)に捕まった時や、人型時代のカミュラに捕まって上昇した時の比ではない。

 それでも執念で尻尾をつかむ。コイツだけは逃がすなと自分に言い聞かせて。

 

 やがてひんやりとした風が肌を撫でる。もう地上に上ってしまったのか。

 

「こん……の……っ……!」

 

 気力を振り絞り、ロープで崖を登るように尻尾にしがみつく。

 意識も落ちかけている。なんとしても――!

 

 その時、あたしに背を向けたままブーステッド・キマイラに乗っているダリアに動きが。

 

 右手を天に掲げて、指を鳴らす。

 その行為で何が起こるのかを、あたしは知っていた。

 

 だから反応できずに、雷の直撃を、まともに受けた。

 

 執念の糸は切れ、尻尾を掴んでいた手は離れていく。

 

「ちく……しょ……う……」

 

 ブーステッド・キマイラの姿が、あたしから遠ざかる。

 

 またダリアに負けた。

 

 無念の自由落下。

 

 地面に激突する前にあたしの意識は、落ちた。

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