太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その五 「だったら後ろ向きに考えるなよ!」

 階段を登り、結界のあった入り口に戻ってきたヤーナ、ミュウ、ニュー。

 

 リテラはレヴィンの勇姿を見るために残ったが、何かあっても大丈夫だろうとヤーナは腹をくくっていた。

 レヴィンが苦戦している状況も知らぬまま、ヤーナたちは地上への出口を見つける。

 

「とっとと地上に出ますわよ。戦闘の余波で陥没されたら、たまったものじゃありませんから!」

「大袈裟って言えないのが怖いですね……」

「開けるぞ!」

 

 ニューが梯子に上って先んじてマンホールの蓋を開ける。

 深夜であるが故に日中より薄暗い路地裏に出た。

 ニューに続いてヤーナとミュウが地上に出る。

 

「まだ夜、ですわね」

「さっきはレヴィンさんのこと『信じてる』なんて言っちゃいましたけど、不安になってきました」

「どした、突然?」

 

「ニュー、忘れたの? レヴィンさんの『ソルマドラ』は太陽の光を浴びないと、魔力を補充できないんだよ」

「あ、そっか!」

「そういえば作戦前にレヴィンさん自ら白状してましたわね。隠していてもしょうがないから、と」

 

 失態を理解して頭を抱えるミュウとおとぼけたニューに対して、ヤーナは冷静だった。

 事実、ヤーナはレヴィンの強靭さを飛竜(ワイバーン)戦で目の当たりにしている。

 

 とんでもなく燃費が悪いので、太陽光を魔力変換・補充して普段は戦っているという『ソルマドラ』の話を抜きにしても、レヴィンのフィジカルはずば抜けていると認識しているのだ。

 

 だからちょっとやそっとの衝撃で死ぬはずはない、とヤーナは思いこんでいる。

 

「心配は無用ですわよ。あのブーステッド・キマイラとかいう魔獣がどれだけ強くとも、きっと生き延びてますわ」

「そう……ですよね。急いで――」

 

 この場を離れよう、とミュウが言いかけたところで、ニューの一声がかかる。

 

「待って、そのまま止まって! 何かヤバイのが来る!」

「えっ――」

 

 ヤーナがミュウと共に思わず立ち止まった、その時だった。

 

 地が揺れる。大地が震える。

 その振動は、地下から来たるモノの前兆に過ぎず。

 今立っている位置から少し離れた地面を抉り、紅の閃光が飛び出してきたのだ。

 

「ぐっ……これは一体!?」

 

 危なかった。ニューが見た『予知』がなければ、この得体の知れない閃光に巻き込まれていたかもしれない。

 

 ヤーナは作戦前にニューから聞いた自身の『遠見の魔眼』の能力を思い出す。

 

 少し先の未来を見て予知することができるコレはニュー自身も制御ができず、これまでの発動パターンからヤーナが推測した発動条件は、『自分もしくは周囲の生命が危機的状況に陥ること』。

 

 つまり今回も、ニュー自身もしくはヤーナの命の危機を感じて予知が発動したということになる。

 

 空の雲をも貫いた閃光はやがて収まっていき、空けられた穴から巨大な影が飛び出した。

 

「おい、まさかアレって……」

「ブーステッド・キマイラ!?」

 

 月明かりが、生命の冒涜そのものである巨獣を映し出す。

 よく見れば背中に人影、尻尾に捕まっている人影も見える。

 後者の人影が、突然降ってきた雷を食らって尻尾から手を離し、万有引力に従うまま落ちていった。

 

「あっ、落ちる!」

「くっ! この距離では間に合いませんが、アタクシの予想通りならば――」

 

 自由落下していく人影は、幸いにも木造の廃屋に落下。木片や屋根瓦を巻き上げながら地面に激突した。

 

 三人は急いで落下地点に駆け寄る。やはり、とヤーナは直感で理解した。妖精のリテラという先客がいたからだ。

 ブーステッド・キマイラの尻尾から落ちてきたのは、レヴィンだった。

 

「姉貴!」

「レヴィンさん!」

「お主ら……よう無事で」

「リテラさん、レヴィンさんの容態はどうですの?」

 

 ヤーナは心配そうに尋ねる。

 だが尋ねずとも、一目見れば惨状はわかる。

 

 鍛え上げられた身体こそ思ったより傷はないが、頭から血が流れている。

 そして顕現していた『ソルマドラ』も封印(シール)状態。魔力切れで顕現を維持できなかったようだ。

 

「何とか生きてはおるんじゃ。しかしあのブーステッド・キマイラのパワーが想像以上じゃったようでの……魔力切れの上に、おそらく何本か骨も折れておる。その影響か昏睡状態。たとえ目を覚ましたとしても十二分に戦うのは難しいじゃろうな」

「そんな……」

「姉貴でも倒せない魔獣なんて……どうすんだよ?」

 

 期待していた戦力の一角が、落ちた。

 

 ヤーナは憤る。かつて『王』クラスの魔獣を倒し、『シュツルムウォーダン』が放つ風の爆弾を耐えたほどの女が、まさか、と。

 

 無理もない、とも思った。『ソルマドラ』の性質上、太陽の光が届かない場所では貯蓄分の魔力しか使えない。

 さっきまで戦場は地下であったし、今は夜更け。

 こうなることも計算に入れてはいたが、ブーステッド・キマイラの存在がイレギュラーすぎた。

 

「あの魔獣は何処へ向かって――」

 

 ヤーナは夜空を見上げてブーステッド・キマイラを探す。

 そして月明かりの下でそれらしき影を見つけた。ブーステッド・キマイラが目指す先にあるのは――。

 

「まさか、王城!? まずいことになりましたわね……!」

「ヤーナさん、行ってください。このままじゃ、ジークさんの冤罪を晴らすどころじゃなくなるかもしれません」

 

「わかってますわよ、ミュウくん。王城にはエメルやジークも居ることですし、最低限の足止めくらいはやってみせますわ。せめて朝日が昇るまで」

「えっ? もしかしてヤーナんのマキナでも倒せないのか!?」

 

 ニューが驚きの表情を見せる。

 

 ちなみに『ヤーナん』というのはニューが勝手にヤーナをそう呼んでるだけで、ヤーナ自身は『勝手にすればいい』程度のニュアンスでそう呼ぶことを許している。

 

「アレを倒しきるには、おそらく膨大な魔力量を直接叩き込む必要があると見ました。アタクシの『シュツルムウォーダン』も無限に大火力の魔法を撃てるわけではありません。魔力には限りがありますからね。しかも意外に小回りが利いて飛行スピードも速いとなると、誰かが金縛りにでもしない限り、火力のある魔法をぶつけることも難しいですわ」

 

「強敵じゃな……今まで遭遇したどの魔獣よりも厄介じゃわい」

 

「なればこそ必須なのは、レヴィンさんの早期復活ということになります。『ソルマドラ』は太陽の光を浴びれば魔力量はほぼ無限。どうしても彼女のドデカイ魔力量が必要になってきますわ。今昏睡状態なら、自然治癒は少しずつ進行しているハズ。ミュウくんは治癒術式をかけ続けて、レヴィンさんの身体を少しでも万全に近い状態まで引き上げてくださいませんか?」

 

「わ、わかりました! やってみます!」

 

「ヤーナん、あっしは?」

「アナタは見張りです、ニュー。魔眼の予知、頼りにしていますわよ!」

 

 ヤーナは『シュツルムウォーダン』を解放(リリース)し、魔女の箒のように跨る。そして大砲を撃ち出すかの如く、爆弾を爆破させるような衝撃を以て上空へ飛んだ。

 

(賭けてもいい、アタクシと『シュツルムウォーダン』なら追いつける! 汗と涙と金を全力で注ぎ込んだ、アタクシの最高傑作なのだから!)

 

 王都の空を、風の弾丸が翔ける。

 自分と共にいてくれた友と金のため、ヤーナは更に速度を上げた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ヤーナを信じて見送った。あとはレヴィンを治せるかどうか。

 

 ミュウは考えた。おそらく今の未熟な自分では、とても日の出までに彼女を治せる保証がない。

 治癒術式はあくまで生物特有の自然治癒力ありきの魔法だ。傷がすぐに塞がるわけではないし、骨折だってすぐには治せない。

 

 いくらレヴィンが昏睡状態で眠っていても、どこを怪我しているのか、どの骨が折れたのかでそれぞれ完治できる時間は千差万別。

 普通の治癒術式では、日の出の時間に間に合わない。

 

「ミュウ、どうしたんじゃ?」

「あっ、いえ、その……」

 

「あれこれ考えている暇はないぞ。早うレヴィンに治癒術式を――」

「多分……日の出まで間に合いません」

 

 弱音を吐くような声色で、ミュウが言葉を零す。

 

「万全じゃなくてもいいんじゃ。最低限、奴に一発ぶちかませられるまで回復できれば――」

「きっと、それだけじゃ駄目です。ブーステッド・キマイラを屠れるほどの魔力量を出力したとしても、肝心のレヴィンさんの身体が耐えられる保証はない」

属性付与(エンチャント)の危険性……気付いておったのか?」

 

 ミュウはリテラの口振りからやはり、と思った。

 

「本来、属性付与(エンチャント)は魔力伝導率の高い武器に使うのが正しいんです。レオンさんのように……でもレヴィンさんはよく武器を壊すからと、自分の拳や脚を武器として属性付与(エンチャント)している。きっとこのやり方はレヴィンさんが自身の身体を磨きに磨いているから安定して戦えていると思うんです」

 

「要するに鋼に近い筋肉だからこそ、太陽属性の属性付与(エンチャント)に耐えられてるということじゃ。だから身体がズタズタな状態で使えば、肉体が崩壊してしまう可能性がある……まさに諸刃の剣じゃな」

 

「はい……ボクはレヴィンさんを壊したくない。ボクもニューも、レヴィンさんに返したい恩がまだまだあるのに……ボクが未熟なばかりに、レヴィンさんの身体を壊してしまう……」

「ミュウ……」

 

 未知へ至る恐怖が、ミュウを支配する。

 

 ミュウは独学で治癒術式を習得するほどに、治療師として人を救うことを望んでいる。

 故に死の可能性には敏感であった。

 

 かつて救えなかった命の重さが彼の心を押し潰し、二度と失敗できないように縛り付ける。

 

「ミュウ、顔を上げろ」

 

 周辺を見張っていたニューが、ミュウの前に立つ。

 

「ニュー……」

 

 顔を上げた瞬間、ニューの平手打ちがミュウの頬を叩く。

 

「えっ……?」

「あっしはさ、難しいことはよくわかんない。でもミュウとは生まれた時から一緒なんだ……ミュウの悔しさは心でわかる」

「だったら――」

 

()()()()()! わかるからあっしは怒ってるんだ!」

 

 憤るニューの左眼に涙が浮かぶ。

 おそらく眼帯の奥も、涙で濡れている。

 

「あっしは姉貴が好きだ。ミュウもそうなんじゃないのか?」

「それは……ボクだって好きだけど、これは気持ちだけでどうにかなる問題じゃ――」

「だったら後ろ向きに考えるなよ!」

 

 ニューに言われてミュウは思い出した。

 帝国の国境を越えてから、いや、それよりも前から。

 ミュウという名の少年は、ニューという半身によって支えられて生きて来れたのだと。

 

「あっしの知ってるミュウは、『好き』にとことん夢中になれるミュウだ! ミュウも姉貴が好きなら、暗い未来ばっかり考えてないで、明るい未来だけ考えろ! 悩みなんて、自分の『好き』で吹っ飛ばせ!」

 

「ニュー……」

 

「姉貴なら大丈夫だ。ミュウの治癒で万全に回復できなくたって、気合でどうにかする。もっと信じてやろう、姉貴を。好きになった相手を信じなくてどうすんだ!」

 

 ニューのこの底なしのバイタリティは、鏡の中の自分を見ているようだと、ミュウは思った。

 互いが互いのストッパー。どちらが欠けても成立しない。

 だからふたりで生き延びられた。それがミュウとニューという双子。

 

「……ニュー、それは少し違うよ」

「違うって、何が?」

 

「ボクはレヴィンさんを信じすぎたから、あんな弱音を吐いちゃったんだ。信じられなかったのはボク自身。ニューの言うように、もっと前向きに考えなくちゃいけなかったんだ」

 

 立ち上がるミュウ。

 もはやその眼に、迷いはなかった。

 

解放(リリース)、『グリモア・リーヴェン』」

 

 ミュウの右手に集まった白い魔法の光と共に、一冊の本が顕現する。

 その光景に、事情を知らぬリテラは驚きを隠せなかった。

 

「ミュウ、お主……マキナユーザーじゃったのか!?」

「リテラさん、今まで隠していてごめんなさい。このマキナの能力は命を弄ぶほど強力すぎて、ボクとしても使うのをためらっていたんです」

 

「あっしの魔眼もだけど、悪い奴らに利用されたくなかったしな」

「そういうことじゃったか……敢えて何故そんな危険物と契約したのかは聞かんが、そのマキナで何をする気じゃ?」

 

 ミュウは本のページをめくりながら、リテラの質問に答えた。

 

「ボクの『グリモア・リーヴェン』は何の攻撃力もありません。でも、普通の治療術式より数段上の魔法が使えます」

「傷が治る時間も早まる、ということじゃな?」

 

「そうなんですが、これを介して上級相当の魔法を使う場合、魔力以外にも相応の代償を必要とするんです」

「代償……じゃと?」

 

「それはボクの……寿命です」

 

 リテラはミュウの言葉に戦慄した。

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