太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その六 「この王都から退場していただきます!」

 段々と速度を上げて、ヤーナは王都の夜空を飛び、ブーステッド・キマイラを追いかける。

 徐々に目標との差は縮まっていくが、気付いていないのか、はたまた無視を決め込んでいるだけなのか。乗っているダリア共々、全く振り向く様子がない。

 

 眼中にないとでも背中で語っているのか。

 こちらを向け。

 城には行くな。

 

 ヤーナの憤りに呼応するように、跨っている『シュツルムウォーダン』の速度が上がる。

 

 やがて風の弾丸は混沌の獣を追い越し、立ち塞がる。

 自分にとって大切なものを、守るために。

 

「アラ、通せんぼかしラ?」

 

 ダリアが手綱もないのにブーステッド・キマイラの進行を止めた。

 少なくとも、対話はしてくれる。ヤーナにはそれで充分だった。

 

「アナタが今王城に向かっちゃいますと、王族の皆様が安心して眠れませんので仕方なく、ですわ」

「確かアナタ、あの時風属性のマキナで突っ込んできた娘よネ? 空を自在に飛べるほどの逸品とは思わなかったワ」

 

「気持ち悪い女に褒められたところでお金は出ませんし、美談にもなりませんわね。アナタ達魔獣教団の目的は何なんですの? このような混沌の産物を人に化けさせて王都に潜り込ませた辺り、さぞ気持ち悪い目的なのでしょうけど」

 

「この間言ったでショ? 『陛下』はこの国が嫌いだっテ」

「その『陛下』とかいうのはこの際どうでもよろしい。アタクシは、何故本物の女王陛下を殺さなかったのか。その真相が知りたいんですのよ」

 

 鋭いヤーナの言葉に、ダリアは口元で笑みを浮かべる。

 まるで活きの良い玩具を見つけたかのように。

 

「ヘェ……」

「アタクシはこう思っております。女王陛下が影武者であろうがなかろうが、アナタ達はアナタ達の目的さえ広まってくれればいい、と」

 

 ヤーナは自らの魔杖に尻を置き、推理の開示を続ける。

 

「女王陛下が身内の騎士に暗殺される、もしくはされかける。その事実さえ広まってしまえば、王城内外に動揺が走りますわ。やがてそれは恐怖となって王都中に伝染し、疑心暗鬼の種となる。魔獣教団がこの王都で暗躍していた理由はズバリ、内部からの崩壊!」

「フムフム、続けテ」

 

「アナタも知っての通り、この王都グナーデンの防御は物理的にも魔術的にも強固。一斉に魔獣が押し寄せても『眷属』一匹通さない、まさに要塞ですわ。ですが魔獣を人に化けさせれば門番の目も騙せますし、おそらくは認識阻害の術式も編み込んであったのでしょう。変身魔術は本来なら禁術。『そんなものを持ち込めるはずがない』という門番の油断すら誘える。そうやって魔獣教団は、王都の中に魔獣を潜り込ませることにまんまと成功した」

「そうネ。そういう抜け道を使ったことは否定しないワ」

 

「そして目的のためにジークリンデ・シグルドという騎士の血を吸い、彼女の姿を勝手に借りた理由ですが……本当は王家と関わりのある騎士なら誰でもよかったのでは?」

「どうしてそう思うノ?」

 

「疑心暗鬼による内部破壊を誘うのならば、身内の犯行とするのが一番。カミュラさんを情報屋の姿に変身させた上でニセの情報を売り、とっくに放棄したアジトに騎士を誘い込めば、あとは待ち伏せて血を吸って逃げるだけ。贄として選ばれたのが、たまたまジークだったというだけの話。だからアタクシは怒っていますのよ」

 

 大仰な動作でダリアを指差すヤーナ。

 

「あんな豪勢なアジトを貴族の弱みを握って造らせたり、知り合いの傭兵の集落を焼いたり、挙げ句の果てには知り合いの善良なアホ騎士を女王殺しの犯人に仕立て上げ……とんだお金の無駄遣いですわ!」

「お金の無駄遣い、ねェ。そういうのに怒るタイプなのネ、アナタ」

 

「アタクシ、元々商家の出なので。親のシノギについて来て、人が扱う善き金も悪き金も沢山見てきました。まあその親は悪いお金に騙されて、アタクシを孤児院に預けるまでに落ちぶれてしまいましたけどね。だからわかりますの。アナタ達教団の使ってきたお金が、どれだけ汚物にまみれてきたかが」

 

 ヤーナは再びダリアを睨みつけるが、ダリアは全く動じない。

 

「『お金とは誠意の塊』。父の口癖で綺麗事ですが、アタクシはその言葉を今でも信じております。だからこそ、こんなイカれたお金の使い方が許せない」

「変なことを言うのネ。しょせん金は金。人によって表にも裏にもなる、人類史で最も冴えた手段。そこに正しいも悪いもないのヨ」

「はぁ……そこまで仰るなら仕方ありませんわ。アナタとアタクシは、お金の縁がなかったということで――」

 

 ダリアという女の底は未だ見えないが、反りが合わない女であることは理解した。

 今ならレヴィンがダリアを嫌いな理由がわかる。喋り方も行動も何もかもが気持ち悪くていけ好かないのだ。

 

 『ここが地面』とイメージした魔法陣の上に立ち、ヤーナは自らの風杖『シュツルムウォーダン』をダリアに向ける。

 

「この王都から退場していただきます! 『エアマイン・(インパクト)』ッ!!」

 

 ヤーナはダリアと言葉を交わしている間、冷静に風の機雷(マイン)を複数、ブーステッド・キメラとダリアの周辺に配置していた。

 それらをゴング代わりに起爆させ、戦いの火蓋を切る。

 

 空気は歪み、風の刃がブーステッド・キマイラの表皮を切り裂く……はずだった。

 

 ブーステッド・キマイラの三ツ首が同時に雄叫びをあげる。

 

 轟音が風の刃を殆どかき消し、相殺漏れした風の刃はダリアの大鎌『クレセンティア』の斬撃で弾かれた。

 

「ウフフフ……面白い戦い方ネ。気付いてないとでも思っタ?」

「やっぱりこの程度で沈んではくれませんのね……とんだ貧乏クジを引いてしまいましたわ」

「その面白さに免じて、少しだけ付き合ってあげル。さあ、夜空のお茶会と洒落込みまショ?」

「アナタにくれてやるお茶なんて、雑草で淹れたお茶で充分でしてよ!!」

 

 王都の誰もが寝静まる夜に、夜空の激戦が始まった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ニューが魔眼持ちで、ミュウは魔導書型のマキナユーザー。

 帝国から逃げてきた双子は、かつてレヴィンが言った通りの厄ネタ持ちだったのだ。

 

 マキナと呼ばれる魔導兵器の大半は、エーテルメタルで作られた既存の武器をベースに、精霊の魔力を宿した『精霊石』を埋め込んで精錬するという工程で作られる。

 一般的にはこの系統を『武装型』と呼んでいる。

 

 しかしミュウが持っているのは『魔導書型』。

 これはエーテルメタルありきの武装型とは系統が違っており、様々な術式を収めた魔導書を、精霊石を埋め込むことでマキナ化させたもの。

 

 魔導書型のマキナと契約すれば、武装型と同様に下級から中級程度の魔法を、脳内イメージを固めるだけで放てる。

 つまり術式展開のブースターとして機能する種類のマキナ、ということ。

 

 だが、それだけではない。

 魔導書に書いてある術式が知識として脳内に流れ込むのだ。

 

 それ故に膨大な術式情報を処理できる聡明な頭脳の持ち主にしか、魔導書型マキナを扱える者はいないとされている。

 

 まさかミュウのような少年が魔導書型と契約していたなどと、事情を知っているニュー以外は誰も思っていなかっただろう。

 実際にリテラ自身も驚いていた。そしてまたも、ミュウに驚かされることになる。

 

「上級魔法を使う際に、お主の寿命が削られる……じゃと!?」

「はい……だからボクとしても今の今までこの『グリモア・リーヴェン』を解放(リリース)せずに、使う術式を『ライト・ヒーリング』のような下位の術式を使う程度に留めていたんです」

 

「確かに命を弄ぶほどのリスクじゃ……命の一部をレヴィンに捧げるようなモンじゃからのう。しかし他に手はなさそうじゃ」

「じゃあ早速――」

「いいや、許可できん!」

 

 リテラの中に様々な感情が渦巻き、命の一部を捨てる気満々のミュウを止める。

 

「なんでそんなこと……リテラだって姉貴が大事なんだろ!?」

「ニュー、確かにレヴィンはわしにとって大事な存在じゃ。じゃが、レヴィンと同じくらいお主たちの生命も大事なんじゃよ。まだ若いとはいえ、寿命を削るなど……そういうことに慣れてしまえば、後に待つのは若すぎる死のみ! お主らには、精一杯幸せのために生きて、老衰で安らかに満足して死んで欲しいんじゃよ!」

 

 それは、リテラの創造神としての本音に他ならない。

 自分にはこの世界にヒトを産み落とした責任がある。

 

 創造神テラは、理不尽な死を許さない。

 人間讃歌を好む神など自分くらいのものだ。

 

 神界の知り合いから『変わり者』と言われようとも進んだ道。

 今更躊躇うことはない。

 

「寿命なら……ワシのを使え!」

「えっ……!?」

「いや、理論上はリスクを肩代わりすることも可能かもしれませんけど……いいんですか?」

 

「安心せい、妖精の寿命は人間より何倍も長い……ハズじゃ!」

「でも――」

 

 その時、ミュウの服からもぞもぞとグラウが顔を出す。

 ミュウに何かを訴えるように鳴くグラウ。

 リテラはグラウの訴えを理解した。なにしろ生み出した命のひとつだから。

 

「なに? グラウもミュウに寿命を捧げたいと申すのか!?」

「ぐらうっ!」

「グラウ……君まで……」

 

「あっしの寿命も使ってくれ、ミュウ! これだけ分け合えれば、きっと姉貴も悲しまない! そんな気がする!」

「ニュー……」

 

「ミュウよ、レヴィンの力になりたい気持ちは皆同じじゃ。遠慮のう持っていけ。わしはレヴィンを救うためにさらけ出してくれた、お主の勇気を信じる!」

 

 我ながら地球の文化に影響されたクサい台詞だ、とリテラは心の中で独りごちる。

 だが決して格好つけていない、自分の言葉だ。きっと少年の後押しとなろう。

 

「……ニュー、ボクの左手を握ってて」

「わかった!」

 

「グラウはもうボクの肌に触れているからそのまま、リテラさんはボクの背中に手を置いてください。詠唱を始めます」

「よしきた!」

 

 ミュウが右手に持っている『グリモア・リーヴェン』に光が灯り、彼を中心として魔法陣が展開される。

 広がった白の魔法陣は気絶したままのレヴィンを範囲に収めた。

 

「『我が主たる光精よ、この場に集いし命を以て、か弱き灯火に光を灯さん。されど命の奇跡をここに』!」

 

 一際光り輝く白の魔法陣。

 その光は月明かりすらも霞む眩さ。

 

(ぬおっ!? この吸い取られるような感覚……わしらの命の輝きが、光となっておる!)

 

 勢いよく捲れる『グリモア・リーヴェン』のページ。

 それから生み出される光の球。

 

 ニューから、グラウから、リテラから、そしてミュウから捧げられた寿命の一部が形となったもの。

 ミュウは今よりこの命の光をレヴィンに降ろし、小さな奇跡を起こさんとする。

 

「『リジェネレイト・ヒーリング』!!」

 

 再生の光が、ボロボロなレヴィンの身体を包んでいった――。

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