太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第三十六話 「あたしもここまでタフだとは知らなかったけどね」

 声が、聞こえる。

 あたしの無事を喜ぶような、妖精と、双子の声が。

 

「おお、レヴィンの傷の治りが……おそらくは骨折も治っておるのか? とにかく自然治癒力の代謝に頼っていた術式とは違うようじゃ! 魔力も目に見えて滾っているのを感じる!」

 

「上手くいったみたいですけど、まだ日が差してないから魔力自体は回復していないはず……どうして?」

「一瞬姉貴の身体が燃えたような気がしたけど、細かいことはいいじゃん!」

「それもそうじゃな。今はレヴィンの命を繋げられただけでも……というか、完治レベルまで回復しきったというのに全然起きんな」

 

「もしかしたらどこかで間違ってたのかも……なにしろ使ったのは今回が初めてですし」

「あっしじゃあるまいし、ミュウが間違えるはずないだろ」

 

 会話だけを聞く限り、どうやら落とされたあたしを必死に介抱してくれていたようだが、あたし自身といえば、意識はとっくに覚醒しているのに、やけに目蓋が重い。

 

 まだ生きているという自覚はある。『ソルマドラ』に残っている太陽竜の残滓が、夢の中のあたしを起こしてくれたのをおぼろげに覚えているからだ。

 

 だというのに、身体は外気の変化に適応しようとするかのように、呼吸や心拍数を整えようと躍起になっている。

 

「身体が超回復に慣れるのに時間がかかっておるのか……とはいえ魔獣と死神女が王城へ向かっている以上、時間も惜しい」

「今はヤーナさんが食い止めているはずですけど、いつまで保つか……」

 

「こうなれば、あの手を使うしかないのう」

「あの手?」

 

 なぜだろう。身体が目覚めていないのに、悪寒がする。

 

「古来より伝わりし覚醒療法、つまり――」

「つ、つまり……?」

 

「『人工呼吸(まうすとぅまうす)』じゃ!!」

 

「まうす、とぅ、ま……って、えぇっ!?」

 

 リテラさんや、やめなされ。

 今すぐ起きるように努力するから、それだけはやめなされ。

 

「恥ずかしがるでない、ミュウ。これは人命救助なんじゃよ」

「いや、だって……そのぅ……」

 

「お主がチューすれば覚醒は早まるかもしれないと言うておるんじゃ。御伽噺にもあるじゃろ? 眠りに落ちた人間は大抵の場合、異性からの口づけで目覚めると。今が実証の時じゃろうが!」

「そんなこと言われても……」

 

 ほら見ろ。声からしてミュウくん困ってるでしょ。

 純朴なミュウくんのファーストキスがあたしだと、その……困る!

 変なクセついたらどうするんだ。責任取れるのかリテラさんよぉ?

 

「そうだぞリテラ。姉貴に赤ちゃんができちゃったらどうするんだよ!」

 

 ニュー、心配しなくても人工呼吸程度で赤ちゃんはできないよ。赤ちゃんはコウノトリが運んできて……って、キスの知識は一応あったのか。そういうの興味ない子だと思ってたけど。

 

「心配するでない! 赤ちゃんというのはおしべとめしべが――」

「やめてください、ボクらにはまだ早いのでそれくらいに!」

 

「そこまで言うからにはやってみせい、人命救助!」

「わかりました、わかりましたからぁ!」

 

 リテラめ、余計なことをミュウくんに教えやがって。憤りですぐにでも身体が目を覚ましそうだ。

 

 そんなことを思っていると、重かった目蓋が徐々に軽くなってきた。

 ようやく肉体とのリンクが繋がってきたこの感覚。超回復とやらに身体が慣れてきたということか。

 

 これ幸いとばかりに、あたしはゆっくりと目を開ける。

 

 長いようで短い夢から覚めたあたしの視界に映ったのは。

 

 あたしが目を開けたのに気付いて、顔を赤くして固まっている、ミュウくんの可愛らしい姿だった。

 

 彼の口は、寸前の距離で止まっている。キス未遂でよかった。

 

「ふぇっ!? その……レヴィン……さ――」

 

 その女の子のように恥じらう反応を見て安心したのか。

 あたしの腕は、無意識にミュウくんを抱きしめていた。

 

「っ――!!」

「肌が、あったかい……あたし、まだ、生きてるんだ……ありがとう、ミュウくん……」

「……いえ……せめてもの、恩返しですから……」

 

 自然と、ミュウくんを抱く腕に力が入りそうになるが、ギリギリで感情を抑えていく。

 でも、日中でもないのに魔力が湧き上がるようなこの感覚。なぜかいつもよりみなぎっているように感じるこの力が、嬉しさを抑えきれない。

 

 そういう感情が爆発しそうになった時。

 

「あーあ、つまらんのう。もう少しじゃったのに」

 

 リテラの余計な茶々が、あたしの高まった心を一気に冷やしていった。

 

「リテラ、アンタねぇ……」

「わしはただ、御伽噺みたいにチューで起きるか確かめたかっただけなんじゃが」

 

 うーん、まるで悪びれないこのリテラ味。

 あたしはミュウくんを抱いていた腕を解いて立ち上がり、リテラの近くまで歩み寄った。

 

「言いたいことは山ほどあるけど、今の状況だけ教えて」

「ブーステッド・キマイラと、そいつに乗ったダリアは王城へ向かった。今は唯一空中戦ができるヤーナに足止めを任せておるが、いつまで保つやら……」

「だったら急がないとね。多分アイツとヤーナは相性悪そうだし、金の出処を潰されたくないもの」

 

 まあ冷静に考えて、今はケンカしてる場合じゃないよね、という話。

 

「珍しくやる気満々じゃな」

「不本意ながら、誰かさんの知り合いに背中押されちゃったからかもね」

「なんじゃそりゃ」

 

 別に今教えることじゃないなどと返そうとしたその時、こちらに近づいてくる気配を察知した。

 

「見つけたぞ!」

 

 数は足音からして一、二、三……いや、少なくとも二桁はいるだろう。

 月明かりの中でも目立つ黒フードの集団が姿を現し、壊れた廃屋を背にしたあたしたちをあっという間に囲んでいく。

 

 このナリはもしかして……魔獣教団!?

 

「な、なんだぁ!?」

「包囲が早い……!」

「やけに統率が取れておる……ただの信者どもではないな!?」

「どういうことよ?」

「戦闘を目的とした部隊、ということじゃ!」

 

 そういえば作戦会議の時にヨハネス神父から聞いたことがあったのを思い出した。

 

 ――魔獣教団には、魔獣による死刑執行を専門にした執行部隊がいるとのこと。充分に気をつけてください。

 

 それが今、あたしたちを囲んでいるというのか。

 

「そう、その通り!」

 

 囲んでいた刺客たちをかき分けて、ひとりの男が前に出る。

 スタイリッシュに燕尾服を着こなす、特徴的な高い鼻の男だ。

 

「我こそはダリア様ファンクラブ会員第一号、ロドリグ・ベルガー!」

 

 いきなり何を言ってるんだこの人は。

 

「おっと、今は第五執行部隊『タウロス』の隊長だった。失敬失敬」

「気の抜ける奴じゃのう……」

 

「ここにはダリア様が落とした屍を確認しに来たのだが、意外にもピンピンしているではないか。流石は噂に名高い戦闘民族ラグナ族といったところかな?」

 

「お褒めの言葉をどうも。あたしもここまでタフだとは知らなかったけどね」

 

「フン、強がりを……我々は知っているぞ、ラグナ族の娘。貴様のマキナは空に太陽が昇っていない限り、その全力を発揮できない。おまけに今、魔力はスッカラカンのハズだァ」

 

 ロドリグと名乗った執行隊長は、心底楽しそうな笑みを浮かべて、あたしを指差す。

 

「しかも足手まといの妖精とガキが一緒とくれば、これは千載一遇の好機ってヤツだねェ! もし貴様がまだ生きていたら息の根を止めろと、ダリア様直々のご命令だ。死を以て魔獣の贄となれェ!」

 

 左腕を天に掲げるロドリグ。すると周りの黒フードたちが、一斉に何かを取り出した。

 見た目は近代的なランタンのようだが、不自然な紐が付いているし、よく見ると濁った色をした石が埋め込んである。

 

「あれは汎用型マキナ!?」

「しかしあんな機械じみたものは見たことがないが……まさか!?」

 

 すぐに気付いたミュウくんと、何かを察したリテラ。

 一体奴らは何をしようというのか。

 

「総員、抜獣(ばつじゅう)!」

 

 黒フードたちが不自然に垂れ下がっているマキナの紐を、『抜獣!』の掛け声と共に引いていく。

 

 するとどうだろう。ランタンっぽいマキナの前に禍々しい模様をした黒い魔法陣が出現し、そこから魔獣が現れたではないか。

 黒フードひとり一匹のペースで、おそらくは『眷属』クラスの魔獣が続々と現れていく。

 

「マジかよ……魔獣がこんなに!?」

「あの汎用型マキナに魔獣を封じ込めておったのか!」

「こんなやり方で王都に魔獣を入れていたとはね……」

 

 カミュラの場合は特殊だったということかもしれない。実験体って言ってたし。

 おそらくこの方法が王都に魔獣を持ち込む常套手段だったのだろう。

 

「どうだ、凄いだろう! 帝国の技術者に作らせた汎用型、『ゲフェングニス』は! 『眷属』クラスの魔獣ならばこの中に封印できる上、こうやって自在に解き放つことも可能! 魔獣を手駒として運用できるのだァ!」

 

 勝利を確信したらしいロドリグの声のテンションがどんどん上がっていく。

 

「せいぜい負けを認めてむせび泣け! 攻撃開始ィ!!」

 

 ロドリグの号令で、魔獣に攻撃を命令する黒フードたち。

 多くの魔獣が、一斉にあたしに襲いかかる。

 

 しかし、だ。

 ロドリグ・ベルガー、アンタは今聞き捨てならないことを言ってしまった。

 

 あたしの闘志に火を付けた、その責任は取ってもらおうか。

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』」

 

 不思議と魔力が湧き上がり、あたしの両拳に籠手が宿る。

 地を踏みしめる脚にも脛当(グリーブ)が装備され、迎撃の準備は整った。

 

「『我流・ライジングアーツ』――」

 

 構えからすぐさま太陽の魔力を右拳に集中させ、地面に叩きつける!

 

「『サンライト・ウェイブ』!!」

 

 地を叩いた太陽の波動はまるで大波のように高くうねり、多くの魔獣を巻き込んだ。

 襲撃してきた全ての魔獣が魔石だけの姿となり、無念にも転がり落ちる。

 

「負けを認めろって? 舐めたこと言ってるんじゃないわよ。あたしは負けない……絶対に!」

「ば、馬鹿な!? 貴様の魔力はもう尽きているはず! 一体何が……何がどうなっているんだァ!?」

「そんなこと、あたしが知るか!!」

 

 不思議よね、太陽もまだ昇ってないのに力が滾るなんて。

 でも疑問に思ったら終わりでしょ、こんなの。

 

「チィ! 総員、武器を取れ!」

 

 お、今度は数の利と物理で攻める気か。

 

 ロドリグの号令と共に、中身がなくなった『ゲフェングニス』を捨てて、各々の武器を抜刀する黒フードたち。

 まあ、あたしという人間ひとりを相手にするなら、マキナを使う必要もないわよね。

 

 ならあたしの答えはこうだ。

 

封印(シール)

 

 魔獣迎撃のために展開していた『ソルマドラ』を、一旦しまう。

 

 まだ太陽が昇っていない以上、ブーステッド・キマイラとダリアを殴れるくらいの魔力は残しておきたい。

 それに、人間相手なら『ソルマドラ』を使わない方がやりやすい、というのもある。

 

「マキナの展開を解除しただとォ!? 馬鹿め、自ら死を選ぶとは! 素手でも構わん、やってしまえ!」

 

 黒フードたちが武器を掲げてあたしに迫る。

 『馬鹿め』はアンタたちの方だ。

 格闘家の真骨頂は、徒手空拳にあり。

 

 それにあたしはこの時のために、付け焼き刃ではあるけど集団戦の訓練をしてきたのだ。

 昼間、ノルンさんに言われたアドバイスを思い出す。

 

 ――いいッスか? 多対一の基本は、いかにターゲットを少数に絞り、数を着実に減らせるかにあるッス。

 ――レヴィンちゃんならパワーで突破するという手もアリッスけど、もし狭い場所で戦うとなれば崩壊のリスクも考えなきゃいけないッスからね。

 ――そういう時はひとりひとりを意識して、スマートに無力化していくのが確実ッス。

 

 うん、やってみよう。

 訓練の成果を、ここで見せる!

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