太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第三十七話 「上向きな、いいモンが見られるぜ」

 丹田から深呼吸し、息遣いを整えていく。

 

「スゥー……ハァー……」

 

 集団で武器を手にした黒フードたちが、あたしに襲い来る。

 

 一見窮地に見えても、あたしの心は今、驚くほどに冷静だった。

 透明で澄んだ水が身体を流れるように。

 

 達人の境地にはまだ程遠いかもしれないが、今はこれでいい。

 なぜなら、この場にいる中で、あたしが一番強いんだから。

 

「死ねぇ!!」

 

 まずはひとり、正面から。

 姿勢を低くして横薙ぎの攻撃を躱し、脚を踏み込んで腹の急所に肘を叩き込む。

 

「カハッ!?」

 

 八極拳を代表する肘打ち技『裡門頂肘(りもんちょうちゅう)』。

 それをアレンジした『ライジングアーツ』の技が、『ライジングナックル』シリーズにおけるレントの特殊技、『フラッシュ・エルボー』だ。

 

 一度当てれば連撃の起点にもなる、あたしからすれば便利な技を、初めて人間の、それもわかりやすく全うな悪党に使う。

 たとえ目指していたのが『普通』であろうとも、あたしが求めていたのは、こんな光景だったのかもしれない。

 

「フッ!」

 

 間髪入れず左の二人目に掌打。

 続けて右の三人目に裏拳。

 四人目、蹴り上げ。

 五人目、回し蹴り。

 六人目、ハイキック。

 七人目、アッパーカット。

 八人目、膝蹴り――。

 

 黒フードの刺客たちは次々と倒れ、その数を減らしていく。

 

 気分が否応なく高揚する。

 まるでカンフー映画の主人公。前世の病床生活では考えられなかった光景を、あたしは今ここで再現している。

 

「何をやっている! 相手は武器を持たぬラグナ族だぞ!? ええい、こうなれば消耗戦だァ!!」

 

 無力化した数が二十人を越えたところで、ロドリグはヤケクソ気味に方針を転換していく。

 伏兵だったのか知らないが、黒フードの数がさっきの倍ほど増えるのを見た。

 

「まったく、数だけはゾロゾロと!」

「マズいのう……全部を相手にしていたら、ダリアに追いつくまで体力が保たんかもしれん」

「ズルいぞ、変な鼻ー!」

「ニュー、それはいくらなんでも……」

 

 もしかしたら変な鼻のロドリグ、意外と頭はキレる方なのかもしれない。あたしたちをダリアのところまで行かせないという一点に関しては。

 

「鼻が変とは何だ、自慢の鼻だぞォ! ともあれその顔を見れば、数で押すのは正解だったようだなァ! このまま一気に――」

 

 このままではジリ貧、となったその時。

 

 意外な助っ人が、現れてくれた。

 

「させねえよ! 『ゲイルトマホーク』!!」

 

 風の唸る音と共に、地は抉られ、十人ほどの黒フードが宙を舞う。

 こんな風の刃を振るえるのは、あたしの知る中でひとりしかいない。

 

「あんたは……!」

「ヘッ、どうやら祭りには間に合ったようだな、レヴィンさんよぉ!」

 

 大きなマサカリのようなマキナを担いで堂々と入場するは、傭兵の間で『狂犬』と呼ばれる男、リバー・イーグル。

 かつてあたしが決闘を挑まれ、拳だけで返り討ちにした、父と付き合いのある傭兵。

 そんな男が何故ここに?

 

「教団の拠点をひとつぶっ潰した帰りに、まさかテメェに会うなんてな。何でこうなったのかは知らねえが、俺たちが手を貸すぜ!」

「そりゃあ、ありがたいけど……俺たち?」

 

 なぜ複数形なのか疑問に思ったのも束の間、リバーの後ろからふたりの男たちが現れる。

 

「まったく、何故お前はそうやって考えなしに何でも決めたがるんだ。同じ傭兵団だからとオレとカールを勝手に巻き込むんじゃない」

 

 左からは、リバーに負けず劣らずの悪人面。

 スラッとした顔立ちだが、パッと見で『ニヒル』という単語が似合いそうだと感じてしまう。

 

「まあいいじゃねえか、ジン。おれも祭りは好きだからよ、いつもみたいに騒ごうじゃねえか」

 

 右のカールと呼ばれた男は先のふたりに比べれば平凡なぽっちゃり顔だが、落ち着いている印象を受けた。

 

 あまりにも堅気とはいえない三人組。まさか『狂犬』と呼ばれるリバーが傭兵団を組んでいたとは。

 

「ガラの悪い盗賊みたいな顔してるけど……一応味方なんだよな、姉貴……?」

「他のふたりは知らないけど、赤いマントのリバーとは傭兵仲間よ、一応。まあ今回の依頼、当然受けてると思ってたわ」

「血の気の多い奴じゃからのう」

 

 リバーたちと初対面であるニューが狼狽える一方、ロドリグは突然の増援にも動じず鼻を鳴らす。

 

「フン、傭兵が三人増えたところで、この数をどうにかできるものかァ! やってしまえ!」

 

 ロドリグの号令で、黒フード軍団はリバーたち三人に狙いを定める。

 対して三人組は、少し怖いが余裕の表情で迎え撃たんとする。

 

「オイ、三人程度じゃ話にならないとさ」

「相当なモグリと見えるな、あの三下司令官殿は」

「だったら、今ここで味あわせてやろうぜ……俺たち『ブランロート傭兵団』の恐ろしさをな!」

 

 燃えるような赤の名を刻んだ傭兵団が、既に解放(リリース)していた各々のマキナを構えた。

 

 リバーはあたしも既にご存知の風斧『ゲイルトマホーク』を。

 ジンは、まるでロボットアニメに使われるドリルのような穂先が特徴的な槍。

 カールは、頭より巨大な水色の大槌(ハンマー)

 

 いずれもパワー系なラインナップのような気がするが、この際細かいことは言いっこなしだ。

 きっと男のロマンみたいなものなのだろう。そういうことにした。

 

「一番槍はこのオレ、ジン・ジャガーだ! 岩砕槍『ライガーボルグ』! 眼前の敵を抉り払え!」

 

 槍を地面に突き刺したジン。すると地面からドリルのように回転する岩のトゲが無数に出現し、黒フード軍団は高く舞い上がった。

 

「次はおれの『ポセイドンハンマー』だ! よーく刻めよ、おれがカール・ベアだ!」

 

 水色の戦鎚が振り下ろされると、地面から水の竜巻が湧き出てきた。

 黒フードはまとめて竜巻に巻き込まれ、水はその形を変えて巨大な泡の球と化し、黒フードたちを檻の如く閉じ込める。

 

「これで決まりだ! 世界の果てまで、吹っ飛びやがれエエェェ!!」

 

 その泡の球を、リバー・イーグルの風斧が真っ二つに裂いたかと思えば、泡の球が破裂した衝撃で散り散りに吹き飛ぶ黒フードたち。

 

 まさに三位一体の連携だった。各々のマキナの特性を知る以上の深い信頼がなければ出来ない合体技。

 リバー率いるブランロート傭兵団……まさかこれほどの実力があったとは。

 

「ヘッ、雑魚を散らすだけなら俺たちだけで充分らしいな」

「おォのォれェ! たかが木っ端傭兵団の分際でェ!」

 

「フッ、果たして木っ端はどっちかな? 自分は命令するだけで何もしない奴など、木っ端以外の何者でもないとオレは思うがね」

「やかましいィ! 侮辱も大概にしろ! 私はロドリグ・ベルガーだぞ! ダリア様に認められた――」

「知らねえよ。それより、いいのか? 木っ端なおれ達にかまけてて」

 

「貴様、何を……しまった、ラグナ族の娘が居ない!? ガキ共と妖精も!! 一体どこへ――」

「上向きな、いいモンが見られるぜ」

「う、えェ――!?」

 

 双子を両脇に抱えて跳躍したあたしの右靴底が、ロドリグの顔に迫る。

 

 ブランロート傭兵団の意図を察したあたしは、既に行動を起こしていた。

 彼らが囮となって惹きつけているうちに、執行部隊の包囲を突破する冴えた方法。

 

 わざわざ前線に出てくれた無能な隊長を、文字通り()()()にする――!

 

「ごべぶァッ」

 

 立派な鼻がついた憎たらしい顔に、靴のスタンプを押しつけてやる。

 そこから顔を踏みつけたまま二段目の跳躍。

 哀れ、ロドリグ・ベルガーの顔は特徴的な鼻も相まって更に醜くなりましたとさ。

 

「た、隊長ぉぉぉぉ!?」

 

 執行部隊の黒フードのひとりが思わず声を上げる。

 その間にあたしは建物の屋上に着地した。

 

「見直したわよ、リバー・イーグル!」

「よせやい、祭りの気分だっただけだよ。とっとと行きな! 急いでんだろ?」

「ありがとう!」

 

 親指を立てるリバーを背に、双子を抱えたあたしは王城方面に向けて身体を走らせる。

 建物から建物へ跳び移り、最短距離を一直線。

 

 ちなみにリテラはあたしの髪に捕まっている。正直ちょっと頭皮が痛い。

 

「いやっほぅ! さすが姉貴だ、馬車より速いぜ!」

「これであの魔獣に追いつけますね!」

「思えば奇妙な縁じゃな。かつてお主が負かした男が、ああして仲間を連れて駆けつけるなど」

「だからって惚れたりしないけどね。あたしのタイプじゃないし、顔怖いし」

 

「レヴィン、さてはお主、異性に求める理想が高いな?」

「は? 別に高くないし。相手の顔が良くて惚れるくらいだし……って、なに言わせるのよ!?」

「あの、お二人共。今その話いります……?」

 

 そんな緊張感のないやり取りをしながら、あたしは夜明け前の王都を駆ける。

 ブーステッド・キメラも、ダリアも、あたしの拳でぶん殴るために――。

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