太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その七 「全てはワシが教団と手を結んでやったことだ」

 夜更けにもかかわらず、王城の警備はいつもより厳重だった。

 ガーネット女王陛下の暗殺未遂事件。

 生誕祭を前にして起きた未曾有の事態に、城中が緊張に包まれていたのだ。

 

 城内では騎士たちが忙しなく動き回り、侵入者を警戒している。

 

 そんな中で、夜空が見える城の一室――玉座の間へと続く廊下にて、ひとりの男が望遠鏡で夜空を覗き込んでいた。

 

「ええい、一体何をしておるのだ。あんなものまで持ち出しておいて」

 

 彼の名はドルマ。ウォルタート王国を支えているはずの大臣の席にありながら、今や彼は立場を失いつつあった。

 

 ドルマは王家派閥の中では数少ないタカ派である。

 魔獣教団と密かに手を結びながら、西のアインハイト帝国との開戦に備えていたが、本格的に動くには今の体制を崩すほか無いと悟り、暗殺未遂計画を発案。

 

 私兵を動かさず全てを教団に任せてしまったツケが来てしまったのだろうか。今一度ドルマは望遠鏡を覗いた。

 

 おそらく教団が造ったであろう混沌の獣(キマイラ)が、王都の夜空の下、誰とも知れぬ風の魔導士に足止めを食らっている。

 

 本来ならあの魔獣は王城の衛兵を引き付ける囮とするべきだった。それがまだ王城に迫らず兵を動かせていないとなると、別行動の執行部隊が女王暗殺に失敗する可能性が高い。

 

 いや、まだ夜更けとはいえ、そもそもあれだけ派手に魔獣をぶつけておきながら、未だに混乱に陥っていないというのか?

 相手の魔導士はどれだけの手練れだというのだ。

 

 焦りと憤りが、ドルマの精神を支配していた。

 

 そんな彼のところに、ふらりと現れた男がひとり。

 

「星はよく見えますかな? ドルマ大臣」

「む、シェーンコップ書記官……若造が一丁前に夜更かしとは関心せんな」

「夜更かし。それは貴方もでは? ほら、目元にクマが」

「むぅ……」

 

 フィン・シェーンコップ。王室の中では若手ながら、その仕事ぶりは既に高く評価されている男だ。

 

 しかし王位継承権第二位のエメラリア王女に絶対の忠誠を誓っている青年であるが故に、ドルマは彼を疎ましく感じていた。

 

 ガーネット女王は生誕祭にて子息たちのいずれかに、王としての権威を譲るつもりでいるという。

 

 ならば、次の座に行動力のあるエメラリア王女が就いては不味いことになる。彼女の性格上、傀儡(かいらい)として国を操ることが不可能になってしまうのだ。

 

 いかに継承権の序列があるとはいえ、後継者を選ぶのは女王自身。

 国の頂点に立つ器であると判断されれば、序列に関係なく次代の王として君臨することを許される。

 

 それが代々伝わるウォルタート王家の習わし。故に、他の王候補に忠誠を誓う者の存在は危険だ。

 

「やはり大臣も不安で眠れないと見えますね」

「お主もだろうが、若造。暗殺未遂の騒ぎからそこまで日も経っておらぬのだ。城下にも噂程度に情報が拡散されているというし、あらゆる不安がワシの心を圧迫するんじゃよ」

「お気をつけください。城下の深淵には怪しげな宗教団体が跋扈(ばっこ)していると聞きます。くれぐれも、心の弱みにつけ込まれぬよう」

 

(フン、心にもないことを)

 

 フィンは文官ではあるがその実、エメラリア王女直属の諜報員も兼ねている。

 魔獣教団と密かに手を組んでいることを、この男にだけは知られると不味い。最悪、国外追放もあり得るだろう。

 

「そういえば大臣は朝の会議で、後継者の皆様を叱咤激励していらっしゃいましたね。確か、『どうせありもせぬ陰謀論だ、目先の不安より将来の展望に目を向けろ』とかなんとか」

「とても見てられぬと茶々を入れたまでだ」

(話題を逸らすためとは口が裂けても言えぬがな)

 

 大臣ドルマは小心者である。故に魔獣教団と手を結んだのは、保身のためであった。

 豪華なアジトを与えて、組織の発展を促し。行く行くは自分の組織として丸め込み、最終的には王位継承権を持つ王族の中で一番幼いシトリー王女を傀儡として操り、この王国を自分の手足とする。

 

 このような計画を考えていたからこそ、自然と『将来の展望に目を向けろ』という台詞が出たのだろう。ドルマはそう思うことにした。

 

「いやはや、なんとも勿体なきお言葉でした。エメラリア陛下も、貴方をいたく評価されていましたよ」

 

 ふと、フィンが服のポケットに手を忍ばせる。

 ドルマはフィンが何か武器を出すのではと思い警戒した。

 

「お主自身はワシを評価していない、とでも言いたげだな?」

「おや、怖がらせてしまいましたかね。これは失礼。評価云々とは関係ありませんが、道すがら落とし物を拾ったもので。邂逅ついでに聞き込みをと思っただけでして」

 

 そう言ってフィンが出してみせたのは。

 

 魔獣教団信者の証として配られている、黒い羽根のペンダントだった。

 

(こ、これは!? ワシのものでは!?)

 

 ドルマの顔が引きつった。そんな馬鹿な、と。

 普段は誰にも見つからぬよう、書斎のとある場所に隠していたというのに。

 

 それを『落とし物』だと。

 

 白々しいにも程がある。いつの間に自分の書斎を漁ったのだ、貴様は。

 

「その顔、何か心当たりでも?」

「いや、その……うちの秘書(メイド)がな? そんな感じの装飾品を失くしたとか、そんなことを言っていた、ような?」

 

「へえ、そうなんですか。ならその人に注意しておいてくださいね。こんな怪しい宗教からは足を洗うように、と」

「ど、どういうことかね?」

 

「私の仕入れた情報では、このペンダントは魔獣教団とやらに入った証らしいので。ご存知でしょう、魔獣教団のことは?」

「噂程度なら知っとるよ。魔獣を神の如く称えるイカれた集まりだというくらいはな」

 

 内心慌てながらも、ドルマは嘘を吐き続ける。

 

「わかったら返したまえ。ワシから秘書(メイド)に――」

 

「おや、おかしいですね。大臣の秘書(メイド)様は先日不慮の事故で亡くなられて、まだ後任も決まっていなかったはずでは?」

「あッ!?」

 

 うっかりしていた。『そういうことになっていた』ことをすっかり忘れていた。

 

 ドルマの額から汗が吹き出す。

 彼の秘書(メイド)は彼の知られてはいけない秘密を知ってしまったため、魔獣教団を使って密かに始末させたのだ。

 この口の滑らせ方は、いくらなんでも不味かった。

 

「だとすればこのペンダントの持ち主は、大臣ということになりますね……?」

「ば、馬鹿も休み休み言え、若造! だったら何だというのだ!? ワシが悪徳宗教に入っていたところで、それがどうしたというのか!」

 

「私の情報網によれば、暗殺未遂事件を起こした黒幕は魔獣教団とのことです。このペンダントは貴方が魔獣教団信者である何よりの証拠。そして貴方は女王陛下暗殺未遂の件にも絡んでいた! 違いますか?」

「な、何を根拠に――」

 

 フィンはまたも懐から何かを取り出す。

 それはドルマの血判が押された羊皮紙。

 魔獣教団と手を結んだ、決定的証拠――!

 

「先程ペンダントを落とし物と言ったのを訂正します。実際は貴方の居ぬ間に書斎を調べさせていただきまして、上から二番目の引き出しの底に小さな穴があったのに気づきましてね。二重底とは古典的な手を、と関心したところに、ペンダントと一緒に入っていたコレを見つけました」

「き、貴様……!」

「再び訂正します。あまりこういう証拠になるものを一箇所に収めていたのは関心しませんね」

 

 やはり危険だ、このフィン・シェーンコップという男は。

 少しの油断もしてはいけなかった。

 

 この男の前では、どれだけ小さな穴を開けることも許されない。

 いかなる手段を以てしても、穴を見つけて針を通してしまうから。

 

「馬鹿、な……!」

 

 膝をつくドルマ。

 もはや弁解の余地は欠片もない。

 

「み、認めるしかあるまい……教団への資金援助、教団暗殺者の手引き、秘書(メイド)の生贄の件、その他諸々……全てはワシが教団と手を結んでやったことだ」

「大臣……残念です」

「だがしかし、この秘密が万が一バレでもしたら、ワシの立場が危うい。どうか、この事は内密に――」

 

「見苦しいですよ、ドルマ大臣」

 

 そこへ追い打ちをかけるように、聞き覚えのある声がドルマに突き刺さる。

 

 月明かりに照らされて、ふたりの衛兵を引き連れたエメラリア王女が姿を現したのだ。

 

「ひ、姫殿下ぁ!?」

「全ては聞かせてもらいました。フィンもお疲れ様です」

「いえいえ、会議の時に大臣の様子がおかしかったことを見抜いた姫様の彗眼があってのこと。私はただ姫様の仰る通り動いたに過ぎません」

 

 なんということだ。この王女には勝てぬわけだ。会議の時から既に疑われていたとは。

 

 彼女は幼い頃から人の悪意に敏感だった。時には城を飛び出して深淵の悪意を挫こうと努力し、それでも届かなかった時は涙を流すこともあった。

 

 そんな彼女を支える書記官兼諜報員、フィン・シェーンコップ。エメラリアの決断力と彼の暗躍によって、ドルマの野望は今ここに潰える。

 

「もはや言い逃れは無意味ですよ、大臣。国を……何よりお母様を裏切ろうとした罪は重い。檻の中でその罪を(あがな)ってもらいます!」

 

 衛兵ふたりがドルマを拘束せんと動いた。ドルマ自身は洗いざらい罪を暴かれて何の抵抗もしなかったが。

 

「グフッ……グフフフッ」

 

 気味の悪い笑みを、浮かべた。

 

「何がおかしいのです?」

「やってしまいましたなあ、姫殿下。これで貴方は完全に魔獣教団を敵に回した」

「影武者とはいえ、身内に手をかけたのです。いえ、それ以前にも王国は魔獣に手を焼いています。魔獣を称える者たちは、その時点から既に敵。今更どうということはありません」

 

「それはごもっとも……しかしワシの援助が止まったところで、魔獣教団は止まらない。そう遠くない未来、姫殿下は思い知ることになるでしょう! 魔獣の恐ろしさを! 人の醜さを! 己の無力を!」

 

「……連れて行きなさい」

 

 言いたいことは言い切ったのか、衛兵の拘束におとなしく従うドルマ。

 その光景を、エメラリアは蔑んだ目で見ていた。

 

「実行犯は別人もとい別の獣ですが、間者を拘束できて、あとはジークの容疑を晴らすだけですね」

「やはりお辛いでしょう、身内の大臣が今回の事件に関わっていたとなれば尚更――」

「いいのですよ、フィン。私は自分が正しいと思ったことをやっただけ。どんな壁があろうとも越えなければ、レヴィンさんに顔向けできませんから」

「女王陛下の志を一番引き継いでいるのは、やはり貴方なのかもしれんね」

「……そんな言い方、ズルいですよ」

 

 これにてひとまず一件落着と思われた、その時だった。

 

「姫様、危ない!」

 

 フィンが咄嗟にエメラリアを庇い、彼の背中を風圧が伝わる。

 廊下の壁に剛速球の如く叩きつけられたものがある。

 

「嘘……ヤーナ!?」

 

 それは今までダリアとブーステッド・キマイラを城近郊の上空で相手取っていたエメラリアの友、ヤーナ・シェーファーだった。

 ヤーナはそのまま力尽き、崩れ落ちる。

 

(何だか知らんが、しめた!)

 

 エメラリアたちがヤーナに気を取られている隙に、ドルマは動いた。

 衛兵の拘束を解いて、剣を奪う。そのまま衛兵を斬り払って、エメラリアに近付いた。

 

「大丈夫で、きゃあっ!?」

 

 ドルマは背後からエメラリアを羽交い締めにする。

 

「グハハハ! これで形勢逆転というわけだ!」

「大臣、貴方という人は……!」

「姫様を離せ、裏切り者め!」

「黙れ若造! 貴様が最も敬愛する姫の首をかっ切られたくなければ、全力でワシを見逃せ!」

 

 ドルマには確信があった。

 いくら手段を選ばぬ諜報員とて、エメラリアを人質に取られれば手は出せぬと。

 

 所詮は融和政策を第一とするウォルタート王国、悪辣な手段に対しては後手に回らざるを得ない。

 ましてや、後に国を背負うかもしれない者の命となれば尚更だ。

 

「くっ、姫様……!」

 

 フィンの動揺の表情を愉悦感漂う目で見つめながら、ドルマはエメラリアと共に後ずさる。

 衛兵も手を出してくる気配はない。天運が味方したとはこのことか。

 

「フィン、私なら大丈夫です。貴方と衛兵の皆さんは、そこの彼女の介抱を優先してください!」

「し、しかし――」

「それと騎士団にも伝令を! 魔獣が王都に侵入しています! 王城の防衛にも人員を割いて欲しいと!」

「わ、分かりました!」

 

 フィンは衛兵に気絶したヤーナを抱えさせて、急ぎ足でこの場を去っていく。

 その背中を見送りながらドルマは笑みを浮かべた。

 

「御身の命がかかっているというのに、慌てもせず命令を下せる……やはり血筋ですな」

「ここに友が飛ばされてきたのです。どうせ城の外に魔獣が居るのでしょう? 最悪の事態を常に想定しておかねば、正しき事は成せません」

「昔から貴方のそういうところが(しゃく)(さわ)る……こうなればワシのワガママにとことん付き合ってもらいますぞ」

「この期に及んで、どうしようというのです?」

 

 少し唇が震えるエメラリアの問いかけに、ドルマは笑みを崩さず答える。

 

「女王陛下の目の前で、貴方の首を斬ります!」

 

 それは今のドルマが考えうる、最大級の嫌がらせだった。

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