太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その八 「私はここに、グナーデン自警団の発足を宣言します!」

 エメラリア・フォン・ウォルタートは、昔からそのアクティブな行動力で、周りの大人たちを困らせていた。

 日頃の英才教育により、善き人間には育ったものの、彼女の根底には女王ガーネットの言葉があったからだ。

 

 ――王は常に民の善き指導者でなくてはならない。

 

 エメルは善き者であれと母の愛を受けた。

 

 しかしある時、彼女は疑問に思う。

 

 善き王になるのであれば、導く民のことをよく知らねばならないのでは? と――。

 

 思い立ったが即行動。

 彼女は深夜に王城を抜け出した。

 

 エメラリア・フォン・ウォルタート、齢九歳の頃である。

 

 

 ※※※

 

 

 さて、意気揚々と城下町に繰り出したものの、彼女がまずしたことといえば。

 

 迷子になったことだ。

 

 そもそも、諸用で母たる女王と共に馬車に乗って大通りの様子を眺めた程度だ。ロクに街全体の地理など頭に入っていない。

 おまけに誰もが寝静まる夜更け。城の魔導具倉庫からこっそり火精のランプを拝借していなければ、恐怖に打ちのめされて足がすくんでいただろう。

 

(大丈夫、この王都で一番の城です。いざ帰るとなれば、迷うことはありません)

 

 エメラリアはむしろ、この状況を前向きに見据えていた。自分の帰る家である王城が見えているのなら、いくら迷っても必ず戻ってこれると。

 未知のこの状況を楽しむ彼女の好奇心が、恐怖を打ち消す原動力となったのだ。

 

(とはいえ、どこかで朝を待たなければなりませんね)

 

 当然だが、双子月が空に浮かぶこの時間帯には、歓楽街を除けば人の出入りが殆どない。

 国民の営みを観察しようにも、人が通らねば彼女の目的は果たせないままだ。

 

「あれは……」

 

 エメラリアは迷い込んだ路地裏で、蓋の開いた木製の空箱が放置してあるのを見つけた。丁度彼女の背丈に合う大きさの箱だ。

 

「この中に入っていれば、突然の雨でも大丈夫ですね」

 

 彼女は少しばかり窮屈なその箱の中へと入り、暗闇の中でじっと朝を待つことにした。

 

 

 ※※※

 

 

 突然暗闇の中に差し込む光。

 

 どうやら朝になったようで、箱の中で眠っていたエメラリアは目を覚ました。

 

「おい、見てみろヤーナ! 女の子が箱の中に!」

「うわっ、マジですわ。ここのチンピラども、いくらお金に困ってるからといっても、誘拐は人としてどうかと思いますわね」

 

 ふたりほど、知らない話し声が聞こえる。

 自然に蓋が開いたのではなく、彼女らが木箱の蓋を開けたのだろう。

 

「んっ……ふわぁ~……。おはようございます」

 

 エメラリアはむくりと実家のベッドと同じような感覚で起床した。

 

「うむ、おはよう!」

「ジーク、なに普通に朝の挨拶してますの。ほらアナタも! 寝ぼけてないで!」

「いだだだっ、ほっぺ引っ張らないでー!」

 

 眼鏡の少女に頬をつねられて、エメラリアの意識は完全に覚醒した。

 

「あら……貴方たち、どなた? それにここ、知らない場所ですね」

「私はジークリンデだ!」

「アタクシはヤーナ……と、あまり悠長にはしていられませんわね」

 

「なぜです?」

「ここは盗賊団のアジト。呑気にしていたら奴らが帰ってきてしまいますわ」

 

 はて、どういうことでしょう。

 エメラリアはわからないなりに考えた。

 

「つまり私は、いつの間にか文字通り盗賊団の皆様のお荷物になっていた……と?」

「どういうことだ? 誘拐されていたのではないのか?」

 

「いえ、私は朝が来るまでの寝床として、この木箱をお借りしていただけです」

「大した胆力ですわね……」

 

 などとヤーナがエメラリアに感心していると。

 話し声と複数の足音。ヤーナと、ジークリンデが遅れて気付いた。

 

「まずいですわ、盗賊の皆さんが!」

「戻ってきたか!」

「あら、どうしましょう?」

「逃げるんですのよ。ほら、早く!」

 

 エメラリアはヤーナに手を引かれるまま、アジトの外へ飛び出した。

 

「どこへ行けば良いのでしょう?」

「とにかく遠くにですわ!」

 

 出たのが裏口だったからだろうか、盗賊の集団とは運良く鉢合わせることなく、三人はそのまま逃げおおせることができた。

 

 

 ※※※

 

 

 エメラリア、ジークリンデ、ヤーナの三人は噴水のある広場で息を切らして足を止める。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……追手は?」

「なし……ですわね……完全に……ゼェ……撒けたみたいですわ……ハァ……」

「アハハハ……もうクタクタです……」

 

 はしたないとは欠片も思わず、エメラリアは石畳の上に寝転んだ。

 

「ここまで全力で走ったのは、鍛錬以来ですね……」

「君も鍛錬などするのだな、そのナリで。と、そういえばまだ名前を聞いていなかった」

 

「エメラリア、と申します。兄や親しい者たちは皆、エメルと呼びますので、そちらの方で呼んで頂いても――」

「えっ、エメラリア!? 今、エメラリアと申しましたの!?」

 

 彼女の名前に驚くヤーナの声が、若干裏返る。

 一方、名前に思い当たる節がないジークリンデは首を傾げていた。

 

「どうした、ヤーナ? 彼女の名前がどうかしたのか?」

 

「アナタ、ほんっとバカですわね。騎士志望なら、この国を背負って立つ王族の名前くらい覚えてくださいまし! エメラリアとは女王ガーネット様の第二子の名前! つまり彼女はエメラリア・フォン・ウォルタート姫ということですのよ!!」

 

「はい、ヤーナさんの仰る通りです」

「な、なんと! もし本当ならとんだご無礼を――」

 

 目の前の少女が如何に偉大な存在かを理解すると、ジークリンデは即座に跪いた。

 

「いえいえ、そう畏まらないでください。見たところ歳は近いようですし、対等で構いませんよ」

「そういうことなら問題ないな! よろしく頼むぞ、エメル!」

「切り替え早すぎませんこと!?」

 

「ヤーナさんも、よろしくお願いしますね」

「こっちは笑顔の圧が凄い!」

 

 粗方打ち解けたところで、エメラリアはふと口を開いた。

 

「私は母に、王都の外はあちこちに魔獣がいて危険だと教えられてきました。でも実際危ないのは王都の中、ということが身に沁みて理解できてしまいましたね」

 

「確かに、人さらいは立派な犯罪だな」

「いや、アナタは勝手に箱に入ってただけですから誘拐とは違うのでは?」

 

「なるほど、これが本当の『箱入り娘』……と!」

「別に上手くないし、その『どうですか!?』みたいな顔があまりにもうざったいので、やめて頂けます?」

 

「冗談はさておき、王都での盗賊の横暴は目に余ります。あなたたちが助けてくださらなければ、危うく家族に迷惑をかけるところでした。ありがとうございます」

 

 行儀よく深々と頭を下げるエメラリア。

 まるで育ちの良さが如実に表れているかのようだった。

 

「なに、ちょっとした冒険のついでだ。気にすることはない」

「ジーク、謙遜することはありませんわ。王族に貸しを作れた……これだけでアタクシたちの未来は明るくなったのでございますから」

 

「ヤーナ、また金の話か? いくら姫と仲良くなったとはいえ、姫のコネでツケを帳消し、というのは流石にまずいぞ」

「い、いや、そこまで考えてはいませんことよ!? アナタはアタクシを何だと思ってらっしゃるの!?」

 

「家族で親友だが? お金の亡者で博打打ちというオマケが付くぐらいの」

「ムキーッ! まともな計算もできないクセに、言いたい放題! まあ確かにお金は大好きですけど? 最低限の人の心はありましてよ!」

 

 ジークリンデとヤーナのやり取りを見て、エメラリアの顔からは不思議と笑みがこぼれていた。

 

 王城で暮らしているだけでは見えなかった景色。

 悪口を言い合える同世代の民。

 

 自分が見たこの光景を守ることこそが、民の上に立つ自分の役目なのだと、まだ幼き少女の心に、誓いの蕾が芽生えた。

 

「私、そろそろ帰ります。元はといえば、私が勝手に城を抜け出したのです。城の騎士たちも私を探しているはず」

「む、そうか。欲を言えばエメルも加えて冒険の続きといきたいところだったのだが」

「無茶を言うものではなくてよ。アタクシたちとは住む世界が違うのですから」

 

「はい、ですので()()()()

「ほれ見なさい。アタクシたちとは違って姫様は――、って! また明日ァ!?」

 

「今回は夜中に抜け出しましたが、次は明るいうちに、頃合いを見て抜け出す予定です。ですので、その時はよろしくお願いしますね」

「うむ、承知した! 待ち合わせ場所はこの噴水の前でいいな?」

「いや、アナタも何を勝手に承知してますの!?」

 

「ヤーナさん、私は別に城の中にこもるのが嫌でここに居るのではないんです。いずれ私も母と同じ立場になるのであれば、知らねばならぬと思ったのです。王が守るべき民の、その活き活きとした暮らしぶりを」

 

 エメラリアという王女は、何も考えていないわけではない。

 ただ考えていたことを表に出す行動力が、常軌を逸しているだけ。

 やると決めたら即行動。それが彼女である。

 

「なので明日はいっぱい、この街の元気な姿を存分に見せてくださいね」

 

 満面の笑みで、ジークリンデたちと別れるエメラリア。

 そんな彼女の頭の中には、友ふたりと紡ぐ未来予想図が、着々と構築されていたのだった。

 

 

 ※※※

 

 

 それからエメラリアは幾度となく城を抜け出し、友と城下町の冒険を繰り返した。

 エメラリア王女ではなく、愛称のエメルを名乗る町娘に扮して。

 

 彼女たちと冒険した日々は、間違いなくエメルの世界を変えた。

 街で友と思いきり遊び、今まで知らなかったこと、気づかなかったことをたくさん知った。

 

 街の人たちは皆、明るく朗らかで、笑顔が絶えない。

 王城での生活が、いかに窮屈なものかを思い知らされた。

 

 だがそれと同時に、民の中には悪いことを平気でやるような者がいることも知った。

 

 城を抜け出さなければ知らなかった、世界の光と闇。

 エメルの胸には、またひとつ決意の火が灯っていた。

 

「やはり、このままではいけませんね」

 

 三人が城下町の冒険を始めて七日が過ぎた頃、噴水の広場でエメルはくすぶっていた憤りを友にぶちまけた。

 

「仕方ありませんわ。騎士団は殆どの人員を、グナーデンの外に蔓延(はびこ)っているという魔獣の対処に割いている。少ない人員でこの広い城塞都市自体の平和を保つのは難しい」

「魔獣は我々人類の驚異だからな。優先したくなるのもわかるが――」

 

「私は騎士団を信用していないわけではありません。むしろ最適の采配だと思っています」

「問題はその采配の弊害ということですのね、エメル」

 

「ええ。今のグナーデンは、外敵からは全体的に身を守れても、壁の中のいざこざに関しては全てを把握できず、起きてしまった大きな事件でも後手に回りがちなのが現状ですね」

 

 何かあってからでは遅い。

 

 都市の警護に少人数では、スリや一方的な暴行といった規模の小さな事件も、些事とみなされ見向きもされない。

 このままの体勢が続けば、城塞魔法都市・グナーデンは遠からず瓦解の可能性を孕んでしまう。

 

「だったら、やるしかありません。私たちなりに出来ることを、全力で!」

「エメル、何を思いつきましたの?」

 

「ジーク、ヤーナ。私はここに、グナーデン自警団の発足を宣言します!」

 

 そこでエメラリアがエメルとして下した決断は、『自分たちで勝手に街の平和を守る』ことだった。

 

「じけい……だん……? よくわからんが、響きが良い!」

「誰もやらないならアタクシたちが、ということですのね。ちゃっかりアタクシたちを巻き込むのが、なんともエメルっぽくはありますけども」

「おふたりはもう仲間……私の提案を受け入れてくださると信じていますから」

 

「やれやれ、しょうがないですわね。アタクシたちが出来る範囲で街を平和にする、無茶をしない、危なくなったらすぐ逃げる。一度やると決めたからには、この三つくらいは約束していただきますわよ」

「はい、もちろん。ジークも、構いませんね?」

「無論だ!」

 

 まだ幼き三人の少女は円陣を組んでここに誓う。

 困った人々の役に立つことを。

 街に潜む悪から人々を守ることを。

 

 ここが、エメラリア・フォン・ウォルタートの『正義』の起源(オリジン)

 

 民を想う決断が、彼女の正義を形作ったのだった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 エメラリア・フォン・ウォルタートは振り返る。

 

 思えばこれまで何度、弱き国民を助けてきただろう。

 救えた笑顔もあった。余計なお世話と言われたこともあった。

 

 それでも、曲げたくなかったのだ。

 自分の中にある、民のために成すべき正義を。

 

 だがそれは、王族(みうち)でも同じだ。

 大切な人を守るために、自分の正義はある。

 

 だから、だろうか。

 

「女王陛下の目の前で、貴方の首を斬ります!」

 

 このドルマ大臣の畜生にも劣る言葉が、エメルの心を怒らせた。

 

「貴方という人はッ!」

 

 エメルは懐から護身用の汎用マキナ『マギメッサー』を取り出して振り上げ、彼女の動きを封じようとした大臣の左掌を、魔力の刃で切る。

 油断していたドルマ大臣は、切り傷の痛みに崩れ落ちた。

 

「ぐぅおおおっ!」

 

「もうやめましょう、大臣! 足掻いたところで何も変わらない! おとなしく牢の中で罪を償ってください! でないと私は、貴方をこの手で刺してしまう!」

「ワシ相手にそこまでの覚悟……やはりワシが見立てた通り、姫殿下を玉座に座らせるのは危険過ぎる!」

 

 左掌を切られたところで、大臣は止まらない。

 左手を握り、申し訳程度の止血。

 彼は起き上がり、すぐさま反撃に移った。

 

「あっ……!」

 

 無事な右手でエメルの手首を握りしめ、『マギメッサー』を彼女の手から離す。

 落ちた魔法のナイフを、血まみれの左手に握らせ、カウンター気味に振りかぶった。

 

「今ここで、殺さなくては!!」

 

 『マギメッサー』が展開する魔力の刃が、エメルに向けられる。

 

 ――このままでは、死ぬ。お母様より先に。

 

 刹那、エメルの見えている世界は鈍くなった。

 走馬灯。人がそう呼ぶ死の直前に広がる世界。

 

 こんな世界を前に身体は動かない。

 どうしようもない。

 

 せっかく仲間たちの、ヤーナやレヴィンたちの、ジークの、役に立てると思ったのに。

 

 ――こんなことになるなら、しつこくレヴィンさんに頼み込んで、体術を教えてもらうべきだった。

 

 しかし、そんなエメルの後悔は。

 

「エメルーッ!!」

 

 突然の乱入者により、断ち切られた。

 

「ぐッ……!」

 

 その声の主はドルマ大臣とエメルの間に入り、大臣の凶刃をその身ひとつで受ける。

 清潔だった白い服に、血を滲ませて。

 

「お兄様!?」

「モンド殿下!?」

 

 大臣とエメル、そのどちらも。

 

 王位継承権一位、モンド・フォン・ウォルタート王子の乱入に、驚きを隠せなかった。

 

「意外と、痛いな……ッ。護身用の汎用マキナとはいえ……」

「何故殿下自らが!?」

「妹を守るのに……理由などいらぬ」

 

 困惑する大臣の質問に、こう返して当然のような回答をしたモンドの顔色は、少し青ざめていた。

 

「それに、原因の一端が貴様と聞けば……黙ってはいられなかったからな」

「まだメルセデス様の未練を引きずっておられるのですか! 彼女は影武者として仕事を果たした! それで充分だとワシは――」

「貴様からすればそうだろうな、大臣……だが、メルセデスは僕が愛した婚約者だ! それを知っていて、自らの野望のためにと殺すなど……政を支える大臣のやることではない!」

 

「お兄様、あまり喋っては傷が――」

「これしきの刺し傷! メルセデスが受けた痛みに比べれば!」

「ひいぃッ!!」

 

 婚約者を道具にされたことへの怒り。

 妹を刺そうとしたドルマへの怒り。

 モンドの気迫は痛覚を凌駕し、ドルマ大臣を圧倒する。

 

 思わず大臣は『マギメッサー』を手放し、魔力の刃を解除する。

 流血を遮るものが消えた途端、モンドの傷から血が溢れた。

 

「がッ……!」

 

 急な出血に、モンドはエメルに寄りかかるように倒れる。

 

「お兄様!」

 

 一方のドルマは脚を震わせて、佇んでいた。

 

「ワシが……ワシがやったのではない……!」

「大臣、貴方はまだ――」

「そうだ、ワシはただ利用されただけなのだ……魔獣教団にぃ! ワシの責任では……なぁい!!」

 

 おそらくは生存本能なのだろう。

 ドルマは震えた腰と脚で、逃げの手を取った。

 

「待って、大臣!」

「案ずるな、妹よ……」

 

 モンドがエメルを気にかける言葉と連動するように、状況は一変する。

 

「なッ!?」

 

 ドルマが何かに躓いて転んだのだ。

 その『何か』とは、足を引っ掛けるには丁度いいサイズの氷塊。

 それも、先程作られたばかりのもの。

 

「既に解放させてある……お前の友をな」

 

 暗い影から足音が響く。

 その足音が近づくと、月明かりは次第にその正体を映した。

 

「そ、そんな……何故貴様がここに……!?」

 

「さて、私もなぜ解放されたのかは、皆目検討もつきませぬ。ですが――」

 

 一本のレイピアを携え、氷の魔法剣と契約した騎士。

 戦場に揺れる蒼のポニーテールから付けられた二つ名は、『蒼氷』。

 そして、元グナーデン自警団員。

 

「騎士の立場から見ても、あなたのやった事は目に余りすぎますね。大臣!」

「ジーク!」

 

 ジークリンデ・シグルド。

 

 生き汚い大臣の目の前に立っていたのは、謂れのない罪を被せられた騎士その人であった。

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