太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その十 「今、証明してみせましょうぞ!」

 エメラリアとフィンがドルマ大臣の罪を暴く、その三十分前。

 

 牢屋で退屈を持て余していた、容疑者の騎士ジークリンデ・シグルドは、爆睡中だった。

 

「むにゃむにゃ……いいのかそんなに……食べ切れんぞぉ……むにゃむにゃ」

 

 夜中であるから当たり前なのだが、今の彼女はエメラリアやレヴィンたちにとっては助けられる側の人間である。

 何もやることがないと、そう思った上での爆睡だったが。

 

 この夜に関しては、事情が違った。

 

 灯りを持って牢屋に近づく影がひとり。

 

「まったく……呑気なものだな。僕がお前を狙う刺客だったらどうするつもりだ」

 

 そう呟いて檻の前に立ったのは、モンド・フォン・ウォルタート王子だった。

 腰のベルトには鍵の束をぶら下げている。

 

「気は進まないが、これもエメルのためだと思えばいい」

 

 モンドは持っていた鍵で檻を開けて、ジークリンデを起こすために近づく。

 

「とっとと起きろ、バカ騎士」

「おっ、今度はバナナかぁ……いい色をしているなぁ」

「ええい、よだれが汚い! さっさと起きろ!」

 

 ジークリンデの肩を掴んで、強引に夢の世界から引きずり出そうとするモンド。

 その顔には焦燥が浮かぶ。

 

「んっ……」

 

 やっとジークリンデの目蓋が開いた。

 

 目の前には、モンド王子。本来なら、まだ自分が処される時期ではないはずだ。

 それに彼は、自分自身を何かと避けていたはず。

 

「で、殿下?」

「そのキョトンとした顔……そんなに僕が直接来たのが珍しいか。当然だな」

「いえ、そのような……ただ――」

「ただ、何だ?」

 

「もう食事の時間なのかと、思いまして」

「はぁ?」

 

 モンド王子は『何を言っているんだ』という顔でジークリンデを見た。

 

「まったく、エメルから聞いていた通りの食い意地だな。死ぬのが怖くないのか?」

「怖くないといえば、嘘になりますね。死んだら王都の料理が食べられませんから」

 

「……バカ騎士め。庶民じみた生への執着を語るんじゃない。僕はお前を、恨んでるんだぞ」

「しかし、メルセデス様を殺したのは私ではありません。聞けば魔獣が彼女を――」

「そんなことはわかっている。いや、エメルにわからされた、というべきか」

 

 腑に落ちた。少なくともジークリンデはそう感じる。

 

 モンド王子は昔から、エメルに何かと甘い。

 自警団をやっていた頃にエメルを探していたのは、いつも衛兵を連れたモンド王子だった。

 それほど彼女に過保護であったし、それは今でも変わらないらしい。

 

 ならば今、自分の目の前にいて、鍵を持ってきたのは、エメルのために動いているということなのだろうか。

 一般教養が足りていないジークリンデだが、剣の腕と観察眼は鋭かった。

 

「魔獣がお前に化けていたなど信じられない話だが、エメルのことは信じるに値する。お前を勝手に解放するのも、全てはエメルのためだ」

「よいのですか? 猶予をあげたのは貴殿です。レヴィンたちが証拠を持ってきてからでも――」

「バカ騎士め、エメルの行動力を舐めているのか? 朝の会議でエメルはドルマ大臣を疑い始めた。今頃は審問官気取りで断罪している頃だろう」

「まったく、変わらないな……ヤーナにまだ動くなと言われていたのに」

 

 モンド王子は持ってきた鍵で『魔封じの枷』を解錠する。

 ジークリンデの右手甲に、再びマキナ契約の魔法陣が浮かび上がった。

 

「ふぅ、満足に腕を動かすのも久しぶりだな」

「あくまで緊急の処置として、僕の権限で仮釈放したに過ぎない。事が済めばまたここに入ってもらう。そのつもりでいろよ」

「心得た、殿下。しかし腹が減ったな。何か食べられるものをお持ちではありませんか?」

「今は持っていない。見返りが必要なら食堂にでも勝手に行け」

 

「やはりモンド殿下は私に冷たい……エメルは果物をくれましたぞ」

「いくら僕がエメルの兄だからと、同じように接してくれると思うなよ。とっとと行くぞ、バカ騎士」

 

 モンド王子の態度に疑問を覚えながらも、ジークリンデは彼について行くのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 食堂に寄って保存食を拝借しながら、ジークリンデはモンド王子の人となりを思い返してみた。

 

 王城内でのモンド王子の評価は、概ね良好であるとエメルから聞いている。

 しかしながら自分も含めて、庶民に対してはあまり良い顔をなされない。

 

 エメルにはあれだけ過保護なのだ、その優しさを庶民に向けられぬはずがない。

 

 ジークリンデは昔から疑問に思っていた。

 今思えば、あの表情のギラつきっぷりは何だったのだろうかと。

 

「なぜ僕を見つめる? ま、まさか次は僕を食べようと!?」

「殿下、落ち着いてください。騎士は人を食べませぬ」

「そ、そうだったな……バカとはいえ仮にも騎士であった。謝罪しよう」

 

「前から気になっていたのですが、緊張、しておられるので?」

「な、ななななな何を馬鹿な。妹の一大事だぞ、おまけに僕は長子で――」

「自分では気付いていないようなので、敢えて強い言葉で申し上げることをお許しください」

 

 ジークリンデは口の周りに保存食の形跡を残しつつも、モンド王子との距離を物理的に縮めていく。

 口周りが汚れていても美しい顔面が、モンド王子の視界を埋めた。

 

「な、なあっ!?」

「殿下、貴方は緊張すると必要以上に顔が強張るクセがあるようだ。誤解されやすいのも無理からぬこと」

 

「お、お前っ、何故、そのような!?」

「どうやら私は『人を見る目がある』と周りから評価されているようで。昔からの、クセのようなものなのです」

 

 モンド王子の強張る顔を確認すると、ジークリンデは顔の距離を離して、窓の外に浮かぶ双子月を眺めながら、語りだす。

 

「人の良いところ、悪いところ、良いクセ、悪いクセ……学はなくとも、様々な人々と接していくうちに、人の顔色をうかがうという感覚が身に沁みまして。正式に騎士となってからは、そういう感覚が役に立つこともありました。しかし、人とは難しいものですな。本質に気付くまで、時間がかかることもあるとは」

 

「まあ、お前と僕は、そこまで頻繁に接触があるわけでもなかったのだから、仕方ない。むしろ僕は、お前に嫉妬していたぐらいだ」

「嫉妬……それもそうですな。殿下の知らぬエメルを、私は知っていますから」

 

「だからお前が正式に騎士となった時は、正直ホッとしたよ。もうエメルが連れ回される心配はなくなる、とね」

「しかし実際、エメルは自警団解散後も、ひとりで活動を続けているというではないですか」

「まったく、エメルにも困ったものだ」

 

 この時のモンド王子は、気付いていなかった。

 嫉妬し、顔が強張るほどの相手と話していて、自然と笑みがこぼれていたことを。

 

「だからこそ、エメルは国の指導者に相応しい。自警団として出来る範囲で王都を守ってきた経験を活かせば、さぞ国民の心をつかむだろう」

「なるほど、王位継承権をエメルに譲ろうとする真意は、そこにあったのですか」

 

「僕とて継承権第一位の長子ではあるが、重圧には弱いのだ。国の長に必要なのは、国民を引っ張れるほどに影響力のあるカリスマ……僕にはそれがない」

「つまりは相当のアガリ症、と」

「笑えよ。最初に生まれた王の息子がこの有様なのだ。長子であることの意味を理解しながらも、失敗の恐れが常に胸の奥底にある。威厳を保つので精一杯だ」

 

 モンド王子が、目元から感情の涙を零す。

 

 普段、強張っていた顔のその意味を知り、今、自らの至らなさに涙を流しているこの青年の本質を、ジークリンデは真に理解した。

 

 モンド・フォン・ウォルタートは、己の弱さを自覚している人間だ、と。

 

「……笑いませぬ。殿下は、兄の鑑でございますよ」

「弱音を吐く兄の、どこが鑑か」

 

「私の知り合いに、荒削りながらも卓越した技術を持つ者がいます。彼女は今の殿下のように、謙虚者でした。充分強いのに、それを褒めても『買いかぶりすぎ』と言い切れるのは、己の弱さを知っているからこそ。そういう人間が姫様を支える柱となってくれれば、ウォルタートはしばらく安泰でしょうね」

 

「っ……! バカ騎士め、目上を敬うことばかりに長けおって……」

 

 恥ずかしげに目を逸らすモンド王子。

 彼は根付いたクセが原因なのか、あまり褒められることに慣れていない様子だった。

 

「腹ごしらえは済んだな、行くぞ」

「仰せのままに、殿下」

 

 だがそれでいいと、ジークリンデは足りぬ頭で考える。

 この後の未来がどう転ぶにしろ、モンド王子はエメルを支える兄であり続けるだろう。

 

 クセで誤解されやすいのは難点ではあるが。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「今ここで、殺さなくては!!」

 

「エメルーッ!!」

 

 そしてエメルに襲いかからんとするドルマ大臣を見つけたモンド王子は。

 

 ただ妹を守らんとする衝動のまま。

 

 腹部に魔力の刃を受けた。

 

「でんっ――!」

 

 柱に隠れている最中、思わず声を出しそうになったジークリンデだったが、道中モンド王子から聞いたことを思い出して、どうにか踏みとどまった。

 

 ――いいか、バカ騎士。ドルマは罪を暴かれれば間違いなく逆上してエメルを襲うだろう。

 ――そうなった時、僕は冷静でいられなくなるかもしれない。

 ――僕のやったことで、ドルマが逃げそうになったら。

 ――そこから先は、騎士であるお前の仕事だ。

 

解放(リリース)、『シュニーロマンサー』」

 

 小声で詠唱しマキナを展開する。

 奴が逃げそうになれば、文字通り足を止めるために。

 

 そして、その時は訪れた。

 

「フッ――!」

 

 念じる、イメージ。

 注意していなければ必ずつまずく、石に見立てた小さな氷塊を出現させる。

 

 かくしてドルマは氷塊につまずき、処するはずである騎士の姿を見上げた。

 

「そ、そんな……何故貴様がここに……!?」

「さて、私もなぜ解放されたのかは、皆目検討もつきませぬ。ですが、騎士の立場から見ても、あなたのやった事は目に余りすぎますね。大臣!」

 

 頭の良くない自分でもわかる、とジークリンデは感じる。

 この文字通り私腹を肥やしたこの男は、友を刺そうとした。

 冤罪の私より先に、この男を裁かねばならない。

 そう難しく考える必要もなかったのだ。

 

「ジーク!」

 

 モンド王子の身を呈した行いによって、エメルは無傷で済んでいる。

 ジークリンデは安堵し、すぐに騎士としての自分に切り替わった。

 

「現行犯、というヤツです。王子殿下を刺した罪は重い……後ほど然るべき裁判を受けていただきます」

「裁判を受けて処されるのは、貴様の方だろうが!」

 

「普段なら返す言葉もない、と言いたいところですが。私は何もしていない。宿舎で寝ていたら勝手に疑われていただけの被害者にございます」

 

「黙れ、叛逆者め!」

「どの口がそれを言うか……国の未来を担う姫と王子に手を掛けようとした貴方こそ、叛逆者ではないのか」

 

 役目は終わったとばかりに『シュニーロマンサー』を封印(シール)したジークリンデは、腰に挿していた二本目の細剣(レイピア)を抜き、剣先をドルマに向ける。

 

「ひっ!?」

「この国の騎士が、なぜマキナではない二本目の剣を携帯しているのか。その意味がわからぬ大臣殿ではありますまい。悪しき人から弱き人を守る、人のための剣だからと、私は亡き父に教わりました」

 

「だ、だから何だと――」

「私の剣は父の剣! たとえどのような理由があろうと、悪意を以て人を殺める剣ではない!」

 

 だからこそと、ジークリンデは細剣を突く態勢に入った。

 

「今、証明してみせましょうぞ!」

「やめろおおおおおおおおおっ!!」

 

 ジークリンデの一突きが、王城の廊下に響く。

 

 しかしてその突きはドルマ大臣の脳天には刺されることなく。

 ただ彼の頭の真横に、剣が刺さっただけであった。

 

「このように、相手の戦意を喪失させる目的でわざと狙いを外すという使い道が――」

「あばばばば……」

「――と、泡を吹いておられる……少々やりすぎたか」

 

 気絶したドルマ大臣を確認し、ジークリンデは細剣を鞘に収め、エメルを庇い傷ついたモンド王子に目を向ける。

 

 エメルが服の裾を破ってモンド王子の止血を試みていた。

 自警団で怪我人の応急処置を何度かやった経験もあって、手慣れた止血ぶりだ。

 

「苦労をかけてしまったな、エメル……」

「なんの、これくらい。それよりも、城の外の様子が気になります」

「ここに来るまで、衛兵が少し慌ただしかったようだが――」

 

「私の友、ヤーナが吹き飛ばされてきました。おそらくは、魔獣の襲撃です」

「何だと!?」

 

 そんな馬鹿な、とモンド王子が驚くのも無理はない。

 

 城塞魔法都市・王都グナーデンは強力な城壁と結界に囲まれ、魔兵器大戦末期の魔獣出現の折にもその鉄壁ぶりを発揮し、『王』クラスの魔獣すら一匹も通さぬほどの強固さを誇っている。

 

 ジークリンデですら理解しているグナーデンの強固な防衛網を突破し入り込んだ魔獣が存在するなど、前代未聞なのだ。

 

「くっ、こうしてはおれん……しかし王子殿下を放置するわけにも――」

「私の権限で命じます。行ってください、騎士ジークリンデ!」

「エメル……心得た! モンド殿下を頼む!」

 

 騎士は姫に命じられ、走る。

 まるで自警団時代まで戻ったように。

 姫の命令は騎士にとって、心地良く聞こえた。

 

 その、騎士としては立派な背を見送る、姫と王子。

 

「ふっ。兄妹ふたりして、容疑者を勝手にこき使ってしまったな。どう言い訳したものか」

「その必要はありませんよ、お兄様。ジークリンデ・シグルドは裏表のない素敵な騎士、そして私の大切な友。彼女を飾り立てる言葉など、私達は他に持ち合わせていないのですから」

 

 エメルの嬉しそうな声を聞いたのは、この場でただひとり、兄のモンドだけだった。

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