太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第三十八話 「宝剣『デュランダル』の力、お借りします!」

 駆ける、駆ける、駆ける。

 あたしは双子を両脇に抱え、心なしか少し明るくなってきた夜空を、住宅街の屋根や屋上を足場にして跳んでいく。

 目標の王城まであと少しというところで、ニューの眼が異常を捉えた。

 

「姉貴、あれって何だ!?」

「まさか、魔獣!?」

「執行部隊が放った魔獣が全てではなかったのか、おのれ!」

 

 憤慨するリテラをよそに、一度足を止めて様子を見る。

 複数の魔獣が兵士たちと戦っている。だが魔獣の種類にはまるで統一性がない。

 

 獅子に翼が生えた俗にマンティコアと呼ばれるものや、ラグナ族の集落を襲ったフェンリルの同種、ワニの鱗を纏った半魚人のような変異種などバリエーションが豊富。

 あたしが今まで見てきた『眷属』クラスの魔獣は、種族が固定されている集団が多かった。

 あれらは執行部隊が解放した魔獣なのか、それとも……?

 

「考えてもしょうがないわね」

 

 あたしは屋上から跳び下り、石畳を少し破壊しつつ着地した。

 その上で双子をあたしの腕から解放する。

 

「ちょっと片付けてくる。二人とリテラはしばらくここで待っててね」

 

 そして再び跳躍したあたしは、魔獣と兵士の戦場の真っ只中に飛び込んでいく。

 魔力の消費はなるべく最小限、一匹一撃ずつを心掛けて――!

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』! 省エネバージョンッ!」

 

 あたしは、かつてジークさんと手合わせした時の彼女の足運びを思い出す。

 現場で磨かれたあの戦闘センスをあたしなりにトレースして、その上で多数戦の訓練とイメージを合致させよう。

 

 そうあれと両籠手のみを顕現させ、まず眼の前の一匹目に集中する。

 狙うは仮称マンティコアの脳天!

 

「フッ!!」

 

 魔力を込めたジャブだけで、獅子の怪物は霧散した。

 すかさずターゲットを切り替え、二匹目も拳で叩いていく。

 さらに素早く三匹目、四匹目、五匹目――。

 

 体感時間は長めだったが、客観的に見ればたったの数秒。

 それだけであたしのふたつの拳は、そこら一帯の魔獣を殲滅させるに至ったのだった。

 

「な、何が起こったんだ!?」

「あれだけの魔獣が一瞬のうちに……!」

 

 兵士の混乱も当然だ。足元には魔石の山が散らばっているのだから。

 

「ふぅ……」

 

 息を整えて『ソルマドラ』を封印(シール)する。

 そんなあたしに呼びかける声があった。

 

「レヴィン、キミだったか」

「ニコラウス騎士団長」

「まったく、凄いものだ。身のこなしと瞬発力はレオン以上かもしれん」

「それより、あたしが倒した魔獣の群れはどこから?」

「ふむ。それなのだが、不思議なことに……生み落とされたのだ、魔獣から」

 

 はて、騎士団長は何を言っているのだろう。

 ブーステッド・キマイラが魔獣を産む?

 魔獣も生物であるなら、子供を産むのは当然の行為なのでは?

 そう考えたところで、『王』が『眷属』を増やす方法を思い出した。

 

「魔獣の『王』は基本、自らの瘴気を他の動物に与えることで『眷属』を増やす。魔獣となった動物は瘴気の影響で生殖機能を失い、食用肉としての栄養分も失われるらしいと、聞いたことはありますけど――」

「そうだ。魔獣が魔獣を産む行為……それこそが異常ということだ。あの魔獣が何なのか、キミは知っているのか!?」

「詳しくは知りません。だけど、あたしはアレを追ってきました。あんなヤツが放たれてしまったのは、あたしの責任でもありますから」

「なるほど。事情はよくわからんが、深刻な事態であるのは変わらんか」

 

 騎士団長は部下らしき騎士を呼んで、何か要件を伝え始める。

 その間に双子とリテラは、事態の収拾を確認して、あたしに合流してきた。

 

「レヴィンさん、あの人って……」

「パパの知り合いの騎士団長。一応王国のお偉いさんだから、失礼のないようにね。特にニュー」

「信用ないなぁ、姉貴。あっしだって――」

 

 その時だった。王城の方角で何かが壊れる音を聞いたのは。

 

「しまった! 奴が王城を攻撃し始めおったぞ!」

「心配はいらない。城の衛士は優秀だ。魔獣が次の『眷属』を産み出さなければ、数の有利で勝機は見える」

 

 などと騎士団長は申しているが、おそらくブーステッド・キマイラは数を揃えたところで仕留められるほど(やわ)ではない。足止めがやっとだろう。

 おまけに王城敷地内で『眷属』を産み出されでもしたら――。

 

「でも、もたもたしていたら被害が広がるかも。最悪の事態になる前に、あたしが奴を仕留めます」

「出来るのかね?」

「やれます。自分が強いと気付いた今なら、絶対に」

「……昔のレオンを思い出す、良き眼だ」

 

 騎士団長はあたしの眼を見て満足げに微笑むと、部下に指示を飛ばした。

 

「これよりクロイツァー大隊は部隊を分け、魔獣に対処する! 第二班は治療師を中心に周辺の避難誘導、第三班は防衛線を下げつつ、産み出されるであろう『眷属』を迎え討つため警戒態勢! 第一班は私と傭兵レヴィンを中心として、王城を襲う魔獣の『王』の撃破を優先することとする! 我らが主を守るため、全力で事に当たれ!!」

 

 騎士団長を慕う数百の部下が、声を揃えて彼の命令を了承する。

 凄いぞ、この人は。

 ただ戦友の娘だというだけのあたしに、協力してくれるというのか。

 

「騎士団長……」

「亡くなった戦友の娘のためにしてやれることは、肩を並べて戦うことぐらいだ。この身で敵うものかはわからんが、力になろう」

 

 まあ、それは頼もしい限りなんだけど、こういう人に限って、自分を犠牲にあたしを守りそうで怖い。

 流石に心配しすぎか。

 

「ありがとうございます、でも気をつけてください。魔獣以外にもひとり、厄介な女がいます」

「厄介な女……魔獣ではないのか。不確定要素は多いが、油断せず行こう」

「はい!」

 

 ニコラウス騎士団長を先頭に、あたしを加えたクロイツァー大隊第一班は、真っ直ぐにブーステッド・キマイラが破壊の限りを尽くさんとする王城へ。

 リテラはいつものようにあたしに掴まり、ミュウくんは自ら進んで負傷兵の手当に立候補して第二班の手伝いに。ニューは周辺の警戒に務めることになった。

 

 傭兵は基本、軍属の命令には従わなくていい?

 いいんですよ、細かいことは。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

解放(リリース)、『デュランダル』!」

 

 道中は比較的スムーズだった。

 ニコラウス騎士団長を筆頭に、契約型マキナらしき武器を使う数名の騎士、汎用型マキナの数を活かして戦う数十名の兵士が、ブーステッド・キマイラが産み出す『眷属』を迎撃してくれていたからだ。

 おかげであたしは火の粉を祓うぐらいの対応で済んでいる。奴に辿り着くまで体力と魔力を温存できるというわけだ。

 

 騎士団長のマキナである『デュランダル』は火属性の長剣、といった感じで、なんともわかりやすい強さを目の前で見せつけている。

 炎の刃が、迫る『眷属』の群れを薙ぎ払う。

 なるほど、伊達に父と肩を並べてはいない。

 

「まさに一騎当千。レオンの戦友という話も頷けるのう」

「これなら、思ったより早く奴のところへ行けそうね」

「どうやら、そう上手く事は運ばぬらしい」

 

 騎士団長は何らかの気配を感じて立ち止まった。

 同時に、何やら王城とは別の所から破壊音が聞こえてくる。

 

「デカいのが来るぞ、総員止まれぇ!!」

 

 破壊の音が近づくと共に、それはやって来た。

 

 大通りの建物を崩したのは、人のように立って歩く、岩の化け物。

 あたしの目測でも三メートルはあるそれは、一体だけではなかった。

 左右から岩の鎧を以て現れたのは、四体。

 文字通り、あたしたちの壁となって立ち塞がろうとしていた。

 

「ちょっと、何よあれは!?」

魔導人形(ゴーレム)。鉱物を素材とする錬成兵器だ。まさか魔獣の他に術者がいたとはな」

「魔獣教団とはそういう組織じゃ、クロイツァー卿。使えるものはなんでも使うというには限度がありすぎるがの」

「なるべく余力は残しておきたいっていうのに!」

 

 奴に届く距離にいるのに、まだ届かないこの歯がゆさ。

 あの高さならギリギリ跳び越えられそうではあるが、魔導人形(ゴーレム)自体が意外に俊敏だった場合を考えると、あまり現実的じゃないだろう。

 

 こんな時、あたしもヤーナのように自在に空を飛べたら、直線距離でブーステッド・キマイラを殴れるのに。

 投石機でも何でもいい。あたしの身体を奴まで飛ばしてくれる何かがあれば――。

 

「こうなれば、あの手しかないか」

「騎士団長、何か妙案が?」

「レヴィン、私の『デュランダル』を発射台に使え」

「……今、なんて?」

「私の剣を踏み台に跳べ、と言った。強度の心配は無用。王家より授かりし業物の宝剣だからな」

 

 いやいやいやいや、それは流石に発想が蛮族すぎる。

 明らかにこれは、彼の戦友たる父の影響だろう。騎士団長が思いついていい手ではない。

 もしその手を実行したとして、その高級そうなマキナを折ってしまわないかヒヤヒヤするあたしの身にもなってくださいよ。

 

「でも、現状で他に打てる手もなし……わかりました、騎士団長。宝剣『デュランダル』の力、お借りします!」

「うむ、では早速やるか!」

 

 騎士団長が自分の愛剣を右に掲げ、あたしは騎士団長の少し後方まで距離を下げる。

 『ソルマドラ』の籠手と脛当て(グリーヴ)を顕現させ、発射と攻撃に備える。

 

 直線距離で奴を殴れるかはわからない。

 しかし、やってみなければ始まらないと、自分でもわかっている。

 格ゲーのコンボも、今やろうとしていることも。

 

 覚悟を決めろ。

 勝つんだ、この状況から。

 

「いち、にの……さんっ!!」

 

 陸上のトラック競技よろしくクラウチングスタイルから、あたしは脚を走らせた。

 全身の筋肉を使って勢いをつけ、騎士団長の剣身めがけて跳躍。発射第一段階。

 

「行って来い、傭兵レヴィン! うおぉぉぉぉっ!!」

 

 そこへ騎士団長があたしの足めがけて剣身をぶつけてきた。ボールを打つバットの如く。

 あたしは三角跳びの要領で、剣身を足場にもうひと踏ん張り。

 騎士団長のスイングとあたしの跳躍が合わさり、魔法とは違うエネルギーが生まれたような錯覚を覚えた。

 

 発射第二段階。

 あたしの身体は、今までにない加速を生んだ。

 

「ぬおぉぉぉぉっ!?」

 

 あたしの髪に掴まっているリテラが、あまりの風圧に圧倒される。

 魔導人形(ゴーレム)との距離はすぐ縮まったものの、跳び越えるだけの高度が少しだけ足りないことに気付いてしまった。

 

「だったら!」

 

 コイツも、踏み台にするまで!

 

 発射第三段階。

 騎士団長の『デュランダル』ホームラン(仮)で加速した勢いのまま、魔導人形(ゴーレム)の右肩を、踏み込む。

 魔導人形(ゴーレム)の右腕そのものを糧に、あたしは包囲網を跳び越えた。

 

 そして見据えるは、ブーステッド・キマイラ。

 敗北を刻み込まれた、憎きあんちくしょう。

 いい加減、終わらせよう。

 勝って終わろう。

 それが今のあたしに出来る、たったひとつのやり方だから。

 

「セエェェェリャアァァァァァッ!!!」

 

 掲げた拳が太陽の魔力を纏う。

 あたしの声に反応して振り返る、ブーステッド・キマイラの三つの頭。

 しかし、もう遅い。

 勢いよく殴りつけたあたしの拳は。

 その中の狼の頭を、貫いた。

 

「まずは頭、ひとつ!」

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