太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
大砲の如き一撃を食らったブーステッド・キマイラの狼の頭は千切れ、おびただしく流れる黒い血と共に、王城の中庭らしきスペースに落ちる。
その様子を横目で確認して、あたしは受け身を取った。
身体は転がり続け、やがて噴水の近くで止まる。
骨が折れていないことを確認して立ち上がったあたし。
「まさか鍛えておいてよかったと思える日が来るなんてね」
「まるで人間大砲のためだけに鍛えた、みたいな台詞に聞こえてしまうのう」
「うるさい。騎士団長が意外に怪力だっただけよ」
ちゃっかりあたしの髪から手を離していて無事だったリテラの減らず口を流しながらも、気は緩めない。
頭がひとつ潰されただけで、ブーステッド・キマイラが地に足をつくとは思えないからだ。
相も変わらず翼は健在、未だ地の利を得ていないあたしの不利な状況は続く。
「ダリアが居ないのは気になるが、まあよい。とっとと倒してしまえ」
「言われなくたって!」
再び助走をつけて跳躍しようとしたところで、嫌な予感が脳裏をよぎった。
その予感は当たり、ブーステッド・キマイラの獅子頭の開いた口に魔法光が集まる。
すかさずあたしは足を止めて、バックステップ。
さっきまであたしが立っていた位置に、熱線が放たれた。
それだけでは飽き足らず、奴は完全にあたしに狙いを定めたらしく、あたしの周りを飛び回って連続で熱線を吐き散らしてきた。
軌道は直線、見極めて避けられてはいるが、相手はまるで爆撃機。
意地でも有利な状況でイニシアチブを握りたいと見える。
「あんな化け物になっても、あたしの距離に近づけばマズいって、わかってるのかしらね、アイツ」
「あるいは本能で察しておるか、じゃろうな」
奴との距離の詰め方を模索しつつ、あたしは熱線をかわしながら、熱線を凌げる場所を探す。
しかし中庭にあるのは噴水と花壇ばかりで、そういった場所は奴によって軒並み薙ぎ払われていた。
「こっちから近づこうにも、まだアイツの翼は生きてる。どうにか動きを封じないと」
「ぬぅ……こういう時に飛べるマキナ持ちやら、氷属性のマキナ持ちさえおれば――」
「今、いないものをねだってもしょうがないわよ。被弾覚悟で、身体に掴まるしかないってこと!」
と、その時であった。
何かがブーステッド・キマイラに当たる音がして、熱線の雨が止む。
「この化け物魔獣め! とっとと城から出て行け!」
まだ生き残っていた王城の衛兵数名が、メイスのような汎用型マキナを振るって、奴を攻撃していたのだ。
だがしかし、数で押すのが基本である汎用型の攻撃に耐えうるのが『王』クラスの魔獣。
蚊に刺されたような痛みではあったろうが、それでもブーステッド・キマイラがそっぽを向くには充分だった。
「まずい、衛兵さんが!」
「馬鹿者、早く逃げるんじゃ!」
駄目だ、庇うには距離が遠い。
ブーステッド・キマイラの獅子の口に魔法光が集まる。
あの衛兵の皆さんに熱線が届く時間は、ほんの一瞬。
とても、間に合わない――!
「『グレッチャー・バインド』!!」
刹那、何者かの呪文の詠唱と共に。
ブーステッド・キマイラの動きが、止まった。
いや、止まったというには少し肌寒い。
気付けば地面から氷の柱が飛び出して、奴の脚を固めていた。
奴自身も危険を察して、熱線のチャージを取り止めにしている。
「この氷魔法って、まさか……!」
あたしの予感は、ズバリと当たった。
「やあやあやあ、我が名はジークリンデ・シグルド! 獅子だかワニだかよくわからん魔獣よ! これ以上はやらせんぞ!!」
やっぱりジークさんだ。
どうやって牢屋を抜け出したのかは知らないが、心強い援軍が来てくれた。
しかし助けられた衛士たちは、快く思っていないようで。
「騎士ジークリンデ、何故ここに!?」
「まさか自力で牢から!?」
「なんにせよ、叛逆者の出る幕ではない!」
「手を出すなと言っているんだ!」
事情も知らずに好き勝手言ってくれる。
でもあたしの知る彼女なら、この程度で止まりはしないだろう。
「私を疑うのも無理はない。然らば、行動で示すとしよう!!」
ジークさんが声を張っている間に、凍らせ方が甘かったのか、ブーステッド・キマイラを固めていた氷に、ヒビが入る。
彼女の背後で、氷の割れる音がした。
「危ない、後ろ!」
一応、呼び掛けた。
だが彼女の動きは、あたしの声が届く前に始まっていた。
「フッ!」
ジークさんが振り向きざまに『シュニーロマンサー』を薙ぎ払うと、彼女の足元から氷の剣山が出現した。
対応できなかったブーステッド・キマイラの、向かって右にあるワニの頭が、氷の剣に貫かれる。
「王家より賜りしこの剣、舐めるなよ魔獣め!」
やった、これで二つ目の頭を潰せた!
残るは向かって左にある獅子の頭だが、勝機が少し見えたところで、ブーステッド・キマイラの身体に変化が。
ワニの頭が落ちただけではない。妙な音を立てて、奴の身体が歪んでいく。
「何だかわからないけど、まずい!」
嫌な予感が脳裏に過って、先に身体を動かす。
素早く距離を詰めようとしたが、手負いのはずだったブーステッド・キマイラは翼をはためかせて、上に飛んだ。
「くっ、あの図体で飛べるのか!?」
「それよりもアレを見るんじゃ!」
「まさか頭が……生え変わってるの!?」
おぞましい光景だった。
翼を羽ばたかせている状態で、再生でもするかのように、獅子の頭がふたつ生えてきたのである。
同じ頭が三つでわかりやすくはなったが、『眷属』を生み出したことといい、未だポテンシャルは計り知れない。
こんな魔獣を、どうやって倒せばいいんだろうか。
「なるほどのう、合点がいったわ」
「リテラ、どうしたのよ急に?」
「レヴィン。ダリアが言っておった、カミュラの変身魔法のカラクリを覚えておるか?」
「えっと、確か……吸ってきた生物の血の遺伝情報をストックできて、その遺伝情報の中からひとつを抽出して再現してたんだっけ?」
「そうじゃ。そしてブーステッド・キマイラになった奴は、身体に蓄えた遺伝情報の全てを解放しておる。表に出ていないだけで、実はあの肉体の中にも、かなりの種族の遺伝情報が眠っておるんじゃろう」
「つまりその遺伝情報がある限り、奴は肉体をいくらでも再構成できるってこと!?」
正真正銘の化け物。
切っても切っても同じ顔が出てくるお菓子じゃないんだから!
「じゃが、考えてもみろ。奴はこの王城に来るまでの道中、何をやらかした?」
「確か『眷属』を産み落としてたわね」
「あれはおそらく遺伝情報を詰め込みすぎた弊害じゃろうな。ヒトを含めた
要するにトイレとかそういうやつ。お花摘みはちょっとオブラートに包みすぎでは?
「それと同じなんじゃ。器に耐えきれなかった余分なものが、『眷属』となって吐き出されたんじゃよ」
「じゃあ奴は、多くの遺伝情報を吐き出して、むしろ弱体化してるっての?」
「必要最低限のものは残しておるが、そうと見て間違いはないじゃろう」
まあ、実験体だって言ってたしね。
とんだ闇鍋魔獣ではあるが、完全な生物とはほど遠い、ということだろう。
しかしブーステッド・キマイラの生態が少しわかったというだけで、飛んでいる標的が厄介なことに変わりはない。
その証拠に、さっきからジークさんの氷弾攻撃がまるで当たらないのである。
「くっ、狙いが定まらん!」
「ジークさん、あたしを奴の高度まで上げて!」
「『シュニーロマンサー』にそんなパワーは無いが!?」
「氷の柱! さっきみたいに!」
「なるほど、そういうことか!」
あたしの意図をようやく理解したジークさんは、剣をあたしの足元に突き刺す。
すると、あたしの身体は地面から生えてくる氷の柱という名の足場によって、高く押し上げられていく。
「何をする気じゃ?」
「ひとまず奴の身体に掴まって
飛び回るブーステッド・キマイラに対してスローペースにせり上がる氷の足場。
あたしのジャンプ力では到底奴の制空圏を越えられない。
ならば奴より少しでも高く跳べばとも思ったが。
「レヴィン、来おったぞ!」
耳元でリテラが叫ぶ。うるさい。
耳障りな声を気にするより、目の前に迫る敵だ。
当然氷柱を潰しにかかる。そういう軌道だ。
奴が氷柱に噛みつくより先に、あたしは氷柱の頂点から高く舞い上がった。
「まさか、氷柱を囮に!?」
「よし、引っかかった!」
同じような手を、奴が人間形態だった時に使ったことがある。
その時は奴の刃が床に刺さって無防備なところを反撃できたが、今は状況が違う。
変わらず奴は飛んでいるものの、氷柱に噛みついている。しかしすぐに砕けるだろう。
与えられたチャンスは短い。
この自由落下で奴の背中を蹴ることができれば、あたしの勝ちだ。
「『我流・ライジングアーツ メテオ・シュート』ッ!!」
万有引力に身を任せ、奴より高い高度から、脚に魔力を込めて蹴り落ちる。
このまま背中を貫けば御の字、もし思ったより反応が早ければ――。
その時は、すぐ訪れた。
氷柱が音を立てて砕ける。
ブーステッド・キマイラはすかさず三つの獅子頭をあたしに向けて、熱線魔法のチャージを……って!
「思ったよりチャージが早い!?」
まずい、確実なる直撃コース!
奴の下でジークさんが慌てて氷弾を飛ばそうとするが、おそらくそれも間に合わない。
万事休すか、と半ば諦めかけていた時だった。
「ギャォッ!?」
突如としてブーステッド・キマイラの頭部が何かの圧によろめいた。
同時に強風が吹いたような音が響く。
必然と、奴の熱線チャージは止まった。
今しかない。
脚に更なる魔力を込めて、最低でも奴の翼を削ぐ!
「セリャアァァァァッ!!」
全力の『メテオ・シュート』が、奴の肉体を貫いた……かに思われた。
狙撃手は標的を狙う時、標的の動きや風の流れを読んで照準を補正し撃っている。
しかしあたしの『メテオ・シュート』はただ落下エネルギーを利用した跳び蹴り。狙いを修正できずにただ落ちるだけなので、元ネタの『ライジングナックル』シリーズでも避けやすい技として有名だ。
それが確実に当たるか、というところで謎の風圧が奴に当たったものだから、狙いが外れるのも当然だ。
ただ、肉を削る手応えはあった。
「おお、魔獣の翼が燃えている!」
ジークさんの見ればわかる感想と同時に、あたしは着地した。
振り返ると、飛行手段を焼かれたブーステッド・キマイラが床に横たわっているのが見える。
「やったのう!」
「ああ、これで奴は飛ぶ術を失った!」
一矢報いて喜ぶリテラとジークさん。
あたしはそれよりも、気になることがあった。
「さっき奴がのけぞったように見えたけど、誰の風魔法だったの……?」
「お馬鹿! 油断しない! 奴はまだ生きてますわよ!」
中庭に聞いたことのある声が響く。ヤーナだ。
彼女は王城の窓際から、ブーステッド・キマイラを風魔法で狙撃していたのか。
すかさずあたしたちは奴に向き直る。
「またじゃ……奴が肉体の再構成を始めておる」
「だが翼は焼いた。原理はよくわからんが、弱くなっているはずだ」
「でも、今度は別の翼が生えるかもね」
ブーステッド・キマイラの身体は、再び凸凹と膨張していく。
結果的にあたしの予想は、半分当たった。
グリフォンの如く背中に
後ろ脚は、ずんぐりとした脚に。
そして前脚には鋭い鉤爪が伸びる。
奴は再構成したその巨体を起き上がらせて、ヒトの如くふたつの脚で立った。
もはやこれは獣でもヒトでもなく、悪魔。
「もう滅茶苦茶じゃな。
「火事場の何とやらにしちゃ、随分と無茶するじゃない」
「なあ、これは本当に弱体化しているのか!?」
ジークさんが言うように、あの悪魔のような形態は弱体化しているように思えない。
むしろ真の力を解放したラスボスに近いとさえ思える。
生命の法則を無視した巨躯から、どんな攻撃が繰り出されるのか。
それはこの場にいる誰にもわからなかった。
「来るぞ!」
三つの獅子頭から発される、雄叫び。
まるで超音波。とてつもない重圧を感じて、あたしは思わず顔をしかめた。
これは奴の魔力圧か。でも、ダリア程ではない。
だが、認めるしかない。
このブーステッド・キマイラ……いや、悪魔のような姿になったのなら『デビル・キマイラ』とでも呼ぼうか。
奴はあたしに立ち塞がる壁だ。それだけの力を、土壇場で解放したのだ。
そしてデビル・キマイラは、その巨体を躍動させて跳躍した。
「また空へ!?」
まあ翼あるんだし、そうするよね!
でも先程とは違って、眼で追えない速さの跳躍。
あっという間に奴を見失ってしまった。
「くっ、奴はどこじゃ!?」
「多分アジトの時と同じ錯乱の動き……でもここは屋外で、今の奴は飛べる。どこから来るのか、音で判断し辛い!」
「巨体の動きなのか、これは……?」
どこから攻撃が来てもいいように、一旦ジークさんと背中合わせになって奇襲に備える。
建物側に避難することも考えたが、崩落の危険を鑑みると、この場に留まるという選択が最良かもしれない。
なにせ速くて見えない敵だ。一歩間違えればこちらの命取りになる。
「ジークさん、飛び回る相手に使えないの? あの大技!」
「『ペルマ・フロスト』のことなら、無理だ。飛ぶ相手には警戒されるようで、高度を上げられ避けられてしまう。何より、使う魔力が
「こんな時くらい魔力の管理はしっかりしておけぃ!」
もしかしたら飛べる魔獣は気温の変化に敏感なのだろうか。
などと関心してる場合じゃない。
どの方向から来るかもわからないこの状況、どう打破すべきだろうか。
いいや、悩むな。感じるんだ。
結局あたしが狙いなのだと想定すれば、自ずと取れる手段は限られる。
あたしは、構えた。
「スゥーッ……ハァーッ……」
呼吸を整え、奴の奇襲を待つ。
狙うは、カウンターでの一撃必殺。
「リテラ殿、レヴィンは何を?」
「静かにせい。レヴィンの集中力が切れる」
さあ、いつでも来い。
あたしを狙って姿を現した時が、お前の最期だ。
そして、その時はやって来た。
「『我流・ライジングアーツ』――」
微かに魔力圧を感じた時点から、詠唱を開始する。
魔力を右腕の籠手に集め、奴が突っ込んできたところを『ライジング・ナックル』だ。
これで奴を、確実に倒す。
「『ライジング』――」
しかし、その目論見は外れた。
奴の狙いは、最初から
「真上――!?」
巨大な影が、垂直に落ちる。
奴はあたしという『
あたしたちという『
このままではジークさんも危ない!
あたしは一旦詠唱を止め、咄嗟に八極拳のメジャー技・
「なっ――!?」
「レヴィン!!」
あとはあたしが耐えるだけ――!
「――っ!!」
悪魔の両脚が、あたしに迫る。
あたしの身体は、工場のプレス機に巻き込まれるが如く、地面に叩きつけられた。