太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

50 / 115
第四十話 「太陽の子、レヴィン」

 我ながら、何故自分はこうもお人好しなのだろうと思う。

 気に入らない他人なら、放っておけばいいのに。

 一番大事なのは自分の命だろう、とも。

 

 でも、駄目だった。

 兄の死という事実が脳裏に焼き付いて、未だに離れてくれないから。

 

 あの時あたしが引き留めていれば、兄が遠く離れた地で死ぬことはなかったかもしれない。

 あたしの責任ではなかったとしても、手からこぼれた命は、平等に重い。

 

 だから、なのだろう。

 

 あたしがあの日に神様と出会って、『ライジングナックルⅤ』を拾ったのも、あたしが助けようと思ったから。

 自分の命を犠牲にしてでも、アレを守りたいと思ってしまったから。

 

 兄を失ってから、気付くものもある。

 負けず嫌いなのは、兄が教えてくれたあたし。

 

 そして、ジークさんが教えてくれたあたしは。

 目の届く範囲で死んでいく人を見たくない、果実よりも甘い、ワガママなあたしだ。

 

「こん……のぉ……っ!」

 

 そんなワガママのせいで今のあたしは、悪魔のような混沌魔獣の両脚と中庭な地面の間で、何とか生きている。

 属性付与・太陽(エンチャント・サン)を両手の籠手に集中させて衝撃を中和させたものの、その影響で魔力は枯渇。

 マキナの顕現が解けた今、どうにか自身の筋肉(フィジカル)だけで、身体を地面にめり込ませながら耐えている状態。

 

 これも長くは続かないだろう。

 

 巨体の重みに落下エネルギーが合わさったスタンプ攻撃だ、全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げている。

 だが、鍛えていなければ叩かれた苦虫の如く肉体が潰れていただろうということも事実。

 筋肉は裏切らない。しかし、思ったより限界は近いようだ。

 

「レヴィンの阿呆! 何をしとるんじゃ!」

「リテラ殿、このままではレヴィンが!」

「見ればわかる!」

 

「ヤーナ、レヴィンを助けてくれ! 得意だろう、風の魔法で押し出すのが!」

「人の苦労も……知らないでっ!」

 

 ライフル銃のような銃声と共に、流れてきた風があたしの肌を撫でる。

 おそらくはヤーナの風魔法狙撃、しかしデビル・キマイラは仰け反らない。

 

「コイツ重すぎ……いや、アタクシの魔力が足りない……? こんなことになるなら、足止めに全力を使うんじゃなかった……!」

「くっ、ヤーナでも駄目か!」

「レヴィーン! 踏ん張れぇーい! こうなれば全身の筋肉で切り抜けるんじゃあ!!」

 

 リテラからまた無茶振りが来る。

 確かにそれしか方法はないが、件の筋肉は押し返すだけのパワーを出せない。必死にスタンプ攻撃を止めるので精一杯だ。

 

「しっかりなさい、レヴィンさん! アタクシはアナタに賭けているんですのよ! 悪魔を跳ね除けるぐらい、やってみせなさい!」

「そうだ、レヴィン! 『森の王』との戦いで見せたガッツを、ここでも見せてくれ!」

 

 うざい。うざいうざいうざい!

 何なのよ、ヤーナもジークさんも。あたしにかける期待が重いのよ。

 

 でも、負けたくないのは昔から変わらない。

 

 今はまだ、負けていない。

 

 心が諦めなきゃ、負けってことにはならないから。

 

 期待に応えるわけじゃないけど、今の本気を超えてやる!

 

「ぬっ、あああああああああああああッ!!」

 

 全身の血流がポンプする。

 あたしの中で活路を開けと叫ぶ。

 

 心を燃やせ。

 細胞も余すこと無く燃やせ。

 ここが『今』の、超え時だ――!!

 

「筋肉を……信じろおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 今までガードしていた腕を、前に押し出す。

 押し潰されそうな身体が、潰されまいと反発する。

 限界を超えて、なお力を絞り出せと、筋肉が吠える。

 

「ぬぁあああッ!!」

 

 あたしを潰そうとする悪魔の脚が。

 少しだけ、浮いた気がした。

 

 違う、これはあたしの押し上げだ。

 巨大な脚が、ゆっくりと持ち上がっていく。

 

 期を見てガードの構えを解いたあたしは、本格的に奴を退かさんと両腕を突き出す。

 

「セリャアァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 あたしの火事場の馬鹿力と共に、形勢は逆転する。

 デビル・キマイラはあたしの身体を離れ、音を立てて転倒した。

 

「おおっ! まるで投げたかのようだ!」

「じゃが、窮地を脱したに過ぎぬぞ」

 

「まだ奴は生きてますわ……ジーク、まだやれまして?」

「難しいな。大技のための魔力が少しだけ足りないくらいだ」

「結構ですわ。アタクシの計算が正しければ――」

 

 リテラによるデビル・キマイラの生存確認を受けて、ヤーナとジークさんは体勢を整える。

 だがあたしは、限界を超えて筋肉を酷使したツケが回ってきており、大の字に倒れるほかなかった。

 

 全身が痛い。魔力もスッカラカン。まさに満身創痍(まんしんそうい)

 魔力を使った返しではなかったので、当然奴も生きている。

 

「また、あたしの負けか」

 

 認めたくはないが、死力は尽くした。

 自分が打てる手も、もはや残っていない。

 

 抜け殻のような身体に、ジークさんの声が響く。

 

「いや、まだ負けていない。キミも、我々も」

「ジーク……さん……?」

「どんなに今が厳しくとも、明けない夜はない。私は昔から、そう信じて戦ってきた」

「明けない……夜は……」

「レヴィン、キミも同じハズだ。少しばかり、足止めしてくる。東の空でも、見上げていてくれ」

 

 そう言い残して、ジークさんは起き上がろうとするデビル・キマイラのところへ足を向けた。

 

 まったく、アンタという人は。

 普段はアホなのに、こういう時だけは頼もしく感じる。

 

 しかし、明けない夜はないだの、東の空でも見上げて、とはどういう意味だろう。

 

 東は多分、左か。

 

 頭を向けてはみたものの、何故そう言ったのか、は――。

 

「あっ……」

 

 そうか、そうだったのか。

 

 当たり前すぎて、すっかり忘れていた。

 

 明けない夜はない。

 

 地球と同じだ。

 

 この異世界、フロイデヴェルトでも。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 不思議と、笑みがこぼれた。

 

「はははっ……遅いわよ、ばーか」

 

 かつて母に言われたことを思い出す。

 

 ――知ってる? ヒマワリは英語でサンフラワー……『太陽の花』っていうのよ。

 

 ママ、ごめんね。

 

 前世でつけてくれた『向日葵(ひまわり)』って名前通りに、太陽を向いて生きられなくて。

 

 この世界で生きているレヴィン・ゾンネというあたしは、皮肉にもそういう生き方を強いられてきたけど。

 

 今ほど太陽が見えたことに、感謝したことはない。

 

 ――だから忘れないで。

 

 ――あなたは私にとっての太陽だってこと。

 

「ありがとう、ママ」

 

 陽の光が差し込み、あたしを照らす。

 限界を超えて力尽きたと思っていた全身に魔力が循環し、満ちる。

 ソーラーパネルが陽の光で電気を蓄えるように。

 

 あたしの契約型マキナの、夜中ではまるで役に立たなかった異能が、筋肉にも作用している。

 そんな錯覚すらも信じてしまうほどに、今のあたしはとても高揚していた。

 

 かつての母がくれた名前。

 今はいないこの世界の母に託された名前。

 そして、この世界の父が授けてくれた、太陽の力。

 

 胸に抱くには大きすぎるけど。

 それでも、明けない夜はないから、あたしは立ち上がるのだ。

 

 大事なのは、負けないことじゃない。

 

 何度夜が来ても朝が来るように。

 負けを繰り返してようやく辿り着く『勝利』が尊いから、負けたくない。

 

 だから――。

 

「あたし、太陽になってくる」

 

 高らかに、その力の名を叫ぶのだ。

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』ァ!!」

 

 陽光のように暖かい魔力の柱が、あたしを包む。

 太陽竜の鱗から創られた鎧が、腕と脚に顕現される。

 

 それだけではない。

 

 腰当ても、胸当ても、肩当ても、兜代わりのトサカも。肩当てからは太陽の魔力で形作られたマントまで。

 

 太陽鎧『ソルマドラ』は、あたしの心に呼応して、その真の姿を現した。

 

 全力モード。

 敢えて名付けるなら、太陽鎧完全形態、『ソルマドラ・オリジン』!

 

「おお、見ているかヤーナ!」

「ええ……眩しいですわね、嫉妬してしまうほどに」

 

 ジークさんのクソデカボイスに、ヤーナはうっとりするような口調で返す。

 そこへやって来たのは。

 

「か、かっけえ……かっけえよ姉貴……!」

「これがレヴィンさんの『ソルマドラ』の、真の姿……!」

「ニューにミュウ。来ていましたのね」

「頼まれた仕事が一段落したところに、ニューが王城まで走っていくのが見えて、ついてきたんです」

「日の出が見えたから、姉貴に知らせてあげなきゃって思ってさ」

 

「いいところに来てくれましたわ。特等席でご覧なさい。アナタたちが慕う女が、どれだけの力を隠していたのかを」

「はい、見届けます!」

「姉貴ぃー、やっちゃえーっ!!」

 

 最高の観客も来てくれたのなら百人力。

 嫌でも浮き足立つというものだ。

 

 そんな中で、ジークさんの近くで飛び回っていた妖精はというと。

 

「ふふっ、ふふふふふふふふっ……!」

「いかがした、リテラ殿? 笑うところでしたかな? 泣いてもいるようですが」

「こんな美しい光景、笑わずにはいられんじゃろ! まるで英雄物語の一節じゃ……わしらは今、歴史的瞬間に立ち会っておる!」

「そうでしょうとも。これほどの魔力圧と、自信に満ちたあの顔……あんなレヴィンを見たのは、初めてです」

「見ておるか、レオン……見ていますか、ガイア様。命の結晶は、ここに実を結びました。レヴィン、お主をここに招いてよかったと、心から思うぞ」

 

 あたしはゆっくりと、佇むデビル・キマイラに向けて歩き出す。

 

 途中、リテラが通り過ぎ、声をかけられた。

 

「今のお主こそ、この世界の救世主。()()()()、レヴィンじゃ!」

「うざい。でも、ありがと」

 

 偽らざる本当の気持ちが、自然と言葉に出てしまって、気恥ずかしい。

 でも、その言葉だけで鼓舞になる。リテラ……いや、創造神テラ、本当にありがとう。

 

「残りの魔力で動きは止めておいた。後は頼むぞ、レヴィン」

「あまり期待しないでね。今の力、抑えられる自信がないから」

 

 ジークさんはあたしに後を託した途端、盛大にお腹を鳴らして倒れた。

 ありがとう、ジークさん。そんなに食べてもいないだろうに、あたしと一緒に戦ってくれて。

 

 ヤーナも、城から援護射撃ありがとう。身体もボロボロだろうに、お金が絡めば仕事はこなす。いい根性してるわよ。

 

 ニューもミュウくんも、来てくれてありがとう。生きてるふたりが居るだけで、あたしの心は燃え上がる。

 

「さあ、決着(ケリ)をつけるわよ」

 

 デビル・キマイラ。混沌の悪魔よ。

 

 ここに御座(おわ)すはギラギラの太陽。

 この輝き、恐れぬのなら止めてみよ。

 止められるものならば!

 

「しゃあッ!!」

 

 気合を入れて、構える。

 

 正真正銘の最終ラウンドは、奴が氷を破壊したその瞬間、始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。