太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第四十一話 「我流・ライジングアーツ、奥義」

 デビル・キマイラが氷の呪縛から抜け出したと同時に、あたしの行動は始まっていた。

 目測で三メートルはありそうなその巨体に対して、先手必勝とばかりに駆け出すあたし。

 

 しかし当然のことながら奴は、巨体に似合わぬ瞬発力で迎撃を試みる。

 早速右ストレートでの歓迎か。だったら!

 

「セイッ!」

 

 足を止め、脚を踏み込む。

 拳で来るのなら、拳で。

 振りかぶった右拳を、大きな右拳に直接ぶつけた。

 無論、籠手に属性付与(エンチャント)を施して。

 

「ゴァッ!?」

 

 質量ではデビル・キマイラが上。

 だがあたしはそれを真っ向から弾いた。

 

「拳だけで腕一本を!?」

「持ち前の筋力に属性付与(エンチャント)の魔力を上乗せすれば、無詠唱でもこれだけのパワーが出るということじゃ!」

「つまりそれは、レヴィンと彼女のマキナのどっちが凄いのだ?」

「両方じゃよ!」

 

 ジークさんとリテラはすっかり実況と解説に回っている。当然気にしない。

 

 あたしは奴の右腕を吹き飛ばした勢いをそのままに、左腕の方も同じようにしてやろうと動く。

 しかし気持ち悪い音と共に、吹き飛んだはずの右腕が瞬時に現れる。

 

「再構成がさっきより速くなってます!」

「キリがないですわ!」

 

 まったく、今にも破裂しそうな身体してるくせに、しぶとさだけは厄介だ。

 

「そっちがその気なら、とことん付き合ってやろうじゃない!」

 

 そのしぶとさを評価しちゃうあたしもあたしだけど。

 

 あっという間に復活した右腕と左腕で殴りかかるデビル・キマイラ。

 拳の数がどんどん増えていくように見える。一撃で駄目なら連打で来るか。

 

「『我流・ライジングアーツ サウザンド・ショット』」

 

 ならばあたしも連打な必殺技で対抗だ。

 炎を纏ったパンチの連打!

 

「ダアァァァァァッ!!」

 

 互いにラッシュで根比べ。

 拳と拳が何度もぶつかり合い、その度に奴の腕は吹き飛んだり再構成されたりを繰り返している。

 

 永遠に続くのかと思われていた頃に、奴の口から音が聞こえたのを感じ取った。熱線の気配!

 あたしは連撃の手を止めて、熱線を避けるため真上に跳んだ。

 

 結果として熱線の餌食にはならなかったが、しかし。

 空中では奴が一枚上手なのは、変わっていない。

 

「熱線もあたしを空中に誘き出すための囮、か」

 

 デビル・キマイラより高く跳び上がるも、目前にはあたしをハエ叩きの要領で潰さんと追いつく奴の姿が。

 

「まずい!」

 

 心配しないでよ、ジークさん。

 あたしの『ソルマドラ』は空を飛べないけど。

 

 ()()()()ことは、できる。

 

 イメージするのは、新たなる足場!

 

「しゃあッ!」

 

 あたしは奴のハエ叩きを、宙を跳んで避けた。

 

 普通、ジャンプすれば一定高度に達するとただ落ちるだけなのだが、『ソルマドラ』の能力を応用すればもう一段跳ぶことは可能である。

 属性付与・太陽(エンチャント・サン)を靴底に集中させ、爆弾のような小さな太陽を造り出して、地上でジャンプするのと同じ要領で踏み込む。

 すると小太陽の爆発で、もう一度宙に舞うことができるのだ。

 

 名付けて『エクスプロード・ジャンプ』。

 今の環境でこそ可能になった、要するに二段ジャンプである。

 

 ヤーナの風爆弾からヒントを得たとは、口が裂けても言えない。

 

「捕まえた!」

 

 自己流二段ジャンプでデビル・キマイラの背後に回ったあたしは、とうとう奴の(たてがみ)を掴む。

 身体を掴みさえすれば、飛竜(ワイバーン)の時のように、太陽の魔力を注ぎ込める。

 

属性付与(エンチャント)、全開ッ!」

「ガアァァッ!!」

 

 デビル・キマイラの全身が燃える。

 太陽に近づきすぎた男の末路のように、制御を失って地上に落ちていく。

 

「あたしは上で、アンタは下! 迷惑をかけた人の分だけ、大地の味を堪能していけ!」

 

 そして燃えたぎる混沌の獣は、中庭の大地に激突した。

 激突の衝撃であたしの身体は奴から離れたが、きちんと受け身は取り、問題なく起き上がる。

 

「すげえ! やっぱり姉貴はすげえよ!」

「これで決着ですの?」

「いえ、また肉体の再構成が始まっています!」

 

 やはり『王』相当の実験魔獣、一筋縄ではいかないか。

 ここまでしぶといのなら、あたしにも考えがある。

 

 そんな矢先だった。

 

「オ……ノ……レ……オノ……レ……オノレ……オノレ……!」

 

 炎上中のデビル・キマイラから、声が響いたのは。

 

「カミュラ……まだ自我が残ってたのね」

「私ガ……大シタ能力ノナイ……人間如キニ……負ケルワケガナイ!」

 

 奴の身体は太陽の炎を受けながらも、再構成を続けている。

 

「オ前ハ、ナンダ!? ナゼ私ノ上ヲ往ク!?」

「言ったでしょ、アンタたちが嫌いだって。魔獣は神の御使い? 人の傲慢を正す? ふざけるんじゃないわよ、身勝手の塊じゃない」

 

 そんなことを言って、あたしは別に説教しているわけじゃない。どうせ魔獣は反省してくれないだろうから。

 

 だからこれは激情のパンチ。激情のキック。

 元カミュラの身体が余分なものを吐き出すことと同じように、抑えきれない怒りを爆発させているだけだ。

 

「アンタらのやり方じゃ、子供は満足に眠れない! お金も貯まらない! 美味しいご飯すら食べられない!」

「知ッタコトカ!」

「こっちにとっては死活問題。人間に化けたことがあるクセに、人間のことを何もわかってないのね」

「ワカル必要ナド無イ!」

「だったら来なさい! わからせてやるわよ、普通に生きたい人間の全力ってヤツを!!」

「レヴィン・ゾンネェェェェ!!」

 

 カミュラの、デビル・キマイラの激情が、あたしの挑発に火をつける。

 破裂しそうな身体で、混沌の悪魔はあたしに突進していく。

 

 もはや理性は吹き飛んだか。

 ならばあたしの手で終わらせよう。

 

 必殺奥義、解禁。

 

「『燃え上がれ、燃え上がれ、燃え上がれ。されど拳は陽の如く。我が力たる陽精よ、その身宿す光にて、総ての闇を天に還さん!』」

 

 両拳に太陽の魔力。詠唱とイメージ。

 

 欠けては再構成を繰り返してしまうのなら、この手しかないだろう。

 充分に奴をおびき出して……左アッパーを丹田――腹部より少し上にある急所のひとつ――に打ち込む。

 

「ゴオォッ!?」

 

 読み通りだ。

 魔獣とはいえ生物。そうである以上、脆い急所は存在する。

 

 人間を好んで真似ていたのなら、その急所もそのまま真似ていたのではないか。あたしの確証のない勘が当たった形になる。

 

 ならばこのまま、一気に決めてしまえ!

 

「『我流・ライジングアーツ、奥義』!」

 

 急所突きで動きを止めた勢いで、今度は右の拳に魔力を集中する。

 それを跳び上がる身体と共に突き上げ、太陽の魔力を解き放った。

 

 これぞ『ライジングナックル』シリーズにおける、主人公レントが辿り着いたひとつの境地。

 

 その名を――!

 

「『ライジング・ヘリオス』!!」

 

 陽光色の炎が、天に登る柱の如く舞い上がる。

 抗えぬ焦熱が、悪魔を灼く。

 

「だりあ様……申シ訳――」

 

 カミュラのそんな断末魔すら聞こえぬほどの、一瞬。

 その一瞬が、あたしに勝利を告げた。

 

 

 ※※※

 

 

 

 陽光の柱は次第に収束していき、大小様々な魔石が転がり落ちる。

 前に『森の王』を倒した時は大粒の魔石がひとつドロップしただけだったが、実験作らしいカミュラは多くの魔石が基になって造られていたとみていいだろう。

 

 そりゃあ変身魔法なんて禁術が使えるわけだし、形態変化なんかもあって強かったわけだ。

 むしろ『森の王』の方が一芸特化なだけで、総合的に見れば弱かった、という見解になるかもしれない。

 

 何にせよ、勝った。

 捕らえる余裕もなく、残ったのは魔石だけだが、ジークさんの件は……まあ、何とかなるだろう。

 

 今は、どうしようもなく吠えたい。

 勝鬨(かちどき)という名の咆哮が、我慢できずに溢れ出す。

 

「だああああああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ただ勝ったわけじゃない。

 敗北の雪辱を晴らしての勝利。

 

 もし兄も同じような立場だったのなら、感情の発露を抑えきれなかったことだろう。

 それだけ、気持ちの良い勝ち方だったということだけは事実だ。

 

「ゔぉぉぉぉぉぉぉぉやりおっだなおぬじぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「うるさい! 汚い! うざい!」

 

 大粒の涙を流して号泣しながらリテラがあたしの頬を頭で殴ってきた。

 

「やはりわしの眼に狂いはなかっだぁぁぁぁ! 最高じゃレヴィンんんんん!!」

「わかった! わかったから離れなさいっての!」

 

 まったく、勝利の余韻に浸らせてもくれないのか、この全肯定創造神は。

 

 ――彼女は自ら生み育んだ命を愛した。

 ――いずれ地球から理不尽に消えた命が流れてくるその時に備えて、より良い世界にするために。

 

 でも、ガイア様からあんな話聞いちゃったら、まともに怒る気にもなれない。

 

 おそらくコイツも、あたしと同じだったのだ。

 あたしには想像もできないほど色々失敗して、この異世界を創るに至った。

 そう考えると、少し愛着が湧いてくる。

 

 少し。あくまで少しだけ。

 うざいのは変わらないけど、感謝はしてる。

 

 まあ、今はそのくらいの距離感でいいか。

 

「レヴィン」

 

 おっと、今度はジークさん。

 目を輝かせてどうしたどうした。

 大体予想はつくので、感謝の言葉を述べて矛先を逸らそう。

 

「ジークさん、その……ありがと。この間に続いて、また助けてもらっちゃって」

「なに、気にするな。友や大切な仲間のために戦えることこそ騎士の誉れ。もっとも、私はそのうち騎士ではなくなるだろうがな」

「何で牢屋を抜け出したかは知らないけど、今回ほどの大金星なら上の人が考え直してくれるかもね?」

「キミの戦果ではないか。横取りはできん」

「まったく、変なところで律儀よね」

「なのでこの戦果をネタにして騎士団へ――」

「入らないわよ?」

「そこをなんとか!」

 

 いや、あたし傭兵で食っていくしね。そこは譲れない。

 

 不毛なスカウトを断り続けていると、さっきジークさんが直接的に助けた衛兵さんたちの話し声が聞こえてきた。

 

「やはり何かの間違いだったのか?」

「そうだよな。抜け出した勝手を抜きにしても、あの人は俺たちを助けてくれた」

「正気か? 女王陛下を本当に暗殺した後かもしれんぞ」

「それなら、今生きてる俺たちは証拠にならないか? 仮に彼女が犯人だとして、あの人がそんなことをする理由がない」

「確かにそれはそうだが――」

 

 どうやら否定意見は少数派らしい。

 あの衛兵さんたちが証人になってくれれば、ジークさんの疑いも少しは晴れそうかな。

 

 そんな考えを巡らせていたところに、城の方からニューがやって来た。

 

「やっぱスゲェや、姉貴ィーッ!」

 

 ニューの後ろからは、ミュウくんの肩を借りているボロボロのヤーナが。

 

「一片も残さず消滅させるとは、凄いのはアナタなのかそのマキナなのか、それとも両方か。いずれにせよ、大当たり(ジャックポット)には違いありませんわね」

「レヴィンさん、身体は平気ですか? 本気出した影響とか出てませんか!?」

「元気元気。ミュウくんが治してくれたし」

 

 心配性だな、ミュウくんは。

 そこが可愛いところなんだけど。

 

「魔力酔いの兆候もなさそうじゃな。『ソルマドラ』を完全に晒しても、魔力の流れが安定しておるのが目に見えてわかる」

 

 リテラがいつの間にか号泣をやめている。

 人が集まってきたからなのか、普段通りに戻っていた。

 

「旅立ちの頃から、瞑想(めいそう)とか毎日欠かさなかったおかげかもね」

「それだけじゃなかろう。心の余裕も若干出来てきた、という感じじゃな。顔でわかる」

「……うざい」

 

 言われて、少し恥ずかしくなった。

 自分ではどう成長したのか、言われないとわからないものだが、この過大評価の化身に控えめなスケールで成長を褒められるというのも中々ない。

 

 あとで何かリテラに買ってやろう、なんてことを思いつつ。

 

「姉貴、これで終わったんだよな? アイツも倒したし」

「いや、まだよ」

 

 あたしは次の懸念(けねん)に目を向けることにした。

 微かに拍手したような音が聞こえる。

 

「やるじゃなイ。カミュラを文字通り消しちゃうなんテ」

 

 そしてこの気味が悪い声。

 

 いつの間にか姿を消していたアイツが、ダリアが。

 王城の屋根からあたしたちを見下ろしていた。

 

「後はアンタよ、ダリア。何してたかは知らないけど、落とし前はつけさせてもらうわ」

「あラ、これを見た後でもそう言えるかしラ」

 

 ダリアが懐から何かを取り出すのが見えた。

 夜明けの陽光に照らされたそれは、高級なジュエリーを埋め込まれたティアラのように見えた。

 

「ま、まさかアレは……!?」

「くっ、してやられましたわ!」

 

 それに反応したのはジークさんとヤーナ。

 ふたりに共通することといえば、同じ孤児院だったりエメルと旧知だったり、といったことだが。

 

「アレが何か、知ってるの!?」

「エメルに聞いたことがある。あのティアラは王の証と呼ぶべき『ウォルタートの冠』!」

「それを何故アナタが持っているんですの!? まさか、女王陛下は既に!?」

「ウフフフ……」

 

 ダリアは答えず笑うだけ。

 だが肯定と受け取る他ない。

 

 ――『陛下』はこの国がお嫌いなノ。女王様を殺そうとしたということハ、そういうことヨ。

 

 かつて彼女が語った目的。

 敢えて女王本人を殺さずにおくことで国民の不信感を煽り、その上で改めて暗殺計画を実行に移したのだとしたら。

 

「やっぱり趣味が悪いわよ、アンタ。カミュラは最初から使い捨ての囮だったってわけね」

「まア、否定はしないワ。ヒトを真似たところデ、所詮は私の使う手段でしかないかラ、あのコ」

 

 屋根から降りるダリア。

 ティアラを懐にしまい、もはや見慣れた大鎌『クレセンティア』を顕現させた。

 

 あたしたちと同じフィールドに降り立った上で、全員を殺す気満々といった感じだ。

 

「もうこの国は支柱を失イ、ゆったりと滅びに向かウ。アナタたちのやってきたコトは全テ、私たち『()()』の手で無に帰すのヨ」

 

「魔人、じゃと……!?」

 

 なるほど、おかしいとは思っていた。

 なぜ魔獣の側について故郷を焼いたのか。

 なぜ魔獣教団というイカれた組織があるのか。

 

 全てはダリアという女が『魔人』というヒトの理を外れたモノだから。

 

「魔人がどんなものなのかはさっぱりだけど、ムカつく奴に変わりはないわね」

 

 ならば迷うことはない。

 父の命を奪った憎きあんちくしょうの顔を、思い切り殴ってやるだけだ。

 

「既にアンタはあたしに喧嘩を売った! それだけでアンタを殴る理由にはなる!」

「やってみなさイ。あれからどれだけ強くなったカ、試してあげル」

 

 静寂が、場を包む。

 

 これより始まるのは、あたしの始まりにケリをつける決闘。

 奴さえ殴れば、勝利すれば。

 滅茶苦茶になったあたしの異世界人生に、ひとつの区切りをつけられる。

 

 ダリアの鎌があたしの首を狩るのが先か、あたしがダリアの首を顔殴りで折る方が先か。

 

 ゴングの代わりになったのは、崩れた王城の瓦礫が弾ける音だった。

 

「だああああああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 あたしとダリアが同時に駆け出す。

 もはやこの戦いを止める者はいない。

 

 あたしは、そう思い込んでいた。

 

「えっ!?」

 

 目前、何かが落ちてきた衝撃。

 

 それはまるで、特定条件を満たすとラスボス戦のイントロで現れる隠しボスのように。

 

 あたしとダリアがかち合うちょうど中心に、ローブを着た老人が乱入していた。

 

「双方、それまで」

 

 聞いたことのあるしゃがれた声と共に――。

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