太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
前世であたしがやっていた人気格闘ゲーム『ライジングナックル』シリーズには、アーケードモードで特定の条件を満たすと、ラスボスを蹴散らして乱入してくる隠しボスがいる。
あたしがその隠しボスに抱いた初めての印象は、闇に堕ちた達人だった。
特徴的なのは黒幕すら揺るがす怪物めいたそのビジュアルで、失禁しそうになるほどの恐怖を植え付けられた覚えがある。
無論その怪物めいた外見に違わず、性能面もラスボスを凌駕する理不尽っぷり。
兄を越えるために、一先ずの目標をこの隠しボスの撃破としたこともあるぐらいで、CPUとはいえ良き練習相手になってくれた。
その名はガオウ。
主人公レントの父の兄弟子という立場の、ライジングアーツの達人。
しかし、あたしは気付いてしまったのだ。
ガオウは、レントが復讐の果てに辿り着くであろう、可能性ではないかと。
一歩間違えれば、レントはガオウのような修羅に堕ちても不思議ではなかったのだと――。
※※※
突然の乱入者。
かつてどこかで聞いた老人の声。
あたしとダリアの双方を、『待った』といったポーズで制止させるその姿。
思わず足を止めてしまったが、あまりにも想定外の事態だった故に驚きを隠せない。
そもそも、いいところに乱入されるという経験自体が、格ゲーをやっていた時以外で、初めてだった。
一体この人は、何者なのか?
「まったく、気まぐれな占いほど当たるものだな。よもやこんな者に、野望を阻まれようとは」
占い……?
「まさか、路地裏にいた占い師の?」
目が見えないとか言ってた、あの時の老人だとでもいうのか。
そんな人が何故、あたしの足を止めるほどの圧を放っているんだ。
答えは、ダリアの反応で明確になった。
「口を慎みなさイ。アナタは『陛下』の御前にいるのヨ」
「構わん、ダリア。どうせ
陛下……そうか。
この国が嫌いだという、彼女が仕える主。
それがこの老人であり、魔獣教団の指導者というわけなのか。
「それよりも、失態だったな。一介のマキナユーザーに、虎の子の魔獣を文字通り消し去られるとは」
「いエ、これで良いのでス。彼女は囮として立派に役目を果たしましタ。その証拠に、これヲ」
「この感触はティアラか?」
「『ウォルタートの冠』にございまス」
「なるほど。本物かどうかは、後でイサリスに鑑定してもらうとして――」
この謎の老人、手触りで何かを確認していたところから見ると、初めて会った時と同じように盲目ではあるようだ。
しかし、この不気味さは何なのだろう。
不思議と、似た感覚を知っているような、そんな気がしてならない。
「強い流れの魔力を感じるな。それだけ強力なマキナを操れる者、ということかな、君は?」
「なっ!?」
老人があたしに顔を向ける。
視覚的に見えてはいないはずなのに。
――見えないおかげで随分とよく聞こえるようになったしね。
老人と初めて会った時の言葉を思い出す。
目が見えない人は、その分他の感覚が敏感になると前世で耳にしたことがある。
それが聴覚であったり、第六感であったり……というのは多少盛りすぎか。
だがしかし、事実として目の前にいる盲目の老人は、あたしを何らかの方法で見ている。
先程の台詞から察するに、おそらくは魔力が見えているのだろうか。
「普通の人間と比較しても、これほどの魔力量は類を見ない。本来なら身体が弾けてもおかしくはないはずだ。器が頑丈なのだろうな」
「だから、何よ?」
「その力を魔獣を消すためだけに使うのは惜しいと言っている。どうだ、儂の力にならんか?」
「はァ!?」
突然のスカウト。
ただでさえ頭の中で情報が渋滞してるのに、その上何を言っているのかこの老人。
ふざけるんじゃない。
これまでの非道三昧が全てを物語っているじゃないか。
魔獣教団というアンタの組織は、あたしの怒りを買う集まりであることを。
「儂は常に力を欲している。この世界を収められるほどの強い力を。我々は魔獣と共に在る者の集まりだが、常に人手は不足していてね。君ほどの強者が手を取ってくれたのなら、儂の野望は大きく前進するだろう」
「アンタ……何様のつもりよ?」
「何様、か。そういえば自己紹介がまだ済んでいなかったようだ」
老人は突然、着用していたボロ布のローブを脱ぎ去る。
文字通りベールを脱いだ老人の、その正体は――。
「『魔人王』……儂を名で呼びたくば、そう呼べ」
「魔人……王……?」
魔人の王ってことなんだろうけど、そもそも魔人って何なんだ。
それに何だ、老人の顔の皮だけ被ったみたいな、引き締まり鍛えられたその肉体は。
教科書に載ってたような古代ギリシャ人っぽい露出度高めの服装が、彼の美しく鍛えられた筋肉を一層際立たせている。
まだ続く情報量の波に翻弄されつつも、あたしの感覚は告げていた。
この魔人王と名乗る老人は、危険だと。
「さあ、そこな強者よ。返答は如何に?」
「決まってるじゃない。あたしの答えは、これよッ!」
右腕に
全霊を込めてコイツを倒さなくては、やばい。
あたしの本能は、全力を選択した。
「『我流・ライジングアーツ ブレイク・フィスト』ォ!!」
駆けて、その顔めがけ右ストレート。
しかしその拳は、片手であっさりと受け止められた。
老体であるはずの身体すら、微動だにせず。
「なっ――」
「残念だ。君もヒトのために力を持て余すのか」
「アンタだって……ヒトと変わりないでしょうが!」
「魔人はヒトではない。ヒトの
「意味わかんな――」
次の瞬間、あたしの身体は宙を舞っていた。
受け止められた拳を掴まれて、そのまま持ち上げられてしまったのだ。
しまった、困惑の隙を突かれて――!
「ふぅン!!」
あたしはそのまま、身体ごと地面に叩きつけられた。
身体を鍛えていても、太陽の鎧を纏っていても。
骨身にしみるほどの、剛力。
「カハッ……!」
引き締まった筋肉の、どこにそんなパワーが詰まっているんだ。
一発で、
人間と魔人の王の、実力の差を。
「まだまだ、鍛え方が足りんようだな」
「うる……さい……」
「だが、伸びしろはある。この敗北を次に活かせよ、若人」
兄と似たようなアドバイスを貰ってしまった。屈辱だ。
「陛下、そろそロ」
「うむ、少々遊んでしまったようだ」
ダリアがまるで社長秘書のように、魔人王を急かす。
いつの間にか纏っていた『ソルマドラ』が
あまりの痛みに顕現が保たなかったのか。
これでは、連戦すらままならない。
そんな状況に追い打ちをかけるように、聞いたことのある鳴き声が聞こえ、降り立つ。
ダリアが呼んだ、魔獣グリフォンだ。
グリフォンが、魔人王とダリアを乗せる。
「どうしたノ、グリフォン? ……へェ、そう。陛下、王都の拠点が全滅したそうでス。依頼を受けた傭兵どもの仕業、ト」
「ほう、やるではないか。本格的に王都から撤退せねばな」
「待っ……て……」
「今回は負けを認めよう、ウォルタート王国。しかし、ゆめゆめ忘れるな」
魔人王の言霊が、中庭に響く。
それはまるで、国どころかこの世界の人間に対する宣戦布告のようだった。
「我々が生まれたのは、お前たちの責任だということを」
意味が、わからない。
少なくともあたしに向けた言葉ではないことは、ハッキリしていた。
あたし程度など眼中にないとでも……?
「待てぇッ!!」
一撃で負けた悔しさだけがあたしの身体を突き動かし、吠えるに至る。
「あラ、しぶとイ。陛下の視界に入れるだけでも面倒でス、消しましょうカ?」
「やめろダリア、捨て置け。あまり若い芽を摘むものではない」
「はぁイ」
不機嫌そうにダリアは指を鳴らそうと掲げた手を下ろす。
「何用だ、拳の傭兵」
「……負けない」
「ほう?」
「次に会った時には……魔人王! アンタにも、ダリアにも……負けない!」
「そうか」
グリフォンが翼をはためかせる。
魔人の王と臣下が、王都から去ろうという時。
あたしからの宣戦布告に、彼らはこう返す。
「儂を越えるというのなら、その時を楽しみにしているぞ」
「またネ、太陽のコ」
王と臣下を乗せて、魔獣グリフォンが王都を発つ。
空からの魔獣を守っていた結界は軽々と突き破られ、一陣の嵐は去っていった。
「絶対……負ける……もんか……」
あっ、駄目だ。
魔人王の圧が遠ざかった途端に、意識が――。
「レヴィン!」
「レヴィンさん!」
妖精と少年の声が、意識の落ちる間際に響く。
ははっ、これは流石に。
頑張り、すぎた、か――。