太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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幕間その十 「今宵の円卓会議は賑やかになりそうだ」

 未だかつて、この地に人間が足を踏み入れたことはない。

 魔獣教団の本拠は、そんな此処ではない何処かに、確かに存在した。

 

 晴れ間すら刺さぬ暗雲の地に佇む異形の黒き城は、フロイデヴェルトの民からすれば、この世のものではない異質な気配で満ちている。

 そんな城の異様に広いバルコニーに、魔人王とダリアを乗せた魔獣グリフォンが降り立った。

 

 王都に住まう人間たち、特に傭兵らの尽力に押されたが故の、戦略的撤退。

 しかし、魔人ダリアはこの結果を良くは思わなかった。

 

 後でその不満をベッドで魔人王にぶち撒けようと考えていたところに、バルコニーの窓からひとりの男がふたりを出迎えた。

 角張ったメガネをかけた、オールバックの男。

 

「陛下、ダリア。おかえりなさいませ」

「イサリス。アナタ、いつからここの執事になったノ?」

「帝国での仕事も一段落ついたので、お暇を頂いてな。城に帰って早々、お前と陛下が戻るとの連絡を受けて、わざわざこうしたまで。不服か?」

「いいエ。アナタにも気まぐれってあるのネ」

「お褒めの言葉と受け取っておこう」

 

 イサリスは魔獣教団の幹部である魔人だ。

 魔人の中でも特に頭の冴えが際立っており、そのため魔人であることを伏せて帝国に潜入し、とある任務を遂行している。

 

 その都合上忙しない状況が続いているため、城に帰るペースはそこまで多くない。

 

「イサリス、帝国の情勢はどうか?」

「魔人王陛下、報告は後ほど。今はあのふたりも、円卓に座してお待ちしております故」

「あラ、最近じゃ珍しいじゃなイ。魔人四天王が揃うことになるなんテ」

「その上、儂もおる。今宵の円卓会議は賑やかになりそうだ」

 

 魔人王が臣下ふたりを連れて、自分の部屋に入る。

 そのまま廊下に出た後は、会議室へと足を運んだ。

 円卓には既に、ふたりの魔人が腰掛けている。

 

「おっ、陛下ァ。待ってたぜ。ダリアとお楽しみだったみてェだが、そこンとこ詳しく聞かせてくれよォ」

 

 ひとりは、ツンツンオレンジ頭のパンクファッション男、ロータス。

 ひょうきんな成りだが、これでも小国のトップに上り詰めた男。

 四天王に連なるほどの実力は有している。

 

「不謹慎だぞ、ロータス」

 

 もうひとりは、全身を重装鎧で包んでいる魔人。名をガーベラ。

 声でしか判断できないが、中身は女性。

 その素顔を見た者は死ぬと噂されるほどの武人であり、一部の者しかその素顔を知らない。

 

「ンだよ。嫉妬かァ、ガーベラ? 心配しなくても、後でしっぽり相手してやっから」

「そのような意味ではない。拙は貴様の態度が気に入らんと言った」

「陛下の前だから、ってかァ? 気にすんなよ。オレだって王なんだから、さ」

「王だから、何だというのだ。貴様のような下品な男が、いくらお山の大将を気取ったところで、陛下の足元にも及ばぬ事実はどうしようもなかろう」

「ほゥ、言うじゃないの。だったら今ここで――」

 

 ロータスは、ガーベラの素顔を知っている者のひとりであるが、当の彼女本人からは害虫の如く嫌われている。

 元々、小国の実権を握ってからの最初の政策が『国中の美女を自分のハーレムに迎える』である程に、女癖の悪い男だ。

 孤高の武人であるガーベラが嫌うのも当然であるし、ダリアも彼のことを好ましくは思っていなかった。

 

 ただ実力だけならば、四本の指に入る。ロータスとはそういう男だ。

 故に、実力主義を謳う魔人王は、そんな性格最悪な彼を重用していた。

 

「そこまでにしておけ。会議の前に儂の円卓を血で汚されてはかなわん」

 

 一触即発の空気に、魔人王の一喝。

 ガーベラとダリアは揃って頭を下げる。

 

「チッ……わァったよ、陛下。お楽しみは最後の最後まで取っておけってンだろ?」

「……下衆め」

 

 ロータスに対するガーベラの悪態を、ダリアは聞かなかったことにした。

 イサリスの先導で、魔人王は円卓の上座に座る。

 ダリアとイサリスも、いつもの席に座した。

 

「では、この不肖イサリスの現状報告から。蒸気都市(スチーム・シティ)計画の進捗は全体の約八割。産業革命以降、アインハイト帝国の発展は著しく、魔獣対策も万全。軍備の強化も今のところは順調そのものです」

「魔獣の驚異さえなけれバ、すぐにでもお隣の王国に攻め入りそうネ」

「ッたく。帝国の血の気多すぎだろォ」

「少なくとも、貴様には言われたくないだろうな、帝国民は」

「どうあれ、儂らには必要な力じゃ。帝国の思惑が何であれ、とことん利用させてもらおうではないか」

 

 アインハイト帝国は、二十年前に魔獣が世に出るまで、隣国ウォルタート王国と戦争を繰り広げていた。

 フロイデヴェルト人類史における『魔兵器大戦』と呼ばれるものがそれである。

 

 同じ魔法文明から別の進化を遂げた帝国と王国は、お互いの価値観の相違から衝突を繰り返してきた。

 しかし、魔獣という共通の脅威が現れてからは停戦を余儀なくされ、現在に至るまで帝国と王国は事実上の不可侵条約を結んでいる。

 

 とはいえ、何かしらの問題が起きれば、再び戦火を交えることになろう。

 両国の現在の関係性は、いわゆる冷戦状態と言っても過言ではない。

 その状態すら、魔人たちは利用する。大いなる目的のために。

 

「帝国の技術者に造らせている『アレ』の完成度は?」

「全体の半分のところで、未だ滞っております。やはり核となる適切な魔兵器人形(マキナドール)の失踪が痛手となり、現在も適正者を選別している最中です」

「オイオイ、そんな調子で大丈夫かねェ?」

「予定外であることは事実。しかし『アレ』の優先順位は帝国の内政より下。自分の立案した計画にそこまで支障はない」

「織り込み済みってワケかよ。憎たらしいぐらいの名参謀っぷりだぜ」

「そう言うアナタは順調なノ? 貴族サマを随分と味方につけたみたいだけド」

「まァな。王国にも帝国にも引けを取らねェ金回りだ、今のところはな」

 

 ロータスの言ったことは少なくとも誇張表現ではない、とダリアは感じた。

 彼が動かしている小国は島国でありながら、王国と帝国、両方の貴族に好かれている。

 それが何故かはこの場にいる誰もが周知の事実なので、敢えて口には出さないのだ。

 

「やっぱり人間ってのは最高だァ。金をチラつかせておきゃァ、大抵の物事が解決できる。ウマいメシにウマい酒、それに良い女まで。楽しすぎる……魔人として生まれて事業を始めてからは、毎日が楽しくて仕方ねェ!」

「そうか。拙も毎日が楽しいぞ。貴様のような下品な男さえいなければ」

「男は下品なぐらいが丁度いい、って聞いたことがねェかァ?」

「ないな。そう考えるのはお前くらいだ、ロータス」

「ケッ、イサリスの仕事魔人がよォ。テメェくらい、好きな女と(しとね)でしっぽりぐらいの息抜きは出来るだろうが」

「そもそも伴侶を持とうと思ったことがない。魔人だからな」

「それを言い訳に使うのはちょっとズルくねェかァ?」

「はいはイ、そこまデ。猥談は会議の外でやりなさイ。陛下をあまり困らせないでヨ」

「ハァ、それもずりィよな。陛下に何かあればテメェが暴れるから手がつけられねェ」

 

 ロータスはダリアを凶暴な忠犬のように感じている。

 少なくとも彼が苦手な数少ない女性であることは、ダリア自身も理解していた。

 自分さえ奴を抑えておけば、全てが丸く収まる、と。

 

「で、テメェの方はどうなんだ、ダリア? 王都に行ってたんだろ? 陛下とお忍びでよォ」

「お忍びデートだなんテ……私はただ期を見て国を混乱させようと暗躍してただけヨ」

「暗躍しただけにしては、随分と機嫌のいい顔だ。拙は気になるな、王都で何があったのか」

「多分、ガーベラにとっては良いニュースになると思うワ。実はネ――」

 

 ダリアは王都での出来事を事細やかに話した。

 

 魔獣教団は、王都で密かに活動の場を広げていた。

 全ては、鉄壁の要塞都市に魔獣を迎え入れるため。

 

 だが、王国の抵抗が大胆だった。

 王都の拠点は全て傭兵たちに潰されて、虎の子の実験体魔獣も屠られた。

 魔人王が王城を去る時に『負けを認める』と言ったのは、大局的な視点からだ。

 

「つまりテメェは陛下にむざむざと敗北っていう惨めを晒して帰ってきたわけかァ」

「結果的にはそうなったってだケ。イサリス、これをどう思ウ?」

 

 イサリスに、奪った『ウォルタートの冠』を差し出すダリア。

 彼ならば、その本当の価値がわかると信頼しての行為だ。

 

「なるほど。王国も流石にやる」

「どういうことだよ?」

「これは贋作(ニセモノ)だ。埋めている宝石の位置が微妙に違う」

「やっぱりネ」

「『ウォルタートの冠』は代々王国の王となる者に受け継がれる形式上の証ではあるが、女王を暗殺したことの証明にはならないぞ」

「何のこト、イサリス?」

「常に女王が身につけていると印象付けられている『ウォルタートの冠』ではあるが、殺したのなら返り血の一滴ぐらいはついているハズだ。つまりお前は、魔獣を囮にしたにもかかわらず、女王を殺していないということになるが、反論はあるか?」

 

 イサリスの指摘を、ダリアはお手上げといった様子で示した。

 

「無言は失敗を認めたと受け取ろう。予期せぬアクシデントでも起きたか」

「身体の記憶が必死に止めたって言ったラ、信じル?」

「……なるほど」

 

 魔人は、その成り立ち自体が複雑である。

 そんな弱点を認めざるを得ないのが、彼らの辛さなのだ。

 

「責めはすまい。結果的には王都の拠点を全てやられた時点で、我々の敗けだったのだ。堅実な暗殺を旨としていた貴様が、引き際を弁えた。それだけのことだろう」

「ありがとウ、ガーベラ」

「けどよォ、王都の拠点が全部潰れたってのは、相当な痛手だよなァ。女王も生かしちまったワケだし」

「それに関しては問題ない。儂が占い師として潜入していた頃、女王が生誕祭で子に王位を継承させるという噂を聞いた。たとえ暗殺が成功していたとしても、次の王が決まっていたのは確実。しばらく泳がせてから、隙を見て誰かを送り出すことにしよう」

「王都に関しては、しばし様子見ということですか、陛下。陛下が望むのならそのように」

「今後の活動拠点ハ、主に帝都シュバルツということデ?」

「構わん」

 

 魔獣教団の活動はフリーデン大陸全土に及ぶ。

 

 東の王国と西の帝国、どちらの勢力にも与することはないが、利用できるものはとことん利用する。

 

 ただ彼らの活動に協力的なのが、主に帝国であるだけ。

 それだけアインハイト帝国という業の集まりが、教団にとっての利となるのだ。

 

「残念でス、気に入ったオモチャが王都に居たのですガ、しばらく遊べないとなるト――」

「ほう、お前にしては珍しい。どこの馬の骨だ? そのオモチャというのは」

「レヴィン・ゾンネ、だったかしらネ。世にも珍しい鎧のマキナで殴ったり蹴ったりする傭兵の女ヨ。陛下には何百倍も及ばなかったけド」

「殴ったり蹴ったり、だと? 徒手空拳の武術が廃れた今の世でか?」

 

 反応よく席を立ったのはガーベラ。

 彼女は武人である。なればこそ強者の匂いには敏感であった。

 

「流石がめついわネ、ガーベラ。言ったでショ、良いニュースになるっテ」

「最高の報せだ、ダリア。今すぐにでも王都に行きたいところだな」

「そう慌てンなよ、ガーベラ。ソイツが傭兵やってンなら、いずれどっかで会えるさ」

「貴様に止められる筋合いはないな、ロータス」

「話を聞いていなかったようだな、ガーベラ。主な活動の場は帝国に移すと言ったのだ。ロータスは『王国での活動がしばらく出来ないのなら、帝国まで来るのを待つしかない』という旨のことを言いたかったのだろう?」

「ま、相手は傭兵だしなァ。紆余曲折あって帝国に入ることもあるかもしれねェ。そんなことより、オレの国での厄介事を引き受けちゃくれねェか?」

「何故だ?」

「まだ先の話にはなるが、とんでもねえVIPがオレの国に来る。公には秘密だがな。テメェにはその護衛を頼みたい」

「気が乗らん」

「今度の取引は絶対失敗できねェんだって。ちゃんと給料は払うぜェ?」

 

 急に仕事の話を振られたガーベラの声色は不機嫌そのものだ。

 だが、そんな彼女を制するように魔人王の口が開く。

 

「構わん、やってやれ」

「陛下、しかし!」

「お前ほど頼りになる護衛はおらんと儂は思う。要人を守るだけで強者と相対できるのなら、お前の欲求は満たせるのではないか、ガーベラ?」

「……承知、しました」

「ヘッ、ありがとうよ陛下」

「今後の方針は固まったわネ。私は陛下とお引越しの準備、イサリスとロータスは現行の仕事を継続、ガーベラはロータスの国で要人の護衛。くれぐれも、私たちの大望から外れた行為はしないようニ」

「以上で、本日の魔獣教団円卓会議を終了する」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 四天王のうち三人はそれぞれの業務に向かい、ダリアは魔人王に寄り添っていた。

 魔人王の、微妙な変化を感じ取っていたからだ。

 

「ふぅ……長らく虚勢を張るのも、疲れた、な」

 

 それはダリアにとって、雷に射たれたような衝撃だった。

 魔人王が力を抜いたと同時に、右腕に亀裂が入ったかと思えば、次の瞬間には砂のように消えていた。

 

 彼はレヴィンの強烈なパンチを受けていたが、人間を超えた魔人、その最上位に位置する存在ゆえに難なく受け止めていたと思っていた。

 しかし実際はこの光景。今まで必死に右腕の崩壊を耐えていたのだ。

 

「陛下!」

「心配はいらん。しばし浸かれば、腕は戻る」

「まさか、あのコの拳が届いてたなんテ……!」

「レヴィン・ゾンネ、だったか。『褐色の餓狼』と恐れられたレオンの娘にしては、奴より魔力を的確に流す術を心得ているようだ」

「普段の陛下ならバ、こんなことにハ……まさか、老化がまた進行しテ!?」

「ダリア」

 

 一番の腹心の名前を呼ぶ魔人王の顔は、右腕を失ったとは思えぬほど落ち着いていた。

 

「どれだけ老いようと、この身体に限界はない。老化のせいと決めつけるのは、単なる儂の甘えだ」

「陛下?」

「儂が鍛えに鍛えたこの身体を壊すような猛者が現れたのだぞ。むしろ喜べ」

 

 ダリアは久しぶりに見てしまった。

 愛しの魔人王様が強者に昂る、その姿を。

 

「どこぞで見たような戦い方であったなぁ……今は失われた武術を再現していたんじゃろうか。荒削りだがまだ伸び代があるとわかったのだ、今後の成長が実に楽しみじゃ」

 

 駄目、駄目、駄目。

 アナタはそちらを見てはいけない。

 どうか私だけを。私だけを見て欲しい。

 

 ダリアの感情が心の中で渦を巻く。

 

「帰ったばかりだというのに、楽しみが増えてしまったな。儂は寝る。お前も引っ越しの準備を終えたら休息を取れよ」

 

 欠けた右腕を気にする様子もなく、魔人王が席を立つ。

 

「はイ……おやすみなさいまセ」

 

 そんな彼にかける言葉が見つからなかったのは、誰のせいだろう。

 決まっている、あのギンギラ女だ。

 レヴィン・ゾンネ。あの傭兵が魔人王の興味を引いてしまったから。

 

 太陽竜の遺跡がある集落を襲ったのは、レオンの帰還と成人の儀式の時期が重なった上で練った計画。

 

 一度は魔人王を脅かしたレオン、というより古代(エンシェント)マキナの『ソルマドラ』。

 マキナとユーザーは一心同体、ユーザーさえ殺せば『ソルマドラ』すらガラクタ同然。そのはずだった。

 まさか娘が受け継いで、この短期間に魔人王の右腕を壊すほどに使いこなしていたなど、夢にも思っていなかった。

 

 あそこで親子共々、首をはねておけばよかった。

 

「あのヒトは、私だけ見ていればいいのに」

 

 魔人王が円卓を去った後に、偽らざる本音が、こぼれる。

 

「許さないわよ……レヴィン・ゾンネ!!」

 

 ダリアという愛に狂った魔人が、初めて宿敵を認識した。

 おびただしい魔力を、その身に滾らせて。

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