太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第五章 王都生誕祭編
第四十三話 「当たり前なんじゃよなぁ」


 目を開けると、前にも来た、記憶の映画館だった。

 

 そこであたしは、かつて見た記憶を辿る。

 格闘ゲーム『ライジングナックル』シリーズ、隠しボスとして強烈な印象を残した男、ガオウの記憶を。

 

 ガオウは、ただひたすら強さだけを追い求める男だった。

 

 全ては師に認められた弟弟子への劣等感から始まる。

 それがいずれ憎しみへと変わった頃にはもう遅く、鍛えすぎた彼は師をこの手にかけてしまっていた。

 

 ――見たか、我はこんなにも強いのだ。

 

 修羅となった彼を阻む者は何もなく。

 古巣を去ってからのガオウは、まるで災害だった。

 それこそ、都市伝説もかくやと恐れられるほどに。

 

 実際のところ、秘伝書を奪って世界を牛耳ろうとした表のラスボスよりも、主人公レントとの縁は深い。

 なにせ父の兄弟子だった男だ。彼は師匠から破門された後もレントの父に嫉妬の炎を燃やし続け、レントの父が表のラスボスに殺されたと知っても尚、その延長線上でレントや他の強者を狙うほどに面倒くさい。

 

 そんな彼を相手にするレントの心境はどんなものだったのだろう。

 前世で考えたことはあったかもしれないが、今はうまく思い出せない。

 初見のインパクトだけが、トラウマと同じ要領でリフレインするのみだ。

 

 そう、思いかけていたのだが。

 

 目の前の映像が、最近の記憶に切り替わる。

 老齢の達人といった佇まいの魔人王が、乱入してきた記憶に。

 

「強かったな。自信をつけてても、敵わなかった」

 

 ふと、呟きが漏れた。

 

 あの時は勢い余って『魔人王にも負けない』とか言っちゃったけど。

 

 投げるだけで鎧を纏った状態のあたしを文字通り叩きのめすほどだ。

 

 ガオウ登場の衝撃を上回る、実体験での完全敗北。

 

 普通なら挫折して、立ってもいられないほどの心の傷ではあるだろう。

 

 でも、ガイア様から言われたように。

 あたしは身体も、心すらも。

 とっくに普通じゃなくなっていた。

 

「凄いな。あたしはまだ……強くなれるんだ」

 

 なのであたしは、震えている。

 武者震い、というやつだ。

 

 おそらく魔人王というヤツは、フロイデヴェルトに生きる上で、超えねばならぬ壁。

 前世の兄と同様に、強くなる指標となるべき存在。

 

 アイツさえ超えれば、『普通』の余生を過ごせる。

 なぜだかそんな気がして、拳を握った。

 

「絶対に、勝とう。とびきり強くなって、勝とう。きっとあたしは、この為に負け続けてきたんだから」

 

 太陽竜の残留思念から「それでいい」というような声が聞こえた気がして、あたしだけの映画館は記憶の上映を終えた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 何か不思議な夢を、見ていた気がする。

 

 (まぶた)を開くと、見たことのない天井が見えた。

 なんだかお姫様が使っているような、淡い色の天幕みたいな――。

 

「ここ……どこ……?」

 

 寝起きで少し頭がまとまらないが、周辺を見渡しながら直近の出来事を思い出してみる。

 

 えっと、確か、王城まで魔獣を追いかけてて、朝日が昇って形勢逆転ぶっ倒したって思ってたところに『魔人王』とか名乗る占いお爺さんに投げられて一本取られた、んだっけ。

 

 うん、ちゃんと記憶はある。

 折角の大勝利を敗北に塗り替えた、あの魔人王。

 

 アイツも、そしてダリアも。必ずあたしの手でリベンジを果たさねば。

 だが、今はそれよりもこの部屋だ。

 

 やけに寝心地の良かった天幕付きベッド、壁に飾られている高額そうな縁で彩られた風景画に、彩りが眩しい装飾の棚の上には、割ろうものなら一生分かけても返せないぐらい高級そうな壺やら花瓶が置かれている。

 

「もしかして、まだ夢の中なんじゃ……」

 

 あり得る話だ。あまりにも現実味がなさすぎる。

 仮にここが名のある貴族サマの屋敷の客間だったとしても、世間が言うところの蛮族として生まれてしまったあたしからすれば、まるで縁のない話だ。ガラの悪い職種個人的第一位である傭兵ならば尚更。

 

 夢の中では貴族のご令嬢って設定、という説明を受けた方がまだ納得できる。

 もしもそうじゃなかったら、目覚めは牢屋というのが相場のはずだ。わざわざこの部屋に寝かせる意味がわからない。

 

「やっとなりましたか、お目覚めに」

 

 聞き覚えのない、声。

 咄嗟に起こした上半身だけで構えを取った。

 ん? やけに身体が軽いような?

 

「寝起きでそこまで動けるとは。治癒術式で促進されていたとはいえ、大した回復力ですね。ラグナ族というのは」

 

 声の主は、メイドだった。

 しかもコテコテなクラシカルスタイルの。何故?

 

 まあ豪華な屋敷みたいだし、メイドのひとりやふたり居たところで……って、違う!

 気にするところはそこじゃない。

 

「あの、ここは一体、どこなんでしょう?」

「ウォルタート王城、来賓(らいひん)の間にございます。気絶した貴方様を姫様の命にて介抱させていただきました、ここで」

 

 さっきから倒置法な口調が気になってしまう、目つきの悪いメイドさんが、ショートボブに整えた髪を不機嫌そうに掻き上げた。

 

「失敬。まだでしたね、自己紹介が。ローラ・クノル、メイド長です。よしなに」

「よ、よしなに」

「貴方のような蛮族は城内に入れることすら叶わぬ身なのです、本来ならば。しかし功績が功績、姫様の命にも逆らえず……」

 

 ふむ、このローラってメイドさん、あたしというか、ラグナ族そのものが苦手なのか。

 よほどラグナ族に関連する嫌なことがあったのか、はたまた思い違いでラグナ族を嫌悪しているだけなのか。

 できれば後者の方が誤解を解くのが楽なのだが、今解決できることではない。

 

 目下の問題は、ここは王城の中で、彼女が言う『姫様』が誰にあたるのか、だ。

 

「その姫様ってエメル……エメラリア殿下のこと、ですか?」

「いかにも。随分慕っておいででした、レヴィン様を。十年以上も教育係として務めてきた私よりも、ずっと」

「お、怒らせたみたいなら、ごめんなさい……あたし、悪漢から殿下を助けてから、どうもなつかれたみたいで」

「それはまあ、ありがとうございます。二日前の功績もそうですが、ラグナ族にしては義に熱い方なのですね、貴方は」

「えっと、ちょっと待って。さっきから功績功績って、あたしには何のことだか――」

 

「『王城に侵入した魔獣を撃退した』、と聞いておりますよ、姫様とそのご友人から」

 

 そ、そういえばそうだった!

 件の魔獣――カミュラを倒すのに集中していて、王城の中庭で戦っていたことをすっかり忘れていた。

 このベッドで二日も眠ってたのは当然の帰結。

 

 あたしは、()()()()()()()()として、招かれてしまったのか……!

 

「……なかったんです」

「はい?」

「あたしとしては、そんなつもりはなかったんです」

「初めて見ましたね、泣きながら謙虚なことを言う人」

 

 すいません、謙虚も何もないんです。

 普通に生きたかったあたしからしたら、英雄とかの名声なんてただの重荷なんです。

 

「まあそこそこ変なお方ですが、今はお客人。姫様と面会させるわけには参りません、そのみすぼらしい服で」

 

 ローラさんが指を鳴らすと、大量の衣装一式が掛けられたラックと、大勢のメイドさんが一斉に姿を現した。

 

「わあ、お高い衣装がいっぱい……おいくらで?」

「知る必要はありませんね、今は」

「怖いこと言わないでくれます!?」

「ご安心を。眠っている間にサイズを測りましたので、それを基に取り寄せた特注品です。合うかと思われます、確実に」

「特注!? ほら高い! 力んで破かないよう細心の注意を払わなくちゃいけなくなるじゃないですか!」

 

 おそらくは服を着せてくれようとしているのだろうが、駄目だ。流石にこれはまずい。

 

 思い出される、王都に来たばかりの頃、思い通りの服で自分を着飾れなかった無念。

 筋肉で他所様の服を破りでもしたら、弁償は免れない。

 

 しかも相手は王家、さぞ高級な素材をあしらったドレスなのであろう。

 そんな服が咄嗟の動きで破けてしまえば、死んでしまう。社会的に!

 

「気持ちだけで! 気持ちだけで結構ですから!」

「いいえ、着ていただきます、意地でも。蛮族とはいえ王家の恩人。整えていただかねば、体裁だけでも!」

 

 くっ、こういう時に止めてくれる知り合いの居ない歯痒さよ。

 仕方ない、こうなれば窓から逃げて――!

 

 そう現状から脱する思考を巡らせていた時だった。

 扉から響くノックの音。

 

「ローラ、レヴィンさん起きました?」

 

 そして聞き覚えのある声。

 

「エメル!?」

 

 その一瞬の動揺が隙となり、仇となった。

 

「確保ォーッ!!」

「うひゃああぁあッ!?」

 

 ローラさんの合図と同時に押し寄せるメイドたち。

 あたしは彼女らにもみくちゃにされ、いくら鍛えていても数の暴力には勝てないということを、改めて学ぶのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「うわあっ、よくお似合いですよレヴィンさん!」

「まあ、勝手にサイズ測られたし、そりゃ合うわよね……」

 

 結局あたしは観念して、ドレスを着せられた。

 幸いにも肩出しデザインではあるので、袖を通す必要がないのは助かった。

 腹巻き(コルセット)もメイドさんが苦しくない程度に締めてくれたので、腹筋を力ませ破くような危険性もそこまで無い。

 

 ドレスを着せられたところに、エメルが入ってきたのが今の状況。

 参った。ものすごく参った。

 これで逃げ場はなくなったというわけだ。

 

「介抱してくれたのは感謝してるけど、そろそろ説明してくれない? ドレスを着せた理由とか色々」

「無礼な、姫様相手に!」

「いいのですよ、ローラ。私の師匠なのですから、これぐらいの気安さは多めに見てください」

 

 いや師匠て。言っちゃったよ教育係の前で。勝手に。

 まだ弟子を取るとも言った覚えはないし、今でも師匠になる気は更々無いんだが?

 

「それで、この二日で何があったのか、ですよね。結論から言えば、我々は魔獣教団に勝利しました」

「あたし、教主っぽいお爺さんに負けたのに?」

「大局的に見れば勝ち、ということです。傭兵の皆さんが王都に潜む全拠点を頑張って制圧してくれたので、五万名ほど居たらしき教団の構成員はその約半数を拘束できました。残りは秘密の通路か何かで脱出したようで、事実上王都の教団は一掃されたとみていいでしょう」

 

 あ、傭兵ギルドに匿名で緊急依頼の報酬金出したのって、やっぱりエメルだったのか。

 そりゃ勝ちだって言えるわけですよ。多くの傭兵を動かせたのは王家の資金力だもの。

 

 そんなムードで自分だけ負けたのがちょっと悔しい。

 まさしく試合に勝って勝負に負けた、という感じの結果だ。

 

「し・か・し! それにつけても目立ったのはレヴィンさんの活躍です! 次々に姿を変える魔獣を一撃で屠った光景、私も直に見たかった……!」

 

 うん?

 おかしいな、何故か話が盛られているような気がする。

 

「私情を挟むのはそのくらいに致しましょう、姫様」

「おっと、そうでしたね。依頼の内容は『魔獣教団の拠点調査もしくは壊滅』、受諾してくれた全ての傭兵に報酬を山分けするというものでした。それに加えて、レヴィンさんは『変身魔獣カミュラの討伐』という追加報酬依頼も達成されて。こちらで追加報酬を渡そう、という話になりまして」

「こちらになります」

 

 ローラさんがテーブルの下から出してきたのは、アタッシュケース。

 刑事モノのドラマでしか見たことがないその一物を見て、あたしは戦慄した。

 

 えっ、ウソでしょ……まさか、まさか――!

 ローラさんの手がアタッシュケースの留め具に伸びる。

 そして、小気味よい音と共に、ゆっくりと開かれたその中身とは。

 

純金延べ棒(インゴット)でございます」

「グワーッ!」

「通貨に換金すれば五十億(ゴルト)は下らないでしょう」

「グワーッ!!」

 

 眩しい、眩しすぎる。

 王族の金銭感覚が狂いすぎているとか、そういう問題ではない。

 

 いくらあたしが英雄だからって!

 五十億レベルの純金をポンとお出しされて!

 あたしにどうしろというのだ!

 

 駄目でしょ、国家予算の無駄遣いでしょこんなの!

 

「追加と言うには莫大すぎるでしょ!」

「それだけのことをやっていただきましたので。五十億は妥当かと」

「ヤバイ、王族の狂った金銭感覚についていけない……」

 

「考えてみてください、冷静に。魔獣を寄せ付けない堅牢な要塞都市であるグナーデンの中に、魔獣を持ち込んだ輩がいて。それに我々は気が付かなかった」

「そ、そうですね」

「その輩を片付けて、あまつさえ王城を堕とさんとした強力な魔獣を倒したのです。潜んでいた教団を追い出せたのは他の傭兵の功績ではありますが、貴方がやったことは我々から見ても充分に値します、称賛に」

「つまりレヴィンさんは王族を救ってくれた、()()()なのです。これほどの恩賞を与えなければ釣り合わない、と考えた次第で」

 

 そういう問題じゃない。

 もしこの先、王女から金の延べ棒を頂いたなんて市井に知れたら、注目されるのは必然。

 普通の人生を目標にしているあたしからすれば、身の丈に合わない枷といえるだろう。

 

 そもそも金額の桁もそうだ。いち個人が所有するレベルを遥かに超えている。

 城を守ったのは事実、しかしそこまで形として感謝される(いわ)れはない。

 

「だからってそこまでしなくてもいいから! 頑張ったところで結局は負けたし! あたし自身そこまでの器じゃないしね!?」

 

 ああ、恥ずかしい。自分が恥ずかしい。

 

 あたしからすれば、リベンジを果たしたかっただけの行為で。

 それこそ城を守る騎士のように、崇高で殊勝な行いではなかった。

 それが本当に申し訳なくて、必死に弁解しようかと思ったら。

 

「当たり前なんじゃよなぁ」

「なっ!?」

 

 突如聞き覚えのある声が聞こえた。

 扉の方を見ると、これまた見覚えのある羽と小さな身体が。

 

「リ、リテラ……アンタ、いつから……?」

「インゴットを見せられて奇声を発してた辺りからじゃな」

「選ばせてあげる。壁のシミになるか、床のシミになるか」

「わぁお、実質一択」

 

 まったく、あたしを怒らせる天才だよこの妖精は。

 

「まあまあ。喧嘩はめぇ、ですよ。この子はずっと貴方が心配だったんだから」

 

 いやしかしですね、さっきの恥ずかしいシーンを見せられたらもう亡き者にするしか――。

 

「えっ、どなた……?」

 

 あたしはリテラの後ろに立っていた女性にようやく気付いた。

 

 まず亜麻色の髪色が目を引き、どこかで見たことのある面影の麗しい顔面と来て、ドレスと佇まいがロイヤルとただ形容するのもおこがましいぐらいに優雅。

 そして極めつけは、一目見ただけでわかる『母』のオーラ。別名、母性ムンムンの女性が発するポワポワ空気感。

 

 只者ではない、というのは感じ取れた。

 

「あ、お母様!」

 

 え、おかあ、さま?

 エメルのママ?

 エメルは王女だから、つまりこの人は。

 

「女王陛下あああああぁぁぁぁッ!?」

「はい、女王様ですよ~」

 

 生きてるぅぅぅぅぅ!

 喋ってるぅぅぅぅぅ!!

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