太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第四十四話 「ど、どうってことないわよ、あれくらい」

 一体どうなっているのだろう。

 

 あたしは二日も来賓の間で眠っていて、その上肌身離さず身につけていると聞いていた王位継承の証である冠を奪われたのだから、きっとあたしがキマイラと戦っていた間にダリアの手で殺されたのだ、と思い込んでいた女王様が今、あたしの眼の前で生きている。

 

 頭の整理は追いつかずパニックになり、あたしの身体は咄嗟に。

 

 土下座を、選択していた。

 

「うわっ、何しとるんじゃレヴィン!?」

「な、なんて流れるような所作……!」

「姫様、確かに見事な土下座ですが。この蛮族は女王陛下とは今回が初対面のはず。ここまで頭を下げる理由はないかと思われますが、確実に」

「あらあら、まあ」

 

 あたしの奇行に驚くリテラに、何故か好感度を上げてしまったエメル、冷静に分析するローラさん、そして未だほわほわなスタンスを崩さないガーネット女王。

 とんだ勘違いから反射で土下座してしまったとはいえ、流石に引かれなかっただろうか。

 

 ええい、もうここまでやっちゃったんだ、どうにでもなれ!

 

「この度は脳内の勘違いがとんだご無礼を! まさかご存命とはつゆ知らず!」

「いえいえ、構いませんよぉ。詳細はエメルのお友達から聞いていますから」

「ははーっ! なんとも慈悲深きお言葉!」

 

「急にキャラ変わりおったな、こやつ……いやしかし、言葉を選んでおる辺り、素の良い子ちゃんが出ておるのか?」

「蛮族らしからぬ、という言葉しか出てきませんね、実際」

「そこがレヴィンさんの良きところですよ、ローラ。何事も決めつけはよくないということです」

 

 ひとまず、落ち着こう。

 せっかくガーネット女王様に寛大な心で許していただけたのだ、本題に入らねば。

 

 いや、その前に。

 

「ところで女王殿下、ソイツ……リテラとはお知り合いで?」

「ええ、子供の頃から随分と、王都の外のお話を聞かせていただいて~」

「ま、ちょっとした昔なじみじゃ。色々あってのう」

 

 そういうことか。

 一応はコイツ、あたしの側にいない時は大体情報集めに徹していたらしいから、その時に王族とのパイプが繋がっていてもおかしくはなかった。

 

 いや、そんな軽いノリで簡単に王族と、しかも女王様と仲良くなれたりするのか!?

 未だリテラの交友関係には謎が多いが、今知りたいのはそういうことではない。

 

「色々、か。まあいいわ。あたしが眠っていた間の二日間、聞かせてもらうわよ」

「さて、どこから話そうかのう――」

 

 あたしの知らない二日間、その概要をまとめると、こうだ。

 

 まずは、王城の被害。

 

 カミュラほどの魔獣相手に激しい戦いではあったが、衛士隊の活躍とあたしたちの貢献もあって、全体の損傷は軽微で済んだという。

 ただ、メインの戦場だった中庭の被害は凄まじいもので、今でも中庭の修繕が急ピッチで行われているそうだ。

 

 半ばあたしがやらかしたことでもあるので、手伝おうと言い出したらなぜか止められた。

 くっ、こういう時に『国の英雄』って肩書きを盾にしないでよ。恥ずか死ぬ。

 

 次に、容疑者ジークさんの処遇。

 

 あたしが気絶した日の昼頃に査問会が開かれていたらしく、結論から言えば、ジークさんは無罪と認められた。

 カミュラの魔石という証拠と、彼女が助けた衛士さんたち、そしてモンド王子の証言。

 そのいずれもが確たるものとして提示され、決定打になったのだという。

 

 しかし完全に円満というわけにもいかず、ジークさんを勝手に牢屋から出したモンド王子に対しては、王位継承権の剥奪(はくだつ)という重い処罰が。

 おまけに王都より遠く離れた領地の管理を任されるという、事実上の左遷通告。

 

 彼が王族関係者に紛れ込んでいた魔獣教団内通者の確保に貢献した、という情報も初耳だったが、厳格な王子みたいな印象とは裏腹に、身内に関しては感情的になりやすい男だったのだろうか。

 

 いずれにせよ、モンド王子がジークさんを仮釈放してくれたおかげで、あたしは一応助かっている。

 後で会った場合に備えて、お礼の言葉を準備しておこう。

 

 そして今回の事件で開催が危ぶまれていた女王陛下の生誕祭だが、王城の修繕を踏まえても、本日中に催される運びになったのだという。

 ウソでしょ、随分有能じゃん修繕スタッフ。

 

「っていうか、親子共々あたしを気にしてる場合じゃないでしょ。生誕祭のメインキャストじゃないの?」

「本格的に始まるのはお昼からなので。それに、レヴィンさんを生誕祭に招待しなくては、感謝の印を渡す機会もありませんし」

「感謝の印って、この金の延べ棒じゃ――」

「金にはなりませんが、貴方にとっては必要になる贈り物、とのことです。姫様は私にすら話してくれませんが、詳細を」

 

 はて、金にはならないがあたしには必要になる?

 皆目見当もつかないが、エメルが何やらサプライズを計画しているであろうことは、容易に想像できた。

 

「ともあれ、レヴィンさんのおかげです。今こうして話せるのも、生誕祭を無事催せるのも」

「そ、そうね。あまり無事とは言い難いけど」

「表向きは無事ってことにしてくれると、助かっちゃうわね~」

 

 表向きは、か。

 どうにも納得できない、というのがあたしの正直な感想である。

 

 なぜダリアは女王様を殺さなかったのか。

 なぜ『魔人』のことを皆して語ってくれないのか。

 

 謎が残っていてモヤモヤするのは確かなのだが、おそらくはこの国にとって気が滅入るほどの話題なのかもしれない。

 

 盛大な祭りを前にしたこの席で聞くのもはばかられる。

 ひとまずは、空気を読んでみることにした。

 

「そういえば、双子とヤーナもこの城に?」

「うむ。お主が寝込んでおるのに、孤児院に置いておくわけにもいかんからのう。そろそろお主が起きたと聞いて――」

 

 噂をすればなんとやらとはよく言ったもので、客間のドアが勢いよく開かれる。

 

 見知った双子――ミュウ君とニューが慌てた様子で入ってきた。

 

「姉貴ーっ!」

 

 真っ先にあたしの胸に飛び込んできたのはやはりフィジカルで勝るニュー。

 

「ずいぶんねぼすけさんで心配したんだからなー!」

「ふふっ。ありがとう、ニュー」

 

 遅れてミュウくんも息を切らしてゆっくりやって来る。

 元いた部屋との距離が長かったのかな?

 

「はぁ、はぁ……よかった、すっかり元気になって」

「おはよ、ミュウ君」

「ぐらぁう」

「グラウもおはよう」

 

 ミュウ君の頭にちょこんと乗っているグラウにも声をかけ、ふと思う。

 あたしの望んでいた普通の日常が、久々に戻りかけてきたのではないか、と。

 

 でもそれはあたしの錯覚。

 今いるここは王城の客間、普通とは程遠い世界だ。

 

 故に、知らない顔が突然やって来ることもある。

 

「わぁっ、おねーさま、おかーさま。なにしているでごぜえます?」

 

 はい、ミュウ君の後ろから追加一名入りまーす。

 

「こら、シトリー。大事な話の途中ですよ」

「あらあら、あなたこそどうしたの?」

「えっ、誰ですかこの子?」

「シトリーだぞ。姉貴が寝てる間、一緒に遊んでたんだ」

「ふたりとも、ごめんなさいね。ウチの妹が迷惑をかけて」

「いえ、おかげさまでいい経験になりました。ありがとうございます、姫殿下」

 

 ふむ、エメルの妹だったか。

 それにしては歳が離れているように見える。六、七歳くらいだろうか。

 

 明るめの金髪とくっきりとした可愛い目元、きらびやかに着飾ったドレスとは裏腹に未成熟という言葉がピッタリとハマる背丈。

 まるでゴシックロリィタな人形に命が宿ったような、そんな印象を抱いた。

 

「ってことは、この子もお姫様なの?」

「一番の末っ子じゃがな。どうもカミュラ襲撃の時にはぐっすり熟睡しておって、中々起きなかったらしい。幼子ながら大したもんじゃて」

 

 あの騒ぎで起きなかったのか……。

 肝が据わっているというべきか、寝る子は育つというべきか。

 

 いずれにしろ、トラウマになるようなことに遭遇することがなかったのだから、あんなに無邪気で元気を保てているのだろう。

 

 と、噂のシトリーが姉や母と話しているうちに、なぜかあたしにワクワクな表情を向けてきた。

 

「えーゆーさま、このたびはまじゅーをたいじしてくれて、ありがとうごぜえました!」

 

 あー、うん、そうね。

 あたしとしては子供の無邪気は可愛いと思うのだけど。

 本当はハッキリと言いたい、『実際はあたし負けてたのよ』って。

 

 でも真実の残酷を子供に突きつけて無邪気を曇らせるのは、ちょっと空気読めなさすぎ、ということにならないか。

 

 よし、落ち着こう。

 あたしは空気が読める女、子供の無邪気は壊せない。

 

「ど、どうってことないわよ、あれくらい」

「わぁっ……!」

 

 そして咲き誇る心底嬉しそうな顔。

 エメルに続いて王族のあたしファンが増えてしまった。

 

 シトリー王女、か。この先厄介ファンにならないことを祈るばかりである。

 

「女王陛下、姫殿下、お時間です、そろそろ」

「あら、もうそんな時間? 話し込みすぎたかしら~」

「行きましょうか、お母様。シトリーはここにいて、お祭りの時間になったらレヴィンさんたちを会場に案内してあげてね」

「がってんでごぜえます!」

 

 シトリー王女、合点なんてよく知ってるな。

 覚えたての言葉を使いたがる子供って感じで、ちょっと可愛いかもしれない。

 

「レヴィンさん」

 

 ふと、客間の扉に手をかけたエメルが振り返る。

 

「この間、ヤーナに言われました。私とあなたでは、戦える戦場が違う、と」

「それがどうしたのよ?」

「でも、いざという時にマキナのナイフ一本、というだけでは死んでいたかもしれないと、思い知りました」

 

 ふと何の話かと思ったが、そういえばあたしの知らない二日間の話を聞いていた時に、さり気なくローラさんが話していたんだった。

 

 あたしが一度ダリアの雷に落とされて気絶していた裏で起きていた、魔獣教団出資者断罪事件。

 

 この王城に勤務していた大臣のひとりだったドルマという男。

 彼が魔獣教団に多額の金を出資していた、という証拠が密偵によって暴かれ、まるで時代劇の如くエメルからの大岡裁きが下されようという時に、アクシデント発生。

 

 そのどさくさでエメルを人質に取ったドルマはエメルを連れたまま逃亡、エメルの反抗に逆上し彼女のナイフを奪って刺そうとするも、モンド王子が身代わりに。

 その隙を突いて、仮釈放されていたジークさんがドルマの身柄を拘束した、というのが事件のあらましだ。

 

 当のドルマ元大臣は、ジークさんが無罪を勝ち取った査問会で、まるで前座感覚ともいうべきスピード判決が下され、無期懲役と相成ったという。

 

 改めて概要だけ思い出しても、エメルの正義ウーマンなところがお騒がせしちゃった、という感が否めない。

 だがしかし、ローラさんから聞いていた通りならば、エメルはおそらく自分の不甲斐なさを悔やんでいる、はずだ。

 

 そうなれば、後に続く言葉は。

 

「私、強くなりたいです。これからお互い忙しくなるでしょうが、やはり私はきちんと身を守る術を学ばなければいけません。貴重な時間の合間を縫って、無手の護身術を、私に教えてはいただけませんか?」

「駄目よ」

 

 あたしは即刻お断りで返した。

 

「傭兵のあたしなんかが一国の姫に教えてちゃ、よくない噂が立つじゃないの。教わるべき相手なら、他にもいるでしょうに」

「……予想した通りのお答えで、ほっとしました」

「もっと泣きつくものかと思ってたけど、心の筋肉は中々の強度みたいね」

「えっ?」

「エメルは心を鍛えた方が向いてる、ってこと」

 

 人によって、得意なことは違う。

 運動できる人と、できない人。

 魔法が使える人と、使えない人。

 

 己の経験から得意不得意を知って、人は成長できる、らしい。

 その得意によって戦える戦場があたしとは違うのなら、もはや出る幕はないだろう。

 

 というか、王族相手に護身術を指導するなんて恐れ多いし、教えられるだけの経験もそこまで無いんだよね。

 

「生誕祭、楽しみにしていてくださいね」

 

 エメルは一礼して、母を追いかけるように客間を出た。

 

「では、存分におくつろぎを、時間まで。シトリー姫様は蛮族のあなたを大層気に入ったようで、なってあげてください、話し相手に」

 

 ローラさんも大勢のメイドを連れて部屋を出る。

 この客間にはあたしとリテラと双子、それに小さなお姫様が残された。

 

「で、この娘にあたしのことを話したのは――」

「ハイ、あっし!」

「やっぱりね。むしろニューじゃなかったらどうしようかと」

「照れるなぁ」

「ニュー、それ多分褒めてないよ」

 

 ニューはあたしに助けられた頃から、あたしを慕ってくれている。

 でも恩師自慢とかそういう段階まで来ると、どうにも微妙な心境になる。

 

 特に自慢した相手が近い年代の王族となると、中々マズイ事態に発展してしまうことが考えられるからだ。

 

「わぁっ、あしがふとくて、かてえでごぜえますー!」

 

 このいつの間にかあたしの脚をモミモミしているシトリー王女。

 小さくて多感な時期に、王城を救った蛮族、つまりあたしという刺激を与えてしまった。

 

 彼女の姉のエメルこそ、次期女王という道は約束されているが、彼女はどうだろう。

 あたしに影響されて、身体を鍛えるとか、傭兵になるとか、突拍子もないことを言い出して家族に心配をかけてしまわないだろうか。

 

「レヴィン、ファンの前だというのに、その顔はないじゃろ」

「うざい。この娘の将来を案じてただけよ」

「うむ、まだまだ推せるな、お主は」

「何の話!?」

 

 そもそもファンとか推せるとか、あたしはアイドルじゃないっての。

 

 いや、既に遅いか。

 図らずも英雄として有名人になって箔が付いてしまったのだから、半ばアイドルみたいなものかもしれない。

 

「えーゆーさま! シトリーはぶゆーでんがききたいのでごぜーます!」

 

 だからここまで言ってくるほどのファンが出来たのも必然だった、と受け止めるしかないのか。

 

 弱ったな。

 あたしとしては、近所のちょっと頼れるお姉さんとか、そういう普通のレベルで頼られることを期待していたのに。

 

 今のあたしは英雄なんだもんな、やりきれない。

 

「こんなあたしのお話なんかでいいの?」

 

 だからこういう言葉が素で出てきてしまうのだ。

 

「えーゆーさまがマジューをたいじできるくらい、つよくなったおはなしをききてーのです!」

「ああ、立派な『れでぃー』になるとか話してたの、マジだったんだな」

「付き合ってあげてください、レヴィンさん」

 

 あたしが寝ている間に双子はシトリーと遊んでたと聞いた。

 やはりこの歳の子供からすれば些細な問題なのだ、蛮族かどうかなんて。

 それを言うならミュウくんとニューは帝国の亡命者だし、リテラは……まあいいか。

 

 とにかくこのシトリー王女には、将来何かを成し遂げそうな、そんな予感がした。

 あたしも、この娘に負けちゃいられないな。

 

「そうね、何から話そうかしら。故郷でやたら川釣りが上手いクマに出会った頃の話とか?」

「いや、流石に盛りすぎじゃろ、その話は!?」

 

 あたしが描いてきた軌跡に花を咲かせると、時間はあっという間に過ぎ去っていった。

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