太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第四十五話 「お、式典が始まるようだぞ」

 リテラから聞いたところによると、女王生誕祭は昼夜二部構成のお祭りだという。

 

 昼は王都の大通りを豪華な装飾で彩られた馬車が凱旋するパレード。

 王族の皆さんが市井に顔を出す貴重な機会であるために、王都に住んでる人たちは彼らの通る道のりを数日前から華やかに彩っていたというわけだ。

 

 そして王族がパレードから帰られてから少し経ち、夜の部へと移行する。

 

「さあ、こちらでごぜえますよ!」

 

 双子やリテラ共々、あたしはシトリーに案内され、生誕祭会場までの道を練り歩く。

 

 思えば、正規の手段で王城の中をゆったり歩くのは初めてのことだ。

 前に王城に来た時はお姫様半公認の潜入みたいなものだったので、あまり周辺の装飾などに気を配る余裕はなかった。

 

 しかし今のあたしたちは、生誕祭の来賓(ゲスト)

 堂々と胸を張って歩ける身分、であるはずなのだが。

 

「あの人、アレでしょう? デカい魔獣をひとりで止めて城を守ったっていう、噂のラグナ族」

「さすがに尾ひれが付きすぎじゃないの、その噂?」

「蛮族にそんな器用なことができますかしら?」

「着飾ってそこそこ綺麗ではありますが、今にも噛みついてきそうな野性味を全身に感じますわよ。ヤダヤダ」

「近寄らないでおきましょう」

 

 他の来賓たちの声が聞こえる。

 かつて故郷で聞いたような小声の悪口が、王城におけるあたしのイレギュラーぶりに拍車をかけていた。

 

 まあ、それはそうだろう。

 あたしは上流階級から見て蛮族で、おまけに傭兵なのだから、たとえ結果を残しても信用がないのはわかっていたこと。

 別にラグナ族の陰口叩いてる貴方たちのためにやったわけではないのだから、当然といえば当然の反応だ。

 

 かつて父はラグナ族の偏見を吹き飛ばすために、傭兵として武勲をあげようと必死だったと聞く。

 父の努力がどこまで報われたのかはまだわからないが、金だけは潤沢(じゅんたく)な人間たちは、少なくとも偏見を捨ててはいないようだ。

 

「あっしにはよくわからないけど、多分悪口だろ。姉貴の手柄ってだけで、露骨だよなあ」

「仕方ないよ。世間の評価はそう簡単に覆らない」

「気にするだけ無駄じゃぞ、ああいうのはな。もっと大きな結果で以て、黙らせればいいだけじゃ」

「気にしなけりゃいいだけの話なのに、プレッシャーかけるのをやめなさい」

 

 あたしの悪口に不満げの双子と、年長者らしく大人の対応をアドバイスしたのかと思ったら、変にあたしに期待しているリテラ。

 本当にこの妖精、あたしに信頼を置きすぎである。

 

「このおくでごぜえます!」

 

 と、案内していたシトリーの止まった先には、大きな扉。

 どうやらここが会場のようだ。

 

 かくして扉は開かれ、光が溢れ出す。

 

 扉の先に待っていたのは、現実とは思えぬ、きらびやかな光景だった。

 天井より吊るされたシャンデリアには光が灯り、部屋全体を明るく照らし出している。

 灯りに照らされた会場はまるで、御伽噺(おとぎばなし)の舞踏会を思わせた。

 

「すっごい……」

 

 思わず声が漏れるほどに、圧倒される。

 十五年以上この世界で生きてきて、社交界など夢のまた夢、というような生き方しかしていなかったというのに。

 

 なんだ、この広いパーティーホールは。

 なんだ、このクロス敷きのテーブルに並べられた料理の数々は。

 なんだ、この見ただけでわかる高級感溢れるグラス類は。

 

 参りました。これは普段負けず嫌いなあたしでも、負けを認めざるを得ない。

 だってこんなの、夢みたいじゃない。

 あたしは場違いなんじゃないかという、そんな気さえしてくるのだから。

 

「あら、来ましたわね」

 

 会場の豪華さに呆けていると、聞いたことのある声とお嬢様口調。

 咄嗟に声の方を向くと、あたしと同じようにドレスに身を包んだヤーナが微笑んでいた。

 

「そのドレス、お似合いでしてよ。肩を出して上腕二頭筋をアピールできそうで」

「そりゃどうも。重症だったって聞いたのに、相変わらずで安心したわ、ヤーナ」

「王城勤務の治療師は優秀ですから」

 

 なにを我が事のように誇っているのか。

 アンタ王族の知り合いではあるけど、王城勤務じゃないし傭兵でしょ。

 

「それじゃあシトリーは、おねーさまのところにもどるでごぜえます!」

「シトリー、案内ありがとう」

「また遊ぼうなー!」

 

 シトリーは生誕祭夜の部における式典の参列が決まっているので、ここであたしたちとはお別れ。

 あたしはミュウくんとニューと一緒に、手を降ってシトリーを見送った。

 

「すっかりシトリー様と仲良くなったみたいですわね」

「あたしのファンになっちゃったんだって。期待が重いわよ、ホント」

 

「それにしても、生誕祭って凄いんですね。あそこなんて、珍しい肉を使った料理が並んでますよ」

「生誕祭が重要な行事という証のひとつではありますわね。魔獣の出現から、野生動物の肉は希少品となるほどに、その数を減らしていますもの」

「『王』クラスの魔獣による眷属化の影響じゃな。『王』の瘴気を浴びて『眷属』になってしまった野生動物は、食肉としての栄養分が失われるんじゃ」

「おまけに倒すと魔石以外が霧散しちゃうから、食肉として食べる以前の問題よね。ある意味兵糧攻めみたいなことをやってるというか」

 

 まあそうなると、例の『魔人』サイドが何故こんなことを、という疑問が湧いてくるが、それはまたの機会でいいだろう。

 

「『王』が生み出す瘴気に関しては、魔獣出現当初は対処法が皆無とされてきましたが、今は違いますわ。対瘴気用の結界を展開する魔導具の普及によって、家畜として飼われている動物に関しては、最低限の瘴気予防が可能となりました」

「つまり今この場に並んでおる肉は、文明発展の賜物(たまもの)ということじゃな」

「すっげぇなー!」

 

 ニューはそこまで理解してなさそうだが、食用肉激減の危機を救った結界魔導具、一度は見てみたいものだ。

 故郷の集落には太陽竜の加護による結界があったからか、普及してなかったしね。

 

「うむ、今すぐにでも食べてしまいたいな!」

 

 と、そこへまたしても聞き覚えのある声。

 つい最近、無罪放免となったジークリンデ・シグルドだ。

 

 彼女も華やかにドレスアップしており、普段の阿呆(アホウ)っぽい空気はどこへやら、外見はまさに同性受けしそうなキリッとした佇まいであった。

 

「ジーク、乾杯はまだですのよ。公の場ですのに、そこまで食い意地を張られては他に示しがつきませんわ」

「はっはっはっ、返す言葉もない!」

「なんか久しぶりに聞いた気がするわね、その返し」

「おお、レヴィン! 目が覚めたと話には聞いていたが、壮健で何よりだ!」

「ジークさんも査問会お疲れ様。無罪で正式に釈放されたんなら、駆けつけてくれても良かったのに」

「すまぬな、私も色々と忙しなくて、顔も出せなんだ。改めて、ありがとう。私がこうしてここに居るのは、レヴィンと皆のおかげだ」

「あたしはやりたかったことをやっただけなのにね。どういたしまして、とは言っておくわ。ところで、ジークさんは知ってる? エメルが何企んでるのか」

「いや、何も聞いていないが」

「ま、アナタにバラしたら、とっくに言いふらされていますものね。エメルも伊達にアタクシ達と長い付き合いではありませんし、ジークリンデ・シグルドというのがどんな女かは、嫌でも思い知っていますから」

「はっはっはっ、何を馬鹿な。私とて秘密を守れるほどの堅い口は持っているつもりだぞ!」

 

 それは口が緩い人間の台詞では?

 敢えて口には出さないけど。

 

「えー、こほん。ご来場の皆様、本日は我々の陛下のためにお集まりいただき、まことにありがとうございます」

 

 ここで、ホール中に響く大きな声。

 

 魔獣教団のアジトに潜入していた時、カミュラが使っていた拡声器っぽい魔導具と同じものを使っているのだろうか。

 それにこの声は、どこかで聞き覚えがある。

 

「お、式典が始まるようだぞ」

「ねえ、ヤーナ。この声ってもしかして――」

「あら、ホント。フィンですわね」

「確か、前に城に入った時にエメラリア王女を迎えに来た人、でしたっけ?」

「ええ。エメルへの忠誠心マシマシな、右腕的書記官ですわ。それにしても、彼とそこまで話してもいないのに、声だけでよくわかりましたわね」

「顔が良い男の人の声って、なぜか印象に残っちゃうから……。それだけ」

 

 勝手に脳内で失恋したからって、あたしは何を言っているんだか。

 別に顔が良くて良い声なら誰でもいいとか、そういうわけでもないから。

 

「先日の事件こそあったものの、今年も無事この佳き日を迎えられたことに、心からの感謝を。私、生誕祭式典の司会進行役を(たまわ)りました、フィン・シェーンコップ書記官と申します」

 

 お、フィンさん見つけた。

 多くの椅子が並んだ舞台、その袖でスマイルを振り撒いている。

 

 とはいっても、営業スマイルかも。

 どうせ心からの笑顔を向けているのは、エメルだけだろう。どうでもいいけど。

 

「では早速、本日のメインにご登場いただきましょう。現女王陛下、ガーネット・フォン・ウォルタート様の入場です」

 

 会場から割れんばかりの拍手が鳴り響き、あたしたちのいる所まで振動が伝わってくる。

 

 奥の扉が開かれ、メイドさんたちに先導されたガーネット女王が現れた。

 彼女は来賓の皆さんに向けて手を振りつつ、舞台の中心にある玉座っぽい椅子に座る。

 

 こんな公の場ですら、ポワポワした空気感を崩さないのだから、本当に敵わない。

 やはりエメルは母のああいう胆力というか、物怖じしないところを受け継いで、ああなってしまったのだろうか。

 

「続きまして、そんな陛下が生んだ、次代の王位継承者たち四名、どうぞ!」

 

 えっ、王子王女が四人って……そんなにいたんだ。

 

 継承権を剥奪されたというモンド元王子を除けば、エメルとシトリーにしか会っていないわけだが、あたしが会ってないそのふたりは何者なのだろうか。

 答えはすぐに出た。扉からエメルを先頭に、エメルと同じ桃色の短髪が特徴的な少年、亜麻色の髪を螺旋状に整えた少女、シトリーの順で舞台に上がっていく。

 

「エメルが継承権第二位だから、あのふたりは三位と四位?」

「ですわね。あの童顔坊っちゃんが継承権三位のサンドラ王子、あっちの巻き髪は継承権四位のルビィ王女。いずれも隙あらば次代の王の座を狙っていたライバル同士、と聞いていますわ」

 

 狙っていた、ということは、とっくに後継者問題の決着がついているということか。

 

「さて、まずは本日誕生日を迎えられた女王陛下より、重大なお話があるようです。ではどうぞ、陛下」

 

 フィンさんの進行に従う形で、ガーネット女王が玉座から腰を上げる。

 

「皆様ぁ~。本日は私のためにこんなにお集まりいただいて、ありがとうございまぁす」

 

 うーん、真面目な席なのに、通常営業の話し方。

 肩肘張るのが馬鹿らしくなるくらい気が抜けてしまう。

 

「夫を病で亡くして八年、毎年この日だけを楽しみに、激務に追われておりましたぁ。夫に代わって国を納められたのも、皆様の助けがあってこそだと思っていますぅ~」

 

 ほう、ウォルタート国王は既に亡くなっていて、まだ幼い我が子に継がせるわけにもいかず、女王様が王権をしばらく引き継いでいたということか。

 

「ですがぁ~、皆様もご存知のように、私は最近暗殺されかけましてぇ。我が事ながら、多大な心配をおかけしたと反省しておりますぅ。で・す・の・でぇ――」

 

 と、ここでガーネット女王が両手を大きく広げる。

 

「私がいつ崩御してもいいように、今日この場で我が子に王位を継がせようと思いますぅ~!」

 

 うわぁ、何だかとんでもないことになってきたぞ、なんて思っていたが。

 

 思っていたほど会場の動揺は少なく、大半の人間には知らされていたと気付くのに、そう時間はかからなかった。

 当然、あたしは知らされてなかったので驚いたけど。

 

「それじゃあ、エメラリア。こっちに来てぇ」

「はい、お母様」

 

 玉座の後ろの席に座っていたエメルが席を立つ。

 彼女はガーネット王女と向き合って、スカートの裾を掴んで(ひざまず)いた。

 

 こんな宴の場で、まさか簡易的な戴冠式が行われるなんて。

 かつて宴と式典は別々と考えていたあたしも、流石に予想できなかった。

 

「順当ですな。モンド殿下が降りたのは惜しいですが、エメラリア殿下の行動力は筋金入りと聞く」

「この間も、あのドルマ大臣を断罪するために動いたこともあるという。即断即決は指導者にとって必須の素養であろう」

 

 周りの貴族の皆さんのエメル評、意外に好感触。

 

 この人たちは、度々城を抜け出して自警団活動をソロになっても続けている、彼女のもうひとつの顔を知らないから、そういうことが言えるんだろうなあ。

 かく言うあたしも、お姫様としてのエメルをそこまで知らないんだけど。

 

 跪いたエメルの頭に、おそらくは本物の『ウォルタートの冠』が捧げられる。

 冠をつけた彼女の姿は、驚くほど様になっていた。

 

 例えるなら歴史ある美術館に展示されている、歴史の一ページを映した肖像画のような。

 うまく説明できないが、そんな印象を受けたのだ。

 

「ごめんなさいね、エメル。本当はもう少しだけ、女王としてやっていきたかったのだけど」

「悪いのはお母様じゃありません。この地に巣食うドス黒い悪が、お母様を悲しませただけです」

「エメル……」

「見ていてください、お母様。私は必ず、己の信じる正義を全うしてみせます」

 

 名実ともに女王へと即位したエメルはゆっくりと立つ。その時、不意に彼女がこちらを見たような気がした。

 だが、それも一瞬のことで、あたしの思い過ごしだったのかもしれない。

 

 でも例の『感謝の印』のこともあるし。警戒は怠らないでおこう。

 

「皆様、突然のことではありますが、この度女王としての冠を賜りました、エメラリア・フォン・ウォルタートと申します。本音を申しますと、私でいいのかという気持ちと、まだ年若い私にどこまでやれるのかという不安でいっぱいです」

 

 果たしてそうだろうか、という気はする。

 行動力の化身みたいな彼女が、不安になることがあろうか、と。

 

「ですが、民の恐れは私の恐れ。私が足を踏み出さねば、民もまた一歩を踏み出せない。王を王たらしめる者が他ならぬ民ならば、我ら民の上に立つ者は、彼らの期待に応えられる者でなくては!」

 

 だが、心配は無用だったらしい。

 

 継承権を失った兄のおこぼれに(あずか)るという慢心もなく、自警団という経験が彼女の背中を押して。

 エメラリア・フォン・ウォルタートは既に、(まつりごと)という戦場で充分戦えるほどの精神力を有していたのだ。

 

「私はここに誓います。忍び寄る強大な魔の手から、国民の笑顔を守ってみせると! そして、私を守ってくれた兄の分まで、国民の上に立つ王として恥ずかしくないくらいの、大事を成し遂げると!」

 

 ある意味気持ちだけでひねり出した言葉という印象を受けたが、その気概はこの場の皆に通じたようで、拍手が巻き起こる。

 

 やはり、エメルは凄い。

 パーティホールには結構な人数が居るのに、彼らの視線を浴びながらの誓いの言葉。

 心の筋肉の仕上がりは上々と言ってもいい。

 

 まったく、大したものですよ本当に。

 

「――ありがとうございます。つきましては、私という女王を支えてくれる皆様のご協力も不可欠となりますので、末永くよろしくお願い致します!」

 

 再び巻き起こる拍手。

 

 ここに意志は受け継がれた。

 かつてあたしが、父の『ソルマドラ』を受け継いだ時とは違い、親が生きて継がせたパターンではあるけども。

 何故か自分のことのように、嬉しいと感じた。

 

「さて、早速なのですが。女王に即位して最初の仕事を、この場で執り行わせていただきたいと思います」

 

 ふと、エメルがそんなことを言って、天高く掲げた指を鳴らす。

 すると会場の灯りが突如消え、どこぞから照らされた光が、スポットライトのようにエメルを照らし出す。

 

 エメルは知らずにやったんだろうけど、指パッチンはあたしの中でちょっとしたトラウマになっちゃってるので、心臓に悪いし今後はやめて頂きたい。

 

「強固な要塞都市であるこの王都グナーデン。しかし、そこに潜む悪は、姑息な手段を用いて魔獣を王都内に招き入れてしまいました。中には二階建てほどの魔獣も現れており、破壊の限りを尽くしたと聞いています。この王城に魔の手が及んだこともありました。ですが!」

 

 エメル、今度は舞台を降りて、誰かを探すように動く。

 えっ、ちょっと待って。この流れってもしかして――。

 

「我々の至らなさを払拭するかの如く、我々のために戦い、勝ってくれたひとりの傭兵が、ここに居ます! そして私は、その者を称えずにはいられない!」

 

 観客参加型アトラクションの如く、人混みをかき分けて目標へ一目散に進むエメル。

 そして目標に辿り着いたエメルは、目標の手を掴んで、天井に掲げるのだった。

 

「彼女の名はレヴィン・ゾンネ! 私は彼女に、『勇者勲章』を授与致します!」

 

 ま、その目標っていうのはあたしなんですけどね。

 

「……逃げたい」

 

 恥ずかしさで死にそう、という意味で。

 残念ながら周りの動揺の声が大きすぎて、あたしの愚痴が聞こえることはなかった。

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