太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第四十六話 「私は……騎士を辞める」

「この国の行く末と、新たな『勇者』に幸あらんことを! 乾杯(プローズィット)!!」

 

 あたしへの感謝の印たる『勇者勲章』とやらをエメル女王様から授与され、彼女の乾杯音頭がホールに響く。

 

 それからあたしは、他の来賓からの質問攻めやら何やらに突き合わされて揉みくちゃに。

 うっかり皆さんを吹き飛ばさないよう、流れに身を任せていたら、いつの間にか双子たちとはぐれてしまった。

 

 まったく、貴族の皆さんの掌の返しようといったら。

 ラグナ族の偏見を変えようとした父の努力は何だったんだ。

 

 ひとまず闇雲に双子たちを探しても、どこかですれ違うかもしれない。

 山中の遭難というわけではないが、留まって様子を見よう。

 ちょうど休憩用のソファがある。深々と座って心身をケアせねば。

 

「ハァ……余計なことしないでよね、エメル」

 

「勇者様は目立つのが、お嫌いですか?」

 

 えっ、お疲れでくたびれたところにナンパ?

 いや、違うかな。聞き覚えのある声だ。

 

「ニコラウス騎士団長、さっきはありがとうございました、騒ぎになりそうなところを収めてくれて。でもやめてくださいよ。こんな勲章なんて飾りなんだから、いちいち(かしこ)まらなくても」

「まあしかし、『勇者勲章』はそれだけ価値のあるものなのだ。国王がその類まれなる実力と、大いなる功績を認めし者にのみ与えられる『勇者』の称号、その証であるのだから」

 

 本人からすれば、ごく当たり前のことを言っているであろうニコラウス騎士団長は、きっちり礼服を着こなしている。

 しかし今はナイスミドルの着こなしとかは置いといて。

 

「別にあたし、こんなの貰うためにアイツを倒したわけじゃないのに」

「思ったより不満そうだね」

「称号とか名誉とか名声とか、そういうのはあたしにとっちゃ、よそに置いておきたいほど重い荷物でしかなくて。自分が有名になればなるほど、自由と心の余裕がなくなっていくんじゃないかって気になるんです」

「あまり縛られるのは好きじゃない、か。ジークリンデからのスカウトも断り続けるほどの君だ、よほど傭兵が性に合っているのだろうな」

 

 いや、合ってるんだけど微妙に合ってないというか。

 

「そういえば『勇者』って、他にもいたりするんですか?」

「現在生きているウォルタートの『勇者』は君を含めて五人だと聞いている。もっとも、『勇者』の称号は大きな功績さえ成していれば、いかなる身分の者でも与えられるものだからな。もしかしたら、君が史上初の『勇者傭兵』ではないかもしれない」

「どうでもいいですよ、そういう一番乗りみたいなノリ」

「夢がないというか、達観しているというか。そういう欲のないところが、陛下の眼鏡に適ったのだろうね、君の場合は」

「ありますよ、欲なら」

「ほう?」

「普通に生きたいって欲が」

「謙虚だな」

 

 いや、そう捉えられても。

 

 いずれにせよ、あたしの第二の人生計画なんて、リテラに救世主の使命を押し付けられた時には既に崩壊していたのだ。

 今更軌道修正できるものではないが、まだ希望は捨てたくない。

 

 もし魔人王やダリアに勝って、そこから普通の生活を手に入れられたら。

 それはとても、素敵なことなのではなかろうか。

 とても叶わぬ夢ではあるけども、捨てないでおきたい。

 

「何にせよ、気をつけたまえよ。有名になればなるほど、敵も多くなるのだから」

「肝に銘じてます」

「そうか、ならば良かった。ではな」

 

 ニコラウス騎士団長は安堵の表情を見せて、優雅に人混みの中へと姿を消した。

 きっと知り合いの貴族様か誰かを見つけたのだろう。

 

 騎士団長ともあろうお方が、わざわざあたしを心配してくれて、というのは客観的に見れば変な話だろうと思う。

 戦友である父の娘という大義名分がなければ、そこまで関わることもなかったろうに。

 

 確か前にヤーナが言ってたっけ、持つべきものはカネとコネ、とかなんとか。

 金はともかくコネクションに関しちゃ、あたしは父の恩恵を受けていると言っていい。

 でも出来過ぎじゃないかってぐらいスムーズに事が運ぶので、勘繰ってしまうのだ。

 

 後ろ暗い背景は無いにしても、どうも親の七光りに頼っているようで気が引ける。

 いずれは『レオン・ゾンネの娘』というだけじゃなくて、『レヴィン・ゾンネという個人』として見られねばなるまい。

 

 いや、『勇者』の称号を得た時点で、大体の人はあたし個人を見てくれているのか?

 

 しかしそれは否だ。

 

 大抵の人は人を記号で見がちなので、『勇者』の称号は例えるなら、虫が集るための蛍光灯。

 さっきの勲章授与の時だって、騎士団長が来賓の皆さんを一喝してくれなければ、「蛮族の『勇者勲章』など認めぬ!」のブーイング大合唱が響き続けていたことだろう。

 

 親しくならなければ、人は人を記号でしか見られない。あたしへの批判は当然のものであるはずだった。

 

 それでもあたしは、コネに助けられた。

 親しくされて、しまったのだ。

 

「あれ、何で泣いてるんだろ、あたし……」

 

 しまったな、あたしの涙腺そこまで脆くないはずなのに。

 情けない。周りの優しさに絆された程度で、涙がこぼれるなんて。

 

 エメルと比べて、あたしの心の筋肉はまだまだ鍛え足りないらしい。

 ふと顔を上げると、白いハンカチが見えた。

 

「使うといい」

 

 見上げた先には、ジークさんがいた。

 片手と口で、マンガで見たような鶏肉の丸焼きを貪りながら、もう片方の手であたしにハンカチを差し出している。

 

「ありがと……って、ハンカチ必要なのそっちじゃないの? 行儀悪い」

「堅いことは言うな。宴の席なら、羽目はいくらでも外していいのだ」

「相変わらず限度ってのを知らない人ね」

 

 ジークさんからハンカチを取り上げて、涙を拭う。

 

「しかし災難だったな。随分と探したぞ」

「心配かけたわね。ミュウくんたちはどうしてる?」

「彼らのことなら、ヤーナと後から合流したノルンたちが面倒を見ているよ。宴の料理を随分と珍しがっていたな」

 

 ニューとミュウくん、そういえばこのホールに入ったばっかりの時も料理を気にしていたっけ。

 

「楽しそうでよかったわ。早いところ戻って、安心させてあげないとね」

「うむ。だが少し、夜風にあたろう。私から、キミに話しておきたいこともあるしな」

 

 ジークさんの横顔が、少し真面目に見えた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 貴族の皆さんの喧騒を逃れて、バルコニーへ。

 相手が王子様とかだったら、逢い引きみたいでドラマチックだったんだろうけど。

 

 あたしと夜風を共にするのは、大食いのバカ騎士。しかし顔はいい女。

 こんな彼女からあたしに話とは、一体何なのだろうか?

 

「話とは、私のこれからについてだ。まだキミには何も話していないと、ノルンが思い出させてくれた」

「ジークさんの、これから?」

「そうだ。私は……騎士を辞める」

 

 えっ……!?

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何よいきなり……騎士を辞めるって……?」

「ああ、そう言った」

「せっかく冤罪を晴らせたのに、辞める理由なんて――」

「迷惑を、かけてしまった」

 

 迷惑って、まさか……!

 

「国民にもモンド殿下にも、小隊の部下にもヤーナにもエメルにも、キミらにも。私が疑われた日から……いや、もしかしたらそれ以前から、私は迷惑をかけていたのかもしれない」

「そんなことないわよ。『森の王』の時だって、カミュラの時だって、あたしはアンタに助けられたのに!」

「レヴィンは、私と初めて出会った頃を覚えているか? 私は自ら突出して小隊から離れてしまい、キミらの野宿先に行き着いた。結果として部下を危険に晒してしまったのだ」

 

 バルコニーの柵に、背を預けるジークさん。

 月明かりが彼女の珍しき儚げな顔を照らしていた。

 

「あの時より前にも、部下には迷惑をかけた。なまじ実力と人当たりの良さだけで一個小隊長になれてしまっただけに、行動で示すしか、部下を引っ張っていく方法を知らなかったのだ。私は学がないからな」

「なに今更自覚しちゃってるのよ……」

「この間もそうだ。私の迂闊(うかつ)な行動が、王都全体に迷惑をかけた。知らなかったのだ、自分の姿が魔獣に利用されていたなど」

「それは、アンタが悪いんじゃないわよ。魔獣教団が――」

「だからこそ、自分が情けない」

 

 ウソでしょ……彼女がこんなに弱音を吐くなんて。

 

 あの全身ポジティブモンスターのジークリンデ・シグルドが。

 

 そんなになるまで追い詰められた?

 

 この間の一件で?

 

「王家からマキナを授かっておいて、あの無様は何か、と。この程度で力なき民は守れるのか、と。騎士は人を守る者、ならば騎士を守ってくれるものは何か。人の笑顔だ」

「なんとなく、わかるわよ。この人を守ってよかったって思えちゃうよね」

「ああ。騎士は笑顔を守りつつも、その笑顔に支えられる生き物だ。だが冤罪の件で、私は民の笑顔を曇らせてしまった。もはや、私に騎士の資格など無いのかもしれない」

 

 なるほど、合点がいった。

 

 ジークさんは自分が騎士であることに誇りを持ち、人の笑顔を守るという自分なりの騎士道を貫いてきた。

 しかし彼女自身が疑われたことで、民の顔色を歪めてしまった。

 そりゃ自分が情けないって思うのも当然かもしれないけど、でも――。

 

「だからって騎士を辞めるのは、違うんじゃないの……?」

「そうかもしれない。だが、既に決めたことだ」

 

 ジークさんが、あたしに右手の甲を見せる。

 本来ならそこにはあたしと同じように、契約型マキナと契約した証としての魔法陣があるはず、なのだが。

 

 彼女が契約していたはずの『シュニーロマンサー』の契約魔法陣が、消えていた。

 

「無罪にはなった。しかし、私は自ら『シュニーロマンサー』の返還を志願したのだ。元々は王家の宝物、在るべきところに収めただけだ」

「えっ……じゃあ、昼間に会えなかったのって……」

「契約解除の儀式は手間がかかってな。エメルたちがパレードから帰った前後にようやく終えたところだ」

 

 唖然。辞めると決めてからの行動が早い。

 

 彼女が愛用していた『シュニーロマンサー』は氷属性の細剣、そして王家から賜りし物。

 それを契約解除して王家に返した。

 もはや疑いようもなく、ジークさんは自ら辞表を叩きつけたことになる。

 

 なんて、勝手な。

 ノルンさんが呆れるのもわかる。

 この人は、本当にバカだ。

 

「今日を最後に、騎士ジークリンデは戦線を離れる。なに、心配することは――」

 

 騎士の頬に、乾いた音。

 あたしの憤りは平手打ちとなり、ジークさんの顔にその痕を残した。

 無意識に力を抑えていたので、ジークさんの身体は吹き飛ばずに済んでいる。

 

「なんなのよ、迷惑かけたお詫びに王国騎士って立派な仕事を棒に振って……騎士は諦めが悪いんじゃなかったの……?」

「そう言ったこともあったか、忘れていた。だが、これが私の決めた道だ」

「勝手に負けを認めるなッ!!」

「……キミには、そう見えたのか」

 

 ええ、見えた。言うまでもなく。

 

「アンタはバカで方向オンチでドカ食いで、それでもいざって時は騎士らしく強くて! そんなクセの強い傑物(ケツブツ)だって、勝手に思ってたのはあたしだけ?」

「レヴィン、私は――」

「わかってるわよ。どんなバカでも人間には違いないから、自責の念に駆られることもある、しょうがないって。でもね、そこから立ち上がろうともしない人間を、あたしは許せないのよ!」

「なっ!?」

「あたしが最も尊敬する人が言っていた。敗北を知った人間は強いって。今回のことで負けたって思ったならさ、何で負けたかを考えて、それを次に活かしなさいよ! 出来るでしょ、アンタの頭でも……」

 

 やば、ちょっと気持ち入りすぎてバカを(けな)すことばっかり言ってる気がする。

 

 だがもう自分でも止められない。

 鬱憤(うっぷん)を完全に晴らすまで、この(わめ)きは続く。

 

「人生っていうのはコンティニューの連続なんだ! 生きていれば、いくらでも立ち上がれるのに! それなのに、アンタって人はッ!!」

「……心配することはない、と言おうとしたのに。そこまで心配してくれるとは……」

 

 そうよ、こんなに心配してるっていうのに。

 

 ジークリンデ・シグルド。

 

 何でアンタは、目に涙を浮かべて。

 

 笑っているんだ。

 

「やはり私は恵まれすぎた。苦楽を共にした幼馴染にも、聡明な上司にも、私を慕う部下にも。そして、戦友にも」

「戦友……」

「だが、そんな環境に甘えてなどいられない。現にこうやって心配されている……だからこそ私は、心配させてしまった者たちへ報いるために、()()()すると決めた」

「再出発って……どこに行く気なのよ!?」

「ただのジークリンデ・シグルドとして歩めれば、どこでも」

「やっぱりアンタ……バカよね」

「返す言葉も、ないな」

 

 自分の口癖を優しい口調で言い残して、ジークリンデ・シグルドはホールの賑やかな喧騒の中へ消えていった。

 

 雷に打たれた時と同等、もしくはそれ以上の衝撃。

 あたしが眠っていた間に決められたことではあるので、否定することも叶わなかった。

 

 きっとエメルとも、小隊の部下とも、相談していたのだろう。

 柄にもなく考えて決断を下したということは、そういうことだ。

 

 たとえ前もって騎士を辞めるという話を聞いていたとしても。

 曇りなき眼で決断した道を、誰が止められよう。

 

「レヴィン、あまりジークを責めるでないぞ。あやつが選んだ道じゃ」

 

 そこへあたしの肩に舞い降りるリテラ。

 おそらくはどこかに隠れていて、一部始終を聞いていたのだろう。

 だが今は、怒る気分になれない。

 

「もう、どうでもいいわよ」

「なぬ?」

「結局這い上がる気満々なら、止める理由もないし。どこで再出発しようが、あたしには関係ないから」

 

 騎士ではない道を歩むのなら、もう会うこともないだろう。

 

 さらば、騎士ジークリンデ・シグルド。

 あなたの再出発に、幸あれ。

 

 あたしは無意識のうちに頭を垂れて、別れと感謝のお辞儀をホールに向けて行っていた。

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