太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
ジークさんとバルコニーで別れてからのあたしは、とにかく荒れていた。
酒こそ残る理性で我慢したものの、バイキング形式のメニューを半分以上は制覇していたと思う。
会場には教団襲撃の依頼を受けていた傭兵たちも多数参加していたのだが、あたしのヤケ食いに乗っかって、さながら酔っ払いの宴会ムードになってしまったのは、彼らのアウトロー性故かもしれない。
あらゆる怒りもどこへやら、あたしはリバー率いるブランロート傭兵団を中心とした傭兵たちの輪に入り、一緒になって騒いでいた。
合流した双子とヤーナが止めに入るまで――もっともニューは一緒になって盛り上がっていたが――、あたしの怒りを発散させる宴は続いたのであった。
※※※
そして生誕祭から一夜明け、翌日。
あたしはいつもの借り部屋の寝床で目を覚ました。
傭兵としての日常が、また始まる。
「リテラは、いないか……」
昨夜は双子があたしをここまで運んでくれたようで、今はあたしの部屋の床で布団をかぶって寝息を立てている。
ヤーナも別の部屋を借りて泊まっていると聞いた。
別にこの酒場はホテルでも何でもないのに、ロッソママの懐の広さには恐れ入る。
そしていつもはあたしが起きれば真っ先に目に入るリテラが、今朝はいない。
ジークさんが冤罪で捕まった日の朝のように、いつでもいるわけじゃないのはわかっているが、どうも最近はこういう朝がある日に限って何か事件が起きるような、そんな気がしてならない。
「走ろう」
募る不安を振り切って、あたしは久方ぶりに日課のジョギングに勤しんだ。
※※※
そしてジョギングの道中でふと目に留まった、ミルフィーユ孤児院。
あれから……魔獣教団のアジトを案内し終えてからのヨハネス神父は、無事にここへ帰れただろうか。
いや、帰っていたとしても、普段通りに過ごせているのだろうか。
教団の情報が欲しかったからとはいえ、結果的にはトラウマを呼び起こしてしまったわけだし。
まだ朝も早いからと、訪問をためらって立ち往生していると、孤児院の扉が開き、ここのシスターであるアメリアさんが現れた。
「あ、レヴィン。おはよう」
「おはようございます、アメリアさん」
実はアメリアさんとは、以前にもジョギングルートの道すがらでちょくちょく会っており、双子がこの孤児院に居た頃なんかは、ふたりがここでどう過ごしているかを聞いていたりして友好を深めていた。
でも今朝は、少し違う。
「この時間じゃ久しぶりかな。元気だった?」
「ええ、まあ。最近は日課の走り込みもままならないくらい忙しかったんですけど」
「でしょうねえ。ジークのために色々と動いてくれてたんでしょ? 神父様から聞いてる」
「それで、その神父様なんですけど。今、会えますか? 少しミュウくんとニューのことで話があって」
まあ、理由はたった今思いついたんだけど。
双子がサポーターとしてあたしについて行きたいと言ってくれた以上、いずれはヨハネス神父と話し合わなければと考えていたし。
「ああ、その……神父様なら――」
えっ、アメリアさん?
何なんですかその口のこもり方は。
まさか教団の残党に見つかって裏切り者として――!?
よくない考えを巡らせていると、また孤児院の扉が開かれる。
「おや、レヴィンさんじゃないですか」
そこに現れたのは、ヨハネス神父だった。
いつも着ている服とは違う、ちょっと浮かれ気味な旅の装いであることを除けば。
「一体どうしたんですか、その格好は!?」
「アメリアや子供たちとも話し合って、休暇を取ろうということになりまして」
「休暇、ですか……」
「はい、片田舎に住んでいる知り合いのところまで」
なるほど、そういうことか。
でもなんというか、孤児院の院長って、そう簡単に休暇取れるモンなの?
「いわゆる慰安休暇というやつです。教団が王都から撤退した今なら、伸び伸びとした気持ちで心を休められます」
「神父様のトラウマ呼び起こしたことで、ちょっと罪悪感あったんですけど……思ったより平気みたいでほっとしました」
「まあ、平気じゃないから心を休めに行くんですけどね。それよりもレヴィンさん、聞きましたよ。『勇者勲章』を頂いたそうで」
うわっ、もう耳に入っちゃってる。
この様子だと既に王都中には情報が広まっていると考えた方がいいか。
「あんまりそういう名誉とかいらないんですけど、半ばなし崩しというか」
「でも凄いじゃない! 貴族の爵位でいえば、えっと……どれぐらいでしたっけ、神父様?」
「侯爵、だったかと」
「そう、侯爵家級の地位を得たに等しいって感じよ! その『勇者勲章』さえあれば、ある程度の無茶振りが通るって話があって――」
なんだかアメリアさんがウキウキし始めた。
もしかしなくてもミーでハーな感じの人ですか?
いかんいかん、話を変えよう。
ヨハネス神父が出てきたのなら、双子のことについて話しておかねば。
あたしはミュウくんとニューが自分のサポーターになる旨の話を神父様に報告。
返答は、意外とすぐに来た。
「おふたりの件については、あなたに一任しても良いと思っています」
「あたしとしては、もうちょっと考えて決めてくれないと困るんですけど……」
「いえ、既に一度あなたにお任せしている身ですから、今更という感じもしますし。それに――」
「それに?」
「『勇者』という称号を抜きにしても、あなたを信頼している。この言葉だけでは、足りませんか?」
まったく、この人まであたしをそんな目で見ちゃうのか。
でも、なぜか心地いい。
彼の弱いところを見たからだろうか。
この人の信頼は裏切りたくないと、そう思えて仕方ないのだ。
「ちゃんとあたしを見てくれてありがとうございます、神父様。絶対にふたりを寂しい思いには、させませんから」
「はい。改めて、おふたりをよろしくお願いします」
ヨハネス神父はそう言い残して、孤児院を出立した。
神父様の背中を見送ってからの、アメリアさんはというと。
「さてと、そろそろ子供たちを起こす時間ね。その前にお祈りしていきましょ」
どうやら神父様がいなくても日課には戻れるようだ。
伊達にシスターはやってないってことか。
「じゃあ、あたしはこれで――」
「そうだ、レヴィンもお祈りしていったら? これからが大変って感じだろうし」
「えっ、お祈りって……何に?」
「何に祈るって、女神像に決まってるでしょ。こっちこっち!」
あたしの口から祈りに行くとも言ってないのに、アメリアさんは案内する気満々のようだ。
このまま黙って帰っても気が引けるし、おとなしくついて行くことにしよう。
しかしこのフロイデヴェルトで女神像って……。
いや、まさかね。
※※※
案内されてやって来たのは、孤児院に隣接された礼拝堂。
どうやらここに女神像があるらしいのだが。
「へぇ、これが――」
礼拝堂のステンドグラスから入る光が後光のように、その像を照らす。
あたしはこの世界に生まれてから、竜信仰やら魔獣信仰やら、『存在するもの』もしくは『存在したもの』を担ぎ上げていた宗教しか見ていなかった。
しかしこの大人な女神像のやけに精悍な佇まいで確信した。
この世界で一般的に信じられているのは、彼女を起点とした宗教であることを。
「そう、命を司る我らの女神様。
「テラ様っていうんだ……えっ!?」
ほれみろ、嫌な予感はすぐ当たる。
まあ、アイツがこの世界を創った神である以上、そこに住まう人々に信仰されていてもおかしくないとは思っていたのだが。
それにしてはなんというか……色々と盛ってない?
「ず、随分と大人な感じなんですね」
「子供の姿をした神様なんて居るわけないでしょ、常識的に考えて。でも、このお姿が職人さんの創作って説もあるぐらいだから、本物が子供でもおかしくはないかもね」
実際に子供でしたよ。
会ったことあるし、なんなら妖精になってやたらと推し活してる。
本人……いや、
ともあれ、アメリアさんは手慣れた様子で女神像の前に跪いて、両手を握り
あたしはというと、アメリアさんの真似をして、祈りを捧げるフリをした。
どうせ神(分体)が身近にいるので祈る必要もない、しかしアメリアさんに「何で祈らないの」とドン引きされたくないので、こうなった。
その後は少しモヤモヤした気分のまま、アメリアさんと別れてジョギングを再開したのであった。