太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
「おっ、わしの像を見たのか。よく出来ておったじゃろう?」
部屋に帰るとリテラも帰っていたので、孤児院の女神像の話をしたら、意外にも既にご存知といった様子だった。
ちなみに双子はもう起きていて、先に下の階で待っているらしい。
「いや、全然似てなくない? もっとちんちくりんだし、槍の代わりにゲームパッド持ってなかった?」
「このフロイデヴェルトにおいて、わしは信仰の対象たる神じゃからな。
「でも創造神としての力が使えなきゃ、結局は宝の持ち腐れじゃないの」
「神界で
「えぇ……何よその神力の無駄遣い」
「ガス抜き環境を整えることの何が無駄遣いじゃ。これでもわしは忙しなく動いておるんじゃぞ、色々とな」
まあ、故郷にいた頃も情報収集とか仕事していたのは知っていたが。
休みなく動ける神とはいえ、心のガス抜きをしなきゃいけないのは人間と同じなんだろうか。
それにしても、自分の創った世界に
まるで裏社会に潜む、引きこもりの情報屋みたいだ。
「じゃあ、あたしが小さい頃から情報収集に動いてたんなら知ってるんでしょ? 『魔人』とか『魔人王』とかのこと」
なので情報を買うが如く、疑問を直接ぶつけてみた。
あたしの故郷を焼き、王都にまで現れたダリアという名の魔人。
そして彼女が従う、魔人王という老人。
あたしは直接遭遇するまでその種族の存在を知らなかったが、世界中で情報を集めていたリテラなら、アイツらが何なのか知っているかもしれない。
「
だが彼女の口からはすぐに、意外な返答が返ってきた。
「詳しくは知らぬ、というだけじゃ。魔獣と同じく、この世界ではイレギュラーな存在じゃからな」
「いや、そうなんだけどさ――」
「じゃが、確信はある。おそらく魔人とやらは、魔獣とその源を同じくする者じゃ」
リテラのその言葉で、あたしは腑に落ちた。
魔獣は王国と帝国の軍を蹂躙し、両国を敵に回すほどの力があって。
魔獣教団は魔獣を崇拝しているその裏で、魔獣を使役していて。
そのトップに君臨しているのが、魔人王であるのなら。
「つまり魔人っていうのは、魔獣の上位存在、ってこと!?」
「そうなるのう。そしてわしの考えが正しければ、この世界の歪みの根源は……魔人王!」
やっぱり、そうなっちゃうわね。
「魔人王さえ倒せば、少なくとも世界は平穏を取り戻すじゃろうな。そこから真の平和までこぎつけるかは、この世界に住まう人間次第じゃが」
「不穏なこと言わないでよ。でも、方針は固まったわね」
「おおっ!?」
「ダリアみたいな魔人たちや、その上に君臨する魔人王。要はそいつらをぶん殴らない限り、あたしは普通に生きられない、ってことでしょ?」
魔人王を、ゲームにおけるラスボスと定義するならば、だが。
「だったらやってやるわよ。立ちはだかる試練をぶち破って、高い高い壁を踏み越えて。あたしはあたしの幸せを、この手に掴んでやる!」
虚空へ手を伸ばし、拳を握る。
茨の道を進む覚悟は決まった。
あとは前に進むだけだ。
「しゅごい……よう言うた……それでこそ救世主じゃ……!」
「後で床に落ちた涙、拭いときなさいよ」
本当にこの神の分体は、あたしが何かする度に鼻水垂らして泣いてる気がする。
※※※
下階に降りると、ミュウくんとニューはすぐに見つかった。
テーブルを囲んでヤーナと対面していたからだ。
テーブルの上ではマス目を刻んだ盤面の上で、何やら駒のようなものを動かしている様子が伺える。
「あっ、おはよう姉貴!」
「おはよう、ニュー。ふたりは何やってんの?」
「『ちぇす』、だってさ。あっしから見ても何してるのかさっぱりで」
ああ、チェスか。盤上の格闘技。
この酒場ってそういうのも置いてたのね。
あたしはチェスをやったことがないが、自分には無理だろうな、ということはわかっている。
盤面をくまなく把握し、その上で性能がそれぞれ違う駒をいかに使って勝つかという一点において、ものすごく奥の深いゲームであるからして、とてもじゃないが頭が追いつかないからだ。
やっぱりあたしが好きなのはシンプルイズベストね。
特にリバーシとか。白黒つけやすいし。
「チェックです」
と、ここでミュウくんの声。
どうやらヤーナに勝ったようだ。
「なるほど、見事なものですわね。やっぱり治療師ではなく、策士を志しませんこと?」
「生きるために必死で学んだ分野ですけど、ボクはそこまで戦うのが好きじゃありませんから。人を助ける方が性に合ってます」
「まあ、そうなりますわよね。約束は守りますわよ」
はて、約束とは?
「あら、レヴィンさん。おはようございます、ですわ」
「おはよう。もしかしてアンタ、何か賭けてミュウくんにチェス挑んでたの?」
「人聞きの悪い。チェス勝負を持ちかけたのは彼の方からで、金銭を賭けたりはしていませんわ」
「えっ、そうだったの?」
「はい。ヤーナさんと一緒に戦って欲しくて、ボクが」
うわあ、珍しいこともあるものだ。
ヤーナは基本的にお金が絡まなきゃ動かないってイメージがあったのに。
しかもミュウくんの方から勝負を挑んだって……。
「この間の一件で、ヤーナさんはレヴィンさんのために戦ってくれましたし。それに技術面でも実力面でも優秀と聞いているので、ぜひレヴィンさんの傭兵団に入ってもらおうと思って」
ミュウくん、色々と考えてたのね。
確かに傭兵団を立ち上げたいとか、そういう話はしていたと思う。
でも、ヤーナはねぇ……。
「ミュウくん、コイツだけはやめときなさい。いくらシスターでも、金貨風呂を夢見てるような女よ?」
「レヴィンさんの中でアタクシはどんなイメージなんですの……?」
「それに依頼達成のためだからって、あたしを囮にしたこともあったっけ。あの時は酷かったわね」
「だからアレは! レヴィンさんのタフさを買っていたからと言ったではありませんの!」
「その信頼のされ方って、中々に傷つくんですけど!?」
「そもそもアタクシは、チェス勝負というきっかけがなくても、アナタと共闘する気満々でしたのよ。アナタが『勇者』の称号を得た今ならば、AA級マキナ以上推奨の激ヤバ案件も受けられますわ。そういう分の悪そうな賭けに勝てば金貨もガッポリ、貴族も羨む大富豪に! グフフフ……グヘヘヘ……」
おうおう、鼻の下は伸びるし、よだれは垂らす。
仮にもシスターがしていい顔じゃないでしょ。
その頭脳担当みたいなメガネは飾りか。
というか、『勇者勲章』って話に聞けば聞くほどヤバイ代物だったみたいね。
侯爵家ぐらいの地位に見られちゃうとか、マキナランク制限の撤廃とか、もっと他にもヤバイ恩恵があったりするんだろうか。
蛮族傭兵の娘から一気にランクアップしすぎでしょ、あたしの人生。
もっと踏もうよ、段階ってヤツを。
「『勇者』!?」
「『勇者』だとぉ!?」
ほれ見なさい、ヤーナの迂闊な勇者発言が発端で、あたしという金のなる木に傭兵という名の虫が集りに来てしまった。
「やっと来たか、待ちくたびれたぜ!」
「ぜひウチの傭兵団に来てくれ! 昨晩一緒に飲み食いした仲だろ?」
「いいや、『勇者』は俺らがもらう! 『勇者勲章』貰った女がこっちにつけば、傭兵団の名が天下に轟くってモンだ!」
「バカ言っちゃいけねえ! テメエらなんぞに任せてたまるかってんだ!」
はい、下心丸見えの言い争い、ご苦労さまです。
こういうのがあるから、変に有名になっちゃうと困るのよね。
「すいません、そういうのいいんで。頭蓋骨割られたくなきゃ、帰って下さい」
「ヒィッ、なんて威圧感だ!」
「ねえ、何で指をポキポキ鳴らしてんの!? 怖いよォ!!」
集っていた傭兵たちは、そそくさと自分のテーブルに戻っていった。これでよし。
「まったく、『まなー』っていうのがなってないな。仲間になりたいならあっしを通してくれなきゃ」
そしてニューはあたしのマネージャーのつもりか。
いや、マネージャーというか……舎弟?
「あら、頼もしいこと。大人数で来られては分け前が減ってしまうので、助かりますわ」
ヤーナはヤーナで全くブレない。
さすがは金貨風呂を夢見る女。あくまであたしのイメージだけど。
「確かに、人数が多いと行動に制限がついて困りますからね。少数精鋭の傭兵団という方針で行きましょう」
「あたしも賛成。ミュウくんとの勝負に負けた以上は、しっかり戦力になってもらうわよ、ヤーナ」
「お安い御用、ですわ。金づるの『勇者』様」
さて、天災の挙動を御する権利を得たところで、傭兵団設立の申請をしなければ。
しかしそこにミュウくんが待ったをかけた。
「レヴィンさん。メンバーをもうひとりだけ、増やしませんか?」
「どういうこと?」
「い、いえ。別に大した理由じゃないんです。今のままじゃ戦力のバランスが悪いなあって思っただけで」
「バランス?」
「確かに。遠距離から広範囲で魔法を撃てるアタクシと、
つまり、どう足掻いても大味な戦術になりやすいってことかな?
「よくわかんないけど、パワーで押し切れば大体なんとかなるモンじゃないのか?」
「戦いとは常に移り変わるもの。パワーだけじゃなく、速さや技術も必要になってきますわ。わかりやすくチェスで例えましょう」
そう言って、ヤーナがチェスの駒を取り出した。
机に置かれた駒は
「レヴィンさんは
ほう、直進できるという役割を『パワーがある』という風に解釈したのか。
確かルークって戦車を意味するものでもあったって聞いたことあるし、ある意味合っているかもしれない。
「そしてアタクシは
「あー、確かにそんな感じするわね。度肝を抜かれるという点じゃあ斜め上というか」
「それほどでもありませんわ」
「褒めてない褒めてない」
というか、自分がトリッキーだという自覚はあるのか、ヤーナ。
「アタクシたちはサポーターの支援を除けば、真っ直ぐ進むか斜めに進むかしかできない。その穴を埋められるのが、この
ナイト……騎士、か。
――私は……騎士を辞める。
――騎士は笑顔を守りつつも、その笑顔に支えられる生き物だ。
――だが冤罪の件で、私は民の笑顔を曇らせてしまった。
――もはや、私に騎士の資格など無いのかもしれない。
昨晩騎士を辞めたという女の顔が、脳裏にちらつく。
「
要はLの字に歩めるってこと。
「つまりわしらに足りないのは、
「へぇー、なるほどな!」
「でも、そうそう見つかるモンでもないでしょ。無駄の少ない動きができる傭兵なんて――」
あたしはそこまで言いかけて、若いながらも訓練と実戦経験の多さで、熟達した足運びを見せていた、あのバカ騎士の姿を思い浮かべてしまう。
いや、彼女はもう騎士ではない。
もういいだろう、愛用の剣を王家に返してしまった女のことなんて。
とっくに、愛想は尽きているというのに。
なぜあたしは、未練というものを断ち切れないのだ。
「確かに。大抵の連中は大雑把というイメージが拭えませんし、もしそんな傭兵が居ても、大手の傭兵団に誘われたりしていそうですわ」
「そうね。そう都合よく現れるわけもないし」
ヤーナも、あたしも、そう考えていた。
ご都合主義よろしく、そうそう運命なんてものは転がり落ちて来ないと。
しかし、あたしは知らなかった。
運命というのは、向こうからも来てしまうものだ、ということに――。
「やあやあやあ! 傭兵ギルドとはここかな!?」
『BAR フェストザール』の扉が、小気味よく響く大声と共に開かれた。
えっ、ちょっと待って。
その特徴的な大見得の切り方と同性受けしそうな声色は、まさか――!
「我が名はジーク! 傭兵となりに来た者! 責任者はおらぬか!?」
そうだ、あの青みがかったポニーテールと、阿呆っぽくも美形な顔立ちはまさしく。
元・ウォルタート王国騎士団、小隊長!
欲しかった人材が、向こうからやって来てしまった――!