太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

6 / 115
第五話 「俺の故郷に手を出したことを、後悔させてやる」

「森の方からだ、急げ!」

 

 大人たちが声を上げる。先ほどまでの和やかな雰囲気はもうなかった。

 

「リテラ、これってアンタの仕業?」

「んなわけないじゃろ。いくらわしが創造神でも、天候は操作できん。というか禁止事項じゃ」

「じゃあ一体誰が?」

「さてな。天候を操る魔法を使える魔獣なんぞ聞いたこともない」

 

 あたしたちは竜玉を抱えながら走る。

 

 集落の入口に着く頃には、すでに戦闘準備を整えたラグナ族の戦士団が到着していた。その中には父・レオンも含まれている。

 

 彼らの視線の先には、大きな影があった。

 見たところ体長3メートルはある巨大な白銀の狼。黒の瘴気を纏い、背後には一回り小さい子分的な狼を引き連れている。

 

 だが注目すべきはそこではない。大狼の背に乗っていたのは――

 

「人が……いる!?」

「何なんじゃ、アイツは……」

 

 異様な光景だった。黒マントとフードで全身を覆った人影が、魔獣と共にいる。

 その人影が大狼の背中から降りてきた。背丈はあたしより少し低いか同じぐらいだが、纏う空気が同じ人間のものとは思えない。

 

「王都じゃウワサになってたな、魔獣と一緒にいる奴が人の形を取っていたって。お前は何者だ?」

 

 前に出た父が堂々と尋ねる。

 その問いに、謎の人物が口を開いた。

 

「ウフ……ウフフフフ……『魔獣教団』……とっくにご存知のはずよネ?」

 

 ぶつぶつ呟くような、どこか(しゃく)に障る声色の、女だった。

 

「やっぱりな。魔獣を異常に崇拝するイカれた奴ら……団員に会うのは初めてだぜ。いつから魔獣を使役できるようになったんだ?」

「全ては……『陛下』と世界のためヨ」

「そうかい。どんな崇高な目的があるかは知らんが――」

 

 右手の甲を謎の女に見せる父。赤い魔法陣が描かれたその手を見て、女がニヤリと笑った。

 

「俺の故郷に手を出したことを、後悔させてやる」

「後悔するのはそっちヨ……オジサマ」

 

 謎の女の手の甲にも、魔法陣があった。アイツもマキナを持っている。

 

 一瞬で、空気が変わった。体内に収めているマキナを解き放つ時の魔力の圧が、あたしの居る門の前まで伝わってくる。

 魔力圧で吹き飛びそうになるリテラは、あたしの服にしがみついていた。

 

「ヌゥゥゥゥン……!」

「すごい……これがマキナユーザー同士の……!」

 

 そして両者は魔力を高め、己の武器を解き放つ!

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』!」

解放(リリース)、『クレセンティア』」

 

 迸る魔力の奔流とともに、それぞれの武器が形作られる。

 太陽の如き炎が父の全身を包み、竜を模した紅の鎧へと変化。これが父の契約型マキナ、太陽鎧『ソルマドラ』だ。

 対して謎の女の『クレセンティア』は、形容するなら死神の鎌のようだった。

 

「不思議ネ……マキナは兵器のはずなのに、貴方の使っているそれは防具……何故?」

「これはウチの家系が代々使ってきたモンだ。何で鎧なのかは、昔これを作った錬金術師に聞いてくれ。聞ければの話だがな」

 

 父が腰に挿していた剣を抜く。剣自体はマキナではないが、ここからが『ソルマドラ』の本領である。

 持っていた剣は炎に包まれ、燃えた。否、魔力を付与されたのだ。

 この『属性付与・太陽(エンチャント・サン)』の能力で、父は魔獣と戦ってきた。

 

「なるほど、ネ」

 

 互いに両者が武器を構える。

 

「俺はラグナ族最強の傭兵、レオン・ゾンネ!」

「私も名乗る流レ? 魔獣教団幹部……ダリア」

 

「行くぜ!」

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 最初に動いたのは父。地面を蹴り、一瞬で間合いを詰める。

 それに対して、大鎌を構えた女――ダリアが、迎え撃つように構えた。

 

 刹那、両者の姿が消える。

 直後、轟音を立てて爆発が起きた。

 

「アオォォォォン!!」

 

 その爆音に合わせて見計らったかのように、ダリアを乗せていた白銀の大狼が雄叫びをあげる。

 こちらも、群れを伴い村に侵攻を始めた。

 

「まずいぞ、見とれとる場合ではない! 狼どもを止めるんじゃ!」

「わかってるわよ!」

 

 あたしも戦士団と一緒に反攻を開始する。

 

「パパみたいにマキナがなくったって!」

「レヴィンちゃんに続け! ここは俺たちで死守するんだ!」

「「「おおぉぉっ!!!」」」

 

 ラグナ族の戦士たちは剣を手に、槍を手に、勇ましく狼の群れに立ち向かっていく。

 

「ウォオオオンッ!」

「ギャアァーン!?」

 

 しかし大狼たちは怯むことなく、その牙を戦士たちに突き立てた。

 

「ぐあぁあっ……!」

「う、腕が……俺の腕があああ!!」

「怯むなァ! 俺たちの居場所を守れェ!!」

 

 狼の鋭い爪や牙の前に、たちまち劣勢に立たされる。皆は父のようにマキナが使えないし、あたしにはマキナすら無いので魔獣を完全に屠ることも叶わない。

 

「このままではジリ貧じゃぞ……」

「でも、このままじゃ集落が滅茶苦茶に――」

 

 待てよ。ふと、悪い予感が頭を過ぎった。

 もし目の前の大群と将が囮だとしたら――!

 

 あたしは防衛戦線を戦士たちに任せ、敵に背を向けて走る。

 

「おい、レヴィン! どこへ行くんじゃ!」

「多分向こうにも狼の群れが来てるし、正門より警備の人数が少ない!」

「そうか、敵の将も人間! 知性のない魔獣よりは何か策があると、そういう女の勘じゃな?」

「もしあたしの勘が当たってたら……ばっちゃの家に避難させたミュウ君たちが危ない!」

 

 お願い、間に合って――!

 

 鍛え抜かれた脚をフルに酷使し、あたしは集落を駆け抜けた。

 

 

 ※※※

 

 

 集落の中心に着いた頃には、あちこちで家が壊され、炎上していた。

 

 嫌な勘というものは皮肉ながら当たってしまうものだ。裏山側のバリケードも既に突破された後だろう。

 襲いかかる狼を拳と脚で撃退しながら、あたしはばっちゃの家の前までたどり着いた。

 

「よかった、ばっちゃの家はまだ無事だよ!」

「しかし時間の問題じゃろうな。お主はここに残って退路を確保しておれ。わしが中から三人を連れて戻る」

「この頃無茶言い過ぎ! なるべく急ぎでね!」

 

 言うなりリテラはばっちゃの家に飛び込んだ。同時に、狼の鳴き声が聞こえる。

 数は二匹……三匹に増えた。この程度なら集落の外に吹き飛ばすぐらい問題はない。

 少し余裕ができたと、油断していたのがまずかった。

 

「レヴィンの姉貴、やばい! でかいのが来る!」

 

 ばっちゃの家の方からニューの声がして、我に返る。

 

 見上げれば、巨大な影。

 白銀の大狼が、空から迫ってきた。

 

 油断で少し力を抜いていたのが災いし、敢え無く組み伏せられる。

 だが問題ない。ここからでもまだ逆転は可能だ。

 

「こん……なっ……くそォーッ!!」

 

 大狼の股間に足をかけて、巴投げの要領で、ぶん投げる!

 瘴気を纏った白の獣は宙を舞い、長老家の真上を通り過ぎて、頭から地面に激突した。

 

「自分の体より大きい魔獣を、あんなに容易く投げるなんて……レヴィンさんのパワーって凄いんですね」

「あそこまで育てたのはこのわしじゃぞ!」

「やべえよ姉貴ィー! でっかい魔獣も目じゃないぜー!」

 

 目を輝かせているミュウ君と自慢げなリテラ、そしてニューの黄色い声が聞こえる中、ばっちゃだけは真剣に状況を観察していた。

 

「じゃが完全に倒したわけではない。大きいのが気絶している今のうちだの」

「だね、ばっちゃ達を安全な場所まで――」

 

 立ち上がって体勢を整えようとすると、鉄と鉄がぶつかり合うような音がだんだんこちらに近づいていくのに気付く。

 

「あれはレオンとダリアとかいう……なんちゅうタイミングでここまで押されとるんじゃ!?」

 

 リテラも予想外の事態。父がフード女に押されてここまで下がった音だった。

 

「アラアラ……ラグナ族最強の傭兵も、その程度なノ?」

「ヘッ、本気を抑えてただけさ!」

 

 父は再び腰を落とし、剣を構える。

 ダリアの得物は大鎌。大振りで一撃が重い武器だから、懐に入られなければ大丈夫――そんな父の思考を読んだかのように、彼女は一歩踏み込む。

 

 次の瞬間、父は大鎌の間合いの内側にいた。

 

 首筋に迫る刃。しかしそれを寸前で防ぐ太陽鎧『ソルマドラ』の左籠手。剣を握った右手を振り上げるも、再び相手に距離を取られる。

 

「なら、これデ……」

 

 ダリアはふと左手で指を鳴らした。

 

 空を覆っていた雲が再び集まり、雷が放たれる。

 音速に近い雷撃を、父は一瞬の判断で回避した。

 

「太陽竜の墓を壊した雷……あの人の魔法だったみたいですね」

「見りゃわかる。あれほどの威力ある魔法を無詠唱で行使するとは……つくづくマキナとはとんでもない兵器じゃて」

「ええ、使い方を……間違えてますよ」

 

 ミュウ君が暗い顔でばっちゃの言葉に同意する。

 

 父とダリアの激闘はまだ続く。

 近づけば鎌の餌食、距離を取っても天から雷撃が降ってくる。

 父はこの状況をどう打開するつもりなのか。あたしには知る由もない。

 

 ダリアは、不敵な笑みを浮かべていた。

 自分の攻撃を全て見切られてもなお、焦る様子がない。

 それは自信か、それともただの戦闘狂か。

 

「そろそろ、限界みたいじゃなイ? オジサマ」

「何のこったよ?」

属性付与(エンチャント)の威力……落ちてるわヨ」

 

 あたしも言われて気付いた。あれだけ剣を纏っていた炎の勢いが、弱まっている。

 

「あやつ、狙って空を曇らせおったな……?」

 

 リテラもあたしも、『ソルマドラ』のピーキーな性能は知っている。

 

 『ソルマドラ』に使用されているのは、マキナの骨子であるエーテルメタルに加えて、太陽竜の鱗。太陽の光を浴びて魔力を溜め込む性質を持っているそれを素材に使った『ソルマドラ』は、太陽が大地を照らす日中においてほぼ無敵といえる。

 だが夜など太陽が見えない場合に限り、その有利は活かせず、貯蓄した魔力のみで戦うことを強いられてしまうのだ。

 

 初めてその弱点を聞いた時、ソーラーカーみたいだと思ったのは内緒である。

 

「魔力が切れそうなのは認めるが、こっちにも意地があるんでね」

「意地だけじゃ……魔力は維持できないヨ。じゃあそろそろ……終わりにしまショ」

 

 再びダリアが指を鳴らし、雷を落とす。

 ところが雷は、ここから少し離れた場所に落とされた。

 

「ヘッ、どこ狙ってやがる?」

「起きなさイ……『フェンリル』」

 

 ばっちゃの家の裏から、うめき声が聞こえる。

 まさか、あたしがさっき投げた大狼を起こすためにわざわざ!?

 フェンリルと呼ばれた白銀の大狼が倒れた場所から戻ってきて、あたしを睨む。

 

「狙いは……あたし!?」

「てめぇ、まさか!?」

「行・ケ♡」

 

 ダリアの合図と同時にフェンリルの牙があたしに迫る。身体が、反応できない!

 

「クソがァァァァ!!」

 

 父が素早くあたしの前に出て、フェンリルの噛みつきを剣で防いだ。

 

「パパ!」

「たったひとりの家族だ! やらせるもんかよォォッ!!」

 

 父は踏ん張り、フェンリルを押し返そうとする。だが、その前に。

 

 フェンリルの牙を止めていた剣が、折れた。

 ここまでの激闘に耐えきれず、折れた。

 

 しかし、それでも。心まで折れる父ではない。

 

「ふンぬッ!!」

 

 戦場の中で鍛えたセンスが、フェンリルに頭突きを与えた!

 

 父は既に自分の身体に属性付与(エンチャント)をかけていたのか、致命的な一撃を与えられたフェンリルは、魔石を残して霧散した。

 

「ゼェ……ゼェ……怪我はねえか、レヴィン」

 

 残された魔力を振り絞った攻撃だったのか、父は消耗しきっており、『ソルマドラ』の顕現も解除されていた。

 

「パパの方こそ……ボロボロじゃん」

「悪態つける元気があれば……大丈夫そうだな……よかっ―――」

 

 父があたしに振り向いた、その刹那。

 

 黒い影が父の背後に、一瞬で移動し、そして――。

 

「時間切れ……ネ♡」

 

 父の背を、大鎌で、切り裂いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。