太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
第五十話 「七人目の家族」(1)
レヴィン・ゾンネ。
神に愛されし、太陽の子。
あたしはそういうことになっていて、異世界フロイデヴェルトで生きている。
傭兵になってからの周りの評価も、近寄りがたいと頼もしいが半々といったところ。
おまけに魔獣から王城を救って勇者扱い。
ラグナ族が蛮族と
要するにあたしは、猛者として認識されているということ。
でも、違うんだな。
あたしだってまだ人間。
苦手なことや苦手なものくらい、沢山ある。
その中でも特に苦手なのが――。
「ひぃっ!!」
暗がり、
今、あたしたち『ギラソール傭兵団』が歩くこの屋敷の廊下には、まさしくホラー映画のような空気が、辺りを支配していた。
微かな物音ですら、あたしにとっては警戒の対象。
自然と、ミュウくんの背中を掴む回数が多くなっていった。
「だ、大丈夫ですよレヴィンさん。額縁がズレただけですって」
「でもここ、幽霊屋敷でしょ? どこから何が出てくるかわからないから、怖くて……」
「そこまでビビるくらいなら、外で待っていればよろしかったのに」
副団長・ヤーナから辛辣な意見。
「そういうわけにもいかないじゃない……。団を結成して初めての依頼なんだから、失敗はできないし――」
その時、声がした。
背筋の凍る、怨霊の哭き声が。
《ア……ボォ……ソボォ……》
「出たあああああああああ!!」
声はすれど、形は見えず。
咄嗟に突き出したあたしの拳は空を裂くだけ。
今のあたしの中では、ほぼ詰みという状況下。
幽霊など別に怖くないとばかりに、あたし以外のメンバーは平然と屋敷の探索を続けていた。
「あまり暴れるでないぞ、レヴィン。お主のバカ力で屋敷を壊したら、連帯責任でわしらも怒られるんじゃからな」
「リテラ、『れんたいせきにん』って何だ?」
「ニュー、私が答えよう。確かチームひとりの失敗をチーム全員が背負う類の責任、だったか。私も小隊長時代によく取らされたものだ」
最近まで騎士やってた人間の台詞じゃないわよ、ジーク。
「レヴィンさん、とっとと進みますわよ。いつまでもミュウ君を盾にしてては、勝てる戦も勝てませんわ」
「幽霊に勝てるわけないでしょ! 拳も脚もまるで手応えないのよ!?」
「……アナタが幽霊苦手な理由が少しわかりましたわ」
「もうむり……かえる……」
「帰る部屋は譲っちゃったじゃないですか」
「……そうだったねぇ……」
間違いなくあたしの異世界人生最大の危機。
そもそも、何故幽霊屋敷を探索、なんて羽目になったのかというと――。
※※※
遡ること、半日前。
ギラソール傭兵団結成の翌日。
あたしたちは『BAR フェストザール』で、ロッソママに住まわせてもらった部屋から、出て行くことになった。
今は部屋の荷物を纏めて、店の外でロッソママからその詳細を聞いている。
「ごめんなさいね、半ば追い出す形になっちゃって。この間の事件から傭兵希望者が急増しちゃったもんだから、ギルド職員も泊まり込みの人員増やさなきゃってことになっちゃったの」
「別にいいわよ、ロッソママ。ちょうど拠点を確保しようって話になってたところだし」
「お世話になりましたわ。そしてこれからもご
「お風呂使わせてくれてありがとな、ロッソママ!」
「あらヤダ、こっちこそありがとうよ。傭兵ギルドの広告塔になってくれて」
なんだか含みがありそうな感謝の言葉に聞こえたけど、まあいいか。
「それで、ギラソール傭兵団の拠点を確保するって話だったわね。
「私は知り合いが豪邸を紹介してくれたから、それにあやかろうと意見したのだが――」
「絶対あたしが落ち着いて住めない」
「と、このような理由で断ってしまってな」
まあそのジークの知り合いというのがエメル女王様なのだけど。
あの娘、国のトップに君臨してから職権乱用が酷くない?
「つまり今は宛がないってわけね。丁度よかったわ」
はて、丁度よかった、とは?
「リーネちゃーん、依頼書持ってこっち来てぇー!」
するとロッソママは、店の方に声を向けて誰かを呼んだ。
店から出てきたのは、両目が隠れるほどの前髪が特徴の少女。
傭兵ギルド職員共通の制服を着ているので、どこかで見たと思うのだが、まるで覚えがない。
「紹介するわね。この娘は商都グランツァイトの傭兵ギルド支部からやって来た、ウチの期待の新人受付員ちゃんよ」
「パオリーネ・レルヒですっ。よろしくお願いしまひゅっ」
あ、噛んじゃった。
歳はあたしたちと近いぐらいだけど、中々に初々しさを感じちゃうな。
「なるほど、パオリーネでリーネってわけ。名乗るまでもないだろうけど、あたしがレヴィン・ゾンネ。よろしくね」
「は、はひっ」
「あまり肩肘を張る必要はないぞ。なにせ私も傭兵界期待の新人。立場としては一緒なのだから、気楽に接したまえ!」
「そんな噂あったっけ?」
「無理矢理話を合わせるために盛ってるだけですわ」
自己評価の盛り方がこの程度なら可愛いものだ、と思えてしまうのがジークの恐ろしいところね。
なんだかんだでコミュ強だから、相手によって盛り方は変えてくるだろうけど。
「オーナーっ、この人たち、噂で聞いていたより――」
「賑やかで可愛らしいでしょ? 団長のレヴィンちゃんも思ったより蛮族蛮族してないし、さっき接してて怖そうなイメージも抜けたと思うけど」
「そう、ですねっ」
どうやらリーネの肩の力は抜けたようだ。
「それじゃあ、本題に入らせてもらうわね」
「こちらが、私からの依頼になりますっ」
リーネから依頼書が手渡される。
傭兵団を結成してから初めての依頼が新人受付員から、というシチュエーションは若干マッチポンプ感が否めないが、気にしないでおこう。
「なになに……ゲッ!?」
「ほう、
「こういう依頼って、傭兵ギルドじゃ珍しくないですか?」
「確かに珍しいですわね。依頼の約半数が魔獣討伐関連とはいえ、普通なら傭兵が受けられるような案件ではありませんわ」
確かに。明らかに畑違いでしょ、これは。
「話せば長くなるので、お店の方でお話しますっ」
「じゃあ後はお願い、ギラソール傭兵団ちゃん。アチシも片付ける書類が溜まっててね」
「いや、ちょっと待ってよ、ロッソママ! どういうつもりで幽霊退治なんて――」
「断られる前にぶっちゃけちゃうと、その依頼の報酬は屋敷丸ごと、ってコト。拠点を探してたのなら、都合がいいでしょ?」
「えぇ……」
だからって幽霊退治は……ちょっとねえ……。
しかしその依頼を達成するだけで拠点が確保できるのなら、一応話くらいは聞いておこう。
大きなものを得るには、相応のリスクが付き
やはり仕事の世界とは、ままならないものだ。
※※※
あたしたちは『BAR フェストザール』の店内で適当な席に座り、リーネから依頼の詳細を聞く。
概要は、こうだ。
依頼人パオリーネ・レルヒは、王都の東端に位置するワルド区区長の姪である。
区長である叔父の口添えで、現在はワルド区が管理している集合住宅に住んでいるのだが、そこでとある問題が起きた。
「夜な夜な、不気味な声が聞こえてくる、ですか」
「はいっ。最初は気のせいかとも思ったのですが、段々とハッキリ聞こえるようになってっ」
「その声はどう聞こえましたの?」
「確か『アソボウ』って、繰り返し言ってた気がしますっ」
リーネは自分の部屋が事故物件なのでは、と叔父に問いただしたところ、『そんな逸話があったら、とっくに廃屋にしてる』などという返答が来たので、事故物件の線は消えた、と語る。
だがその代わり、近所のとある怪談を叔父は聞いていたというのだ。
「集合住宅の向かいに、とある貴族が買っていた敷地があって、そこに屋敷が建ってるんですけどっ。その敷地を買っていた貴族の方々は何年か前に亡くなっていて、未だに買い手がついてないんですっ」
「その貴族の敷地と、叔父さんが聞いていた怪談は、どう結びつくのだ?」
「なるほど、怪談の出処はその屋敷にある、ということですのね?」
ヤーナの解釈に、リーネは静かに頷いた。
「その屋敷に入った人間は、屋敷の呪いに殺される。これが叔父から聞いた、貴族屋敷の怪談です」
「ひぃっ!」
あっ、しまった。
あたしったら依頼人の前でなんて情けない声を。
「えっ、今の声って――」
「気にせんでええぞ。レヴィンは人の死生観にちょっと敏感なだけじゃから」
リテラのフォロー、あんまりフォローになってなくない?
間違っちゃいないんだけど! 間違っちゃいないんだけどぉ!
「えっとっ、話の続き、いいですかっ」
「ど、どうぞ……」
「呪いに殺されるというのは、屋敷の調査に赴いた人たちが誰一人屋敷から帰って来なかったから、そんな怪談が伝わったのだと聞いていますっ」
「幽霊屋敷の調査、か。騎士団からも調査部隊が派遣されたりもしたのだが、その全員が未帰還のまま。結局調査が打ち切りになったと、知り合いに聞いたことがあったのを思い出したな」
「ジーク、その調査が行われたのは何年前か覚えておるのか?」
「流石にそこまではな……。別働隊の話であったし、何よりその話を耳にしていた時は、月に一度の限定メニューで頭が一杯だったからな」
うん、そんな気はしてた。
ジークは直接影響のない別働隊の不幸よりも、自分の食欲だものね。
「で、その怪談が広まった上に、夜な夜な聞こえる声。ワルド区に腰を落ち着ける人も徐々に数を減らしていったというわけですのね?」
「叔父も騎士団の調査が打ち切られてから、随分と煮え切らない様子でしてっ。このままカップルの肝試しに使われるような心霊スポットになってはいけないと、私を通じて傭兵ギルドを頼ることになったと、そういうあらましなんですっ」
あれ、急に話のスケールが狭くなった?
その叔父さん、もしかしてモテない人種なのでは……?
「傭兵の方々ならフリーランスなので、権力から調査を打ち切られるなんてこともないですしっ。それに屋敷の中に何があっても腕っぷしで解決してくれそう……というのが叔父の言い分でしてっ。すみません、変なことに巻き込んでっ」
それにまるで国家権力を信用していないご様子。
王国騎士団は魔獣討伐を優先していて、その影響で王都の治安が所々悪くなっているという話はよく聞くし、煮え切らないのも当然といえるか。
って、ちょっと待って。
「もしかして直接の依頼主って……リーネの叔父さん?」
「私名義の方が食いつき良さそうだからって、叔父が勝手にっ。本当にすみませんっ」
うわっ、最悪だな区長。
ここに来て間もない姪を出汁に使うとは。
「謝る必要はありませんわ。誰が本当の依頼主かどうかは問題ではなくてよ」
まあ、ヤーナの言う通りよね。
結局のところ、傭兵を幽霊すら退治できる何でも屋と勘違いして持ち込んできた、ご近所トラブル案件だ。
傭兵のあたしらなんかが悪霊退散なんて、それこそバーテンダーに武器を作ってくれと頼むようなもの。
悔しいけど幽霊が絡んじゃうなら、この話はなかったことに――
「むしろ降って湧いたこのチャンス、活かすべきですわ」
えっ、嘘でしょ……まさか。
「レヴィンさんのおかげで我が傭兵団の資金は潤沢、一括払いで家を買えるほどの余裕がありますわ」
ヤーナはどこから出したのか、そろばんにも似た計算機をテーブルに置いて、素早い手つきで珠を弾いていく。
「リーネさん。今回の依頼が成功すれば、
「そ、そうですねっ。十数年ほど手付かずなら、とっくに廃屋になっていてもおかしくはないのでっ。貴族の敷地としての値打ちはほぼ無い、と考えていいかとっ」
「ナイス考察! 屋敷と敷地が実質無料ならば、アタクシたちの負担は家具や生活用品のみ! ラボに使える部屋が充分な面積ならば、増設費用もかからない! まさに超優良物件ッ!!」
「ヤーナ、ずいぶん興奮してるみたいだけど大丈夫か?」
「心配はない、金銭が絡めばああなるのは、いつも通りだからな」
「こういう時、金銭管理のできる人がいると助かりますよ」
いやいやいや、誰かヤーナを止めなさいって。
このままだと心霊スポット巡りを受諾する羽目に――。
「この案件、今を逃せば次はありませんわ! 受けましょう、その依頼ッ!」
ほらね、なっちゃったよ!
いや、でも今意見すれば間に合うかな?
一応あたしがリーダーだし。
「待って、待ってったらヤーナ! 決めるのはあたし!」
「おっと、失敬。少々ヒートアップしてしまいましたわ。団長はアナタですものね、レヴィンさん」
そう、最終決定権はギラソール傭兵団団長のあたしにあるのだ。
あたしの都合で断ることもできる、のだが。
「引き受けてくださいますかっ?」
夜も眠れぬ新人受付員。
今夜泊まる宿もなし。
幽霊屋敷というハイリスクを越えた先に待つ、元貴族屋敷の実質無料受領というハイリターン。
ヤーナの言う通り、今を逃せば次のチャンスはいつになるやら。
もはや自分が幽霊苦手という理由で逃げてはいけないような、そんな空気のような気がしてきた。
あたしは幽霊に勝ったことがないけど。
困った依頼人を放って置けるほど、薄情な人間でもない。
「そんな声で頼まれると、弱いのよね」
「じゃあっ!」
「幽霊退治、引き受けるわよ。おまけに屋敷もリフォームしてやるわ」
「ありがとうございますっ! よかったです、引き受けていただいてっ」
リーネはあたしの手を取って嬉しそうに上下に振っていく。
そういう仕草が見れたのなら、引き受けた甲斐もあったかな。
「『勇者勲章』を頂いたほどの方を頼るのも、引け目を感じていましたしっ。オーナーに相談したら仲介してくれてっ。本当に助かりましたっ!」
「引け目、か。ラグナ族に対する偏見、っていうのもあったんじゃない?」
「それは、そのっ――」
「意地悪言っちゃったわね、ごめん。でも、とっくに慣れちゃってるし、気にしてないわよ」
まあ、ラグナ族への偏見はこれからの行動で改善していくとして。
「ところで、さっきから気になってたんだけど」
「は、はひっ」
「ロッソママのこと、オーナーって呼んでたわね」
「い、一応ロッソさんはギルド長ですからっ。上司をママって呼ぶのは……ちょっと恥ずかしいかなってっ」
「思ったよりシャイ度高めみたいね」
これってアレか。
先生のことを『ママ』って呼び間違えないための呼び方みたいなものか。
よくわかんないけど。
ともあれ、あたしたちギラソール傭兵団の結成後初めての依頼は。
幽霊が苦手なあたしという不安を抱えつつも、緩やかに幕を開けたのだった。