太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
調査の開始時刻は日没の少し前――地球の時刻に換算すれば五時半ごろ――と話し合いで決まり、各々で準備をすることになった。
あっという間に時は経ち、ワルド区にある公園でリーネと待ち合わせして、合流。
リーネに案内され、件の屋敷に通じる門の前に、あたしたちは立っていた。
ちなみにジークは傭兵登録をした時点で『シュニーロマンサー』を手放しているので、汎用型・
後から聞いたがそのマキナの名前は『ドゥルヒブルフ』という。微妙に覚えにくい。
「ここが例の幽霊屋敷ですのね」
「門だけでもでっけえなあ」
「馬車も通る道だから、意図的に大きく設計されてるんでしたっけ」
「そうだな。貴族の敷地には大体このような門があった覚えがある」
「誰も手入れしておらん辺り、本当に手付かずになっておるんじゃな。ますます心霊スポットじゃ」
リテラ、思っていても口には出すな、そんなこと。
こっちは脚の震えを誤魔化そうと必死なんだから。
「やれるだけの準備はしてきたので、大方問題ないとは思いま、す、が!」
ふと、ヤーナはあたしを指差した。
「アナタのその格好は何なんですの!?」
嗚呼、やっぱりツッコまれてしまった。
今のあたしの格好といえば、普段着であるタンクトップとホットパンツ、その上に羽織っている土色のマント。
そこに怪しいネックレスを五つほどかけ、他にもイヤリングや髪飾り、サングラス、付け髭など、怪しさ満点の露天アクセサリーを増々。
まあ、意味もなくそういうのを身に着けているわけではない、と一応は主張しよう。
「いや、別にあたしは幽霊が苦手ってわけじゃないんだけどね? 念のため霊が寄って来なくなる装飾品を、あちこちの露店で片っ端から買っただけだから」
「もはや清々しいくらいのテンパりぶりじゃな」
「姉貴って苦手なものに追い詰められると、ここまで見境なくなっちゃうんだな。勉強になった」
やめてよニュー、その言葉はあたしに効く。
「この間の報酬で懐には余裕があるとはいえ、流石に無駄アクセで浪費というのは看過できませんわよ」
「効果も実証してないのに、無駄って決めつけるのはよくないけど……そういえばヤーナは
「お客様の深層心理を突いて、嘘を含めた売り込みをしていくのが、木っ端露店商人の常套手段。勉強になりましたわね」
騙されて買わされたのだと理解した途端、後悔の念と、自分への怒りが湧き上がる。
「というわけで鑑定して、効果がないモノはポイさせていただきますわ」
「面倒かけるわね。あ、それと――」
「アタクシの鑑定に何か文句でも?」
「そうじゃないんだけど、効果云々とかそういうのは関係なく、これだけは捨てるのやめてくれない?」
あたしはヤーナの鑑定でクソ認定される前に、身につけていた装飾品のひとつを見せて、予防線を張ることにした。
「何ですの、その指輪は? 殴る時に邪魔くさいんじゃありませんの?」
「これだけは口八丁で騙されずに買った、あたしのお気に入りなのよ。見逃してくれない? 直感で買った自分のおしゃれアクセぐらいはさ」
「ハァ~? なーに甘えたこと抜かしてますの!? そもそも今からアタクシたちは、ここの屋敷の幽霊、を……」
ふと、ヤーナはあたしが提示した指輪を手持ちのルーペまで使ってジロジロ観察したかと思えば、一旦目を離して咳払い。
えっ、もしかして何か怪しい指輪だった!?
「ぐ、偶然にしてはいいセンスしてますのね」
「なんか引っかかるわね、その言い方」
まあ、おしゃれ指輪を見逃してくれた……ってことかな?
「ボクなりにリーネさんが知ってる情報を踏まえつつ、ここの事を調べてみたんですけど」
閑話休題とばかりに、ミュウくんが話を本筋に戻してきた。
メモ帳を取り出して情報を整理していく姿は、まるで大人な頭脳の少年探偵。
不思議と様になっている気がする。
「この土地を買っていたのはワーグナー伯爵家という、ワルド区に居を構える貴族の中では、最も歴史の古い家系だそうです」
「叔父やその家族とも面識はあったのですが、色々と黒い噂が絶えなかったらしくてっ」
今までの空気に圧されて呆けていたらしいリーネが、やっと口を開いた。
頼むわよ、その情報が頼りなんだから。
「黒い噂って、なんだ?」
「王国と帝国がまだ戦争していた頃、帝国と裏で繋がっていた、とかっ」
うわぁ、こりゃまたとんでもない厄ネタ……。
帝国といえばこのウォルタート王国の西隣にあるアインハイト帝国のことだ。
ミュウくんとニューが生まれ育った、おそらくは過酷で地獄な国。
それくらいしかあたしは知らないが、もしこの先入国するような機会があっても、虫酸が走るに違いない。
「まだ噂として広まっているだけなので、確定情報じゃありません。でも、ワーグナー家が戦時中に担っていた役割を考えると、そう疑われてもおかしくなかった」
「――というと?」
あたしはミュウくんの気付きに首を傾げながら、門にかけられていた錠前を持ち前の筋力で引き千切る。
「ワーグナー家は主に武器を売り買いしていた商家だったんです」
先祖代々続く武器商人の家系、とは。
王国専属ってわけでもなかっただろうし、戦時中はさぞ儲かったんでしょうね。
こじ開けた門を通り、あたしたちは敷地に足を踏み入れた。
「マキナ産業が隆盛を極める前から、各地の鍛冶師と提携した武器を巧みな手腕で売りさばいていたこともあり、周りの印象はあまり良くなかったと聞きます」
「相当な古株でしたのね」
古株は古株でも、極道方面の古株、みたいな?
「古株故かどうかはわからんが、マキナ市場が盛り上がっていた頃でさえ、魔力を通さぬ普通の武器を売っていたという情報もあるのう」
「おそらく、そうやって時代の波に乗り遅れた影響もあるんでしょうね。ワーグナー家が没落し始めたのは」
「それでこのザマ、というわけか」
門からしばらく直進していった先に、その二階建ての屋敷はあった。
放置されて十数年とは思えぬ、年季の入った洋館の如き佇まい。
壁にツタやコケがびっしりと張り付く、まさに廃墟。
いかにもホラー映画の舞台といった雰囲気。
少しでも油断をしたら呑まれてしまいそうな、この空気感。
帰りたくなってきた。
帰れる部屋はないけど、気分的な意味で。
「ワーグナー家に何があって、この敷地が放置されたのか。その真相までは掴めませんでしたけど、屋敷に幽霊が棲み着くほどの何かが起きたのは、ほぼ間違いないと思います」
「そ、そうね」
手の震えを止めたくて、あたしは無意識にミュウくんの肩に手を置いてしまう。
「ミュウくんは、怖くない?」
「どちらかというと怖いですけど、不思議と『この程度か』って安心してる自分もいるんです」
この程度て。
いや、ニューと色々修羅場を抜けてきたのは知ってるけど、幽霊屋敷の怪談でこの程度って。
非現実的な怪談より現実の方がホラーっていう、そういう感性になっちゃったの?
「ミュウ、こういうの割と好きだもんな」
「そうなの!?」
「い、いえ。単に、なぜこうなったのかを知りたい欲の方が勝っちゃうというか。未知に怯えてちゃ、どうにもならないって、わかってますから」
ミュウくん、なんだかあたしの知らないところで成長しちゃってる?
でも育ち盛りの時期だし、そういうこともあるか。
「では皆さん、お気をつけてっ」
一歩引いて、ここまで案内してくれたリーネがあたしたちを見送る。
当然だが、依頼人代理である彼女は非戦闘員なので、共に屋敷には入れない。
「安心するといい、我々は力なき人々の味方だ。皆に安眠を届けると約束しよう」
「この傭兵団はいつからそうなったんだか。屋敷を頂いた暁には、団の基本方針を定める必要がありますわね」
「じゃあ、開けるわよ……」
恐る恐る、玄関のドアノブに手を伸ばそうとするあたし。
触れたかと思えば少し引いちゃって、意を決して掴もうとすると後ずさり、その繰り返し。
あたしだって未知に怯えてちゃ前に進めないと、心では理解しているのに。
身体の拒否反応が尋常ではない。
いや、しょうがないのよこれは。
あからさますぎて逆に怖いってヤツ。
「仕方がない、私が前を行こう」
あたしがどうしようもなくモタモタしている間に、なんとジークが扉を開けてしまった。
突然の事態に声にならぬ叫びをあげるあたし。
「おっと、驚かせてしまったか」
「緊張感! 少しは緊張感持ちなさいよアンタ! この空気で普通、平然とドア開けちゃう!?」
「逆に助かりましたわ。恐怖で扉を開けられないよりは、自由人の予測不可能な行動の方が安心しますもの」
確かにそうかもしれないけどさあ!
「これも試練じゃぞ、レヴィン。トラウマは乗り越えてこそ意義のある壁じゃ」
「別にアンタが与えたわけでもあるまいに……!」
「失礼する! 家主に会いたいのだが!!」
あれこれ躊躇っていたら、ジークがクソデカボイスで挨拶しながら屋敷の中にズカズカと乗り込んでいく。
彼女が先頭を行くというのは流石にまずい。
元部下のノルンさんも経験した極度の方向音痴。
広大な森より狭い屋敷内ではあれど、迷ってしまうのは確実。
そう、熱気で氷が溶けるほどに確実なことだ。
「待って待って待ってステイ! お願いだから後ろを守って! マジでお願い!」
「ふむ、また
ふう、どうやら最悪の事態は免れた。
やはりこの人には手綱が必要ね。大型犬かっての。
入るまで多少ぐだぐだしてしまったものの、あたしたちは件の幽霊屋敷に、ようやく突入を開始したのだった。
ひとりでに玄関の扉が閉まったような音がしたのは、聞かなかったことにしておこう。
※※※
そして現在に至り。
「もうむり……かえる……」
「帰る部屋は譲っちゃったじゃないですか」
「……そうだったねぇ……」
あたしたちは屋敷の廊下で、どうにかフォーメーションを崩さずに探索できている状態。
前から火精のランプを掲げたヤーナ、危機感知要員としてニューがその後ろについて周囲を警戒。
陣形の真ん中に位置するミュウくん、そしてその背後で彼の肩を掴んで怯えるあたしと、あたしの頭に座って若干余裕気味のリテラ。
殿のジークは、はぐれることなくしっかりついて来ている。
この何が起こるかわからない中で、頼れる仲間であるのは間違いないのだが。
あたしの内より湧き上がる恐怖を払拭するほど安心できるかと問われれば、そうではないと答えよう。
なぜなら、なぜならば――。
「幽霊とは実体を持たぬ魂、なんて話はよく聞きますけども。まさか単純に殴れないからって、苦手意識を持っていたりしませんわよね?」
「実はそうなのよね……。殴って解決できれば、それに越したことはないんだけど」
そういうことなのだ。
別に脳筋とかそういうわけではない。
あたしは物事を何でもハッキリさせないと気が済まないタイプというだけ。
「気持ちはわからんでもない。私も似たような経験があって、煮え湯を飲まされたからな」
「えっ、ジークって幽霊と相手取ったことあるの?」
「流石の私も幽霊は今回が初めてだ。実際に相対したのは、スライムという変異種でな」
スライム。
そこまで詳しくはないが、定番のRPGにおいて序盤のザコ敵として現れる確率がやたらと高いヤツだ。
ジークほどの騎士――今は頭に『元』が付いてる――が、そこまで苦戦するほどのものなのだろうか。
「突けど斬れど手応えがなく、おまけに取り込んだものを溶かす習性もあって、苦戦した。氷漬けにして砕けばいいと気付かなければどうなっていたか」
あ、これ話を聞く限りザコ敵じゃないスライムだ。
「スライムは液体だから、霊体の幽霊とはそこまで似てなくない?」
「物理での手応えがない、という点では同じだろう? 困った時はマキナで魔法を行使しろと、ニコラウス騎士団長も仰っていた!」
魔法万能説。そういやそういう世界でしたね、ここ。
「リテラ、『へんいしゅ』ってなんだ?」
「魔獣は基本、力尽きたら魔石を残して身体が霧散するじゃろ? その残った魔石を長いこと放置してしまうと、周りの物体や液体を取り込んで、奇形物に変化することがあるという。それが変異種じゃ。なんか獣っぽくないなと思ったら、変異種だと覚えればええぞ」
「そういう変異種を容易に増やすことのないように、魔獣討伐後は魔石の回収を義務付けていて、特別製の倉庫にしまう決まりになっているのですわ」
いくらか気が紛れるフロイデヴェルト教室出張版、助かります。